風太郎の決意を聞いた夜。
夕飯を食べていると携帯に着信が入った。
「と…四葉?珍しいな」
「四葉ですか。確かに珍しいですね」
「四葉、どうし……」
『直江さーーーん、どうしましょーーー!』
んぐっ…耳が…
とんでもない大きな声が、電話の向こうから聞こえたのでとっさに携帯を耳から離した。
『あれっ?直江さーーーん!もしもーし!』
「十分聞こえてるから、もう少し小さな声で話そうか四葉…」
『う~…すみません…』
「それで?何かあったの?」
四葉が落ち着いたので改めて用件を聞くことにした。
『そうでした!実は風太郎君から明日のお出掛けに誘われたんですよ!』
「え?風太郎から?」
『そうなんです。ついさっき連絡がありまして…』
ふむ。ついさっき話したばかりだというのに行動が早いな。思い立ったが吉日ってやつか。風太郎らしいっちゃらしいけどね。
「それで?何に困ってるの?四葉にとっては嬉しいことじゃない」
『それは…そうなんですけど…突然すぎてどうすればいいんだろって…』
「普段通りで良いんだよ。何か特別な事をしなければいけないこともない。普段通りでいた方が風太郎も安心するだろうしね」
『普段通り…』
「まあ、多少の緊張はあるかもだけどね」
軽く笑いながらそう伝える。少しでも軽くなってくれれば良いけど。
『ふふっ、そうですね!いつも通りでいたいと思います!』
「ああ。楽しんでくると良いよ」
『はい!ありがとうございました!やっぱり直江さんは頼りになります!』
「そう言ってもらえると嬉しいかな。じゃあ、おやすみ四葉」
『はい。おやすみなさい』
そこで通話は終了した。
「ふぅー…」
「四葉はなんと?」
電話の内容が気になったのか零奈が確認してきた。
「風太郎が四葉をデートに誘ったんだって」
「えぇ!?あの風太郎さんが…驚きですね」
「まあ、これに関しての相談はついさっき風太郎から受けてたんだけどね。まさか、こんなにすぐ行動するとは思わなかったよ」
「きょ、今日の今日ですか。さすがは風太郎さんですね」
少し驚きながらも呆れ気味に言う零奈。まあそうだよね。
「そうだ。明日と言えば、兄さんは明日何かありますか?」
「僕?僕はとくに何もないから部屋で勉強でもしてようかと思ってたけど」
「なら、久しぶりに一緒に出掛けませんか?買い物なんてどうでしょう」
「そうだね、最近は一緒に出掛けたりしてなかったし。良いよ、明日は一緒に買い物行こう」
僕の答えに、パァーッと明るい笑顔になる零奈。うん、たまには家族で過ごす時間も作っていかないとね。
「では、明日のために早く休めないとですね。さっさとここを片付けちゃいましょう」
そう言いながら零奈が夕飯の片付けを始める。それに僕も続くのだった。
翌朝。午前中から出掛けることになった僕と零奈は、朝食を食べ終わった後各々で準備を進める。
「兄さん!早くしてください!」
「はいはい」
先に準備を終わらせた零奈が玄関から声をかけてくる。
そんな零奈は、僕からの直近のプレゼントであるブレスレットにショルダーバッグ、ネックレスをフル装備している。それだけ気に入ってくれてるのであれば何よりだ。
そんなご機嫌な零奈と一緒に玄関を出る。
「あら?」
玄関を出たところで見知った人物がチャイムをまさに押そうとしていた。
「二乃!?」
「おはよ。何?今日は二人でお出掛け?」
まさか朝から二乃が来るとは思わなかった。約束とかしてたっけ?
「おはようございます二乃。ええ、兄さんと出掛けるところです。二乃は兄さんと約束を?」
「いいえ。とくにカズ君とは約束してなかったけど、他のみんなとも約束してなかったしいるかなと思って。それに、前は週末通ってたし」
そういえば、最近まではうちに五つ子が住んでたから忘れてたけど、週末フランス語の勉強のために二乃はうちに来てたな。危なかったなぁ。
「そうですか。どうします?一緒に来ますか?」
「え?」
「え?いいの?」
零奈の提案に僕と二乃は驚いた。
「いいも何も。せっかく家まで来た恋人を帰すなんて無下なことはしませんよ」
いたって冷静にそう答える零奈。こういうところが大人である。
「兄さん、構いませんよね?」
「ああ。むしろ、僕は零奈が本当に良いのか気になったくらいだし」
「気にしていただいてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。それに、また違う日に付き合ってくれますよね?」
ニッコリと笑顔で聞いてくる零奈。本当にちゃっかりしている。
「分かったよ。てわけで、二乃も一緒に来る?」
「行くわ!行くに決まってる」
前乗りになって言ってくる二乃。笑顔も交えていて喜んでくれて良かったと思う。
そんなわけで零奈と二乃と三人で出掛けることになった。
「♪~~♪~」
手を繋いで隣を歩く零奈は鼻歌を歌うほど上機嫌にしている。
「零奈、すごい機嫌が良いね」
「それは兄さんとお出掛けなんて久しぶりですから」
「はぁーあ。私だってカズ君と手繋いだり、腕組んだりしたいのに」
「ふふっ、役得です!」
「まあいいわ。それで?今日はどこかに行く予定でもあったの?」
「うーん…とくに決めてなかったかな。気ままにウィンドウショッピングでもって考えてたし。だからモールにでも行こうかなって」
考える素振りを見せながらそう答える。本当に何も考えてなかったからなぁ。隣の零奈を見てみるがとくに反対意見はないようである。
「あー…でも強いて言えば零奈の服を買っときたいかな」
「私のですか?」
「ああ。零奈もこの一年で成長してるし、新しい服を買った方がいいかなって」
零奈の頭を撫でながら伝える。
「成長…してるのでしょうか?」
「ああ。こうやって隣にいれば分かるさ。目線も上がってきてるしね」
「そうですか…」
照れたような顔をして笑みを浮かべる零奈。
少し前まではそんなに気にしてなかったけど、最近は早く成長しないかと考えてるみたいだもんな。
「だったら私がお母さんの服をコーディネートしてあげるわよ」
「二乃が?」
「ええ、いいでしょ?」
「良いんじゃない。ファッションセンスは姉妹で一番だろうし」
「兄さんが言うのであれば…二乃、お願いしますね」
「まっかせてよ!」
胸を張って自信満々に答える二乃。
まぁ実際問題、女子力が高いし任せて問題ないでしょ。僕からすればどんな服を着ても似合うと思うんだけど、零奈の可愛い姿を見てみたいって気持ちもあるしね。
その後そのままショッピングモールへと向かった。
「じゃ~ん!どう?これなんか良いんじゃない?」
「へぇ~、良いじゃないかな」
「ふむ……確かに可愛らしいですね」
現在僕ら三人は女性用の洋服店に来ていた。
目的は勿論零奈の新しい服を買うためだ。今は二乃が選んでくれたワンピースを着て試着室にいるのだが……。
「うぅ……恥ずかしいです……」
カーテンの向こう側から恥ずかしそうな声が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。きっと似合ってるから」
「そ、そうですか?」
「うん」
「……ありがとうございます」
僕の言葉を聞いて安心したのか、少しだけ嬉しそうな声で返事をする零奈。
「それでは開けますね」
そしてシャッと音を立ててカーテンが開かれる。
そこには先ほどまで着ていたシンプルなデザインの白いワンピースではなく、水色を基調としたフリル付きのドレスのような服に身を包んだ零奈の姿があった。
「おおぉ……これは凄いな……」
思わず感嘆の声を上げる。
元々可愛い零奈だけど、こういう清楚系の服装だとより際立つというか何と言うか……。とにかく凄く綺麗に見えるのだ。
「ど、どうでしょうか……?」
「うん、凄く似合っているよ。まるでお姫様みたいだ」
「っ!?」
思ったことを素直に伝えると何故か驚いた表情をして固まってしまった。……あれ?何か変なこと言ったかな?
「ちょっと、私には言ってくれないわけ?」
横を見ると不満げな顔の二乃がいた。
「えー!?今は零奈の服を選んでるから二乃への感想は関係ないんじゃ…」
「関係あるわよ!ほら早く言いなさい!」
ぐいっと顔を近づけて言ってくる二乃。近い!近い!……それにしてもなんでこんなにも必死なんだ?別に二乃だって美人だし何を着ていても似合うと思うんだけどなぁ……。
「はいはい分かったから……」
僕は二乃の全身を見て考える。
今の二乃が着ているのは黒のトップスに赤のスカートを合わせたスタイルだ。この組み合わせなら二乃の魅力がより引き出される感じがする。
「うん、やっぱり二乃の今日の服装はよく似合ってるよ。可愛くて僕の彼女であるのが嬉しいよ」
「あぅ……」
二乃の顔は真っ赤に染まり、口をパクパクさせるだけで言葉が出なくなっていた。本当に可愛い娘だ。
そんな二乃の頭を撫でてあげる。すると彼女は目を細めて気持ち良さそうにしていた。
「……」
それを見ていた零奈は無言のままジト目を僕に向ける。僕は何もしてないはずなのになんか責められてるような気がするのは気のせいかなぁ? 結局その後も色々と試してみたけど、最終的に最初の服が採用されることに決定した。
その後も普段着用、零奈が言うには学校に着ていく用の服も見て回った。
学校に着ていく服となると、動きやすくて汚れを気にしないものと零奈は言う。小学生が絶対に口にしない言葉である。
そんな普段着用の服も零奈と二乃の二人で物色をしていた。そんな二人はとても楽しそうである。
完全に僕は荷物持ちだな。
そんな考えが二人を眺めながら出たが、とくに嫌な気持ちにはならなかった。
「さてと、そろそろお昼にしようか」
今まで買ったものを持って歩きながら二人に声をかけると、同時に二人がこちらを向いた。
「あら、もうそんな時間なのね。結構早かったわね」
「本当ですね。いつの間に時間が経ったのでしょう?」
「まぁ楽しい時間はあっという間に過ぎるものだからね」
なんて会話をしながらお店を探すが今日は日曜日ということもあってどこも人がいっぱいである。
「うーん、どうしよっか」
「少し歩きますが、たしかモールの外にもファミレスがありましたよね?そちらに向かいますか?」
「そーねぇ。そうしましょうか」
というわけでモールの外にあるファミレスに向かうことになった。
向かうとちょうど席が空いていたのか、すぐに案内された。
「じゃあ早速注文しましょうか。私はパスタにするわ」
「では二乃と同じものにします」
「了解」
ボタンで店員さんを呼び、それぞれメニューを頼んで料理が来るのを待つ。数分後、それぞれの前に注文した料理が運ばれてきた。
「じゃあ早速いただきますか」
「「いただきます」」
僕の合図に二人も手を合わせてパスタを食べ始めた。
ちなみに僕はハンバーグランチである。
「この後はどうしよっか?」
「私のはもういいのでお二人に合わせますよ」
「そうねぇ~、モールに戻って店を回るのもいいけど。外の店を回るのもいいかもね。カズ君は?」
「そうだなぁ……」
どうしようかと考えていたら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「さぁ、好きなものを好きなだけ頼んでいいぞ!俺のおごりだ!」
「わーい、ありがとうございます!」
「ん?」
声の方を見ると、そこには風太郎と四葉の姿があった。
「ねえ二人とも、あれって…」
「ん?あら、四葉に上杉じゃない」
「あら。偶然ですね」
「何よぉ。あの二人っていつの間にそういう関係だったの?」
「うーん、どうなんだろう…」
全てを知っている僕からするとなんとも答えずらいものである。
「でも、四葉って上杉に告白してるんでしょ?なら、そんな関係になっててもおかしくないんじゃない。まあ、昨日の二人を見てるとそうは見えなかったんだけど」
「もしくは、ようやく答えを風太郎さんが出して呼び出したか、ですかね」
零奈鋭い!
「それもあり得るわね。あ、クーポン使ってる」
色々な予想を話しながら二人を見ていたら、お店の人にクーポンを出している風太郎の姿があった。
「何か問題が?」
「えぇ~、デートでクーポンとかNGでしょ」
「そういうものですか。ここの精算は風太郎さん持ちですから、風太郎さんにしてみれば頑張った方だと思いますよ」
「それは…そうかもだけど…」
僕は零奈の言葉に賛同する。あの風太郎が人にご飯を奢るなんて……成長したね風太郎。
その後もぎこちないながらも楽しそうな雰囲気を出している二人を観察していた。
そんな二人が店を出ようとしている。
「ぎこちないながらも楽しそうで良かった。この後もうまくいくかもね」
「追うわよ」
「は?」
食後の紅茶を飲みながら感想を伝えていると、二乃からとんでもない発言がされた。
「あの二人の後を追うって言ったの。早く!見失っちゃうわ」
「えぇ~~…」
「ふふふ。面白そうですね。行きましょう」
「えぇ!?」
零奈まで!?
結局二人の勢いに負けて、僕達三人は風太郎と四葉の後を追う事になったのだった。
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この場をお借りして御礼申し上げます。本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回のお話からちょっと早いですが、風太郎と四葉のデートを書かせていただきました。内容は次回に続かせていただきます。
いやぁー、本当は原作通りの学園祭後まで持っていこうかと思っていたのですが、風太郎なら決心したら行動が早いかなっと思ってすぐに書かせていただきました。
いくらなんでも早すぎただろうか……
投稿間隔が大きく開いてしまっていますが、次回以降も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。