ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
薄暗い路地裏を、黒いローブを纏った男が歩いている。その背後には、手錠をつけられた兎人族の少女が連れられていた。
「遅いぞ」
「悪いな、連れのガキを殺すのに手間取った」
黒ローブの男の視界の先には、明らかにカタギではない男が苛立った様子で待っていた。しかし、兎人族の少女を見た瞬間その口角が吊り上がる。
「こいつは聞いてた以上の上玉だな。隷属の首輪は付けたか?」
「そんなもん後でいいだろ、兎人族が抵抗できるとでも思ってんのか?」
「...それもそうだな、着いてこい」
男が踵を返し歩いていく。黒ローブの男...ハジメは気づかれないように『念話』を使い弓人たちへ伝達した。
『釣れた。今から移動を開始する』
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「なるほど、それでお前たちはそのミュウちゃんって子を助けたいってわけか」
「頼む。力を貸してくれ」
ハジメから聞いた話はこうだ。
デートをしていると、下水道の方から人の気配を感知した。
最初は無視しようと思ったが、つい気になってしまい行ってみると酷く衰弱している海人族の子供がいた。
助けた手前放っておくこともできなかった為、その子供...ミュウちゃんを保安署へ預けに行った。
最初はかなり抵抗されたが、どうにか預けて保安署から離れると、恐らくミュウちゃんを誘拐した組織が再び彼女を誘拐したらしい。
「更にそいつらは、シアも標的にしてる」
そう言ってハジメは1枚の紙を取り出した。そこには『海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い』と、先程ハジメとシアが入っていた建物の名前が書かれていた。
「で、入ってみたら襲って来たから返り討ちにしたと」
「あぁ、おそらく俺を殺してシアを売り飛ばすつもりだったんだろうよ」
「なるほど...で、ミュウちゃんの場所は分かったのか?」
「いや、知らないらしいから他のアジトの場所を聞いた」
「ハジメ殿、もしやその
「それしかないからな」
それは余りにも非効率的であったため、俺は1つ提案する。
「なぁ、案があるんだが良いか?」
「案って?」
「あえて、シアには捕まえられたフリをする。そして引き渡し場所に行って、ミュウちゃんの場所まで連れて行ってもらう」
「却下だ。そんな危険な役目をシアにさせられるか」
俺の提案をハジメは当然却下する。しかし、シアは少し考えた後覚悟を決めた表情でハジメに話しかける。
「ハジメ、やろう」
「シア!」
「ハジメの言いたいことは分かるよ。けど、早くしないとミュウちゃんが手遅れになるかもだし...後、何があってもハジメが守ってくれるでしょ?」
その言葉にハジメはしばらく悩んだ後、頭を乱暴に掻きため息を吐いて折れた。
「はぁ...分かったよ」
「ハジメ、ありがとう!」
「でだ...弓人、引き渡し場所の当てはあるのか?」
「何言ってんだ?聞けば良いだけだろ」
俺は建物を指差すと、ハジメは納得したようだ。しかし、少し言いづらそうに口を開き始めた。
「あぁ...すまん、建物の中にいる奴ら全員ぶっ飛ばしたから起きてる奴いねぇと思う」
「別にいい。起こせば良いだけだからな」
そう言って俺は建物の中に入り、近くで気を失っているチンピラ1人に近づくと、空間庫から水筒を取り出して水をぶっかけた。
「ごはぁ!?ゲホッゲホッ...」
「起きたなら俺の質問に答えろ、この子を捕らえたらどこへ引き渡すつもりだ?」
「は?」
よく分かっていないチンピラに対して、俺はナイフを取り出し首元に当てる。その瞬間、チンピラは現実を理解して顔を青くする。
「ま、待て!俺たちが誰だか分かってんのか!?」
「次質問の答え以外を口にしたら殺す。別に聞くのはお前以外でも良いんだぞ?」
「い、言えない!そんなこと言ったら殺されちまう!」
「じゃあ、今逝っとくか?」
「ひぃ!」
首元に当てていたナイフに力を込める。するとチンピラは顔を恐怖で歪ませ、簡単に場所を吐いた。
「し、商業区の外壁近くにある路地裏だ!そこで落ち合う手筈をしてる!」
「そうか、良かったな。次お前が目を覚ました時は塀の中だ」
「ぐほっ」
ナイフを離し、一撃でチンピラを気絶させる。こうして場所を知った俺たちは、ハジメを引き渡し役のチンピラに変装させて、ミュウちゃんの救出へ乗り出した。
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『着いたぞ、場所は商業区の外壁近く。唯一7階建の建物だから行けば分かる』
「了解、ハジメとシアはそのままミュウちゃんの救出。ユエとティオは建物から出てきた奴らを全員捕まえてくれ」
「......ん」
「けど、良いのか?妾たちの目的は
「良いんだよ。どうせその建物にいる奴らは、奴隷目的できた裏社会の奴らだ。捕まえておいた方がこの世界のためになる」
「なるほどのう。して、ユミト殿は?」
「俺は暗躍」
笑みを浮かべながら俺が言うと、ユエとティオは意味がわからず首を傾げていた。
キリがいいので今回は少なめです。