その日の放課後。
「カズヨシ、今日この後予定ある?」
「特にこれといった予定はないけど、どうかした?」
「前に言ってた歴史トーク。今日はダメ?」
「そういえば!全然。むしろ三玖から声かけてくれて嬉しいよ!」
そう答えるとホッとしたような表情をしていた。
「となるとどこがいいかなぁ...。教室は放課後とはいえ残っている生徒もいるし、図書室は会話をするところでもない。う~ん...」
「屋上は?」
「なるほど!いいかもしんない」
という事で、急遽屋上での歴史トークが開催されることになった。
屋上に行くと、意外にも他の生徒はいなかった。
「いやぁ~、今日は天気も良くて開放感もあってで最高だね!なんか屋上に来るとテンションが上がっちゃうんだよね!」
「子どもみたい」
そんなツッコミを無視しながら適当なベンチに腰掛けた。それに三玖も続く。
「はいこれ。お話するなら喉渇くと思って...」
「これは...抹茶ソーダ。買う人初めて見たかも...」
「え、そうなの?美味しいよ。あと、鼻水も入ってないから安心して」
そう言ってこちらに抹茶ソーダを差し出す。
早速ぶち込んできましたか。
「はは、三成と吉継の逸話だね。さすがにやるね三玖」
「カズヨシこそ。すぐに分かるなんてやるね」
お互いに笑いながら抹茶ソーダを飲んだ。
「う~ん、微妙な味だ。美味いという訳でもなく、かと言って不味い訳でもない...」
「そうかな...」
「まぁ、僕の場合は抹茶自体が苦手ってこともあるからね」
そう言いながらチビチビと飲んでいる。
「そうだったんだ。ごめん」
「別にいいさ。それこそ、さっきの三成と吉継みたいな感じだよ。友人から貰ったものはありがたくいただかないと」
「そっか。ありがと、カズヨシは優しいね」
「そっかな?」
「うん、そうなの。あっ、他に苦手な飲み物ってある?」
「コーヒー。あれは苦くて飲めるものではないね...特にブラックとかまじで無理」
「へぇ意外」
「良く言われるが、そんなにコーヒーが飲めるイメージがあるのかな。あ、でもコーヒー1に対して、牛乳9であれば飲めるよ」
ドヤ顔の僕である。
「ぷっ!それもうコーヒーじゃない」
「はは、良く言われるよ。ちなみに、風太郎もコーヒーが飲めない」
「そこも仲がいいんだね」
「そういう三玖は苦手な飲み物ってある?」
「飲めないこともないけど、甘いのは苦手かも。砂糖がたくさん入った紅茶だったりジュースだったり」
「なるほど。だったら次からは緑茶とか用意するかな」
「え、でも抹茶ダメって...」
「あぁ、抹茶は駄目でも普通の緑茶とかは大丈夫。とくにほうじ茶は割と好きだから」
「本当にカズヨシって変わってる」
そんな雑談を交えながら、歴史トークを開始した。
お互いの知っている知識をさらけ出すほど盛り上がったが時間というのは有限である。
日も沈み出したので、今日はお開きということになった。
もう暗くなることもあるしで、三玖のマンションまでは送る。もちろん、零奈には帰りが遅くなることは連絡済みである。
我が妹は、連絡をしないで帰りが遅くなるとネチネチと嫌味を言ってくるのだ。お前は僕の奥さんかって思ってしまうこともある。
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三玖視点
「いやぁ~、語った語った。こんなに歴史のことだけで話したの初めてかも」
「私も(本当に初めて、対面でこんなに歴史のことを話したのは。でもやっぱりカズヨシは凄い。私の知らないことも知っていて本当にビックリした。負けてられない)」
「風太郎ともたまに話すんだけど、あいつ教科書の知識しかなくってさ。で、お前は教科書の知識しかないから歴史の話をしてもつまらん、って煽ってみたわけ」
カズヨシはいつもフータローの話をしている。もしかしたら、歴史の話をしているときよりも楽しそうではないかと思うほどに。
でも嫌ではない。むしろ尊敬をするくらいだ。
だって私にはそんなに楽しく友人の話をすることはないから...
「でさ、煽った風太郎なんだけど、あいつ負けず嫌いなところもあってさ。次の日から図書館にある歴史の本を片っ端から読んでたのよ。そんで、数日後に歴史クイズを挑まれたの。ま、返り討ちにしてやったけどね。あの時の風太郎の悔しがる顔は、今思い出しても笑えたね」
「ふふっ」
カズヨシが楽しくフータローの話をするとこっちも楽しくなってきた。
あの自信満々で、いつも上から目線のフータローが悔しんでいるところを想像すると面白かった。
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話しながら帰っている時、急に三玖が立ち止まった。
「どした?」
「あのね。今日の昼休みのことなんだけど...」
(今日の昼休み?何かあってけ?)
そんな風に考えていたら、察したのか
「ほら、四葉が好きな人いないのかって...」
「(あぁそんなこともあったね、すっかり忘れてた)それで?」
「うん、実際私っていまいち人を好きになるってことが良く分かってなくて」
「それで恥ずかしくなって逃げてしまったと」
コクンっと三玖が頷く。
「ま、三玖のタイプは髭のおじさんだもんね」
そう言って、ニヤっと笑うと三玖が顔を膨らませてこちらを睨んでいた。
本当に姉妹揃ってそっくりだ、と前に五月が食堂で風太郎を睨んでいたときを思い出していた。
「カズヨシのいじわる...」
「悪い悪い。それで?そんな報告をしたかった訳ではないんでしょ?」
「うん。カズヨシはいつもフータローの話をしているからふと思ったの...」
その後の言葉は言っていいのか迷っている様子だ。
はぁ~、とため息を付きながら代わりに言ってあげた。
「僕に好きな人がいないのかって?」
コクンっとまた三玖は頷く。
正直なところあんまりこの話をしたくないというのが僕の考えである。こういった話をすると暗い話になってしまうかもしれないからだ。
だが、あまり周りのことを気にしない三玖が勇気を振り絞って聞こうとしたんだ。それには答えてあげたいとそう思った。
それにこれからの関係の為にも、中野姉妹全員にも話しておこうかなとも考えた。
「ねぇ、良ければなんだけど。今から話す内容を姉妹みんなに話したいって思ってるんだ。少しだけ家にお邪魔してもいいかな?」
「いいけど...」
そして、中野家のマンションに向かうことにした。
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「悪いな風太郎。少しだけ零奈のことを頼む」
『ふん、この位わけはない。気にするな』
急遽中野家に行くことになったため、さすがに零奈一人家に留守番させるのはと気が引けたので、風太郎に頼み上杉家に預かってもらうことになった。
当の零奈はというと、
『兄さんのことです。何かあるのでしょう』
と承諾してもらった。何度も思うが本当にできた妹である。
そして、
「ただいま」
「お邪魔します」
「おかえり三玖!わお、直江さんじゃないですか、いらっしゃいませ!」
リビングに入るとそこには四葉しか居らず、歓迎してくれた。
「四葉、みんなは?」
「もう帰ってて、みんな自分の部屋にいるよ」
「そっか、カズヨシが話したいことがあるみたいだから呼んできてくれる?」
「りょうかい!」
そう言って走って呼びに行ってくれた。
「呼んできたよ!」
「珍しいお客さんだねぇ」
「何でアンタがここにいんのよ!誰の許可を取ってんの?」
「私だけど」
「直江君、どうしたのですか?」
本当に反応が一人一人違ってて面白い。
「今日は急な訪問で申し訳なく思っているよ。ただ、今後の事も考えてまず僕のことを話しておこうかなって思ってさ」
「今後も何もないわ。アンタらとは関係を持たないんだから」
さすがは二乃、通常運転だ。しかし、そんな中一花が何かを察したのか助け舟を出してくれた。
「まぁまぁ、いいじゃない。別に今から勉強を始める訳でもないし。私は良いと思うな、カズヨシ君の話聞いてみたいよ」
「私も同じ意見です」
「わたしも!」
他の姉妹全員が話を聞くという流れになったためか二乃も諦めたようだ。
「分かったわよ!ただし、つまんない話だったらすぐに追い出すからね」
「ありがとう」
そう感謝を言って、今日のメインの話を進めた。
「今日の昼休みにさ、一花が高校生活を送るうえで恋が大事だって話をしたと思うんだけど」
「あぁ、あったねそんな事が。フータロー君が、もう手に負えないくらい拗らせたやつだ」
「そうそう、あれには僕もちょっと引いたくらいだったんだ。だけど、あそこまではいかないものの、僕も若干同じような意見があってね。それで今日みんなに話しておこうと思ったんだ」
「別にアンタの恋愛感について話されてもって感じなんだけど」
「まぁまぁ」
反発する二乃に対して四葉が宥めてくれている。
「知ってる人もいると思うけど、僕って結構モテるんだよね」
これからの話を考えて若干明るく言うと、
「いきなり自慢話かっ!もう追い出していいよね!」
「二乃落ち着いて。いちいち反応してうるさい」
「(三玖さん辛辣...)本当にね...嫌って言う程色んな人に告白されたよ。それも会ったことも話したこともない、同級生に先輩、後輩まで。本当、嫌ってほどね...」
いつにもなく神妙に話したからか、さっきまで色々と反応していた二乃も黙ってしまった。
一花や四葉でさえも真面目な顔になって話を聞いてくれている。
「でね、告白してきた人達がみんな同じことを言うわけ。あなたの隣に、上杉風太郎という男は似合わないってね」
思うところがあったのか五月がビクッと少しだけ体が反応した。
「そういう風に言われる度に僕も思っちゃうわけよ。お前たちに風太郎の何が分かるんだってね」
「「「「「!」」」」」
おっと、ついその時のことを思い出してしまって怒りがにじみ出たかも。
震えている娘もいるじゃん。反省反省。
「ごめんごめん。ちょっと怖がらせちゃったかな」
「いやぁ~、さすがにお姉さんもちょっと驚いちゃったかもね」
そう言う一花の体も若干震えているように見える。
「続き」
「あ、あぁ。(三玖は怖く感じてないのか)風太郎と僕って小学生からの付き合いでさ。あれでも風太郎、6年生の途中まで今の君たちと変わらないくらい勉強ができなくってさ。しかも、勉強なんて嫌いだって言ってたよ、意外でしょ」
「い、意外です。私は同じクラスなので目に入るのですが、休憩時間であろうと勉強をしている彼が...」
「んで、詳細は省くけど、ある時を切っ掛けに僕にこう言ってきたわけ。『お前勉強できるんだろ。なら俺に教えろ』、ってね」
その言葉に若干反応した娘がいたような...まぁ気のせいだと思い、僕はそのまま話を続けた。
「それからだよ。風太郎は必死に勉強して勉強して。中学に上がる頃には今の風太郎ができてきたね。で、そんな風太郎を近くで見てきた僕から言わせてもらうと、『お前らは風太郎の何を見ているんだ、あんなにも必死に勉強しているのに何か理由があるのではないかと感じられないのか』、ってね。まぁ、あいつの無神経でノーデリカシーなところも原因ではあると思っている訳だけどね」
最後は笑いながら言葉を発した。
「そういった経緯で今までの僕は、女子に対して『お前らも僕という存在を近くに置いてただ周りに自慢したいだけではないか』、って嫌悪感しか持てなかったんだよね。だから告白は全部断っているし、好きな人もできない」
「「「「「.....」」」」」
そんな風に話を締めくくるとみんな黙ったままになってしまった。
(嫌われる覚悟で話したけど、こんな事を急に言われてもだよね。でも、どうしても僕のことをもっと知ってほしいと思ったのも事実だ)
そんな風に思っていると、三玖が聞いてきた。
「今までってことは、考えを改めてるの?」
「はは、気づいちゃったか...うん、まぁ君たち中野姉妹に会ってからは、考えを改めようかなって思ってたところだよ」
「しかし、申し訳なく思っているのですが、私は上杉君に対していい感情を持っておりません。それこそ、先ほど直江くんが話してくれたような女子達と同じ考えを持っています」
「だよね、でもそれは第一印象が最悪だからでしょ。あんな事をいきなり言われたら誰でも嫌うって」
「あんな事って、何言われたの?」
一花が気になったのか聞いてきた。
「あぁ、最初の五月の昼飯の量を見て一言、『太るぞ』って」
「それはまぁ...」
「あいつが悪い」
二乃と四葉が答えた。
「それで、何で私達に会ってから考えが変わったの?」
「(えらい三玖が聞いてくるな)転校してすぐだからかもしれないけど、風太郎に対しての接し方を見てからかな」
「「「「「?」」」」」
五つ子それぞれが疑問に思っていそうだ。
「一花については、まだまだ読めないところもあるけど、他の男子生徒と同じように接してくれている」
「まぁ、それは普通でしょ」
「その普通を今まで見れなかったから、新鮮に感じたんだ」
「そっか...」
「で、二乃は確かに嫌っているけど、これは風太郎にっていうよりも、五つ子に近づく者を嫌っているように思えるんだ。現に僕も嫌われてるし」
「ふん!」
「三玖は、僕が風太郎の話をしても嫌な顔せずに聞いてくれるし、逆に質問してくるところもあって嬉しく思えてくるんだ」
「前にも言ったけど、カズヨシの友達だから」
「それができているのは三玖だけだよ。そして四葉は、どんな時も笑顔で風太郎に接してくれている。きっと風太郎自身も嬉しく思ってくれてるさ」
「本当ですか!じゃあこれからも頑張ります!」
「あぁ、今まで通りに接してやってくれ。最後に五月だけど、さっきも言ったが五月の風太郎に対する嫌悪感は最初に会った時の風太郎が全部悪い。そんな中でも、家に送ってやったり、自分の意見を本人に対して言っていることはとてもいい事だと思う。周りの女子達は、陰口を言うか無視するかだもん。まぁ真面目な性格がそうしてるのかもしれないけどね」
「そう言っていただけると助かります」
「で、ここからは僕の勝手な意見ではあるんだけど、一緒にいることで変われるんじゃないかって思えてくるんだ。だから、今まで通りに接してくれるといいなって。あ、二乃についてはもう少し柔らかくなってくれると嬉しいかなぁ、なんて」
「ふん!アンタの今後の行動次第ね」
(行動次第では柔らかくなるんだ)
「二乃は素直じゃない」
「何よ」
「事実を言っている。あと、別にカズヨシに頼まれなくても今まで通りにする」
「そうですね。それにまだ教えてほしいところもありますし。上杉君への考えも改めた方がいいかもしれません」
「あ、そこは大丈夫。こんな話をしてなんだけど、これはあくまで僕の風太郎に対する考えであって、みんなにはそれぞれの目で風太郎の事を見てほしいと思っているんだ」
「そ、そうですか」
「じゃあ、今後も私達とカズヨシ君の関係は今まで通りってことで」
一花のその言葉に対して皆笑っていた。あの二乃でさえも。
そんな光景を見てただただ感謝しかなかった。
「ありがとうございます」
そう頭を下げることしかできなかった。
初めての6000文字超えでの投稿です。
ちょっとご都合主義感が出てたかもですね。。。
しかもこの話はもう少し後でも良かったのかなって感じてます。
だって、主人公と五つ子が出会ってまだ5日位しか経っていませんからねw