ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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61星:魔人族戦

 

「雫、誰に泣かされた?」

 

 雫を見ると、ボロボロの姿で瞳に涙を浮かべており、『あの日』を思い出してしまう。

 

 全く自分に腹が立つ

 

 約束しておいて...もうこんな姿にさせないと決めたのに...

 

「弓人...私...」

「雫ちゃん!」

 

 雫の下へ駆け寄った香織は、雫を抱き寄せると俺に気づいたのか目を見開いて驚愕した。

 

「弓人くん!良かった...けど、南雲くんは!?」

「悪いが話は後だ、後...ハジメも生きてるぞ」

「本当!?」

「あぁ、だからさっさと終わらせて帰るぞ」

 

 俺は状況を確認する。

 

 クラスメイトは、負傷しているものもいるが大丈夫

 天之河は、体力が無くなっているだけだから放置でいい

 メルド団長は、辛うじて生きているため。神水を使うか

 

 俺は空間庫から神水を取り出し、ユエに渡す

 

「ユエ、倒れてるあの人に神水を飲ませてやってくれ」

「......良いの?」

「あぁ、あの人には世話になった。それに...ここで死んで良い人じゃない」

「......ん」

 

 ユエは俺から降り、メルド団長の下へと駆け寄る。

 魔人族の女は、先ほどまで呆然としていたが冷静さを取り戻したのか、警戒しながら話しかけてきた。

 

「誰だいあんた?キラキラと光って見づらいったらありゃしないよ」

「モノを知らない奴だ...偉大な男とは輝いて見えるもんだ」

「光ってる理由は聞いてないんだけどねぇ」

 

 魔人族は、女1人だけ

 魔物の数は、8...いや、隠れてる奴も入れて9か

 

 旋空を取り出し、居合の構えをとる。

 

「なんだい?あんたもその子と同じ技を使うのかい?」

「弓人!気をつけ...ごほっごほっ!」

「雫ちゃん!」

「雫、まぁ見てろ」

 

 そういやロキがアイズに言ってたっけ

 『必殺技の名前を唱えると、威力が上がる』って

 

「弓人旋空」

 

 俺は躊躇うことなく、最大出力の居合を放った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 魔人族の女...カトレアは、現れた男に対して、一瞬も油断していなかった。

 

 男の光は、勇者の使っていた『技能』に類似したものだと仮定したカトレアは、アブソドに魔力を食わせ、姿を隠しているキマイラで殺す算段を立てていた。

 

 男が剣士の女と同じ構えをしたのには驚いたが、あの技は武器の間合いに入らなければ問題ないと決めつけていた。

 

「弓人旋風」

 

 男が何か呟いたと思った瞬間

 直感...いや本能が『死』を感じた。

 

 カトレアは咄嗟に身を屈めた瞬間、

『見えない何か』が頭上を通り過ぎ、従えていた魔物全てを切り裂いた。

 

 カトレアは恐る恐る後ろを見ると、迷宮の壁に大きく、そして深々と切り裂いた跡がそこにあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「外した...いや、避けたか」

 

 俺は思っていた以上に、頭に血が昇っているようだ。

 次は当てるため、再び居合の構えを取ろうとした所

 

「......ユミト」

「ユエ?」

 

 メルド団長の回復に行ったはずのユエが、いつの間にか俺の所にまで戻ってきていたため、メルド団長を探すと、クラスメイトと一緒に目を見開いていた。

 

「......上から、ハジメたちが来る」

「そうか...って上から?」

「......ん」

 

 その瞬間、天井が崩落し始め紅い雷を纏った杭が現れた。

 その光景に、俺とユエを除いた者たちは再び驚愕する事になる。

 

「イルワの用事は終わったのか?ハジメ」

「まぁな」

「南雲くん!」

 

 姿は変わっていても、香織はハジメだと直ぐに理解して歓喜の声を上げる。

 俺はハジメに、気の利いた言葉を言うように促すと

 

「白崎さん...えっと、相変わらず八重樫さんと仲良いんだね?」

「はぁ...これだから童貞は」

「どどど童貞ちゃうわ!」

「え...ハジメ、そうなんだ...」

「シア!?あの...その...すいません見栄張りました...」

 

 緊張感のない会話と、あの『死んだはず』で『無能』な南雲ハジメとは似ても似つかない見た目の男に、クラスメイトたちはさらに混乱することになる。

 

「と、とにかく!後はあの魔人族だけか?」

「あぁ、さっさと終わらせるぞ」

「待ってくれ、あいつには聞くことがある」

「...了解」

 

 俺たちが惨劇を繰り広げているうちに、逃げようとしていた魔人族の女を捕捉すると。逃げられないと判断した女は覚悟を決めたのか魔法の詠唱を始める。

 

「あれは...君たち逃げろ!石化魔法だ!」

 

 どうやら俺たちが『三星弓人』と『南雲ハジメ』だと認識していない天之河から、女が詠唱している魔法の正体を聞く。

 

 石化...『石化耐性』のあるハジメは問題ないとして、耐性のない俺には確かにキツい...けど

 

「わざわざ詠唱を待つほど暇じゃないんでね」

「『残るは終焉』...早い!」

 

 肉薄した俺に対して、女は別の魔法で迎撃しようとしてくるが

 俺は女の突き出した腕を加速させた居合で斬り飛ばした。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

「こんなもんで良いか?」

「あぁ、十分だ」

 

 絶叫をあげる女に、俺とハジメはそれぞれ武器を突きつける。

 女はハジメの銃を見たことはないが、どうせロクな物じゃないと察したのか抵抗する意志を捨てた。

 

「殺しな...あんたらに話すことは何一つない!」

「そうか、まぁ俺も女を拷問する趣味もない」

「いつか、私の恋人があんたらを殺すよ」

「気にするな、すぐに会える」

 

 女の瞳には、ここで死んでもいいという強い決意があった。

 彼女は、たとえどのような拷問をしたとしても情報を吐くことはないだろう。

 ハジメもそれに気づいたのか、女に質問することなく引き金に当てた指に力を込める。

 

「ま、待て!そんなことをしちゃいけない!」

 

 俺たちのやろうとしていることに気づいた天之河は、聖剣を杖にしながらどうにか立ち上がり叫ぶ。

 

「ほ、捕虜だ!捕虜にすれば良い!」

「とのことだがどうする?俺としてはあまりお勧めしないが」

「ほんと...人間側は難儀なもんを抱えてて同情するよ」

 

 女は、天之河に呆れた視線を向けそう呟いた。

 やはり、いや当然と言うべきか答えは変わりそうにない。

 

 女の額に1発の銃弾が叩き込まれ、その直後首が切り落とされた。


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