ある日の朝食後。皆に一つの提案をした。
「今日は全員が仕事もなく自由な時間があることから、海岸で皆でバーキューしようと思うんだけどどうかな?」
「バーベキュー!?やりたい!」
僕の提案にいち早くらいはちゃんが反応してくれた。
「らいはちゃんが賛成するなら反対する理由がないですね!」
らいはちゃんに続いて四葉も賛同してくれる。
「バーベキューと一緒に海水浴もいいんじゃないかしら」
「そうだね。この間行った海岸だったら人そんなに来ないだろうし。今年最後の海水浴だね」
二乃の提案に一花が続く。
「まだまだ暑いからいいかも」
「そうですね。また皆さんと行きたいと思ってました」
「もう決まりみたいなものですね。早速準備に取りかかりましょう」
「バーベキューの道具とかはおじいちゃんに確認して使えるように準備は進めてたわ」
「手際がいい…」
「ふふーん。カズ君と前から話してたからね。そこは抜かりないわ」
うん。皆の反応は上々だ。一人を除いては。
「風太郎?我関せずみたいな態度だけどもちろん風太郎も参加だからね?」
「うぐっ…しかしだな、受験も近づいているし勉強をだな…」
「確かに勉強は大事だね。だけどリフレッシュも大事だよ。ここに来て勉強と仕事ばかりで突き詰めてたでしょ」
「うーむ……」
「もう!お兄ちゃんも行こうよバーベキュー!和義さんが言ってる通りリフレッシュも必要だよ」
「上杉さん…」
らいはちゃんが一緒に行くように風太郎に促している中、四葉が寂しそうな顔で声をかけている。
「くぅー……わ、分かった。俺も参加しよう…」
「「やったー!」」
風太郎の返事に四葉とらいはちゃんが手を叩いて喜んでいる。最初からそう言えば良いものを。
こうして全員の同意を得ることができた。
バーベキューの道具は二乃が既に用意してくれていたので後はこれを運ぶだけだ。量も量なので皆で分けて運ぶことになった。一番の大荷物は僕でその次に四葉。そして風太郎の順に荷物が減っている。本来なら風太郎と四葉は逆でないといけないと思うんだが…
そして砂浜に着いた僕達は準備を始めていく。バーベキューはお昼頃から始めるからまずはレジャーシートやパラソルなど海水浴で使う道具から設置していく。
「ぜぇ…ぜぇ…」
「風太郎大丈夫?」
「も……問題ない」
そう言いながらも風太郎は敷いたばかりのレジャーシートに仰向けに大の字で倒れこんでいる。バーベキューセットなどは僕と四葉で分担して運んだので、残りのパラソルとレジャーシートを風太郎に任せたのだがそれでも大変だったらしい。
それから程なくして準備を終えると各々自由に遊び始めたり、パラソルの下で休んでいたりする。今回は日焼け止めは各自でやってもらうことにした。また順番待ちで待たれるのも疲れるからね。まあ、零奈の日焼け止めは僕が塗ってあげたんだけど。流石に零奈に塗るのは慣れてるのと体が小さいこともありすぐに終わらせた。
そうして海で遊んでいる人達を見ながら僕と一花は並んで腰掛けて、持参したお茶を飲んで休憩をしている。すると隣に座っていた一花が僕の肩にコテンっと頭を預けてくる。
「どうしたの一花?」
「うーん?なんでもないよ~ただカズヨシ君の傍にいたいなぁと思っただけ」
「そっか。まあ、ほどほどにね」
「ふふん♪分かってるよ」
そうして暫くの間二人だけの時間を楽しんでいると……
「あれ?上杉さんはどこに行ったんですか?」
「さっきまでそこに居た筈なんだけど」
四葉の声に反応して辺りを見回すと少し離れたところで風太郎が一人で佇んでいる姿が見えた。僕は立ち上がるとそちらの方に向かって歩いていく。後ろでは一花も着いてきていた。
「ほら。これ飲みな」
「おっと……すまんな」
飲み物を渡しながら横に並ぶとそのまま二人で話をする体勢になる。
「それでどうしたの?何か悩み事?」
「いや、別にそんなんじゃない。只なんとなく一人になりたかっただけだ」
「そうかい。でもあまり心配させないでくれよ。折角皆で来たんだからね」
「ああ……悪かったな」
風太郎は普段から勉強ばかりしていて息抜きなんてほとんどしないだろうからこういう時くらいは羽を伸ばしてほしい。
「それにしてもお前ら本当に仲が良いな」
「そりゃね。付き合ってるわけだしね」
そう言いながら僕の肩に寄り添ってくる一花。
「例の六人で付き合うってあれか」
「うん。そうだよ。僕も最初は戸惑ったけど今じゃこの五人と付き合えて良かったと思ってる」
「……後悔はしてないのか?」
風太郎の言葉を聞いて思わず目線を逸らす。
「……あると言えばあったかもしれないね。やっぱり一人の女の子を大切にしなきゃいけないんじゃないかって思ったりもしたさ」
「カズヨシ君…」
「でも、やっぱり皆可愛いし魅力的な女の子達だからね。皆、優しくしてくれるし、大切にしてくれるし、好きって気持ちもくれた。だから今ではとても幸せだって思えてる」
「そうなのか……」
「うん。もう迷わない。この先どんなことがあろうとも前に進むつもりだよ。例えそれがどれだけ辛いことであってもね」
「そうか……強いな」
「風太郎に比べたらそうでもないさ」
「俺は強くなんかねぇ……弱い人間だ。昔から何も変わってないしこれからも変われそうにもない」
「それは違うよ」
「えっ……」
「君は変わったよ。少なくとも昔よりはずっと前向きになったと思う」
「そうだろうか……」
「きっとそうなんだよ。自分が気づいてなくても少しずつ変わっているものなんだから」
「……」
そう言うと黙り込んでしまう風太郎。
「なあ、一花。一つ聞いてもいいか?」
「ん?いいよ。何が聞きたいの?」
「お前は今幸せか?」
その質問に一瞬言葉が詰まる。しかし一花は答えてくれた。
「もちろん!すごく幸せだよ。大好きな人達と一緒にいれて、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に怒って、一緒に悲しんで、一緒に喜んで、一緒に生きていける。こんな幸せなことはないよ」
「そうか。それならいいんだ」
そう言って風太郎は立ち去っていく。
「風太郎!ありがとね!」
去りゆく背中に声をかけると風太郎は何も言わずに手を上げることで応えてくれる。
「やっぱり心配させちゃってたかな」
「みたいだね」
「ふふ。不謹慎かもだけど嬉しいな」
「どうして?」
「あんなに僕のことを想ってくれてるんだなって改めて実感できたから」
「……そうだね。私が妬けちゃうくらいにね」
「ははは……」
風太郎は優しい。誰よりも。その優しさを表現するのが下手くそなだけ。
彼の背中を眺めながらそう思うのだった。
「そういえば母さんから聞いたけど、夏休みが開けたら休学するんだってね」
「うん。まあね」
一花と二人、レジャーシートの所に戻る途中話を切り出した。
屋根の上で話してた時は学校を辞めるかもしれないとまで言っていたから気にはなっていたのだ。
「こういう関係になったんだもん。なんとか少しでもカズヨシ君と一緒にいたいし、やっぱり皆と卒業もしたい。だから、綾さんに相談してみたんだ。もちろんこの関係については話してないよ」
「まあ母さんならいつか気づくかもだけどね」
「あはは…否定できないなぁ」
「でも、無理だけはしないでよ?」
「だーいじょうぶ。心配かけないように頑張るから。お仕事も勉強もね」
「勉強も?」
「うん。ある程度の学力がないと卒業できないんだって。だから、これからもよろしくね先生!」
「分かったよ」
そんな話をしているうちにレジャーシートの所まで戻っていた。
「あっ、やっと戻ってきたわね」
レジャーシートでは二乃と三玖が水分補給をしていた。
「むー…一花ばっかりカズヨシといてずるい」
「ごめんごめん」
「まあ別にいいわよ。カズ君の相手するように言ったわけなんだしね」
「そうだったんだ」
「ええ。一花は日焼けのことがあるからそんなに遊ばないだろうし。カズ君は水着がないしだしね」
「なるほどね」
確かに一花は前に来たときもあまり泳いでなかったもんな。
「ところで、風太郎戻ってこなかった?」
「フータローならあそこ」
そう言われて指差された方を見ると四葉とらいはちゃんと一緒にいる風太郎の姿があった。
「四葉達と一緒にいるね」
「そうみたいだね」
一花も僕と同じ方向を見て呟いている。
すると四葉が大きな声を上げている。
「上杉さ~ん!ビーチバレーやりましょうよ!!」
「おい待て引っ張るな」
「ほら早く行きますよ」
「わかったから離せって」
「はい、じゃあ始めましょうか」
「はあ……仕方ねぇな」
そうして風太郎は四葉の勢いに流されながら渋々了承していた。
そして暫くの間風太郎が四葉とらいはちゃんに振り回されているのを見届けると、僕はバーベキューの準備に取りかかった。
「さて、やるか」
まずは炭に火をつけなければならないので、着火の用意をする。持ってきたライターで炭に火をつける。
「さて、こんなもんかな」
そうこうしている間に炭に火が通り準備が進んでいく。材料などの用意は二乃と三玖とで手分けしている。
そんな中皆も集まってきた。
「さあみなさん、待ちに待ったバーベキューの時間ですよ!」
やたらとテンション高く五月がそう宣言する。お腹空いてたのかな?
「みんなっつーか五月お待ちかねの時間だろ」
「わ、私だけではありませんよね?みんな楽しみにしていましたよね?」
「もちろんだよ!こんな風に浜辺でバーベキューなんて最高だよ!」
「たまにはこうやって外で食べるのも良いものです」
五月の問いにらいはちゃんと零奈が答える。
「おー、直江さん準備万端じゃないですか!では、じゃんじゃん焼いてじゃんじゃん食べましょーう!」
「四葉、トングをカチカチしない」
トングを持ってカチカチしていた四葉を三玖が注意する。あれって必ず誰かやるよね。
「食材の準備もできてるわよ」
「うおおおっ!?結構豪華じゃないか!?」
「おじいちゃんが色々と用意してくれたのよ。お肉に野菜、後海鮮も豊富よ」
二乃が準備した食材を差し出すと風太郎は驚きの声をあげた。
「本当です!すごい美味しそうですね!」
「はい!どれも新鮮です!」
目をキラキラさせている五月に桜が答える。
「ちょっと張り切りすぎちゃったかしらね」
「いいのではないですか?こういう時くらい思いっきり楽しまないと損ですよ」
「そうだね。今日くらいは羽目外さないとね」
「じゃあ早速焼き始めよっか。どれから焼くのがいいのかな。お肉の後に海鮮を焼くのはちょっと……」
「鉄板もいくつか用意できてるから別々に焼けば良いんじゃない」
「そうね。それでいいと思うわ。うん、網はしっかり温まってるみたいね」
「炭の量を調節して強火と弱火、保温する場所も作っとくね」
「さすがね。よろしく」
「なるほど。火の通りやすさで分けていくのですね」
僕と二乃のやり取りを聞いて桜が納得をする。
「この辺りは兄さんと二乃さんに任せておけば問題なさそうですね」
「ああ。火の調節は僕と風太郎でやっていくよ。風太郎、やり方教えるから頼むね」
「任せろ」
「焼くのは私も手伝います!」
「よろしくねらいはちゃん」
こうして、準備は滞りなく進み、いよいよ食事が始まった。
「焼き上がったものはこっちに置いてくから遠慮なく取って良いよ」
「それじゃお言葉に甘えて、いただきまーす」
「美味しい……」
「火加減ばっちり!さすが二乃と直江さん」
「まあね」
「これくらい当然よ」
「ほら風太郎も遠慮なく食べな」
「おう」
概ね皆には好評のようだ。
そんな時だ。
「ねえカズヨシ君、あーんしてあげるよ」
「えぇ……恥ずかしいんだけど」
「えー、いいじゃん。焼いてばっかで全然食べれてないでしょ?ほら、あーん」
一花はそう言って箸で掴んだ肉を食べさせようとしてくる。
「カズヨシ……あーん」
一花が差し出した反対方向からは三玖も同じように僕の口元へ運ぼうとしている。
「え、ええ……?」
「…っ!和義君。私のもどうぞ」
三玖に続いて五月も僕にあーんしようと迫ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってって!」
「和義さん、こちらもどうぞ」
「桜まで!?」
僕が戸惑っていると……。
「「「じー……」」」
物凄い視線を感じてそちらを見ると、四葉とらいはちゃん、そして零奈が僕たちを見つめていた。零奈に至ってはジト目である。
「なんだかみんなとても楽しそうだね!」
「あはは……こっちが恥ずかしくなってきますけどね」
「まったく…」
リアクションは三者三様である。
「ほらほら、みんな見てるよ?」
「うぅ……わ、わかったよ……」
一花の言葉に僕は観念して口を開けた。するとそこにすかさず三玖が運んでくる。
「はい、あ~ん」
「むぐっ」
僕は三玖に運ばれてきたものを咀噛する。
「どお?」
「う、うん普通に美味しかったかな」
「良かった」
三玖は嬉しそうにはにかんでいる。
結局その後も順番に食べさせてくるものだから、僕はただひたすらあーんでお腹を満たしていった。もちろん隣で焼いていた二乃からも差し出されていた。
「はぁ……お腹いっぱいです。お肉も海鮮も、美味しかったですね」
「二乃とカズヨシのおかげだね。ありがとう」
「どうってことないさ」
「普段もそれくらい感謝の気持ちを見せてくれてもいいのよ?」
「はーい」
二乃のからかい半分の言葉に一花が返事をする。それを中心に皆お互いに笑いあっている。
そんな光景を少し離れた場所に移動して眺めていた。
「どうしたのですか?こんな離れた場所に移動して」
そんな僕に付いてきたのか零奈が話しかけてきた。
「うーん……なんか良いなって思ってさ。この光景をずっと見ていたい」
「……そうですね。それはこれからの兄さんの腕の見せ所かと」
「ああ。頑張るよ」
零奈の言葉に決意を込めて返すと、零奈は満足そうな笑みを浮かべるのだった。
今回は浜辺でのバーベキュー回にしてみました。
登場キャラが多いとセリフとかが大変ですね。誰かが多くなると、その分誰かが少なくなるみたいになってしまいます…難しいです。
ではまた、次回も読んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。