ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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7星:月夜の約束

 

 

「申し訳ないが、ここはアルテミス・ファミリアであっているか?」

「ん?確かにここがアルテミス・ファミリアだが、あんたは?」

「単刀直入に聞く、私をファミリアに入れてくれないか?」

「え!マジか!ちょっと待ってろ!...おーいアルテミス!遂に入団希望者だ!」

「え!?嘘!本当!?」

「マジだマジ!早く来いって!」

「ちょっと待ってよオリオン!あっ...ごほん!はじめまして、私はアルテミス・ファミリアの主神アルテミスです。そして彼が団長のオリオン」

「どうした?急に似合わない敬語なんて使って」

「ちょっと黙ってて、貴方の名前を聞かせてくれませんか?」

「あ、はい!私の名前はアタランテと申します!種族は猫人(キャット・ピープル)です!」

 

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【オルクス大迷宮】

 

 それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 逆にいえば浅い階層であれば弱い魔物ばかりであるため、新兵の訓練場所として人気がある。そして生活に必要な魔石が手に入ることもあり冒険者の多くが利用している。

 俺たちはメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。そして俺たちは王国直営の宿屋に案内されそこに宿泊することとなる。

 

「ふぅ、ようやく休めるね」

「結構歩いたからな、でもハジメ...お前本当に参加するのか?」

「弓人の言いたいことは分かる...でも今回行く20階層までならメルド団長も十分カバーできるって言ってたし」

「まぁ、お前が行くって決めたんなら俺はそれ以上は言わねぇよ」

「あっ、そういえば弓人が頼んでたもの、やっと形になったから持ってきたよ」

「おっ、マジか!早速見せてくれ!」

 

 俺はハジメにある物を頼んでいた。ハジメが渡してきた布に包まれていた物を受け取り、布を取るとそこには30センチ程の短剣があった。

 これは錬成の訓練をするときにイメージするものが具体的である方がいいと思った際、俺が作ってくれと頼んだ物だ。

 

「どうかな?今まで錬成した中で一番出来のいい物なんだけど...」

「うん...、イメージ通りだ。ありがとよハジメ」

 

 渡された短剣に満足しつつハジメに礼を言うと、ハジメは照れ臭そうに頬を掻いていた。そして魔物図鑑を見たり下らない話をしていたら。扉を3度ノックする音が響いた。深夜の訪問者に俺たちは緊張するが、声を聞いた瞬間杞憂に終わった。

 

「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっといいかな?」

 

 ハジメは一瞬驚いた後、慌てて扉に向かっていく。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

 

「……なんでやねん」

「えっ?」

 

 ある意味、衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか香織はキョトンとしている。

 

...なるほど、そういうことか

 

「ハジメ、俺ちょっと外に出るわ」

「は?...えっ!?ちょっ!?なんで!?」

「外を見るといい月が出ててな。月見をしないのは月に失礼だと思ってな。なに1時間...いや2時間したら戻ってくる。」

 

 具体的な時間を提示すると、ハジメは顔をトマトのように赤くしてしまい固まっていたので、俺は屋台で買っていた饅頭もどきの袋を手に外へ向かった。

 そして外へ出る際に、何も分かっておらずキョトンとしていた香織の肩に手を置き。

 

「ごゆっくり」

 

 と言いハジメと同じく顔を赤くしたのを確認すると、俺は外へと歩いて行った。

 

 

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 さてと、どこで時間を潰そうかな。そんなことを考えながら俺はぶらついていると開けた場所を見つけたため、ここで時間を潰そうと近づくと先客がいた。

 それは月の下で一心に剣の素振りをする雫だった。

 あいつ...俺は袋から一つ饅頭もどきを取り出すと雫に向かって近づいていく。

 

「お待たせ、待った?」

「ひゃあ!?って弓人!なんでここに!?」

「月見をするために場所探しをしてたらお前を見つけてな。ほれ、屋台で買った奴だ」

「わっ...とっ...危ないでしょ!」

 

 雫に向かい饅頭もどきを投げると何度かお手玉をしたが上手くキャッチする。そして俺たちは近くにあったベンチに腰掛け饅頭もどきを食べ、しばらくして俺は口を開いた。

 

「やっぱり眠れねぇか?」

「...やっぱり分かる?」

「真面目なお前がこんな時間まで剣を振ってるってなると予想つくからな、伊達に長年幼馴染してねぇよ」

「...怖いの...命を奪うことが...」

「だろうな」

「それに...それに慣れないまま戦争になったら...」

「...それは、慣れないままの方が良いと思うぞ」

「...えっ?」

「もし、殺すとこに慣れちまったら、その瞬間俺たちは人の形をした『ナニカ』になっちまう。そしてそのまま日常の生活には帰れないと思うんだよ。」

「じゃあ...私はどうしたら...」

 

 今にも心が折れてしまいそうな雫に対して俺は優しい声で言った。

 

「雫、お前は真面目すぎるんだよ。もうちょっと馬鹿になれ」

「...弓人?」

「別に全部を自分で抱えなきゃいけない訳じゃねぇんだからよ、そう言う時は他人に頼れば良いんだよ」

「頼る...でも誰に...?」

「そんなのここにいるだろ?あと親友の香織がいるじゃねぇか」

「でも...迷惑じゃあ...」

「そんなの迷惑だなんて欠片も感じねぇよ、香織にも聞いてみな?同じこと言うからよ。けど、そんなに不安なら、()()しようぜ」

()()?」

「どっちかが限界を迎えそうになったら。片方が支える。な?」

「弓人...ありがとう」

 

 俺に向かって感謝を伝える雫の笑顔は、空に浮かぶ月に負けないくらい綺麗で美しい物だった。

 

 


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