ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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作者のノリでネタを入れたりしてるんですが

寒かったりしますか...?



本編です


41星:深夜の密会

 

 現在深夜、畑山は寝巻きにも着替えずに部屋に置いてある椅子に座り込んでいた。

 

「南雲君、それに...三星君...」

 

 その理由は、再会した2人の変わり様によるものだった。

 

 彼女は信じられなかった。あの温厚でいつも困ったような笑みを浮かべていたハジメが人を殴ったことに。そして、いつも周囲を気遣っていた優しい弓人があんな冷たい目をしていたことに。

 

 だが...それ以上に

 

「良かった...生きてて本当に良かった.」

 

 嬉しかった、生きていたことに。そして彼らが怒った理由も、親しいもののためであり2人の優しさも変わってなかったことに。それに思わず笑みを零していると。

 

 やけに小気味の良いノックが()から聞こえて来た。

 

「っ!」

 

 畑山は少し警戒しながら、恐る恐る窓を開けるとそこには

 

「雪だるまつく〜ろ〜」

「きゃああああああ!」

 

 弓人とハジメが窓を乗り出すようにそこにいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ちょっ!先生、俺たちです!」

「え!?み、三星君と南雲君?」

「だから言ったんだよ!先生は絶対驚くぞって!」

 

 俺たちを見た瞬間悲鳴を上げた畑山先生を落ち着かせていると、扉の外の方から何やら慌ただしい足音が聞こえて来た。

 

「おい!お前のせいで誰か来てるじゃねぇか!」

「悪かったって!先生、俺たちはちょっと隠れてるから適当に誤魔化してください」

「え!?ち、ちょっと2人とも!?」

 

 そして俺たちはバレないように外の壁に張り付いていると、畑山先生のいる部屋の扉が勢い良く開けられた。

 

「愛子!悲鳴が聞こえたが大丈夫か!?」

「デ、デビットさん...えっと...虫!そう虫が出てきて...」

「虫?なら俺が追い払おう。どこにいるんだ?」

「い、いえ!私の声に驚いたのかもう外へ出ていったので大丈夫です!」

 

 畑山先生はそういうと窓を勢い良く閉めた。デビットは特に疑った様子もなく笑みを浮かべていた。

 

「それなら良かったよ。だが何かあったらすぐに呼んでくれ、俺たちはすぐに駆けつけるからな」

「あ、ありがとうございます...あはは...」

 

 乾いた笑いをしていると、デビットは部屋から出ていった。畑山先生はため息を吐きながら窓を開ける。

 

「はぁ...もう行きましたよ...」

「いやぁ、すみません...まさかあんなに驚くとは」

「驚くに決まってるでしょう!」

 

 小声で怒ってくる畑山先生を見て苦笑しながら俺たちは部屋に入る。

 

「それに、なんで窓からなんですか?扉の鍵は開けていたのに」

「答えはさっき見た通りですよ。あっちには護衛の奴らが見回りしてるんで」

「錬成師の俺ならこっちからでも簡単に入れるんでそうさせて貰いました」

「そうでしたか...では、これについて、詳しく聞かせていただきます」

 

 畑山先生はそういうと、あの時俺が投げ渡した紙を取り出す。そこには()()()でこう書かれていた。

 

『今日の深夜、ハジメと共に会いに行きます。この世界の真実を伝えるために』

 

 俺たちがオスカーとミレディから聞いた『解放者』と『狂った神』による世界の真実を伝えると、畑山先生はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

 

「2人は、もしかして、その『狂った神』をどうにかしようと...旅を?」

「いや、そこまでは」

「ミレディからそいつとは必ず接触すると言われてますが...俺たちの最優先は『日本へ帰ること』です」

 

 畑山先生自体、生徒の安全と日本に帰ることを優先にしているため。何も言わない。

 

「...アテはあるんですか?」

「一応は、大迷宮のさらに奥に、『真の大迷宮』があります。そこを攻略すれば神代魔法と言われる強力な魔法が手に入ります」

「それが...帰れる可能性ですか?」

 

 畑山先生の質問に俺たちは肯定する。そして、俺は彼女へ忠告する。

 

「けど、すぐに攻略へ乗り出すのはおすすめしませんよ。真の大迷宮は、表面のものとは文字通り格が違う。レストランの時、あの程度の空気で呑まれてるようだと話になりません」

 

「そうですか...」

 

 しばらく、沈黙が続く。俺は話す事が終わったので帰ろうかと考えていると、畑山先生はどこか懇願するように俺たちに聞いてきた。

 

「あの...1度でも良いので戻ってきてくれませんか?」

「理由を聞いても?」

「白崎さんと八重樫さんに会って欲しいんです...」

「...っ、白崎さん...」

 

 ハジメは1度息を飲んだ後、呟くように一言零す。おそらく、奈落に落ちる前の事を思い出したのだろう。俺も、目線を伏せながら畑山先生に尋ねる。

 

「雫は...大丈夫ですか?」

「正直......大丈夫とは言えません。表面上は普通ですが、三星君が生きている事を信じてるのが唯一の支えなので...いつ折れてもおかしくないと思います」

「そうですか........雫...約束、したもんな」

 

 俺が思い出すのは、あの夜の約束。

 

『どっちかが限界を迎えそうになったら、片方が支える。』

 

「なぁ...ハジメ、この依頼が終わったら」

「良いぞ。会いにいっても」

「あいつらに...良いのか?」

「いつも俺の頼みを聞いてくれるからな。そんくらい構わねぇよ」

「ありがとな、ハジメ」

「仲間だろ?気にすんな」

 

 そう言って拳を合わせる俺たち、それを見た畑山先生はの表情は明るいものへと変わった

 

「ありがとうございます!」

「ちょ、声が大きいって」

「あっ、ごめんなさい...」

 

 慌てて口を押さえたがもう遅く、再び廊下の方から足音が聞こえてきた。

 

「ど、どうしましょう...」

「とりあえず、俺たちの言いたい事は全部話したから帰ります。行くぞハジメ」

「あぁ...っとそうだ、先生。あいつらと手紙のやりとりはしてますか?」

「! わかりました。白崎さん達に南雲君たちと会った事を伝えれば良いんですね?」

「いや、そうじゃない。俺たちが奈落に落ちた原因はベヒモスとの戦闘、または事故って事にでもなっているんじゃないですか?」

「はい...やっぱり。みんなの事を恨んで」

「そんなのはどうでもいい。けど、あれは事故なんかじゃない。クラスメイトの誰かが俺を狙って撃ったものです」

 

 ハジメの発言に畑山先生は目を見開いて驚愕するが、ハジメは構わず話し続ける。

 

「だからこう伝えてください。『本当に注意すべきは迷宮の魔物じゃない。仲間の方』だと」

 

 そして俺たちは窓から飛び降り撤収する。そして取り残された畑山先生には、悩みの種が増えてしまった。

 





ここのハジメは奈落の魔王化になっていないので先生には敬語だったり、白崎の事をさん付けで呼んだりしています

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