ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

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62星:再会

 

「南雲くん...なんだよね?」

 

 白崎は、ハジメに恐る恐る...しかしどこか確信したように尋ねる。

 それに対してハジメは、昔のように困った笑顔を向け答えた。

 

「えっと...久しぶり...で良いのかな?」

「ぐす...生きてて良かった...ひっく...ごめんね...あの時守れなくて...」

「し、白崎さん!?えっと...その...」

 

 泣き出してしまった白崎を見て、しどろもどろになりながら周囲に助けを求めるように見渡すハジメ

 ドラマなどでは抱き締めたりするのだろうが、ハジメには『彼女』がいる。

 

 因みに、そんな『彼女』はというと...

 

「.....シア?」

「私は周囲の警戒のため偶然ハジメの方を向いてません。なのでハジメが何をしていても気付きませーん」

「...ありがとな」

 

 彼女の気遣いにハジメは思わず笑ってしまう。

 そして感謝しながら、親友がよくやっているように泣いている白崎の頭を撫でた。

 

「心配してくれてありがとう、けどこうして生きてる訳だし...な?」

「南雲くん...」

 

 感極まった白崎が、ハジメに抱きつこうとした瞬間

 

 乾いた音が、周囲に響いた。

 

 全員が音の鳴った場所を見ると、瞳に涙を浮かべた八重樫が、弓人の頬を叩いていた。

 

「なんで飛び降りたの」

「ハジメを助けるためだ」

 

 弓人の頬を叩く

 

「死んだんじゃないかと思った...」

「けど、こうして生きてる」

 

 再び頬を叩く

 

「約束...忘れられたと思った...」

「...ごめん」

 

 頬を叩...かず、弓人に抱きついた。

 

「怖かった...あなたに会えないと思ったら...怖くて仕方なかった」

 

 弓人は右手で八重樫の頭を撫でようとしてやめる。

 代わりに、左手で彼女の頭を抱き寄せた。

 

 感動の再会、誰が見てもそう思える場面

 そこに、どこまでも無粋な声が掛かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「2人とも離れるんだ...こいつらは南雲と三星じゃない...」

 

 天之河は、聖剣を杖にしながらこちらへ近づいてきた。

 

「何言ってんだよ、南雲はともかく三星は見た目変わってないだろ」

「......遠藤か」

「今まで気づいてなかったのかよ...俺そろそろ泣くぞ」

 

 遠藤の影の薄さは、異世界で改善されるどころか拍車がかかったようだ。

 

「けど、あの奈落の深さで助かるはずがない」

「けど俺、ステータスカードを見たぞ?」

「それに...」

 

 天之河は、何処か確信しているような表情を俺たちにむける。

 

「南雲と三星は...不真面目な奴だけど人を殺すような奴じゃない」

 

 驚いた...まさかそんな評価をされていたとは

 しかし、相変わらず思い込みが強いようだ。

 

「お前がどう思ってるが知らんか、偽物とかじゃねぇよ」

「本当に三星...なのか?」

「あぁ、それにハジメもな」

 

 天之河は一瞬顔を顰めると、すぐに表情を戻し口を開く。

 

「なら、自首するんだ。そして罪を償うべきだ」

「自首ねぇ...どこに?」

「どこに?警察...はいないから教会に」

「教会ねぇ...」

 

 呆れてものも言えない、どうやら天之河は忘れているようだ。

 

「俺たちは魔人族と戦争しろって言われたんだぞ...教会の奴らに」

「それは...」

「...もういい、さっさと帰るぞ」

「お、おい!」

 

 話を無理矢理切り上げ、迷宮から出る準備をする。

 天之河は納得していないのか、俺の肩を掴もうとするが

 

「やめろ、光輝」

「メルドさん!」

 

 神水によって回復したメルド団長が、天之河を抑止する。

 

「ユミト、ハジメ、生きていたんだな。それに...随分と強くなったな」

「メルドさん...お久しぶりです」

「まぁ...あれっすよ、男子三日会わざれば刮目して見よってね」

「三日どころじゃないだろう...すまなかった。あの時、お前たちを見殺しにしてしまって」

「過ぎたことです」

「それに、俺たちは生きてます」

 

 俺たちが気にしていないことを見て、罪悪感に駆られていたメルド団長は多少救われたようだ。

 そして、メルド団長は天之河の方に顔を合わせる。

 

「光輝、お前たちには謝らないといけないことがある」

「あ、謝る?」

「そうだ、真っ先に教えるべきだった...『人を殺す覚悟』を」

「え...?」

 

 天之河は、メルド団長の言っていることが理解できないのか困惑した表情をする。メルド団長は、後悔したように俯き話し続ける。

 

「本当は...偶然を装い、賊をけしかけて人殺しの経験をさせるつもりだった...だが、まだ子供のお前たちに経験させたくないと...迷ってしまった。すまない、俺のせいでお前たちを死なせる所だった」

 

 メルド団長の気持ちは痛いほど分かる

 俺も、ハジメに人殺しをして欲しくなかった

 その手を、汚して欲しくなかった。

 

「そ、そんな...」

 

 尊敬するメルド団長が、自分達に人殺しをさせようと考えていたことを知った天之河は、絶望したような表情を浮かべ、流れで戦争に参加することを選んだクラスメイトたちにも、ショックが大きかったようだ。

 

 だが、これは戦争だ。

 

 誰よりも相手を殺した者が讃えられ、誰も殺さなかった者は臆病者だと罵られる世界だ。

 

 こうして、勇者一行の救出に成功した。

 

 

「......」

「ユエさん、大丈夫ですか?」

「っ!......な、なんでもない!」

 

 1人の少女の胸に、小さな痛みが生まれながら

 

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三星弓人 Lv.6

     

  力: G : 247

 耐久: H : 198

 器用: G : 215

 俊敏: G : 231

 魔力: H : 174

 頑健: E

対魔力: F

千里眼: E

 直感: G

 

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弓人のステイタスが前回よりかなり上がっている理由は、定期的にハジメたち3人と模擬戦を行なっているから、と言うことでお願いします。

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