ありふれない月の眷属がいるのは間違っているだろうか   作:クノスペ

95 / 119

前回のあらすじ「ねぇ光輝、勇者やめなよ」




64星:決闘

 

「光輝...戦争に参加するのやめろ」

 

 弓人は、天之河にそう伝えた。

 天之河はその表情を見て、思わず聖剣を下ろしてしまう。

 

 そして、決闘を見ていたクラスメイトたちも彼の発言したある部分が気になった。

 

「三星って...天之河のこと名前で呼んでたっけ?」

「いや、いつも『天之河』って呼んでた気がする...」

「弓人...あいつ」

 

 坂上は何かを知っているのか、どこか後悔したような表情で俺の名前を呟き、香織と雫も、俺のことを悲しそうな表情で見ていた。

 

「そ、そんなことできるわけないだろ!」

「今のお前じゃあ戦争に行っても死ぬだけだ」

「もしかして、今回のことでそう言ってるのか?大丈夫だ!戦争までに強くなれば「そういうことじゃねぇんだよ!」

 

 天之河の言葉を遮り、感情が爆発したかのように叫ぶ弓人を見て。

 この場にいる全員が驚いた。

 

「光輝...いや、この場にいる戦争に参加するって言った奴全員に言ってやる」

「三星...急に何を」

「お前らは...あの『地獄』を見たことないから、参加するなんてことが言えるんだよ」

 

 弓人の脳裏には、あの時の『地獄』が思い出されていた。

 

 燃え盛る(オラリオ)

 止むことの無い人々の悲鳴

 鼻が曲がりそうになる程、周囲に漂う血と人肉の焼けた匂い

 そして、目の前で失う救えたかもしれない命

 

 この世の地獄が、そこにあった。

 

「あんな所で...正気を保つことなんてできない」

「君はいったい...」

「人を殺す覚悟もできてない奴が行ってもただ死ぬだけだ...だから...止めろ」

 

 懇願するようにそう言う弓人を見て、この場にいる者は息を飲んだ。

 しかし、天之河は聖剣を構え弓人の最も望んでいない答えを言った。

 

「君に何があったかは知らない、けどもう大丈夫だ!」

「大丈夫...だと?」

「ああ!俺は必ず、みんなを守ってみせる!」

「そうか、そこまで馬鹿だとは思わなかったよ!()()()!」

 

 弓人は一気に肉薄し、天之河へ殴りかかる。

 天之河は剣の腹で防御するが、受けきれず仰け反ってしまう。

 

「全員を守る?人を殺せないお前が?」

「殺さなくても...捕らえて捕虜にすれば」

「そんな甘い考えが戦場で通用するわけねぇだろ!」

 

 弓人の絶え間ない攻撃に、天之河は防御するだけで精一杯であった。

 

「あの場所にあるのは!殺すか殺されるかのどっちかだけだ!」

「そ、そんなはずない!話し合えばきっと...」

「そんなことで済まないから戦争になったんだろうが!」

 

 そしてついに、天之河は持っていた聖剣を手放してしまい後方へ飛ばされてしまう。

 

「いい加減子供じみた夢を見てんじゃねぇ!現実を見ろ!」

「く、くそおおおおおお!」

 

 武器を失った天之河は、かなぐり捨てる様に殴りかかってきた。

 弓人はそれを難なく避け、苛立ちを隠すことなく叫び殴り返した。

 

「この...馬鹿野郎!」

 

 防御出来ずまともに受けた天之河は、後方に吹き飛び意識を失う。

 そこには、勝ったのにも関わらず悔しそうに佇む弓人が立っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 決闘には当然勝った。

 けど、俺の脳裏には『あいつ』に言われた事が反響していた。

 

 - 殺す必要はなかったはずだ!

 - こんな血に塗れたものが『正義』なはずがない!

 - 貴方は闇派閥(イヴィルス)と同じ、唯の『人殺し』だ!

 

 けど...みんなを守れるなら、俺は『人殺し』で構わない。

 

「俺の勝ちだ、約束通り香織の意志を尊重しろ」

 

 意識を失い聞こえてない天之河に俺は構わず言い放つ。

 こいつの事だ、どうせ起きてたら有る事無い事行って決闘のやり直しを要求するだろう。

 

「他に文句のあるやつはいるか?」

 

 クラスメイトに尋ねると、檜山が何か言いたそうにしていたが、結局誰も言う者は居なかった。

 

 それを確認すると、俺はハジメたちの方へ戻る。

 

「檜山の事は良いのか?」

「どうでも良い、どうせ何もしてこないだろ?」

「そうか」

 

 そして周りを見渡すと、ユエがいない事に気づいた。

 

「ハジメ、ユエは?」

「ユエ? そういえば...」

 

 ユエの強さはよく知っているため、ミュウちゃんみたいに誘拐されたという訳では無いだろう。

 俺は気にせず、ユエが戻ってくるまで出発の準備をしようとした瞬間

 あの時、ユエの言った言葉を思い出した。

 

 ー 私、ユミトのこと好き

 - そうじゃない...えっと、大好き

 

「ハジメ...出発の準備をして待っててくれないか?」

「早く行ってこい、女たらし」

 

 そして俺は、体の痛みを無視してユエを探しに走り出した。

 その背中を、雫は呆れた様に笑い見ていた。

 

「そっか...あの子もなんだ」

 





少し短いですがキリが良いのでここで止めます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。