ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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ミラクル求道僧のあのシーン

個人的にあのゲームで3番目に好きだったりします


本編です


47星:間が悪かった

 

「間が...悪かった?」

「そうだ。たまたまその時だけ噛み合わなかった。ただ、それだけだ」

 

 弓人は、さも当たり前のように言い放った。それにこの場にいた者全てが唖然とし、先ほどまで目を閉じていたティオでさえ目を見開き彼を見ていた。

 

「じゃあ...なんですか...彼女が洗脳されたのも...運が悪かったからだと?」

「そうだ」

「そのせいで僕たちが襲われたのも?」

「そうだ」

「そのせいで...みんなが死んだのも?」

「そうだ」

 

 体を震わせ、絞り出すように問いかけてくるウィルに対して、弓人は淡々と、そして無慈悲に肯定する。

 

 その瞬間、ウィルは顔を怒りで歪ませ弓人の胸ぐらを掴んだ。

 

「そんな...そんな間に合せの言葉で済まされることじゃないでしょう!」

「だが、それが真実だ」

「どう考えたって!悪いのはあいつだろうが!」

 

 そう言ってウィルはティオを指差す。ティオは彼の仲間を殺した事による罪悪感で思わず視線を逸らしてしまう。

 

「そうだな、操られていたとはいえお前の仲間を殺したティオは悪い」

「なら!」

「だが、()()()()()()()

「は...?」

 

 突然の言葉に、ウィルは意味がわからなかった。

 

 なぜ、襲われた自分たちが悪いのか。被害者である自分たちが、なぜ責められないといけないのか。

 

「準備は完璧だったか? 調査の依頼だからと油断しなかったか? どうせ死なないと高を括ってなかったか?」

「そ、それは...」

「その反応だと、心当たりがありそうだな。なら、()()()()()()()

「そんな...」

 

 ウィルは弓人から手を離し、崩れ落ちるように座り込んでしまう。しかし、弓人は構わず話し続ける。

 

「そして、イルワも悪い」

「なっ...イルワさんは関係ないだろ!」

「いいや、関係ある。そもそもお前たちに依頼を出さなければ誰も死ぬことがなかったからな。そして、俺たちも悪い」

 

 自身のことを悪いと言い始めたことに、探索に来た者たちが困惑した表情を弓人へ向けた。

 

「俺たちは1度ウルの街で夜を明かしてからここへ来た。もし、ウルへ寄らずここへ直行していたら助かってたかもしれない。だから、俺たちも悪い」

「全員が...悪いってことじゃないですか...」

「そうだ。お前も...そして周りも含めて全てが悪かった...なら、『間が悪かった』と言うしかないだろ?」

「それじゃあ...死んだみんなが報われないじゃないですか...」

 

 絶望したように吐き出されたウィルの言葉に、先ほどまでの淡々とした口調ではなく、どこまでも優しく穏やかな口調で返した。

 

「悲しいがな...けどな、それも悲しいだけだ。それが人生だ」

「え...?」

「人生なんて、無意味と有意味のせめぎ合いでしかない。だから絶望するくらいならこう思えばいい『ただ間が悪かった』ってな、大体のことはこれで片付くぞ。騙されたと思って口に出してみろ、気持ちが、心が軽くなるからな」

 

 どこまでも無慈悲に、そしてどこまでも優しく肯定する弓人の言葉に、ウィルは泣き出してしまった。

 

 直前まで迫って来ていた、死の恐怖から解放された事に。そして、仲間が死んだことが、自身だけのせいじゃないと言われた事に。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「すみません...みっともなく泣き出してしまって...」

「気にすんな、俺は自分の考えを言っただけだ」

 

 しばらくした後、泣き止み恥ずかしそうにしているウィルを立ち上がらせると、ハジメが痕跡で見つかったバッグを持ってきた。

 

「そういえば、こいつはお前の持ち物か?」

「あ!僕のバッグです!」

 

 そう言ってバッグを受け取ると、大慌てで中身を探る。そして、ロケットペンダントを取り出すと安堵の表情を浮かべた。

 

「良かった...壊れてない」

「ん?その写真の女性は恋人か?」

「あ、いえ。この写真に写ってるのはママです」

「ま、ママ?」

「そうだ...まだ僕にはママがいる!だから死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 先ほどの絶望が嘘のように、活力をみなぎらせるウィルを見て、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「えぇ...俺、結構良いこと言ったと思ったのに...」

「......よしよし」

「す、少なくとも妾の心には響いたぞ!」

「やめて!慰めないで!」

 

 いつのまにか近づいて来ていたユエに頭を撫でられて、まさかのティオに慰めの言葉をかけられたことに、若干泣きそうになっていると。ハジメが少し焦りながら話しかけて来た。

 

「弓人、面倒な事になってきた」

「面倒って、なにが?」

「ティオの話を聞いてから偵察機を飛ばしてたんだが、例の魔物の群れを見つけた」

「あ〜、けど多くて4千とかだった?」

「それに桁が1つ追加されそうだ」

「うわ、面倒臭」

 

 ハジメの言葉に、ウィルや畑山先生たちが驚愕する。聞けば既に進軍し始めているようで、ルートからして1日もすればウルへ到達するようだ。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで...それから、それから...」

 

 畑山先生はパニックになりながらも、必死にやるべき事を考えている。万を超える魔物に対して、こちらの戦力は余りにも少ない。そのため、避難を呼びかけ王都から救援を呼びかけるのが最適解であろう。

 

「あの...ユミト殿たちならなんとかできるのでは?」

 

 ウィルの呟くようにこぼした言葉に、全員が俺たちに視線を向ける。その瞳には、期待の色が混ざっている。

 

「いやいや、俺たちの依頼はあくまで『ウィルをフューレンへ連れて帰る』ことだ、流石に他へ気を回す余裕はない」

 

 折角、ウィルが生きていたのに別の事に首を突っ込んで死んでしまったなんて笑い話にもならない。

 

「俺も弓人に賛成だ。保護対象連れてこんな起伏が激しい障害物だらけの場所で殲滅戦だなんてやりづらくてしょうがねぇ。仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺か弓人じゃないと動かせない構造だから、俺に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」

 

 理屈を並べて捲し立てて来たハジメに、畑山先生たちは何も言えなかった。

 

「何はともあれ、1度ウルへ行く。この話は一旦終了だ」

「の、のう。ユミト殿にハジメ殿、妾もついて行って良いか?」

「俺は良いけどハジメは?」

「好きにすれば良い」

「おぉ!感謝するぞ!」

 

 こうして俺たちは車に乗り込み、ウルへ移動を開始した。

 

 


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