ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
ダンまち要素がかなり薄くなって来た気がする...
幕間か何かで「主人公が死んだ後のオラリオ (人名)の場合」みたいなの書こうかな...
そんなこと考えながら本編です
どれだけ経っても慣れることのない感覚が手に伝わり、生暖かい血がナイフを持つ手を染め上げる。
初めてまともに見る人の死に、クラスメイトたちは、顔を青くしたり吐きそうになるのを必死に抑えている。
「.....なんで」
「こいつは完全に堕ちてました」
最後の清水の顔は前世でよく見た。闇派閥の奴等が命乞いする時の顔にそっくりだった。
「けど...」
「後、これは持論ですが『一度裏切った奴は何度でも裏切る』」
「けど!殺す必要はなかったじゃないですか!」
怒りと悲しみが混ざった表情で睨みつけてくる畑山先生の顔に、俺は前世『あいつ』に向けられた表情と重なった。
自身の『正義』を胸に、どこまでも気高く『疾風』のように駆け抜けた『あいつ』に。
「殺さなくても...王宮で保護して...日本に帰れたなら、まだ可能性があったじゃないですか」
「俺は先生の生徒に対する考えや姿勢は尊敬してます...けどね、それが通じるほどこの世界は甘くない」
「...っ」
「俺の考えが『寂しくて悲しい生き方』だとしても...それで仲間が守れるなら、その仲間たちから拒絶されたとしても俺は構わない」
俺は清水に突き刺していたナイフを引き抜き、血に汚れたまま離れようとする。
「三星くん...」
「言った通り、雫たちには会いに行きますよ。まだあんたが、自分の生徒に、こんな『人殺し』と会わせたいと思ってるなら」
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そう言ってこの場から離れていく弓人の背中は、ここにいる者たちにはひどく寂しそうに見えた。
ハジメはそんな背中を悲しそうに見た後、立ち上がり去ろうとする。
「弓人は...滅茶苦茶不器用な奴なんです。先生...あなたにまだ、弓人を信じる気持ちがちょっとでも残ってるなら...折れないでください」
こうしてハジメたちが立ち去った後には、顔を俯かせた畑山と、共に何かを考え込んでいるクラスメイトたちだけが残った。
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先生たちと別れた後、ウィルをフューレンへ連れて帰るため車に乗り込もうとしていると、ウィルが話しかけてきた。
「あのぉ~、本当にあのままでよかったのですか? 話すべきことがあったのでは...特に愛子殿には...」
「良いんだよ、俺がいない方が決断できるだろうし」
「それは、そうかもしれませんが...」
「お人好しは長生きしねぇぞ?」
ウィルと会話していると、玉井と相川が俺の方へと走ってきた。
「待てよ、三星!」
「お前には言わなきゃいけないことがあるんだよ!」
それはそうだ。俺はどんな理由はあれ、俺は清水を殺した。どんな罵倒も受け入れようと待っていると、2人は俺の前に立ち勢いよく頭を下げてきた。
「「ごめん!」」
「...は?」
まさか謝ってくるとは思わなかったため困惑していると、2人は謝ってきた理由を話し始めた。
「俺!お前のステータス聞いた時馬鹿にして笑ってた!」
「俺も!王宮にいた時、内心見下してた!」
「...黙ってたらバレなかっただろ」
「けど!今謝らなかったらずっと後悔する気がする!」
「罵倒しても良い!なんなら殴っても構わない!」
律儀というか何というか、聞いてみるとハジメには先に謝ってきたらしい。その時、何もされずに許されたため自身の気が済まないらしい。
「なら...先生のことを頼む」
「三星...」
「俺のせいなんだが、あの人は色々と限界だと思う。だから、お前たちで先生を支えてやってくれ」
「「任せろ!」」
俺の頼みを快く聞いてくれた2人と別れ、俺は園部と話しているらしいハジメが帰ってくるのを待つ。
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「園部、話って何だ?」
「あの...えっとね、南雲」
園部はシアと話し、自分の気持ちを改めて理解して出した答えは。好きだと伝えないことであった。
あの時、ハジメがシアを必死に救おうとしたのを見て、自身の気持ちに蓋をして諦めようと決めたのだ。
「1つ...言っておこうと思って」
「?」
その為、園部が伝えようと思っていることは、迷宮でハジメに助けられた時の礼だ。そして意を決して口に開いて出した言葉は
「好き」
「.....えっ」
「私、南雲のことが好き」
自身の思っていた事とは違い、本当の気持ちを言ってしまった。
「あ...待って...違う、いや違わないんだけど...なんで?」
「お、落ち着け...えっと」
口に出してしまった瞬間、自身の内から溢れてくる『好き』という感情。園部は必死に抑え込もうとするが、抑えることが出来ず、感情が爆発してしまい泣き出してしまう。
そんな園部を見て、ハジメは慌てながら出した答えは、やはり、園部が想像している通りの言葉であった。
「園部の気持ちは嬉しい。けど、ごめん。俺には」
「それ以上は言わないで」
ハジメの言葉を遮り、瞳に涙を浮かべながら、しっかりとハジメの顔を見る園部。
「ごめん。困らせるようなことを言って」
「謝らないでくれ。むしろ謝るのは俺の方だ」
「南雲は悪くないよ...本当は言うつもりは無かった。けど、気づいたら口に出してた」
どこか気まずい空気が2人に流れる。そして、園部は両手で自身の頬を叩くと、どこか吹っ切れた表情を浮かべる。
「本当に言いたかったことは。迷宮の時、助けてくれてありがとう!南雲に救われたこの命、無駄にしないから!」
笑みを浮かべる園部を見て、先ほどのことを引っ張るのは失礼だと感じたハジメは、同じく笑みを浮かべ返した。
「お前は強くなるよ。その表情を、俺はよく知っている」
「あのさぁ...振った女の前で、別の女のこと話さないでよ」
「うっ...すまん」
「ごめんごめん、そんなつもりじゃないのは分かってるから。シアのこと、悲しませたら承知しないからね」
「あぁ、分かってる」
「ならよし!」
こうして2人は、友人として笑い合い別れた。
そして車に乗り込み、弓人たちはフューレンへ移動を開始した。
園部は犠牲となったのだ...
作者の書く。ハジシアの犠牲にな...