ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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39星:冒険者ギルド フューレン支部にて【下弦】

 

「初めまして、冒険者ギルドフューレン支部支部長のイルワ・チャングだ。今回の件は君たちが来るまでの間に聞いているよ」

「冒険者ランク『青』の三星弓人だ」

「『青』...それは本当なんだね?」

「なんならステータスプレート見るか?」

 

 俺のステータスプレートは壊れていることにしているため、ハジメのプレートを見せる。イルワはプレートを見た瞬間、少し驚いた顔をしたのち、ハジメにプレートを返却する。

 

「確認させてもらったよ。まさか本当に『青』...しかも非戦闘職の錬成士とはね」

「信じてもらえたか?」

「とりあえずは信じることにしよう...では一応、君たちの口から改めて説明してもらえるかな?」

 

 こうして俺は、先ほどあったことの説明をはじめた。

 

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「ふむ、目撃者から聞いたこととほとんど同じだな...」

「じゃあ、俺たちは無罪ってことでいいか?えっと...ムー○ンだっけ?あいつから有る事無い事言われても面倒だ」

「やめてくれ弓人、あんな豚と国民的人気キャラを同じにするな」

「君たちが言ってることはよく分からんが...今回の件はプーム・ミンが発端だ、奴は前から問題行動が目立っていたため処罰が下るだろう...それに」

 

 イルワは話の途中俺が渡したキャサリンの手紙を取り出す。

 

「先生がわざわざ君たちに渡したんだ。あの人の見る目は本物だし僕は君たちを信用するよ」

「そいつは助かる...って、先生?」

 

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の5、6割は先生の教え子なんだ。私もその1人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が...」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

「......キャサリンすごい」

「只者じゃないとは思っていたが...思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに...今は...いや、止めておこう」

「お前所々失礼だよな...」

 

 聞かされたキャサリンの正体に感心するハジメたち。想像していたよりずっと大物だったらしい。ハジメは若干、時間の残酷さに遠い目をしていたが。

 

「おっと、話が逸れてしまったね...『黒』のレガニドを一蹴した君たちに頼みがあるんだが良いかい?」

「仮に断ったら?」

「結果の分かっている手続きのために、馬鹿みたいな時間を浪費してもらう」

「半分脅迫じゃねぇか」

 

 恨みがましい視線を向けるが、イルワはどこ吹く風の様子だ。俺はため息を吐き、半分諦めながらイルワの頼みを聞く。

 

「君たちなら聞いてくれると思っていたよ」

「聞くしかないだけだ...良い性格してるよあんた」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 イルワの頼みとは、北の山脈地帯へ魔物の群れの確認情報が出たため、そこへ調査へ向かい行方不明となった人物の捜索願であった。

 

「捜索ねぇ...冒険者ならそこら辺は自己責任だと思うんだが?」

「普通ならね。けど今回捜索してほしい『ウィル・クデタ』はクデタ伯爵家の三男だ。伯爵家直々の依頼なら断るわけにもいかないのでね」

「体裁としてならどうなる?『青』に依頼するのも色々言われそうだぞ」

「それも問題ない。手数は多い方が良いとのことだ」

 

 断る理由を次々と潰されていく。北の山脈地帯...俺たちの目的地であるウルを経由するため、悪い話ではない。俺はハジメたちの方を見ると、苦笑していたりため息を吐いたりしているが、嫌がる様子はなさそうだ。

 

「降参だ。その依頼を受けるよ」

「感謝する、その言葉を待っていたよ。」

「けど、条件がある」

「金か?それともランクを上げてほしいのか?」

「いや、ユエとシアのステータスプレートを発行してほしい。そしてその評価内容は他言厳禁で頼む。」

「それは構わないけど、それだけかい?」

「それと、もう1つ。あんたのコネクション全てを使って、俺たちのバックについて欲しい」

 

 俺の要望に、さっきまで友好的であったイルワの表情が強張り、真剣なものへと変わった。

 

「何が目的だ?」

「おっと、落ち着いてくれ。俺たちは少々特殊な事情持ちでね、近いうちに教会の奴らに目をつけられる可能性が高い。その際、信用できるバックについてもらってた方が都合が良くってね」

「ふむ...確かに、シア君の怪力やユエ君の見たことない魔法...確かに目をつけられてもおかしくない...先生も信用しているようだし...」

 

 流石は支部長、頭の回転が早い。イルワはしばらく考え込んだ後、真剣な表情を崩さず俺たちの方を向く。

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為や要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、その上で私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう...これ以上は譲歩できない。」

 

「十分だ。で、お坊ちゃんが死んでたらどうする?遺品とかを持って帰ればいいのか?」

「想像したくはないが...もしそうだとしたら、ウィルがどんな状態でも持ち帰って欲しい」

「了解だ。行くぞ、お前ら」

 

 俺が立ち上がりながらそう言うと、ハジメとユエはすぐについてきて。シアはイルワに一礼して部屋から出ていった。

 

「頼んだよ...『神の使徒』君」

 

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「そういえばユミトさん、いつもと様子が違ったね」

「様子が違うって?」

「だってさ、いつものユミトさんなら『まかせろ、俺が絶対助け出してやる!』とか言いそうじゃん」

「あー確かに...ていうかシアの物真似似てね〜...」

「『冒険者は冒険してはならない』」

「「?」」

 

 後ろで話していたハジメとシアに、前世(むかし)知人が言っていたことを話すと2人は訳がわからないように首を傾げた。

 

「知人が口を酸っぱくして言っていた言葉だ。身の丈に合わないことをしようとすると碌な目に合わん」

「なるほどなぁ...」

「へ〜」

「まっ、俺はその言葉を無視して何回か死にかけたんだがな」

「「おい!」」


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