ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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45星:黒竜【上弦】

 

 黒竜の体長は7メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には鋭い爪がある。背中の大きな翼は、魔力の影響か薄らと光を持っている。そして、夜空に輝く月を思わせる黄金の瞳が俺たちを捉え睨みつけている。

 

 何度か死線を乗り越えた俺とハジメ、ユエとシアは即座に構えるが。ウィルと畑山先生たちは、完全に萎縮してしまい動けそうにない。

 

 黒竜は口を開け、口内に魔力を溜め始めた。恐らくブレスを放つつもりなのだろう。

 

「全員ここから離れろ!」

 

 俺が叫び、ハジメたちは即座に回避行動に移るが、畑山先生たちは聞こえてないのか動こうとしない。ウィルに至ってはトラウマになっているのか顔を真っ青にして体を震わせ蹲っている。

 

「ユエ!俺をあいつの所まで飛ばしてくれ!」

「......ん!『征天』」

 

 俺の考えを即座に理解したユエは、俺の後ろに回り込み背中に手を置く。

 

 その瞬間、俺の体はユエから吹き飛ばされる様に黒竜の下へと飛ばされた。

 

『征天』

 

 ミレディが俺たちとの戦いで使っていた重力魔法の1つ、自身を中心に斥力を働かせる魔法だ。

 ミレディの住処で、ミレディ自身がユエに教えていた魔法の1つである。

 

「くらいやがれ!」

 

 黒竜の目の前にまで飛んだ俺は、黒竜の顔面を全力で殴り抜く。

 

 生物を殴ったとは思えない感触と音を響かせるが、目論見通り黒竜の顔が逸れた。

 

 その瞬間、あのヒュドラとは比較にならない威力のブレスが放たれた。

 

 放たれた黒色のブレスは、滝壺のすぐ横にある木々を薙ぎ払い地面を抉る。ハジメがもしものために、大盾を取り出し構えていたが。『金剛』を使ったとしても、後ろの動かない奴らを守れるかと考えてしまう。

 

 狙いを逸らされた黒竜は、邪魔をしてきた俺を。まるで蝿を振り払う様に前足を叩きつけてくる。

 

 空中、更には殴り抜いたことで体制を整えることができない俺は、その攻撃をまともに受けてしまい。そのまま地面へと叩きつけられてしまう。

 

「かはっ...」

「あっ...三星君!?」

 

 俺が地面に叩きつけられる姿を見て、ようやく現実を理解した畑山先生が悲鳴の様な叫びを上げる。クラスメイトたちも、畑山先生の叫びで再起動し始める。

 

 俺は即座に立ち上がり、黒竜から視線を外すことなくハジメ達の下に戻る。

 

「弓人、まだ行けるな」

「当たり前だ。ハジメ、あいつの甲殻は並大抵の硬さじゃねぇぞ」

「三星君!大丈夫なんですか!?」

「問題ないですよ先生。けど、今は先生たちを気にしながら戦う余裕は無さそうです」

 

 地面にぶつかった時口を切ったのか、鉄の味が口いっぱいに広がる。そして俺は、黒竜の違和感をハジメに伝える。

 

「後、気づいたんだが。あの黒竜...ウィルから視線を外そうとしない」

「...確かに、俺らは眼中に無いってか」

「というより、動きも生物らしく無い...意識がないのか?」

 

 そう、あの黒竜からは生物としての殺意や本能といったものが希薄なのだ。まるで、プログラムされた様に外敵を排除する動きをしている。

 

「あん?どういうことだ」

「...駄目だ、情報が少なすぎる」

 

 そもそも、この世界の竜がどのような生態をしているか知らないため断言することが出来ない。

 

「とにかく、あいつを殺るしかないってことだな」

「それなら話は早い。シア!気を引き締めろよ!」

「分かってる!ユエさん!」

「......『禍天』」

 

 シアはドリュッケンを構え、黒竜へと駆けていた。そしてユエが魔法名を呟くと。黒竜の頭上に黒い球体が発生する。その球体は黒竜へ落ちると、黒竜は地面へと叩き落とされた。

 

『禍天』

 

 消費した魔力に応じて、任意の位置に重力を発生させる魔法。『征天』より魔力の消費や準備に時間がかかるが、重力の方向も選択することが出来る。

 

「......シア!」

「やああああああ!」

 

 地面に磔となっている黒竜の頭部へドリュッケンを叩きつける。重力魔法によってさらに重量を増した一撃は、大きな土煙と破砕音をあげた。

 

「グルァアア!!」

「避けた!?」

 

 黒竜は、自身の顔を逸らし紙一重で回避していた。そして火炎を放とうと口を開いた瞬間

 

「させるか!」

 

 ハジメがドンナーとシュラークを連射させ妨害する。弾は甲殻によって全て弾かれているが、黒竜は煩わしげに首を振っている。

 

「弓人!」

「『放たれしは必中、我が矢の届かぬ獣はあらじ』」

「【オリオン・オルコス】」

 

 一閃

 

 黒竜の死角から放たれた白く輝く矢は、寸分の狂いなく黒竜の甲殻を貫く...はずが弾かれてしまう

 

「何!?」

「ガァアアア!!」

 

 驚愕している俺たちを他所に、黒竜は火炎弾をユエに向かって放つ。ユエは咄嗟に『征天』で防御するが、『禍天』の維持ができなくなってしまう。

 

 黒竜はその隙を見逃さず、再び飛び上がり俺たちから距離を取る。そして変わらずウィルを睨み続けている。

 

「弓人、どうする?」

 

 放てば全て撃ち抜いていた【オリオン・オルコス】が弾かれているのを見て、ハジメは俺に問いかける。そして、俺は1つ確信したことをハジメに話す。

 

「ハジメ。恐らくあいつは、何かに操られている」

「操られている?どういうことだ」

 

【オリオン・オルコス】は獣・魔性に対して防御無視の補正がかかるが、逆にそれ以外には少し威力がある矢程度でしかない。

 

「魔性の類じゃないのに人を襲う...しかも意識が希薄だから操られているってことか?」

「恐らく、半分は勘だがな」

「......ユミトの勘はよく当たる」

「けど、操られてるのは分かりましたがどうするんですか?」

 

 ユエとシアも近づき、俺に尋ねてくる。

 

「それなら簡単だ。俺たちであいつの意識を取り戻す」

 

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