ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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50星:防衛 ウルの町【上弦】

 

「弓人、こいつを」

 

 魔物の大群を見ていたところ、ハジメから何かを投げ渡され咄嗟に受け取る。

 

「うぉっと...こいつって」

「あぁ、お前から頼まれてた物だ」

 

 俺はハジメに渡されたものを見ると、それは黒い鞘に収められた日本刀に良く似た形状をした物であった。

 試しに鞘から抜いてみると、刃は何か効果が付与されているのか翠色の光が淡く光っている。

 

「日本刀...か」

「個人的には会心の出来なんだが、不満か?」

「いや、一応心得はあるから問題ない...で、こいつにも何かカラクリが?」

 

 俺が尋ねると、ハジメは待ってましたと言わんばかりに説明を始める。

 

「当然、そいつには『風爪』を付与している」

「『風爪』って爪熊のやつか」

「あぁ、そいつに魔力を込めれば刃から『風爪』が発動して爪熊がやったみたいに斬撃が拡張され、擬似的に刀身が伸びる。」

 

 斬撃が拡張って...、俺はまさかと思いハジメに尋ねる

 

「...こいつの銘は?」

「そうだな...風刃...いや旋空だな」

「お前狙ってるな?」

「...なんのことかわからない」

 

 俺は呆れた視線を向けながら日本刀...旋空を腰に収める。平原を見てみると、魔物の大群もそれなりに近づいて来ており、俺たちもそろそろ始め時だ。

 

「じゃあ、ぼちぼち始めるか...ってユエ、いい加減機嫌治してくれよ」

「......ユミト、私もだっこ」

「これが終わったらな」

「......ならば良し」

 

 なんだ、俺に甘えたかったのか。

 

 俺はユエの頭を軽く撫でてやると、ユエは気持ちよさそうに目を細める。

 

 こうして、防衛という名の蹂躙が開始された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何だよ、これ...何なんだよ、これは!!」

 

 ローブの男... 清水幸利は、岩陰に身を隠しながら眼前の現実を理解できないでいた。

 

 偶然出会った男との契約により、ウルを畑山ごと壊滅させようと企んだ。容易に捻り潰せると思っていた町や人は、予想しなかった迎撃により未だ無傷であり、それどころか彼にとって、地獄が現在進行形で生み出されていた。

 

 白髪の男が、この世界に無い筈の銃...しかもチェーンガンにより魔物たちを肉塊に変えていく。

 

 戦闘能力が無いはずの兎人族の女が、これまたこの世界に無いはずのロケットランチャーで魔物たちを爆散させていく。

 

 金髪の少女が、見たことない魔法で魔物たちを消し飛ばしていく。

 

 黒髪の女が、あの山脈で操った黒竜のブレスの様な魔法で魔物たちを焼き尽くしていく。

 

 そして何よりも

 

「何で...何で三星の奴が生きてんだよ!?」

 

 あの時、奈落に落ちて死んだはずの三星弓人が生きて清水の計画を崩壊させている。しかも彼は、大量の矢を放ち魔物たちを1撃で撃ち抜いていく。

 

「なんでだよ!何でステータス0の無能以下のゴミが俺の邪魔をするんだよ!」

 

 髪を掻きむしり叫ぶ様に悪態をつく清水、しかし何かを思い出したのか息を荒げているが少しづつ落ち着きを取り戻す。

 

「落ち着け...まだ大丈夫だ。俺にはこいつがいる...」

 

 清水の後ろには、狼の姿をした4つ目の魔物がいた。

 

「真の勇者は...英雄は俺なんだ」

 

 そう言った清水の瞳は、光を失い暗く澱んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「す、すまぬ...妾はここまでのようじゃ...」

「謝らなくていい、ゆっくり休んでてくれ」

「......お疲れ様」

「ありがたい...そうさせて貰おうかの」

 

 魔力のほとんどを使い切り、立っているだけでやっとだったティオに労いの言葉をかけると、彼女はその場に座り込んでしまった。

 

「ユエ、お前の方はどれくらいだ?」

「......ん、残り魔晶石二個分くらい......重力魔法の消費が予想以上。要練習」

「了解、なら後は俺たちがやるから。何かイレギュラーが起きるまでティオと待機しててくれ」

「......ん、気をつけて」

 

 俺は弓矢を空間庫にしまうと、ハジメとシアの下へ行く。ハジメの方もチェーンガン...メツェライが限界を迎えていたのか同じく空間庫へしまっていた。

 

「2人とも、気づいたことはあるか?」

「気づいたこと...魔物たちの違いのことか?」

「あ、それだったら分かります。ティオさんの様に操られてるのと、へっぴり腰の魔物のことですか?」

「正解、おそらく操られてるのが群れのリーダーだ。そいつを叩けば操られてない魔物は逃げ出すだろう」

 

 そう言うと2人は即座に理解して、ハジメはドンナーとシュラークを、シアはドリュッケンを取り出しいつでも出れる準備をする。

 

「こっからは俺たち前衛組の仕事だ。さっさと終わらせてウィルを連れて帰るぞ」

「了解だ!」

「はい!」

「ま、待て!わざわざ敵陣に突っ込むつもりか!?危険じゃ!」

 

 ティオは体をふらつかせ、俺たちを止めにくる。俺はティオの肩に手を置き、そのまま抑え座らせる。

 

「まぁ見てろ、俺たちの強さは直接戦ったお前がわかってるだろ?」

「なっ...し、しかし!」

「じゃ!ちょっと行ってくるわ!」

「待て!......絶対に死ぬで無いぞ!」

 

 ティオの抑止の声を振り切り、外壁から平原へと飛び降りる。ハジメとシアは先に行っている様で、既に戦闘を開始している様だ。

 

「じゃあ...始めるか!」

 

 俺はハジメに渡された旋空を構えながら、敵陣へ突っ込んだ。


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