ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
ちなみに主人公の剣術の腕は
総合的な技術で比べた場合 主人公<雫
抜刀術かカウンターで比べた場合 主人公>雫
になります。本編です
清水幸利は、真正のオタクである。部屋にはアニメのポスターを壁に貼り、本棚には漫画やライトノベルが敷き詰められ、ゲーム類が大量に積まれていた。
そんな彼にとって、異世界召喚は夢であり憧れであった。何度も頭の中で夢想して、様々な世界を救ったりした。
トータスに召喚された瞬間、彼は自分の時代が来たと思った。自分が『勇者』だと、この世界で『英雄』になるのだと
しかし、彼は『勇者』ではなかった。
『勇者』はあろうことかクラスでも目立っていた天之河であり、自身は『闇術師』というぱっとしない職業。
自分は『モブ』で『勇者の引き立て役』だと嫌ほど理解させられた。
なぜ俺が『勇者』じゃないのか
なぜ天之河なんかが『勇者』なのか
なぜ天之河ばかりちやほやされるのか
俺だったらもっと上手く立ち回れる
都合の悪いことを全て周囲のせいにする、子供じみた自己中心的な考えが清水の心を蝕む。
周りの馬鹿たちにはうんざりだ
何にも分かってない
俺こそが『真の勇者』なんだ
『英雄』は俺なんだ
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俺たちが清水を畑山先生たちの下へ連れて帰り、意識が戻るのを待っていると、畑山先生は清水へ近づいて行く。
「愛ちゃん先生!危ないよ!」
「大丈夫ですよ」
園部が止めようとするが、畑山先生は構わず近づく。そしてローブを外し清水だと分かると、一瞬顔を悲しそうに歪めるが清水を起こそうと体を揺すり声をかける。
やがて、畑山先生の声がけもあり清水は意識を取り戻した。清水は周囲を見渡し、自身の置かれている状況を理解したのか血走った目で俺たちを睨みつけながら座り込んだまま距離を取ろうとする。
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません...先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか...どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
畑山先生が清水と視線を合わせ問いかけると、清水は視線を逸らし、ぼそぼそと独り言に近い声で悪態を突き始めた。
「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも馬鹿しかいない。馬鹿にしやがって...勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに...気付きもしないで、モブ扱いしやがって...ホント、馬鹿ばっかりだ...だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが...」
「てめぇ...自分の立場わかってんのかよ!危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
反省の色が見られない清水の姿に、クラスメイトたちは怒りを露わにして反論する。清水はそれが気に入らないとばかりに口をつぐみだんまりを決め込む。
畑山先生は、そんな清水が気に食わないのか更にヒートアップする生徒たちを抑えると、ゆっくりと、そして穏やかに問いかける。
「そう、沢山不満があったのですね...でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて...多くの人々が亡くなっていたら...多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」
畑山先生のもっともな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと笑みを浮かべた。
「...示せるさ...魔人族になら」
「なっ!?」
畑山先生が驚き硬直した瞬間、清水は弾かれた様に彼女の後ろに回り込み羽交締めにする。そして、隠し持っていた針を取り出し彼女の首筋に突きつけた。
「動くなぁ!動いたらこいつをぶっ殺すぞぉ!この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」
「清水くん...駄目ですよ...」
裏返った声で叫ぶ清水を、畑山先生は苦しそうであるがまだ説得しようとしている。そんな彼女に清水は馬鹿にした様に薄ら笑いを浮かべた。
「あんた、自分の価値分かってんのか?『豊穣の女神』は『勇者』より厄介な存在なんだってよ...魔人族が言ってくれたよ、豊穣の女神を殺せば、俺を『魔人族を勝利へ導いた英雄』にしてやるってさ」
「清水くん、考え直してください...今ならまだやり直せます」
「うるせぇよ、良い人ぶりやがって...お前らもさっさと武器を捨てろよ!本当に殺すぞ!」
喚きながら腕に力を込める清水、苦しそうにする畑山先生を見て、園部たちは悔しそうに武器をその場に捨てた。
「後は三星とお前だよ...お前だっつってんだろこの『厨二野郎』!」
「ぐふぅ!」
「止めろ清水!正論が人を傷つけることはいくらでもあるが、人を救った例は一度も存在しないぞ!」
「ぐほぉ!」
脅威と思われていない扱いに、清水は苛立ちを覚え顔を歪めていく。そんな中、俺とハジメは『念話』で誰にも聞かれない様に別のことを話していた。
『ハジメ、俺が注意を引くから清水の手ごと針を打ち抜け』
『了解、その後はどうする?』
『とりあえず治療する、最悪神水を使っても良いだろ』
『あいよ』
そんな会話をしていることを知らない清水は、怒りに任せ俺たちに武器を捨てる様に叫んでくる。俺は刀を地面に突き立て、ゆっくりとした歩みで清水に近づいて行く。
「まぁ、落ち着け。先生も苦しそうだしな」
「来るな!近づくと殺すぞ!」
「お前、『英雄』になりたいんだってな」
俺がそう問いかけると清水は一瞬だけ固まり、また独り言の様にぶつぶつと喋り始めた。
「そ、そうだ...俺は『真の勇者』なんだ...『英雄』になるんだ...だからさっさと逃げてこいつを殺さないと...」
「無理だ」
「...は?」
「お前には、『英雄の資格』がない」
自身が『英雄』になれないと否定された清水は、体を震わせ怒りによって歪ませた顔を俺に向けてくる。
「てめぇ!自分の立場が分かって「『もし英雄と呼ばれる資格があるとするならば』」
俺は清水の言葉を遮り、前世で聞いたことを口にした。
「『剣を取った者ではなく、盾をかざした者でもなく、癒やしをもたらした者でもない。己を賭した者こそが英雄と呼ばれるのだ』」
「......」
これは前世、俺が幼かった頃に森へ来た旅人が言っていた言葉だ。
「『仲間を守れ。女を救え、己を賭けろ。折れても構わん。くじけても良い。おおいに泣け。勝者は常に、敗者の中にいる。願いを貫き、想いを叫ぶのだ』」
「黙れ...」
その言葉で、俺は『英雄』に憧れなりたいと思った。
「『さすれば、それが、一番、格好のいいおのこだ』」
「黙れよ...」
それなのにこいつは『英雄』を穢そうとしている。
「それなのにお前は何だ?『自身の弱さを周囲のせいにして』『仲間を裏切り』挙句の果てには『女を人質に取る』」
「黙れって言ってんだろ...」
そして、俺は清水を睨みつけ言い放った。
「『英雄』を
「黙れえええええ!」
清水はやけになり、畑山先生に針を突き立てんと腕を上げる。その瞬間をハジメは見逃さずドンナーを構え引き金を引く...
より先にシアが清水の下へ駆けていた。
「避けてえええええええええ!」
申し訳ございません、少し文章作成に手間取ってしまい投稿が遅れてしまいました。