ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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現状ヒロインの判明している追加属性

ユエ→甘えん坊
シア→小悪魔
ティオ→???

皆さん予想なりして楽しんでいただけると幸いです


本編です



48話:寂しく悲しい生き方

 

 ウルヘ移動中、先ほどのこともあり空気が重い車内

 

 しかし、1名だけその空気に気づいていない者がいた

 

「の、のう!この鉄の箱はなんじゃ?何で馬がおらぬのに動くんじゃ?それに...」

「だー!落ち着け!っていうか空気を読め!」

「す、すまぬ...このような珍妙な物は見た事ないゆえ」

 

 この世界には本来存在しない車に、目を輝かせ矢継ぎ早に質問してくるティオ。俺がツッコミを入れると質問をすることをやめたが、興味が尽きないのか車の中をキョロキョロと見渡している。

 

「ユミト殿...本当になんとかならないんですか?」

「答えはさっき言っただろ」

「ですがウルの人たちを見捨てることなど」

「くどいぞ」

 

 先ほどからウィルは俺たちを説得しようとしてくるが、俺は考えを改めるつもりはない。すると、ウィルは何か思いついたように提案した。

 

「な、なら!僕だけウルに置いていって良いです!ユミト殿たちにはイルワさんに生きていたと報告して頂けると「舐めてんのか?」

 

 俺はウィルを睨みつけると、ウィルは体を強ばらせ息を呑む。

 

「随分とお優しいことで...いや現実が見えてないのか?お前の保護を頼まれたのに保護対象本人を危険に晒すとでも思ってんのか?」

「で、ですが!」

「それに、お前1人がいたとして何かできるとでも思ってんのか」

 

 ウィルは顔を俯かせ黙ってしまう。先ほどより重い空気が車内を包み込む。そんな中、彼女は意を決したように話しかけて来た。

 

「三星君...君なら...いえ、君たちなら魔物の大群をどうにか出来るんですよね?」

「先生...あんた正気ですか?どう考えたら万を超える大群をどうにかできるってなるんですか?」

 

 俺はウィルに向けた視線を畑山先生にも向ける。彼女は一瞬だけ怯んだが、どこか確信した様子で話し続ける。

 

「三星君は先ほどから()()()()()()()()()()()()()()()を理由にしているだけで、自身の心配は一度もしてません。それに、山で南雲くんが言った時も()()()()()と言いましたが()()()()とは言ってませんよね」

「...まぁ、そうですね」

 

 言い方を間違えたと、俺とハジメは表情を歪ませる。畑山先生は真剣な表情を崩さず俺たちに頼みを伝える。

 

「三星君、南雲君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「先生、今自分が何を言ってるか分かってます?」

「弓人の言う通りですよ、まるで戦争へ駆り立てる教会の連中みたいだ」

 

 俺たちの言葉に、彼女は表情を崩さず。どこまでも『先生』の表情で俺たちを見てくる。

 

「...元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから...なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが...」

 

 畑山先生が1つ1つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「あんなに穏やかだった南雲君や、優しかった三星君がそんな風になるまでに、想像を絶する経験をして来たのだと思います...そんな時、力になれなかった私の言葉なんて軽いものかもしれませんが、聞いてください」

 

 俺たちは黙ったまま、畑山先生の言葉を待つ。

 

「君たちは、日本に帰ると言いましたよね。では、日本に帰っても同じように大切な人達以外を切り捨てて生きますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

「「……」」

「君たちには君たちの価値観があり、未来への選択は常に君たち自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君たちがどのような未来を選ぶにしろ、必要な物以外を切り捨てるその生き方は...とても『寂しくて悲しい事』だと思うのです。その生き方は、誰も幸せにならないものだと思うのです。なので...君たちが持っていた、他人を思いやる気持ちを忘れないでください」

 

 俺は、奈落に落ちた時のことを思い出していた。

 

 前世の記憶を思い出しハジメとユエに受け入れてもらった時、俺は救われた。

 俺の思考や価値観は、前世のもの寄りになっている。そんなこと畑山先生は当然知らない。だが、彼女はどこまでも俺たちのことを考えてくれている。

 ハジメの方を見ると、ハジメも何か思うことがあるのか考えている。そして、ハジメは畑山先生に質問をした。

 

「...先生は、この先何があっても、俺と弓人の先生か?」

「当然です」

「...俺たちがどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。君たちが先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

 ハジメの質問を、一切の迷いなく即座に返す畑山先生。ハジメは再び考え込んだ後、今度は俺に話しかけて来た。

 

「弓人、ウルに着いたら準備をするから着いて来てくれ」

「あいよ」

「南雲君!三星君!」

 

 表情を明るくする畑山先生、俺は彼女に対して条件を言った。

 

「じゃあ、今回の件で条件があります『俺たちの指示に従ってもらう』と『何があっても文句を言わない』良いですね?」

「分かりました!ありがとうございます!」

 

 この条件を快く飲んだ畑山先生には、今回の件の立役者になってもらおうと俺は考えた。

 

 こうして俺たちを乗せた車は、遂にウルへ到着した。

 




ちなみに主人公の変化はトロッコ問題で表すとこんな感じです

前世を思い出す前→どちらも助かる道をギリギリまで探して、どうしようもない場合は1を殺す選択をする

前世を思い出した後→基本1を殺す選択をするが、その1が仲間や家族の場合迷わず5を見捨てる

オラリオの暗黒期や闇派閥に襲われた経験などでこのようになったと考えてください

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