ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
シアと園部がハジメについて話し合っている時、ユエはどこか不機嫌そうに座り込んでいた。
「......私も付いて行きたかった」
相談もせずに1人で探索に行った弓人に不満を持っていると、ユエの下へ誰かが近づいてきた。
「ユエさん...で良かったですよね?」
「......あなたは」
「隣、失礼しますね」
「......ん」
近づいてきた人物...畑山はユエの隣に座る。ユエは何か話した方が良いかと話題を考えていると、畑山の方から話しかけてきた。
「三星くんのこと、好きなんですね」
「......ん、けど...子供扱いしてくる」
ユエの言葉に、畑山は弓人たちと再会した時を思い出した。恐らく似たようなことが何度かあったのだろう。畑山はふと気になったことをユエに尋ねた。
「ユエさんは、ちゃんと三星くんに『好き』と伝えましたか?」
「.........言ってないかも」
「なら、ちゃんと伝えた方が良いですよ。いくら親しくても、言わないと伝わらないこともありますので」
「......ん」
畑山の言葉を素直に聞くユエ。そして畑山にお礼をしようと名前を思い出そうとするが、そういえば名前を聞いたことがなかったことに気づいた。
「......えっと...」
「どうしました?」
素直に尋ねるべきか...しかし、せっかくアドバイスをくれた人に「名前を知らないから教えて」というのは失礼ではないか、と悩ませていると弓人とハジメが彼女をどう呼んでいたか思い出した
「......ありがとう、『センセ』」
「え...先生って」
「......ハジメとユミトがそう言ってたから、違った?」
まさか生徒以外の人にそう呼ばれると思っていなかった畑山は驚いた表情を浮かべるが。その直後、とても嬉しそうに捲し立てる。
「い、いえ!先生です!先生であってます!えぇ、私は先生ですから!」
「......良かった。よろしくセンセ」
「はい!」
どこか噛み合っているようで噛み合っていない2人の会話は、休憩が終わるまで続いた。
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「なぁ、そろそろ外してくれよ」
「そうだぞー」
「横暴だー」
「お前らみたいな変態を誰が野放しにするか」
ハジメに捕まった俺は、いつぞやの時みたいに鎖で拘束されている。多分引きちぎれるだろうが、それをした瞬間ハジメは俺を殺しに来る勢いで止めにかかるだろう。
「シアがいるからって余裕のつもりかー?」
「そうだそうだー!」
「あんな可愛い彼女がいるなんてずるいぞー!」
「シアは関係ないだろ!」
相変わらずシアのことで弄ると顔を真っ赤にするハジメを見て。
その瞬間、俺に電流走る。
「なぁ、ハジメ」
「あん?それはあいつらが戻るまで」
「シアの水浴び姿、見たくないか?」
「..............いや!駄目だ!」
「間があったぞ」
「かなり考えたな南雲」
「これ押せばいけるぞ」
「お前ら仲良いな!」
一瞬想像したのだろう。先ほどより顔を赤く染め、忘れるように首を横に振るハジメ。すると、小川がある道の方から、複数の足音が聞こえてきた。
「ハジメ、お待たせ...ってユミトさん戻ってたんですね」
「おぉ、一区切りついたからこれ以降は同行する」
「三星...あんた何でそんなことになってるのよ...?」
「そうだなぁ...浪漫を求めた結果と言っておこう...」
「なにそれ...ってあんた達もなんで同意してんの?」
俺が遠い目をしながらそう言い、相川と玉井が同意しているのを見て。察したシアは頭を痛そうに抑えている。すると、ユエが俺の前に近づいてきた。
「.....ユミト」
「どうしたユエ?後これを外すの手伝って欲しいんだけど」
「......私、ユミトのこと好き」
突然のユエの告白に周囲は騒めき、視線が向けられる。それに対して俺は...
「ん、ありがとな。けど言い方を変えような、勘違いされるぞ」
「......そうじゃない」
何故かユエは不満そうだ。何か間違ったことを言っただろうか
「......えっと、大好き」
「嬉しいこと言ってくれるな、俺も大好きだぞー」
「......むううううううううう!」
「いって!何で怒って...って脛を蹴るな!」
頬を膨らませ、何度も脛を蹴ってくるユエ。何か怒らせることでもしたかとハジメ達の方を見てみると、呆れを通り越して最早困惑した表情を浮かべていた。
「ユミトさん...嘘でしょ?」
「あいつモテないって言ってたけど......それって」
こうして俺は、機嫌の悪くなったユエを宥めるのに苦労することとなった。
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なんとかユエの機嫌も直り、俺もハジメたちと共に探索を再開した。その際、俺は気づいたことをハジメに伝えると、ハジメはどこか納得した表情を浮かべていた
「確かに...ここにくるまで魔物どころか生き物の気配がなかったな」
「山全体の生物が居なくなるなんて碌なことじゃない。早く見つけ出すぞ」
「だな」
こうして、川沿いに登っていると、遂に痕跡を見つけることができた。
「これは...鞄か、それに盾もある」
「見たところ、まだ新しい...当たりだ。行くぞ」
「了解」
こうして、軽く散開しながら探索していると、ハジメの『気配感知』に反応が現れた。
「こっちだ!この滝壺の奥に反応がある!」
「分かった!ユエ、頼む!」
「......『波城』『風壁』」
すると、ユエの魔法により、滝が二つに分かれる。その奥には洞穴のようなものがあり、その奥にいるのだろう。
「よし、行くぞ...ってお前らどうした?」
「え...だって、詠唱は?魔法陣は?」
「企業秘密、さっさと行くぞ」
混乱するクラスメイト達を他所に、俺たちは洞穴へ入っていく。そして、洞穴の奥にはイルワから聞いた特徴と合致する青年が倒れていた。
「食糧はある...気を失ってるだけか」
「顔色がずいぶん悪いですね、皆さん、とりあえず外へ...」
「さっさと起きろ」
「三星君!?」
畑山先生が運び出そうと指示を出しているが、俺は無視して試験管に入れていた水を青年の顔にかける。水をかけられた青年は、飛び上がるように起き、軽く咳き込んだ。
「ゴホッ...ゴホッ...一体何が」
「目覚めの気分はどうだ?」
「えっと...あなた達は」
「ウィル・クデタで合ってるか?俺たちはイルワに頼まれてあんたを助けにきた」
「イルワさんが!そっか...僕は助かるんだ」
俺の言葉に、心底安堵したような表情を浮かべるウィル。だが、その次の瞬間には顔を真っ青にして俺たちに詰め寄ってきた。
「あ、あの!あなた達が来る間に『ヤツ』に出会わなかったですか!?」
「『ヤツ?』魔物のことか?それならここら辺に気配は無かったぞ」
「な、なら!早く移動しましょう!『ヤツ』がまだ居たら...」
「お、おい...落ち着けって....!?」
ウィルを落ち着かせようとした瞬間、とてつもない悪寒が俺たちを襲った。
全員が反射的に洞穴の外を見ると、そこには
「グゥルルルル」
金色の眼を輝かせ。巨大な翼を羽ばたかせている『黒竜』がそこに居た。
アーラシュの見た目でモテないわけないんだよなぁ...