ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

62 / 119
40星:恩師との再会【上弦】

 

 現在俺たちは、ウルの町に向かってバイクを爆走させている。その理由は、イルワの依頼を受け部屋を出た時にまで遡る。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あ!皆さま大丈夫でしたか?」

「あ、リシーちゃん。支部長の依頼を受けることになったけど大丈夫だ」

「支部長の依頼ですか...どちらへ行かれるので?」

「北の山脈地帯。だから明日にはウルへ行こうと思ってる」

 

 リシーは少し考えた後、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そういえば、ウルには珍しい料理を出すお店があるんですが...」

「米の店だろ?実は俺たちそれ目的でウルに行くつもりだったんだよ」

 

 次の瞬間、俺とハジメはリシーの放った言葉に思わず叫んでしまった。

 

「なら急いだ方が良いかもしれません、その料理が食べられなくなるかもしれないので」

「「な!?何いいいいいいい!?」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 こうして俺たちは、フューレンを飛び出して、バイクを爆走させている。

 

「ハジメェ!今何キロ!?」

「丁度半分過ぎた所だ!このペースなら日が落ちる前には間に合う!」

「ちょ、ちょっとハジメ落ち着いてよ!食べれなくなるのは香辛料使ったものだけらしいし...」

 

 そう、リシーから聞いた情報によると。山脈地帯の魔物情報によって、採取に行く者が激減してしまい、香辛料が不足しているらしい。

 その結果、香辛料を使った料理が食べられなくなるかもしれないと言われた。一応、香辛料を使わない料理であれば、問題ないようなのだが...

 

「「全メニュー食うに決まってんだろ!」」

「あ、駄目だこの人たち。もう頭の中がコメで埋まってる」

「......じゅるり」

「ユエさんも!?まともなのは私だけですか!?」

 

 こうして脳内を米に支配された3匹と唯一まともなシアは、ウルへとバイクを走らせる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか...清水君、一体どこに行ってしまったんですか...」

 

 肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして教師、畑山愛子だ。普段の快活な様子がなりを潜め、今は不安と心配に苛まれて陰鬱な雰囲気を漂わせている。

 

 作農師として、各地の農村や未開拓地を点々とする中。突如行方不明となってしまった生徒の清水幸利を探して2週間ほど経過した。ウルの近辺にある町や村にも使いを出したが、全てが空振りに終わった。

 

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですから、悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない畑山に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の園部優花だ。周りには他にも、護衛の騎士たちと生徒たちがいる。彼等も口々に畑山を気遣うような言葉をかけた。

 

 守るはずだった生徒たちに慰められている。そのことに気づいた畑山は何度か深呼吸をした後、両手で自身の頬を叩き気持ちを立て直す。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

「「「「はーい」」」」

 

 明らかに無理をしているが、それを指摘する無粋な者はここにはいない。そして全員は最近利用している『水妖精の宿』のレストランへ行き、そして全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな...いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 和やかな空気で、故郷のものに似た料理を食べる畑山たち。するとそこに、オーナーのフォス・セルオが現れた。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

「あ、オーナーさん。いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

「それはようございました」

 

 畑山の言葉に、フォスは微笑みを浮かべながら会釈をする。しかし、その笑みを消して表情を申し訳なさそうに曇らせた。

 

「実は、大変申し訳ないのですが...香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返した。

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして...いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが...ここ1ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの...不穏っていうのは具体的には?」

「何でも魔物の群れを見たとか...北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を1つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「それは、心配ですね...」

 

 畑山たちが表情を暗くすると、フォスは申し訳なさそうに頭を下げた後。場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 畑山たちはピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ。同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのである。騎士達の頭には、有名な『金』クラスの冒険者がリストアップされていた。

 

 愛子達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男2人の声と少女2人の声だ。何やら少女の1人が男の1人に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスだ。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。『金』に、こんな若い者がいたか?」

 

 デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な『金』クラスに、今聞こえているような若い声の持ち主がいないので、若干、困惑したように顔を見合わせた。

 

 そうこうしている内に、4人の男女は話ながら近づいてきており。その内容が聞こえてきた。

 

「いくらコメが楽しみだからってノンストップでここまでくるとか馬鹿じゃない!?」

「馬鹿ってなんだよ!早く来ないと食えなくなるんだから仕方ねぇだろ!」

「でもそういう役目は『ユミトさん』がやる役でしょうが!」

「おい、俺だけをギャグ要因にするな。『ハジメ』も結構こっちよりだ」

「勝手に俺をギャグ堕ちさせるんじゃねぇよ『弓人』」

「......『ユミト』と『ハジメ』は似たもの同士」

「ほら、ユエもこう言ってるし」

「嫌だ!ギャグ要因にだけはなりたくねぇ!」

 

 少女たちの呼ぶ少年の名前が『2人』と同じだ。

 

 少年たちの声が『2人』とよく似ている。

 

「...三星君に...南雲君?」

 

 畑山は反射的にカーテンを開けて声の主の方向を見る。

 

 そこには...

 

「三星君!南雲君!」

「...........先生?」

「あ、言っちゃったよこいつ」

 

 外見が大きく変わった少年と、変わらず元気そうな彼がいた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。