「色々とお世話になりました」
夏休みも後二日となった日。新学期も始まるので全員で家に帰る事にした。
「なーに、こっちも助かったからな。ここで働きたい意思があれば、卒業後にでもまた来るといい」
「はい!その時はぜひよろしくお願いします」
お祖父さんとそんな会話をしながらもお互いに手を握った。
「お祖父さんは身体にも気を付けてくださいね」
「大丈夫ですよ。私が付いていますから」
「......」
楓さんの言葉にお祖父さんは言葉が詰まった。
「え...えーと、お婆様。もしかしてずっとここにいらっしゃるつもりですか?」
「ええ。何か問題が?」
「い、いえ。そうなってくるとお客様のお相手が...」
「息子であるあなたの父親が行えばいいでしょう。そろそろあの子にも跡取りとして頑張ってもらわないとですしね。まあ、あの子でも難しい場合はここまで来れば良いのですから。私はここを離れるつもりはありませんよ」
頑なに動こうとしない楓さん。
桜も大変だなぁ。
「お祖父さんめっちゃ愛されてますね」
「うーむ……」
小声でお祖父さんに伝えると恥ずかしそうに唸っている。否定をしないってことは満更でもないのかもしれないな。
そんな風に考えていたらお祖父さんに声をかけられた。
「和義。孫たちのこと、それに
「私からも。桜のことも頼みましたよ」
「はいっ!」
この口ぶりからして僕たちの関係にもしかしたら気づいているのかもしれない。そんな思いで二人の言葉に対して返事をするのだった。
旅館から離れて皆で渡船場に向かって歩いている。
「さて、明後日から新学期が始まるね」
「はぁぁ…まだまだ遊び足りなかったわ」
「十分遊んだだろ!」
二乃の遊び足りないという言葉にすかさず風太郎がツッコミを入れる。
遊びに行くところがないとはいえ、海水浴にバーベキュー、花火もしてるからな。受験生の夏休みとしては十分満喫だったと思う。
「毎日楽しかったよね。学校が始まったら友達に教えてあげるんだ」
「くぅー!私はもっとらいはちゃんと遊びたいです!」
「少しは勉強のことも考えてくれ…」
らいはちゃんに抱きついている四葉に呆れながら風太郎が口にする。
「少しはよいのではないですか?ここに来てから毎日勉強はしていたのですから。仕事の合間に勉強を見てくれてありがとうございます。和義君。上杉君」
「か、家庭教師として当たり前のことをしたまでだ!」
「ふふっ、僕も風太郎と同じ気持ちだよ。これくらいどうってことないさ。それに三玖も手伝ってくれたわけだし。ありがとね」
「私は料理の学校に行くから受験しなくていいし…少しでも役に立てたのならよかった…」
「十分だったよ。社会は三玖に任せて良いくらいにね」
「ええ。社会だけは三玖に勝てそうにありません」
「ふふっ、これだけは負けられないからね」
笑みを作りながら三玖が答える。
「受験…皆さんは後半年程でご卒業されるのですよね…一花さんに至っては学校ではもう会えないのかもしれませんし…」
「桜ちゃん…」
桜の言葉に心配そうに桜を見る一花。
桜がそう呟くのも無理はない。高校生組の中で唯一の一年生なのだから。僕達が卒業してそれぞれの進路に進むなか桜だけが学校に残ることになる。
「なーに言ってんのよ」
「卒業しても私たちはずっと一緒」
「あの日そう誓い合ったではないですか」
一花とは裏腹に、二乃と三玖と五月が明るく桜に向かって話してかけている。
「皆さん……そうですよね!
その言葉で桜も笑顔を取り戻したようだ。
「こりゃ一本取られたねぇ」
「ははは、だね」
そんな姉妹たちのやり取りを見て苦笑いを浮かべる僕と一花であった。
「皆さん本当に仲がいいんだね」
「まあそうですね。良い意味でも......悪い意味でもですね」
らいはちゃんの言葉に零奈が答えた。
「ん?悪い意味?」
「見ていれば分かりますよ」
「ほらほらお姉さんの提案はよかったってことでしょ?」
そう言うや否や一花が僕に腕を組んできた。
「ちょっ、ちょっと何どさくさに紛れてカズ君に抱きついてんのよ!」
「早い者勝ちだよ~」
「そう。ならもう片方は私が...」
「あーー!三玖もずるいですよ!」
「そうです!ここはじゃんけんじゃないですか?」
ギャーギャーと僕の周りで五人が僕の腕の取り合いを始めだしたのだ。
「ね?」
「ああ、確かにこれは……うん」
目の前では二乃が大声で叫んでいるし、三玖と五月と桜の三人は睨み合っているし、そしてそれを煽るように一花はニコニコしながら眺めている。
その姿を見ながら零奈が「でしょ?」というようにらいはちゃんを見て、それにらいはちゃんが答える。
「毎回毎回お前らは...」
「あはは...まあいいじゃないですか。楽しそうです......羨ましいなぁ」
「.........ったく。ほら、服のすそだったら掴んでいいぞ」
「...っ。はい...」
「あーーもう。皆落ち着いて!」
僕達六人で騒いでいる横で、風太郎と四葉のそんなやり取りがあっていたのを二人以外は知ることはなかった。
ピンポーン...
新学期初日の朝。朝食も終わってそろそろ登校しようと思った矢先、家のインターフォンが鳴った。
「?こんな朝から誰だ?」
「風太郎さんと待ち合わせでもしてたんですか?」
「いや、そんなのはしてなかったけどなぁ。とりあえずもう出れるし、ついでに家を出ようか」
「ええ。そうですね」
朝からの来客に不思議に思いながらも僕と零奈は登校の準備を整えていたのでそのまま家を出た。そこには...
「おはようございます」
「桜!?」
「さ、桜さん。おはようございます。どうされたのですか?」
「はい。お付き合いも始まりましたのでお迎えに参りました」
「「おーーー...」」
桜の後ろに送迎用なのか車が控えている。そういえば、桜も何だかんだでお嬢様なんだよね。
「行動力...」
ボソッと零奈が口にするが僕も今思ったところである。
「あーー...桜。おはよう」
「はい。おはようございます、和義さん!」
うん、いい笑顔だ。じゃなくてっ。
「えーっと…車で迎えに来てくれたのはものすごーくありがたいんだけど。さすがにこれで学校に行くのはちょっと…」
「確実に噂になりますね」
「はうっ…!」
「せめて一緒に歩いていこうか」
「...っ、はい!では、運転手の方にここからは歩いていくと伝えてまいりますね」
僕と零奈の言葉に一度は落ち込んだのだが、一緒に登校することを提案するとキラキラした顔で答えてくれる。朝から忙しいなぁ桜。
ということで、零奈と桜三人で登校の道を歩いている。零奈はいつものように僕と手を繋いで歩いているのだが。
「あ、あのぉ...零奈ちゃん。いえ
「まあ妹ですから」
「妹だしね」
「そ、そうなんですけど...」
桜の質問に当たり前の如く答える僕と零奈。しかし、桜はどこか納得いっていないようではある。
「前までは桜も妹だからって納得してたじゃん」
「そうなんですけど...
五つ子達も同じようなことを言ってたけど。
そんな思いで手を繋いで隣をトコトコ歩いている零奈に目をやる。
確かに
「何ですか兄さん?」
「いや。やっぱり零奈は零奈だなって」
「な、何ですか急に...」
恥ずかしそうに顔を反らす零奈。うん、やっぱり可愛いなぁ。
そんな時、前方に見たことがある零奈の友人らしき子ども達が仲良く歩いているところを見つけた。向こうもこちらに気付いたようだ。
「それでは兄さん、桜さん。私はここで」
「ああ。気を付けて行ってくるんだよ」
「はい!」
僕の手を離した零奈は友人達のところに向かって走っていった。
「こうやって見るとやっぱり小学生なんですよね」
しみじみとそんな発言をする桜だった。
そんな桜としばらく二人で登校をしていると、途中五つ子と合流した。
どうやら一花が仕事に行くために皆で駅まで来ていたようだ。
「なんで桜がカズ君と一緒にいるのよ!」
「......途中で偶然会いまして」
「桜さんの家は私たちと同じ方向ではないですか」
「嘘はよくない」
「なかなかしたたかな子だねぇ」
「行動力も凄いと思う」
僕と桜が二人でいることにすかさず二乃がツッコミを入れるが、言い逃れしようとする桜。まあ、すぐにバレるよね。
「一花は今日から休学で仕事なんだっけ」
「そだよ。みんなが見送ってくれるってことでここまで一緒に来たんだ」
「そっか。あ、そういえば例のCM観たよ。零奈も久しぶりに興奮してたよ」
「うちの五月みたいね。五月も家ではしゃいでいたわ」
「仕方ないじゃないですか。テレビや映画で観る一花は輝いて見えます。それに、すごく楽しそうで本当に一花がやりたいことだと思うんです」
「五月ちゃん...」
「その気持ち分かります」
熱弁をふるった五月に桜が同意した。
「そうだ!実は三玖がCMの一花のモノマネをしてくれたんですよ。すっごく似てて、ぜひ直江さんと桜ちゃんにも見てほしいです」
「えー、やりたくない」
四葉はテンション高めで提案をしているが、当の三玖は本当にやりたくないようで、テンションだだ下がりだ。
「あ、私も見たいなー」
「あれ?一花は見てないの?」
「うん。多分私が仕事で家にいないときにしたんだと思う」
「一度はやってくれたじゃないですか」
「ほら三玖、三人に見てもらいなよ!桜ちゃんも見たいよね?」
「ええ。三玖さんさえよければ」
「ほら観念なさい」
「......じゃあ、一度だけ...」
五月と四葉の説得に加え、桜のお願いもあり、最後は二乃の後押しで観念したようだ。三玖はふぅーと一呼吸入れると...
「忘れられない夏にしてあげる♡」
「おー」
「わー、そっくり」
「凄いです!CMのままです!」
「......」
流石は変装が姉妹の中で一番うまいだけはあるな。ウィッグで髪型を一緒にすれば絶対見分けられないんじゃないか?まあ、当の三玖本人は複雑そうな顔をして下を向いてしまっているのだが。
「大したもんだよ。本当にそっくりだった」
「だよね!出席日数が足りないとか言われそうだったら、代役お願いね」
「無理!」
「だよね。現場行ったら、ガッチガチに固まってそうだもん」
「そっかぁ...と、もう行かないとだから」
一花が腕時計を見ながらそう伝えてくる。
「ああ、頑張ってきな」
「帰ったら、またお話聞かせてね」
一花の言葉に僕と四葉が声をかける。
「うん。皆も頑張って」
一花はそう言いながら改札口を通って行ってしまった。
「さて、僕達も行こうか。あまりゆっくりしてると新学期早々遅刻しちゃうしね」
「そうですね。行きましょう」
僕の言葉に桜が答えた。
一花の抜けた六人で学校に向かう。
「それより私たちの関係はばれたらまずいと思うのよ」
二乃がそんな言葉で切り出した。
「確かに他の人から見たら異常ではありますからね」
五月もそれに同意する。
まあ、五人と付き合うなんて普通じゃないからねぇ。
「みんなには苦労をかけるかもしれないけど、僕に出来ることは何でも協力するよ」
僕の言葉を聞いた四人は顔を見合わせると笑みを浮かべた。
「カズヨシらしいね」
「私たちのことを考えてくれてありがとうございます」
「私はあんたが決めたことに文句を言う気は無いわ」
「和義さん。私たちも何でも協力しますから」
こんな風に笑ってくれるならどんなことでも頑張れる気がする。
「とは言っても、当面私たちはいつも通りでいいと思うのよ」
「そうですね。私たちの仲は結構知れ渡っていますし。お昼も一緒に食べても何も言われませんしね」
「後、私や上杉さんも一緒にいるから怪しまれることもないと思う」
「
「うん。一つだけ我慢できるかわからないものがある」
そこで四葉も含めた五人の顔がこちらを向いた。
え、何?
「カズヨシが受ける告白。黙って見てるの結構辛いかも」
「そうなのよねぇ」
「いや~、こればっかりは僕がどうこう出来る問題でもないしなぁ。勿論告白されればいつも通り断っていくけど。ただ、三年生は受験だしで告白も自然に減るんじゃない?現に三年生になって減ってるしね」
「四月からどれくらいされたのですか?」
五月からの質問に頭の中で数えてみる。
「えっと……二十はいってなかったと思うよ」
「直江さん凄いです!」
「やっぱり何かしらの手は打っといた方がいいかもね」
「ですね。実際
「本人に任せてたら解決しない」
「ですね。色々と考えてみましょう」
僕の言葉に四葉は驚きの言葉を向けてくれたが、残りの四人は何やら固まって話している。
苦労をかけて申し訳ない。
こんな風に皆と一緒にいられるのも後少し。現に一花は仕事のため休学してそれほど一緒の時間を過ごせないだろう。
夏ももう終わり。卒業はもうすぐそこまで迫っている。
大変長らくお待たせして申し訳ありません。やっと投稿できました!
いやー、ここまで間隔が空くのは初めてですね。
すみません、仕事などが忙しくて書く暇がありませんでした…
今後も間が空くことがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。