ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか 作:クノスペ
いつも拝読、感想、評価、誤字報告ありがとうございます。
11月のどこかで毎日投稿が途切れる日があるかもしれません。
できる限り毎日投稿を続けるようにしますがご容赦のほどよろしくお願いします。
本編です
遠藤浩介
こいつと出会った...いや、初めて
当時の俺は、雫の道場を辞めた事により暇な時間が増えており、
その日も暇潰しのため、コンビニで立ち読みしようと寄っていた所...
「出してくれ...出してくれよ!!俺は帰らなくちゃいけないんだ!!俺の家に!! 」
どこかで聞いたことのある台詞と共に、1人自動ドアと格闘している遠藤を目撃した。そんなシュールな光景に、俺は思わず固まっていると。
俺の視線に気付いたのか遠藤が振り向き目が合った。
そして、遠藤はこう言った。
「お前...俺が見えるのか...?」
「あ、こいつ見えちゃいけないタイプの奴だ」
この時、思わず声に出してしまった俺は悪くないと思う。
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「お前...遠藤か?」
俺が思わず尋ねると、遠藤は勢いよく俺の方を見る。そして、歓喜に震えるように話しかけてきた。
「三星...生きてたのか!」
「お、おう...なんとかな」
まさかここまで喜ばれるとは...
そう思っていると遠藤は俺の肩に手を置き、声を震わせながら喋り続ける。
「もし死んだらって思ったら...俺は...俺はぁ!」
「お、落ち着け。そう思ってくれてたのは嬉しいけ「もう誰にも気づかれなくなってた...」そっちかよ」
異世界に来てもこいつの影の薄さは改善されなかったらしい。
そして遠藤は、顔を上げると俺の周囲を見渡し、悲しそうな表情を浮かべる。
「南雲は...そうか、もう...」
「いや勝手に殺すな。俺はここにいる」
「な、南雲の声!?三星!南雲はどこにいるんだ!?」
「いや俺の横にいるだろ」
それが指で場所を教えると、遠藤は食い入るようにハジメを見る。
そして、何故か青ざめ始めた。
「ま、まさか...幽霊?俺にだけ見えてないってことか?」
「いや、目の前にいるだろうが、影の薄さランキング生涯世界1位」
「誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ!自動ドアくらい3回に1回はちゃんと開くわ!」
「3回中2回は開かないのか...お前流石だな」
どうやら、ハジメだと認識していなかったようだ。
しかし、この会話でようやくハジメだと理解した遠藤は、困惑した様子で俺に問いかけてきた。
「三星...南雲ってこんなんだっけ?」
「あ〜...見た目はかなり変わってるが、こいつは南雲ハジメだよ」
「そうか...けど良かったよ。お前らが生きてて」
付き合いはそこまで無かったとしても、やはりクラスメイトが生きているというのは嬉しいのだろう。遠藤は頬を緩ませていた。
「ていうかお前ら冒険者になってたんだな?しかも『金』って」
「まぁ...な、そういえば、お前は1人か?」
こいつに会ったことに驚いて頭が回ってなかったが、
遠藤がここにいるってことは、他の奴らもいる可能性がある。
正直、雫に会うべきか未だ悩んでおり、踏ん切りがついていない。
こんな...『人殺し』の俺が、あいつに会う資格があるのだろうか...
しかし、こんな悩みも、遠藤の放った言葉で一瞬で吹き飛んだ。
「頼む!一緒に迷宮に潜ってくれ!早くしないと皆死んじまう!1人でも多くの戦力が必要なんだ!天之河も八重樫も死んじまうかもしれないんだ!頼む!」
「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ?死んじまうって「何処だ!」弓人...」
「雫たちは今何処にいるんだ!」
俺は遠藤の肩を掴み。鬼気迫る表情で問い詰める。遠藤は捕まれた肩が痛むのか、顔を顰めながらではあるが答える。
「【オルクス大迷宮】の...89階層だ」
「そこまでのマップはあるか!」
「こ、ここに...」
遠藤が取り出したマップを奪い取ると、俺はマップを確認しながら話す。
「ハジメ、イルワの依頼はそっちで頼む」
「弓人...まかせろ」
「......待って弓人、私も行く」
「ユエ...分かった。俺がおぶるから、ユエはこいつを見てルートを指示してくれ」
「......ん」
俺はユエにマップを渡し、ユエをおんぶして外に出ようとすると、状況をよく分かってないミュウちゃんが尋ねてきた。
「おじちゃん、どこかに行くの?」
「ミュウちゃん、おじちゃんは友達に会ってくるから。ティオお姉ちゃんとお留守番できるかな?」
「分かったの!」
「良い子だ。そんな子にはお菓子をあげよう」
「わーいなの!」
先程屋台で買ったお菓子を渡し、ティオの方を見ると。
ティオは行ってこいと言わんばかりに頷いてくれた。
「お、おい三星!1人じゃ無理だ!全員で行かないと」
「大丈夫だ遠藤」
「南雲!けど三星はステータス0だぞ!」
「教えてやるよ、弓人は俺たちの中で一番強い」
「は?」
その瞬間、突風と共に俺は迷宮へ走り出した。
「はや!?」
入口ゲートにたどり着き、俺は受付を無視して迷宮へと入る。
「きゃっ!ってあなた!受付をしないと...っていない?」
ユエのナビゲートで、迷宮を走る。
「......次、右」
「分かった。ユエ、『あれ』使うがいけるな?」
「......ん、じゃあ止まる?」
「いや、このまま行く」
俺は『並行詠唱』を成功させたことは一度もない。
だが、今は詠唱のために止まるつもりもないため、俺の『直感』を信じることにした。
「『我が宿命、月女神に請い願う。』」
「『肉体に剛力を、精神に冷徹を。』」
「『そして我が運命をここに定めよう。』」
「『其は、女神の無垢な加護。』」
「【アルテミス・アグノス】」
その瞬間、閃光が迷宮を駆け抜けた。