ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
本編です
「なんじゃあああ!?いったい何が!?」
黒竜はひどく困惑した様子で叫んでおり、俺たちもまさか人語を話すとは思っていなかったため、全員が呆然としている。
そして黒竜は俺たちに気付き、羞恥と怒りに満ちた声をあげた。
「お主たちか...妾のお、お尻に異物を突っ込んだのは!」
「待て待て待て!落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!よりにもよってお、お尻とはどういう了見じゃ!」
「お前が洗脳されてたから強いショックを与えるために仕方なかったんだよ!」
「...それは真か?」
俺が必死に伝えると、黒竜は他の奴らへ顔を向け怪訝な表情で尋ねる。尋ねられた皆は、困惑しながらではあるが首を縦に振ると、黒竜はその怒りを収め始めた。
「そうであったのか...ならば礼を言おう」
「いや...俺たちもこんな方法で悪かったな」
「よい、他に方法が無かったのであろう?」
黒竜の寛大さに内心感謝していると、ユエが黒竜に質問をした。
「......あなた、竜人族?」
「うむ、妾は誇り高き竜人族の1人。『ティオ・クラルス』と申す」
「......なんでこんな所に?」
「質問に答えるのは構わぬが...すまぬ。恥を忍んで頼みがある」
「頼み?」
「わ、妾の...お、お尻に刺さっているこれを抜いてほしいのじゃ...」
黒竜...ティオは羞恥に満ちた声で俺たちに頼んできた。
「魔力もほとんど残っとらん故...このままだと死んでしまう...」
「あ〜...なるほどな」
「弓人、お前どういう事か分かったのか?」
その意味に気づいた俺はティオに同情していると、未だ気づいていないハジメは俺に質問してきた。よく見ると他の奴らも俺に視線を向けている。
「ティオ...さん?あんたのその姿は魔法による者だろ?」
「その通りじゃ...」
「それで、魔力が切れたら、人の姿になる...だろ?」
「うむ...」
「じゃあお前たち、考えてみろ...あれが突き刺さった状態で人の姿に戻るとどうなると思う?」
俺がそう尋ねると、全員は少し考えた後、顔を青くして自身の尻を抑え始めた。
「そんな死に方をしたら父上や同胞たちに顔向け出来ん...後生じゃ...」
羞恥により、消え入りそうな声で懇願するティオに、俺は内心申し訳なさでいっぱいになりながら刺さっている杭の所へ行く。
「分かった。俺たちのせいでもあるし抜こう」
「真か!」
「あぁ、だから男の俺に見られる事になるが我慢してくれ」
「うっ...せ、背に腹はかえられぬ!頼む!」
ティオからも許可を得たため。俺はティオの『そこ』へ刺さっている杭を両手でしっかり握り、力が入るように腰を落とす。
「よし、じゃあ3つ数えたら抜くから力抜いてくれ」
「え? ちょっ...できれば優しく...」
「いくぞ!」
「ま、待ってたもれ!せめて妾のタイミングで」
「はい、いーち!」
「オアーーーーーーーーー!」
「「「「「いや2と3はァァァ!?」」」」」
話の途中で杭を引っこ抜かれたことで、ティオは絶叫を上げて飛び上がるように体をのけぞらせる。
そして、俺がタイミングを完全に無視して引っこ抜いた事に、ハジメたちと畑山先生たちに加え、さっきまで怯えきっていたウィルですらツッコミを入れてきた。
「知らないのか?男は1だけ覚えてたら生きていけるんだよ」
「お、お主!さっき3つ数えたらと言ったであろうが!?」
「後、こういう時はタイミングをずらした方が力が抜けてるもんだ」
「こんなにも嬉しくない心遣いを受けたのは初めてじゃ...」
ティオは恨みがましい視線を俺に向けてくるが、しばらくするとため息と共にティオの体が光り始める。
その輝きが繭のようにティオを包みこむと、どんどん小さくなっていく。そして、人が1人入れるくらいの大きさになると、繭が解けるように消えていく。
そして繭の中から、着物を思わせる衣服を着て俺を睨みつけてくる黒髪金眼の女性がいた。
「色々と言いたいことがあるが...ひとまず、感謝するのじゃ」
「とりあえず、ユエの質問に答えてもらっても良いか?」
「うむ、順番に話そう...妾は」
こうしてティオの口から、ここまでの経緯が話された。
彼女はとある目的のため、竜人族の隠れ里から飛び出してきたらしい。そして、情報収集のため人里に降りるつもりであったが、その前に魔力の回復のため休息を取っていた。
「その間に洗脳されてしまったと?」
「おそらく...我ら竜人族は一度休息に入ると丸1日は起きることはない...」
「そうか...洗脳してきた奴は分かるか?」
「朧げではあるが...たしかローブを身につけた『闇系統の魔法』の使い手であった」
ティオの言葉に、畑山先生たちは息を呑む。詳しくは聞いていないが、心当たりがあるのだろう。
「あの!そのローブの子について何か「ふざけるな!」
畑山先生がティオに問い詰めようとした瞬間、ウィルが怒りに満ちた視線を向けティオに叫んだ。
「洗脳されてたから... ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを殺したのは!...仕方ないとでも言うつもりか!」
「...妾は事実を言っただけじゃ、言い訳をするつもりはない。妾には目的があるため、この命で償うことはできぬ...だが、罵りなら幾らでも受けよう」
ティオは目を閉じて、全てを受け入れようとする。ウィルは一瞬罵声を浴びせようとするが、それは自己満足にしかならないと悟り。そして、絞り出すように口を開く。
「なんで...なんで、あの人たちが死ななきゃ駄目だったんだ...あんなに良い人たちが...何も悪いことをしてなかったあの人たちが...」
「知りたいか?」
俺がウィルに尋ねると、ウィルは一瞬反応するが答えない。だが、俺は構わず話し続ける。
「何も悪いことをしていないそいつらが、何故死んだのか? どうしてお前は今、こんなにも苦しいのか...知りたいか?」
「み、三星くん...これ以上は」
畑山先生が俺に止めるよう言ってくるが、俺はそれを無視して言い放った。
「それは、誰のせいでもない。ただ...