ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
敵陣に突っ込むと、俺の存在に気づいた魔物が数匹飛びかかってきたため。俺は鞘から刀を抜き、下段に構え最小限の回避でリーダー格へ直行する。
「まずはこいつ自体の性能からだな」
リーダー格の懐に潜り込み、斬り上げる。リーダー格は腰から肩にかけ斬り裂かれ一太刀で絶命した。
「マジか、切れ味良すぎだろ」
斬った感触がほとんど無かったことに驚いていると、取り巻きの魔物が数匹飛びかかって来た。どうやらリーダー格を殺しても逃げない奴もいるらしい。
「なら、こいつらで試すか」
試しに魔力を流すと、刀身の光が強まり風が噴き出す。そして横に薙ぎ払う様に振るうと、魔物たちは刀の間合いに入っていないのにも関わらず胴体から横一文字に血が噴き出し、上半身と下半身が切り離された。
「なるほどな、大体わかった」
『そいつの使い心地はどうだ?』
ハジメから『念話』が届いたため、『念話』が付与されているイヤリングを使って答えた。
「完璧以上だ、流石の仕事だな」
『それは何よりだ。そいつについて聞きたいことはあるか?』
「そうだな...範囲を伸ばすことは可能か?」
『魔力を込める量を増やせば可能だ。けど伸ばした分効果時間が減少するから気をつけろ』
「...やっぱり狙ってんだろ?」
『なんのことかなー』
棒読みでしらばっくれるハジメに呆れていると、もう1つ気になったことが出来たため試しに質問してみる。
「あっそうだ、鞘の方の耐久性はどのくらいだ?」
『ん?刀身と同じアザンチウム鉱石を加工してるから、かなり頑丈だが...それがどうした?』
「いや、それが分かれば十分だ」
俺はハジメとの『念話』を終了して魔物たちの方を向くと、魔物たちは先ほどのことがあり、俺と距離をあけて警戒しているようだ。
「『あれ』できるんじゃね?」
俺が刀を収め、居合の構えを取る。
呼吸を整え、目の前の魔物たちへと意識を集中させる。
操られていない魔物たちは、突如武器をしまった俺を見てチャンスだと考えたのか逃げようとする。
しかし、先ほどとは別個体のリーダー格が戦う指示をしたことで各々武器を構え始めたがもう遅い。
「八重樫流抜刀術『
抜刀した瞬間、魔物たちの世界が逆転した
風により生み出された不可視の刃が、先ほどとは比にならない範囲で魔物たちの首から上を両断した。その範囲は、少し離れた位置にいたハジメやシアと戦闘していた魔物たちの一部にも届いていた。
「よし、上手くいったな」
『な、何ですか今の!?私の方の魔物にも届いてるんですけど!?』
『弓人の奴...マジでやりやがったよ』
「名付けて...『弓人旋空』」
『『だっさ!』』
俺がやったのは、日本で読んでいた漫画のキャラが使っていた必殺技だ。
技の内容は、効果持続時間を極限まで減らし、効果範囲を最大限まで伸ばして放つ居合斬りである。
斬撃の範囲外にいた魔物たちは、この惨劇を目の当たりにして一目散に逃げ出し始めた。リーダー格が戦う様指示するが、恐怖が勝り残る者は誰もいない。
『後は任せな』
ハジメからそう言われると、発砲音と共にリーダー格が撃ち抜かれた。
「よし、それじゃあローブの男を探すか」
『だな』
『はい』
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「なんじゃ...今のは...」
「......大丈夫?」
先ほどの弓人が行った人間技とは思えない居合を見て、ティオは俯き体を僅かに震わせていた。
ユエはそれを見て、弓人に恐怖したのかと思い心配そうに顔を覗いたが、それは杞憂で終わった。
「父上の言ってた通りじゃ、世界は広いのう」
目を輝かせ弓人たちを見るティオ、ユエはそれを見て弓人たちが褒められている様に感じ思わず頬を緩ませた。
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「今...誰かに褒められた気がする」
「気のせいだろ...っと」
ハジメとシアに合流した後、今回の元凶であるローブの男を探していると、俺たちの前に逃げ出さなかった魔物が立ち塞がった。
その魔物は奈落にいた二尾狼に似た雰囲気を纏った、4つ目の狼の魔物だった。
「操られてる感じもないな、さっさと殺るか」
「だね」
「2人ともストップ、ここは俺1人でいい」
武器を構える2人を止め、1歩前に出る。
「お前らはローブの男を探しといてくれ」
「俺は構わねぇけど...良いのか?」
「そうですよ、3人でやった方が早くないですか?」
「ちょっと試したいことが1個残っててな、あいつらで実験してみる」
俺がそう言うと、2人はそれ以上何も言わずここから離れ探索を再開する。四目狼たちは一度ハジメたちの方を一瞥するが、俺が武器を構えた瞬間即座に戦闘態勢に入った。
「とりあえず、挨拶代わりに」
俺は先ほどより範囲を狭めて、居合を放つ。すると、四目狼たちはそれが来ると分かっていた様に上へ飛び回避する。
「ん?勘が良いのか?」
まさか全員に回避されると思っていなかったため、少し驚いたが俺は即座に四目狼1匹の前へ跳び、袈裟斬りで刀を振るう。しかし、それも来ると分かっていたかの様に避け距離を取られた。
「勘が良いっていうより...あぁ、お前ら見えてんのか」
おそらく、シアの『未来視』に似た固有能力を持っているのだろう。しかし攻撃に転じてこないところから『予知』より『予測』に近いものだと仮定する。
「丁度良い、今度は『あっち』をやってみるか」
俺は再び居合の構えを取り、意識を集中させる。四目狼たちは俺の攻撃を警戒して、再び回避の準備をする。
お互いに動かず、ひりついた空気が周囲を包み込む。
そんな中、1匹の四目狼が痺れを切らし俺へ襲いかかってくる。おそらく『予測』して、次の攻撃が回避できるものだと判断したのだろう。
俺は動じることはなく、四目狼が近づいてくるのを待つ。そして間合いに入った瞬間、俺は弾かれた様に抜刀した。
四目狼は最初の時の様に上へ飛ぼうとするが、その時には既に刃が首を斬り飛ばしていた。
「よし、鞘にも特に損傷はないな」
俺は鞘の状態確認をして残りの四目狼を見ると、狼たちは先ほど何があったか分からず困惑と怯えが混じった視線を向けていた。
「いくら予測できても、回避が間に合わなかったら関係ねぇよな」
先ほどの居合の正体は、構えの時点で風を発生させ鞘の中で循環させることにより抜刀時の速度を爆発的に加速させたものだ。
こちらは先程と違い範囲が刀の間合いまでしかないため、仲間がいる場合での混戦時でも巻き込む心配は無さそうだ。
「じゃ、実験も終わったしさっさと済ませるか」
こうして清水の奥の手である魔物も、たった数分で全滅することとなった。
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「こいつで、終わりっと」
最後の四目狼を切り伏せると、丁度ハジメとシアがこちらへ戻ってきた。
「お疲れ様です...って早いですね」
「こいつら奈落の魔物レベルだったがそこまでじゃ無かった」
「そんなもんか、あと見つけたぞ」
そう言ってハジメは右手を前に出すと、そこには黒ローブに身を包んだ清水がいた。どうやら気を失っている様で暴れる気配がない。
「気失ってるけど何したんだ?」
「いや、こいつが魔物に乗って逃げようとしてたからその魔物を撃ち抜いたら気絶した」
「そうか、とりあえず先生とこ連れて行くか」
「だな」
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三星弓人 Lv.6
力: I : 60 → I : 94
耐久: I : 37 → I : 50
器用: I : 42 → I : 76
俊敏: I : 40 → I : 72
魔力: I : 51 → I : 70
頑健: E
対魔力: F
千里眼: E
直感: H
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今回のステイタス上昇は、「いくら地上レベルの魔物でも数万匹やったらこんくらい伸びても良いでしょ」という感じで伸ばしてます。
ちなみに作者はあのカメラ目線孤月使いが大好きです
2つ目の技は、呪術で三輪ちゃんが使っていた抜刀の呪力を風に置き換えた感じでお願いします