「「失礼します」」
ある日。僕と四葉は二人で職員室に呼ばれたため来ていた。
「三条先生、お呼びでしょうか?」
僕一人ではなく四葉とということなので学級長の仕事だろうと思い来ている。なのでそれほど緊張はしていない。四葉も同じ考えなのだろう。平常心でいるようだ。
「よく来てくれました。お二人を呼んだのはもうすぐ始まる日の出祭についてです。そろそろクラスの出し物を決めなくてはいけませんので、学級長を中心に話し合いをお願いしたいんです」
「クラスの出し物ですか?」
先生の質問に四葉が答える。
「ええ。直江君は知っていると思いますが、三年生の出し物は例年の習わしで屋台と決まってます。なので、何の屋台をするのか決めてほしいの」
「そういえばそんな習わしがありましたね」
「ちょうど明日の午後にホームルームを設けてあるから、そこでの話し合いをお願いできるかしら?」
「わっかりましたっ!」
敬礼のポーズで四葉が承諾をする。
「ありがとう。これが去年のデータです。ここにはどんな屋台が人気だったのかが書かれてますので参考に使ってみてね。ある程度候補を出しておいた方が話し合いをスムーズに進めることができるかもしれませんね」
そう言ってプリントの束を三条先生は差し出してきたのでそれを受け取った。中身をパラパラと見ていると、隣から四葉も覗き込んできている。
「私からは以上です。二人であれば問題なく進めることができると思いますが、何か困ったことがあったら遠慮なく相談してね?」
「「はい!」」
ニッコリと伝えてくる三条先生に対して、僕と四葉はしっかりと返事をした。そして職員室を後にする。
「「失礼しました」」
職員室の扉から出て扉を閉めたところでふぅーっと一呼吸する。
「屋台の内容かぁ」
「日の出祭!今から楽しみですね!」
「そうだね。受験生である僕達にとって、多分最後の学校行事だろうし」
「屋台……何がいいですかね?からあげにフランクフルト、じゃがバターもいいですよねぇ~」
隣を歩く四葉の頭はすでに日の出祭一色のようで楽しそうな顔をしている。そんな顔を見ているとこっちまで楽しくなってくるのが四葉の良いところである。
「とりあえずこのデータからある程度候補を出して黒板に板書。そこから皆の意見を聞くって流れかな」
「ですね。でもどうしましょう、資料は一束しか貰えませんでしたね」
「今日は家庭教師や勉強会の日でもないから、四葉さえ良ければこのまま教室で確認していこうか」
「私は問題ないのでそれでいきましょー!」
方向性が決まったので二人並んで教室に向かう。そこで、あることを四葉に質問をしてみた。
「そういえば、風太郎と恋人関係になったわけだけど…どう?何か変化はあった?」
「ふぇ!?な、なんで知ってるんですか!?まだ教えてないのに…」
「さあ?なぜでしょう」
「むー…風太郎君ですね?」
ぷくーっと頬を膨らませてこちらを見てくる四葉。
あの公園でのプロポーズを目撃したその日の夜。風太郎から四葉と付き合うことになったと報告は受けていた。さすがにプロポーズまでしたとは聞いていないが。
「隠すようなことでもないでしょ?」
「だってぇ、恥ずかしいじゃないですかぁ…」
「ふーん…それで?何か変化はあったの?例えば、四葉の敬語をやめたとか、上杉さんから風太郎君呼びに変わったとか」
「それが…何も変わってないんです」
「まあ、人それぞれのペースがあるんだし。自分たちのペースでやっていこうよ」
「はいっ」
今の四葉の笑顔を見れば充実していることが伺える。そんな笑顔だ。
「ところで、日の出祭の時は一緒に回るんでしょ?」
「そうしたいですねぇ」
「四葉の場合は人助けであちこち行ってそうだけど。彼氏との時間も作ってよ?」
「彼氏……はい!頑張ります!」
そこは頑張るとこじゃないと思うんだけど。
彼氏という言葉に恥ずかしそうにしていた四葉だが、風太郎との時間も作るよう努めるみたいだ。
そんな風に四葉と並んで話しながら歩いていると、不意に女子生徒に呼び止められた。
「あ、あの…!直江先輩、今お時間いいでしょうか?」
先輩というくらいだから後輩なのだろうが、いつものやつなのだろう。
「良いよ。悪い四葉、先に教室に行って待っててくれないかな」
「わかりました」
先程三条先生から貰った資料を渡しながら四葉に声をかける。すると四葉はすぐに離れてくれた。どうやら四葉もある程度察してくれたようだ。
さてと。今回も断るわけだが、いつもは今は誰かを好きになることを考えられないって伝えてたけど、僕も今では彼女がいるわけだしなぁ。かといって現状をそのまま伝えるわけにもいかないし…う~ん、少し趣向を変えた断り文句でも使ってみようかな。
そんな風に頭の中でどんな感じで断ろうか考えながら、後輩の娘に付いていくのだった。
「へぇ~日の出祭かぁ。そういえばうちにもチラシ入ってたよ」
今日も今日とて仕事の後にうちに勉強をしに来ている一花に今日の出来事を話している。今日も泊まっていくようだ。
「三条先生がある程度資料を用意してくれてたから、その内容を明日皆に共有して、そこから纏めていくって感じかな……そこ間違えてるよ」
「うっ…」
「それにしても学級長とは大変なお仕事ですね。受験の事も考えなければいけない時期にそのような事をしなくてはいけないとは……一花、こちらも間違えてます」
「ひぃっ…」
勉強中の僕らのところにお茶を入れて来た零奈も一花のミスに指摘をいれる。二人に見られてるって、一花もお気の毒に。
「まあ、四葉は楽しそうにしてたから良いんじゃない?勉強は僕と風太郎でフォローするし」
「だと良いのですが」
「それよりも僕はもうひとつの事で頭を抱えてるかなぁ」
「あーー告白かぁ。今日もされたんだよね。カズヨシ君はモテるからねぇ、こればっかりは仕方ないよ。みんな学園祭で一緒に回りたいって思ってるだろうしね」
「一花も休学してなかったら引く手あまただっただろうね。それはそれでなんか嫌な気持ちになるけど…」
「へぇ~、カズヨシ君てば嫉妬してくれるんだ」
そんなニコニコした顔で言わなくても。
「そりゃーね。僕だって嫉妬ぐらいするさ。皆にはこんな気持ちを常にさせてたんだなって申し訳なく思ってるよ」
「まあ、カズヨシ君を好きになった宿命みたいなものだよ」
「面目ない。彼女がいることを言えたら良いんだけどそういうわけにはいかないからね」
「あはは、さすがに五人の女の子と付き合ってますとは言えないか」
渇いた笑いを溢しながらペンを回している一花。
うーん、何か解決方法があれば良いんだけどなぁ。
零奈から勉強の続きを促されて必死に取り組んでいる一花を見ながら考えていた。
「ということで、これが去年人気だった屋台メニューです」
次の日の午後。三条先生から頼まれた通り、ホームルームの時間を使って日の出祭の出し物を決める話し合いを行っている。
今は、昨日のうちに候補にあげたものを四葉が黒板に板書をしているなか、僕はクラスの皆に発表している。
①たこ焼き
②チョコバナナ
③焼き鳥
④フランクフルト
⑤チュロス
⑥たこせん
「去年人気だったものをやる必要はないので、これ以外にもやりたいことがある人は随時教えてください」
「たこ焼きがいいんじゃないか?去年も一番人気だったんだろ?たこ焼きならバイトで磨いた俺の腕を見せてやるぜ!」
僕の呼びかけに対して前田が真っ先に反応した。
たこ焼きかぁ~。僕は作ったことないからちょっと興味あるかも。
そんな考えをしていると一人の生徒が手を挙げている。
「五月?何かやりたいことがあるの?」
「はい!焼きそばを推奨します!」
五月は焼きそば好きだもんねぇ。とはいえ、どんだけ焼きそばを食べたいんだろ。
「和義君の焼きそばは絶品なんです。きっと皆さん喜びますよ」
あ、僕が作る前提なんだ。
「たしかに直江の作る料理はうまいもんな」
「そうだね。僕も食べてみたいよ」
五月の発表にたこ焼きに票をあげていた前田。それに武田が便乗してきた。
「私も直江君の作った焼きそば食べてみたいかも」
「あ、私も!」
クラスの女子も乗っかってきている。
「とりあえず候補の一つとして……他にないですか?」
「たい焼きやってみたい」
「タピオカとかいいんじゃない?」
ふむ。以外にアイデアは出てくるもんだな。ん?
三玖が何か言いたそうにもじもじしている。
「三玖?何かやりたいものがあれば言っていいんだよ?」
「えっ」
そう三玖に発表するように促してみる。
「パンケーキ...」
恥ずかしそうにそう三玖は発表した。
へぇ~。
「えーっと、去年は出店されていないみたいですね」
「別に去年なかったものを出しては駄目ってことはないでしょ。いいんじゃないかな」
僕が賛同すると三玖に笑顔が零れる。
「私もいいと思う」
「絶対かわいいよ」
「三玖ちゃんナイス!」
ふむ。パンケーキは女子にも受けが良いみたいだね。女子は映えとか意識しそうだし。
キーンコーンカーンコーン
丁度その時授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「じゃあ、今日はこれまで。今回は色々な案が出ましたので、後日この中から選んでいけるようにまた話し合いましょう」
そして、今日の話し合いは終了となったのだった。
「うん。とりあえず候補が色々出て良かったかな」
「ですね」
四葉が板書した内容をメモに取っていると、三人組の男子が話しかけてきた。
「中野さん!俺たちバンドやってるんだけど、このライブステージって俺たちも参加できるのかな?」
「もちろん!」
三人組はライブステージの告知をしている紙を手に持っていた。
「でも、そうなると練習場所もほしいですね。吹奏楽部の人たちにかけあってみます」
「マジ!?サンキュー」
すごいな。四葉は吹奏楽部の人とも交流があるのか。
「直江君。親戚に招待状を送りたいんだけど...」
「ああ。それなら問題ないよ、用意してるからね。足りなかったらまた言ってくれれば、また用意するから」
「ありがとう!」
四葉に感心していると一人の女子に話しかけられたので対応をする。
「ねえねえ中野さん、直江君。被服部でこんな出し物をするんだ。お客さん来るかなぁ...」
「へぇ~、良く出来てるじゃん」
「ですね、素敵です!所定の場所ならポスター貼れるので、ぜひお手伝いさせてください!」
「ポスター貼りなら僕でも手伝えるだろうし声かけてよ」
「ありがとうございます、直江さん!」
次に話しかけてきたのは被服部の男女。どうやら被服部での展示会をやるようで、そのサンプルを見せてくれた。
と、そんな感じでひっきりなしに声がかけられる。
それを僕と四葉で協力してさばいていく。
こういう時の四葉って本当に頼りになるよね。
「ねえ、やっぱりあの噂は本当なんじゃない?」
「えー、でも…」
ん?
声をかけてきた人達の対応が終わったので、風太郎達がいる教室の後ろ側に向かっていたのだが、こちらを見てヒソヒソ話しているように感じる。
そちらの方向を見たのだが、目が合った女子はなぜか慌ててどこかに行ってしまった。
「ふー、おまたせ。て、どうかしたんですか直江さん?」
「いや、こっちを見て何か話してた女子がいたような気がして…」
「んー?」
四葉が僕が見ていた方向を見るも、もちろんもう誰もいない。
「いつものカズ君と話したーい、じゃないの?」
「うーん…クラスメイトからは今までそんなことなかったんだけど」
「それもそうだね。それより二人とも大人気だったね」
僕の発言に特に気にしない三玖は他の話題に移した。
「ええ。まさに人望のなせるものかと」
三玖の言葉に関心したように五月も言っているので、五月も僕の言葉を気にはしていないようだ。なので僕も気にするのをやめた。
「いや、今回ほど四葉がいてくれて助かったと思ったことはないね」
「直江さんにそう言ってもらえるなんて。これからも頑張りますね!」
「頑張るのもいいけど働き過ぎんじゃないわよ。カズ君はその辺の調整はうまそうだけど、あんたは心配だわ」
「えへへ、最後のイベント、ですもんね。1ミリも悔いの残らない学園祭にしましょう!」
ニッコリとどこか風太郎に向かって言っているような四葉。そんな四葉と目が合ったのか風太郎は笑みを溢している。
「ま、なんにせよ屋台かぁ。何を作るにしても腕が鳴るわ」
「うん、腕が鳴る」
二乃の言葉に三玖が続く。
まあ、今の三玖の実力であれば何かが起きるってことはないと思うけど…
「最近のあんたの料理も中々だけど、まだ目が離せないところもあるんだから十分注意するのね」
「分かった…」
二乃の言葉に若干不満気の三玖。とはいえ、まだまだ目が離せないのは本当だから仕方がない。まあ、二乃が付いていれば安心かな。
その後も日の出祭に関しての話で盛り上がるのだった。
と言うわけで、このルートでも日の出祭まで来ました。
本当はここまで書くつもりではなかったのですが勢いで来てしまいました。もう少しお付き合いください。
では、また次回も読んでいただければと思います。
よろしくお願いいたします。