「……それで?五人と付き合うことになったと?」
朝食の後、零奈が僕の部屋にきて現状の確認をしている。どうやら朝食での雰囲気に疑問が出たようだ。
どんだけ勘が鋭いんだ。
ちなみに言えば、僕は目下正座中である。まあ、当然か。
「彼女達があまりに真剣に話してくるから、それに応えないとって思って…」
「はぁぁ…兄さん。貴方は今の状況を分かっているのですか?」
「とんでもない状況だと理解はしている…」
「理解をしてなお、この関係を続けていくと?」
「彼女達が望むのであれば…!」
「そうですか…」
一呼吸置くためか、零奈はお茶を飲んで外の景色を眺めている。
「兄さんが本気だということは分かりました……正直なところ、私は今複雑な心境ではあるのです。あの子達と正面から向き合ってくれたことへの感謝と、やはり誰か一人を選んで欲しかったという思いとがごちゃごちゃになっています」
零奈は、僕と目を合わすことなくどこか遠い目をしているように感じる。
「ごめん。気苦労を掛けてしまってるよね」
「別に良いですよ。それで?この関係はさすがに誰にも言えないと思いますが、その辺りはどう思っているのですか?」
「確かに、これは大っぴらには出来ないとは思ってる。それでも風太郎にだけは伝えようと思ってるよ。たとえ縁を切られようとも」
「そうですか…まあ、相当驚かれるとは思いますが、縁を切られるとまではいかないでしょう」
「だと良いけどね」
零奈の雰囲気が変わったので、勝手に足を崩して自分のお茶を淹れる。零奈も特に何か言ってこないので問題ないようだ。
胡座をかいた状態でお茶を飲んでいるのだが、そんな僕の足の上にちょこんと零奈が座った。
「零奈?」
「………私だって…」
「え?」
「私だって、兄さんの事好きなんですからね」
振り返りながら上目遣いでそう伝えてくる零奈。
分かってるよ、という気持ちを込めてそっと抱きしめてあげた。
「はぁーーーーー!?」
ちょうど昼休憩に入っていた風太郎を捕まえて今回の五人と付き合う事になったことを報告したら、思った通りの反応が返ってきた。
まあ、そうだよね。
「すまん...俺の聞き間違いかもしれないが、五人と付き合うことになった、だと?」
「聞き間違いじゃないよ。一花に二乃に三玖、五月と桜。この五人と付き合う事になったんだよ」
「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
片手で頭を抱えながら風太郎が言ってくる。
過去、ここまで風太郎を呆れさせた事ないだろうなぁ。
「あ、らいはちゃんにはさすがに内緒でお願い」
「当たり前だ!」
お茶を飲みながらほのぼのと伝えると割と大きな声でツッコミを入れられた。
「仕方ないでしょ。あの娘達は本気の目でお願いしてくるんだもん。無碍には出来ないよ」
「……そうだな。あいつらもあいつらなりに考えた結果なのだろう。しかし、そうなってくると飯時に隣の席がどうのでまた揉めるんじゃないのか?」
「うーん…それが彼女達の中でルール的なのを決めてるっぽくてさ。割と揉めずにご飯食べれたよ」
「ほぉー。その辺はちゃんと弁えているんだな。まあ、なんにせよ。俺に迷惑がかからないのであれば後は和義の思うままにすればいい」
ようやく落ち着いたのか、そこで風太郎が自身のお茶を飲みだした。
「相談くらいは乗ってくれよ相棒?」
「はぁぁ…話を聞くだけなら聞いてやるよ親友」
僕の頼みに対して、そう返事をしてくれる風太郎であった。
次の日の早朝。
朝から撮影の仕事があるため一花が港に行くのに付いていっていた。
「別に港まで付いてこなくてもいいのに」
「良いんだよ、僕が好きでやってることだしさ。お祖父さんには許可取ってるよ」
「そっか…」
朝早い事もあり、道中人がほとんどいないため、今は一花から手を握ってきたのでそのまま手を握ったまま歩いている。
夏とはいえ早朝はどこか涼しく感じる。そんな中を二人手を繋いで歩いていれば、何か感じてくるところもあるものだ。
「そういえば、今の関係の発案者の一花にしては積極性が少ないよね。他の四人は前と変わらずな積極性を見せてるけど」
「もしかしてそれが気になって付いてきてくれたの?」
「否定はしないけど、一緒にいたいと思ったのはホント」
「えへへ…そっかそっか…」
僕の言葉が嬉しかったのか、繋いだ手の方の腕を絡ませる様にさらに寄り添ってきた。
「別に四人に譲ったわけじゃないよ。私だってこうやってカズヨシ君に寄り添いたいし…ふふっ、実は積極性を見せなかったら、カズヨシ君がこうやって様子を見てくれると思ってたりして」
「え?」
もしそうだとしたら、かなりやり手である。
「冗談だよ」
ニコニコな顔で上機嫌なのは伺える。
「ねえ?まだ出港まで余裕あるし、海岸に行ってみない?」
「僕は構わないよ」
「やったー!」
早めに出たこともあり、船の出港まではまだまだ余裕がある。一花の提案で海岸に寄ることにした。
「うーーん…夏だけど海岸の朝は涼しいねぇ~」
伸びをしながら海の向こうを見ている一花。潮風も気持ちいいし周りには誰もいない。解放感があって良いのかもしれない。
「カズヨシ君は残りの夏休み、結構仕事入れてるの?」
「うーん…週に四日あるかないかだよ。予定ではもう少しあったんだけど、お祖父さんが気にかけてくれてね。君たちが来てから少なくなってる」
「じゃあさ、お互いの休みが被ったらバーベキューとかしようよ!」
「良いねぇ。夜は花火とかでも良いんじゃない?」
「それいい!スケジュールしっかりと組んどかないとだね…………さて、そろそろ行こっかなぁ」
そう言いながら周りをキョロキョロ見ている一花。
「どうしたの?」
「ん…」
そんな一花に声をかけると、目を瞑って唇をこちらに差し出した状態でこちらに顔を向けた。
「えっと…」
「ほら早く。周りに誰もいない隙に」
僕からキスしろってことですか。まったく、積極性がないというのは訂正した方が良いようだ。
「ん……ちゅ……」
そんな風に考えながら軽く一花の唇にキスしてあげる。
顔を離すと、一花が自分の頭を僕の胸にコテンとぶつけて下を向いてしまった。
「と…どうしたの?」
「ヤバい……するのとされるのでキスってこんなに違うんだぁ。嬉しい気持ちを抑えられないよ。泣いちゃった五月ちゃんの気持ち、分かるかも…」
そんな一花の頭をポンポンと撫でてあげる。
「うん!活力みなぎってきたよ。お仕事頑張ってくるね!」
復活した一花はそんな言葉を残して船に乗って行った。
見送った帰り道。一花から『好きだよ』とメッセージがきたので、『僕もだよ』と返すのだった。
「一花との逢い引きは楽しかった?」
旅館に戻ると、そんな言葉と共に二乃が待っていた。
「逢い引きって…ただ港まで送っていっただけだよ」
「……まあいいわ。朝早く起きたことを免じてよしとしてあげる」
「ははは……」
そう言いながら僕に駆け寄った二乃は、僕の腕に自分の腕を組んできた。
「ね?今日の朝食もカズ君が作るんでしょ?手伝ってもいい?」
「皆の分であれば問題ないと思うよ。一応お祖父さんに聞いてね?」
「はーい……あーあ、お仕事ばかりだとあまり一緒にいられないわよねぇ」
「そこは仕方ないでしょ。本来僕は仕事のためにここにいるわけだし」
「それはそうなんだけどぉ…」
唇を尖らせている二乃。納得している自分としていない自分とでせめぎ合っているのだろう。可愛い娘だ。
空いている方の手で二乃の頭をポンポンと撫でてあげる。そして…
チュッ
前髪を上げておでこにキスをした。
「今はこれで我慢してね」
「…………っ。ズルいわよカズ君は…」
キスをした場所を二乃は自身の手で撫でながら顔を赤くしている。
「ふふっ…あ、そうだ。さっき一花と話したんだけど。僕と一花の休みが被る日でバーベキューとかどうかな?」
「へえー、いいじゃないっ」
「道具とかあれば、この間行った海岸でするのが良いかなって考えてるんだけど」
「ならおじいちゃんに聞いとくわ。後は、桜のお祖母さんに聞くのもいいかもしれないわね」
「良いかもしれないね」
「よし!そうと決まれば行動あるのみね。朝食食べ終わったら早速聞いて回ってみるわ」
「ありがとね」
「ふふーん。私の水着姿でまた悩殺してあげるんだから」
「またって...」
前も悩殺された覚えはないんだが。バーベキューを楽しみにしている。それだけでも良しとしよう。
お祖父さんの旅館では基本的に宿泊客にお昼の提供をしていないし、ましてや食堂などで解放もしていない。
なので、お昼時になると連泊のお客さんがいない限り宿の中は静かなものだ。
だが今は違う。中野家の五つ子と上杉兄妹、それに桜と楓さんがいるのでお昼時も賑やかなものだ。
「さて、今日のお昼を三玖も一緒に作ってみようか」
「うん。よろしく」
「じゃあ、さっそくこの前は出来なかった魚を捌いてみようか。今日は鯖を用意しているから、教えながらやっていくね」
「わかった」
「まずは包丁を持って……そう、魚を捌く時には包丁を持っていない方の手を切らないように注意してね」
「こう?」
「そうそう。上手上手」
最近は料理に関して呑み込みが早くなってきているようだ。三玖はすぐにコツを掴んだのかスムーズに包丁を動かすことが出来るようになっている。
「上手いもんだね。うん、やっぱり料理の腕は成長してるよ」
「本当?」
「ああ」
僕の言葉に嬉しそうな顔を浮かべている三玖。こうしてみると、好きになった弱みか料理をしている三玖の姿がいつも以上に可愛く見えてしまうなぁ……。
そんなことを考えていたらいつの間にか三玖がじっと僕のことを見つめてくる。
「どうしたの?何かわからないところでもあった?」
「ううん。ただ……」
そこで言葉を切ると彼女は少しだけ顔を近づけてきた。ふわりといい匂いが鼻腔を刺激したと思った瞬間にはもう彼女の唇が自分のそれと重なっていた。
「ん......」
突然の出来事に驚いていると、ちゅっと音を立ててすぐに離れて行った。
「……ごちそうさま」
「えーっと、今のは一体どういうことなのかな?」
「カズヨシが私のこと褒めてくれたからついキスをしたくなった」
「なるほど……ってちょっと待って!それはおかしいでしょ!」
思わず納得してしまったけど今の発言は明らかにおかしいよ!?
「だって仕方ないよ。私はカズヨシのことが好き。だから好きな人に褒められたりすると凄く嬉しい。それが例え些細なことでもね」
「そっか……でもいきなりされるとびっくりするから次からは一言声をかけてくれると助かるかな」
「わかった。これからは気を付ける」
素直に返事をする三玖だけど果たして本当にわかってくれたんだろうか疑問である。
「まあいいか。それじゃあ、お昼の準備を再開しようか」
「うん」
その後は危なげなく調理を進めていくことが出来た。慣れないことをしたので疲れると思っていたけれど、三玖の手際が良くて思ったよりも楽だったのだ。
「じゃあ魚を捌き終わったから煮つけを作っていこうか」
「任せて」
自信満々の三玖を見て僕は笑みを浮かべると必要な調味料を準備していく。醤油・酒・砂糖・生姜だ。それらを計量スプーンを使って適量ずつ入れていき、それを鍋に入れて沸騰するまで待つだけだ。
その間に副菜としてほうれん草のおひたしを作ることにした。茹でて塩を振りかけて完成という簡単レシピなので失敗はまずしないと思いチョイスしてみた。
それからしばらくして鍋の中の水が沸いたのを確認するとお湯の中にほうれん草を入れていく。そしてそのまま数分待ち、火を止めてザルの上にあげておく。これで下準備は完了だ。後は食べる直前に盛り付ければ問題ないだろう。
「ねえ、カズヨシ」
「何?」
「一つお願いがあるんだけどいい?」
「......内容によるかな?」
「大丈夫だよ。簡単なことだから」
そう言うと三玖は自分の両腕を前に差し出してきた。これはつまりそういうことなんだろう。
「わかったよ。ほら、おいで」
両手を広げるとそこにぽすんと三玖が飛び込んできた。ぎゅっと抱きしめると彼女も背中に腕を回して抱き着いてくる。
「やっぱり落ち着くね」
「そうだね。ところで話は変わるけどさっきは何で急にキスなんてしてきたの?」
「あれは……その……恋人同士なんだし、したいって思っちゃったから...」
「そっか...」
「ダメ、だった?」
「まさか。嫌なら最初から断っているよ」
「よかった...」
ほっとした表情を浮かべる三玖。
「あのさ、三玖」
「うん?」
「好きだよ」
「私も好き」
お互いに告白をし合うとどちらからともなく唇を重ねた。最初は触れるだけの軽いものだったけれど、次第に三玖から舌を絡めあう濃厚なものへと変わっていった。
しばらくお互いを求め合った後ようやく離れた時には二人とも息が上がってしまっていた。
「んっ……ちゅっ......はぁぁ。ごめん、我慢できなくて......やり過ぎちゃったかな?」
「ううん。ちょっと驚いたけど全然平気だよ」
「そっか...」
僕が答えると、頬を赤く染めなが下を向くものだからこっちまで恥ずかしくなってくる。
「おっと、そろそろご飯が炊ける頃合いだね?」
「本当だ。もうこんな時間になってたんだ」
どうやら二人でかなり没頭していたようだ。
「よし!それじゃあ最後の仕上げに入ろうか」
「うん!」
その後、二人で協力して料理を完成させたのだった。
ハーレムはやはり色々と難しいですね、投稿に時間がかかってしまいました...
今回のお話では、一花・二乃・三玖をそれぞれ書いたので、次回以降で五月と桜を書ければと思います。
ちょっと三玖は積極的過ぎましたかね...
次回の投稿にまたお時間をいただくことになると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。