「という感じで、日の出祭に向けて今のところ好調に進んでるかな」
「そうですか。一般の人でも当日は参加出来るのですよね?」
「ああ。招待状も作っとくから楽しみにしてるといいよ」
「はい!」
「当日はお母さんとも回れたら良いのですが」
「まあ何にせよ、好調そうで良かったよ」
クラスでの出し物を決める話し合いが行われた当日の夕飯時。今日の話し合いの内容の話をしていた。
今日は一花に加え五月もうちに来ている。何でも塾で分からなかったところがあったので質問に来たそうだ。
その分からなかったところの説明も先程終わらせている。
「今日は二人とも泊まっていきな。一人だったらバイクで送れるけど、二人を乗せることは出来ないからね」
「良いのですか!?ありがとうございます!」
僕の提案に五月は喜びの声をあげている。
「一花はもう慣れたようなものですからね。五月。あなたの着替えもまだ置いてあるのですよね?」
「ええ。しかし、パジャマが…」
「それなら僕のジャージを貸してあげるよ。一花もいつも僕のワイシャツ借りてるしね」
以前風太郎と喧嘩してうちに泊まったときも僕の服を貸してあげたしね。あの時は零奈の機転で母さんのではなくて僕のを貸したんだっけ。懐かしいなぁ。
「助かります。うーーん!それにしてもこのハンバーグ美味しいですぅ。やはり和義君の料理は最高です!」
「だよねぇ。二乃の料理ももちろん美味しいんだけど、やっぱ彼氏の料理ってのが良いよねぇ。愛を感じるよ」
一花が僕の方にウインクしながら僕の料理を誉めてくれるが、また恥ずかしいことを…
「まったく…たまにはあなた達が兄さんに料理を振る舞ったらどうなのですか?ちなみに私は朝食を作ったりしてますよ」
「明日の朝食のお手伝いをします!」
「あはは…私は無理かなぁ」
五月は朝食の手伝いに買って出てくれたが、朝の苦手な一花には難しかったようだ。
「あんま無理しなくて良いんだよ五月」
「無理してやろうとは思ってません。和義君に私が作ったご飯を食べてほしいので」
徐々に声が小さくなりながらもそう言ってくれる五月。
なんだろうその一言だけでも嬉しくなってくる。だからか、今日は隣に座っていた五月の頭を自然に撫でていた。
「か、和義君!?」
「あぁ、ごめんね。嫌だった?」
「い、いえ。むしろ嬉しいというか、もっとしてほしいと思います」
五月の顔は赤く、体も心なしか縮こまっているようだ。
「もしもーし。二人の時間を作らないでほしいんだけどなぁ」
そんな僕達二人をジト目で見ながら一花が口にする。ちなみにジト目なのは零奈も一緒である。
「さ、三人ともハンバーグのお代わりはどうかな?おろしを使った和風ハンバーグも作れるけど」
「うーーん…食べたいんだけど、これ以上だと体型維持がなぁ」
「じゃあ一花の分残ったら私が食べますよ?あ、それとは別にもう一枚お願いします!」
「五月ちゃんはさすがだなぁ。じゃあ、それでお願いカズヨシ君」
「了解。零奈は?」
「私もそこまで食べれないと思いますので、兄さんと二人で分けませんか?」
「了解。じゃあ焼いてくるね」
そう答えてキッチンでハンバーグを焼く作業を行う。
「そういえば、夏休み前にやった模試の結果二人はどうだったの?まあ、カズヨシ君にはもう必要ないかもだけどさ」
「んーー、とりあえず書いた大学は全部A判定だったね」
「また満点ですか?」
「まぁね」
「兄さんは本当に凄いですよね」
満点だったのかという五月の質問に軽く答えると零奈が呆れと驚きの混ざったような反応をしてきた。
「ちなみにフータロー君は?」
「風太郎もA判定だったね。今回は無理しないように言ってやったから、前回の全国模試よりは点数落ちてたけどさ」
「それでもA判定であれば問題ないかと。風太郎さんは慢心などしないでしょうから」
「そうだね。あいつの場合はむしろ無理させないように見張っておく必要があるかな」
ハンバーグをフライパンで焼きながら答える。
うん、もうちょいかな。
「ちなみにあなた達五人はどうだったのですか?」
零奈の言葉にビクッと一花が反応する。
「えっとぉ…私はBでした。和義君からは誉められましたが、まだまだ精進あるのみです」
「再会した時の成績を考えれば物凄い成長です。よく頑張りましたね。五月なら油断をしないでしょうが、これからも頑張るのですよ」
「はいっ!」
五月の結果に満足している零奈は優しく五月に声をかけている。
「それで?」
「え?」
零奈が一花の方を向いて確認する。
「はぁぁ…別に一花は卒業後は女優一本で行くのですから、赤点さえ回避出来れば問題ないですよ」
「ふぅー、良かったぁ。ちなみにD判定でした…」
「まあ、そんなものでしょうね」
「ははは…えっと二乃はBだったかな。自分の実力に見合った大学を選んでたみたいだし。それで、三玖はA判定。まあ、料理の専門学校に行くことを決めちゃってるから意味ないかもだけど、それでも大したもんさ」
「ですね。どこかの長女とは大違いです」
「ブーブー」
零奈の言葉に文句を言っているが、零奈の一睨みで黙った。
「後は、四葉はC判定だね。多分、推薦が貰えると思うから大丈夫だと思うけど、推薦でも筆記はあるからね、そこは僕と風太郎でカバーしていくよ」
「そうですか…」
蒸し焼きにしていたフライパンの蓋を開けると、ジューッと焼けている音と一緒に香ばしい匂いも辺りに広がっている。
「う~ん、美味しそうな匂い…」
「ですねぇ~」
一花と五月のそんな感想を聞きながらテーブルの上に三枚のハンバーグを置く。
「おろしと一緒に大葉を刻んで乗せてるから、後はお好みで特製ポン酢をかけてもらえればいいから。召し上がれ」
「ふー…あむ……うーーん、美味しいぃ……カズヨシ君の料理は美味しいんだけど、食べすぎちゃうところがあるから注意が必要なんだよねぇ」
「分かりますぅ」
「ははは、気に入って貰えて良かったよ。進学を考えてる姉妹については今後ともちゃんとカバーしていくから安心してるといいよ」
「ふふっ、カズヨシ君に任せとけば問題ないね」
「私も兄さんを信用してますので」
「和義君、今後もよろしくお願いします」
そんな感じでその日の夕食は穏やかに流れていった。
ペラ…
その日の夜。もうすぐ日付も変わろうかという時間帯にリビングでは小説をめくる音とノートにペンを走らせる音が響いていた。
五月の勉強に僕は小説を読みながら付き合っている。
「……」
五月は集中しておりほとんど喋らず勉強をしている。
途中何度か質問は受けているが基本的に一人で取り組んでいる。良い集中力だ。
ちなみに零奈と一花はすでに寝ている。
明日も学校があるのでそろそろ僕達も寝た方が良いだろう。
「五月。そろそろキリが良いところで止めとこうか」
「え?あ、もうそんな時間だったんだ。でも、もう少しだけ…」
止めるように言っているが、五月はまだまだ続けたいようである。
「まあ、気持ちは分からんでもないけど明日も学校なんだから今日はここまでにしときな。休息を取ることも大事だよ」
「うん…」
僕の言葉に納得はしていないものの返事をしてくれた。
またすぐにやっぱりやりたいと言ってこないように片付けを開始する。
「あの…和義君…」
「ん?やっぱりもう少しは駄目だよ」
「そうじゃなくて…!今日は一緒に寝ちゃダメかな?」
頬を赤くしながら答える五月。可愛い。思わず見惚れてしまうほどに。 僕の反応がないことで不安になったのかうるうるした上目遣いになっている。破壊力がすごい。
「はぁぁ…良いよ」
「やった!」
小さくガッツポーズをする姿は微笑ましいがこの可愛さは罪だと思う。こんな子にお願いされたら断るなんてできないだろう。
五月につられて顔の熱さが伝染するのを感じながら僕達は部屋に向かった。
「狭くない?」
「大丈夫。むしろくっついて寝られるから」
布団の中で五月に問いかけるが本人はご機嫌である。
電気は既に消して部屋の中は真っ暗であるがカーテンからはわずかに月明かりが入り込んでいるためお互いの顔を確認することはできるくらいには明るい。
五月と一緒にベッドに入り向かい合って横になる体勢となっている。
五月は僕より頭ひとつ分ほど小さいため腕枕をする必要はなく添い寝をしている形に近い。
女の子特有の甘い匂いや吐息がかかり少しドキドキするが不思議と嫌ではなく心地よい感覚に陥る。
しばらく沈黙が続くがそれを破ったのは五月からだった。
「ねぇ、どうして一緒に寝てくれたの?」
「うーん。正直最初は戸惑ったし緊張したんだけどね。五月の様子を見てたら断りづらくて……」
断って落ち込まれるのを見る方が辛かったというわけだ。
「そっか。ありがとう」
ふっと優しく笑う五月はとても嬉しそうだ。きっとお礼を言いたかっただけで別に理由とかはないと思う。でも、改めて感謝されるというのは悪い気はしないものである。自然とこちらも笑顔になっていたようだ。
「ねえ、キス…してもいいかな?」
「……五月が望むのであれば」
五月の申し出に俺は迷うことなく答える。
「ふふっ……ありがと♪」
そう言うと五月は俺の首の後ろに手を回すとそのまま唇を重ねてきた。
「んっ……」
唇と唇が触れあうだけのキス。それだけでも顔が熱くなってくる。
「ねえ、もう一回…」
五月はそう言うと僕の言葉も聞かず唇を重ねてきた。
「ちゅっ……れろぉ……んぅっ……」
「んむっ……!?」
舌を絡ませてくる濃厚なキスだ。正直言って気持ちいい……。
「ぷぁっ……はぁ……はぁ……」
そして、五月の方からゆっくりと口を離す。お互いの口から唾液の糸が伸びて切れた。
「ふうっ……どうだった?私のキス」
五月の顔を見るとほんのりと赤く染まっていた。きっと僕の顔も同じくらい赤いだろう。
「その……すごく良かったです……」
「そっか!ならよかったよ!」
そう言って笑う五月はとても可愛かった。
「まさか五月からこんな濃厚なキスをされるなんてね」
「うぅ~……それは言わないでぇ~……」
恥ずかしくなったのか、五月は僕の胸に自身の顔を埋めてしまった。
「ははは、ごめんって。僕は嬉しかったから」
「本当?」
「ああ…」
こちらを見ているものの、五月の心配そうな声に頭を撫でながら答えてあげた。
「えへへ…よかったぁ。色々と勉強の成果が出たみたい」
あの五月が恋愛について勉強してくれたなんて。調べながら顔を赤くしているところを想像してしまい、ちょっと可笑しくなってしまった。
けどそれ以上に愛おしさが勝り感謝の意を込めて五月のおでこにキスをする。
「ありがとう五月。大好きだよ」
「うん、私も…大好き…」
その後は何も会話することなくお互いに抱き合いながら静かに眠りについた。
翌朝。
「すぅ…すぅ…」
五月はまだ眠っているようで起きる気配がない。幸せそうな表情なので起こすのは忍びないが学校があるのだ仕方がない。
肩を叩きつつ呼びかける。
「五月…そろそろ起きようか」
ゆっくりと目を開けたかと思ったらすぐに閉じてしまいまた夢の世界へ旅立とうとしているようだ。まだ意識が完全に覚醒しきっていないのだろう。
だがそれも一瞬のことでありすぐにパッチリ目が開いた。朝に強いタイプなのかシャキッとした様子である。ただ、今は目の前にある僕の胸に顔を押し付けてくるのはなんでだろう?
「えっと……どうした?」
困惑しつつ問いかけるが答えてくれる様子はない。とりあえず好きにさせておこうと思い頭を撫でていると徐々に離れていった。そのまま体を起こす五月をぼーっと眺めているとその動きがピタッと止まった。視線を下ろすとそこには僕の右手が握られていた。いつの間に手を握っていたのか分からない。
「あ!ごめん!」
五月自身もかなり驚いているらしく急いで手を離したが顔が赤い。照れ隠しだろうか?自分の頬を触り誤魔化すように口を開く。
「おはよう……ございます」
挨拶の声が小さくなっていっていることから動揺している様子がよく分かる。
「うん、おはよ……じゃあそろそろ下に降りようか。朝食、作ってくれるんでしょ?」
そう言って立ち上がる僕を見上げる五月の顔は少し残念そうであるがそれを悟られないようにするためすぐに立ち上がって部屋から出て行った。階段を降りる足音が聞こえたので支度のために客間に向かうのだろう。僕もすぐに支度をしてリビングに向かうことにした。
五月と共にリビングに入るがまだ誰も来ていないようだ。僕もすぐにキッチンの方に向かい料理を作る準備を始めた。今日はパン食ということでトーストを焼いて卵をスクランブルエッグにするだけだ。あとはハムなどがあれば簡単に作れるメニューだ。
五月に指示を出しつつ準備を進めていく。
「あら……おはようございます」
そこに零奈が起きてリビングまで降りてきた。
「おはよう零奈」
「おはようございます、お母さん」
「ふふっ、きちんと有言実行していますね」
五月が料理している姿に満足げな零奈は挨拶を済ますと席に着いた。
その零奈の前に朝食を並べていく。トーストにスクランブルエッグ、ハム。そこに牛乳を置けば今日の朝食の完成だ。
「では一花を起こしてきますね」
そう言って制服姿でエプロンをしていた五月が、エプロンを外し、そのエプロンを椅子に掛け客間に向かった。
なぜだろう。その姿を見るだけでも幸せを感じる。俺の彼女はなんていい子なんだと。こんな可愛い彼女がいて俺は本当に恵まれていると思う。
「ふぁ~あ……みんな……おはよぉ……」
しばらくして眠そうに大きな欠伸をしながら一花が現れた。ワイシャツ姿というラフすぎる格好であるものの彼女のスタイルの良さから、その恰好すらオシャレに見えるほど絵になっている。これが女優の実力ということか……。
「じゃあ!皆揃ったし食べようか!」
4人で『いただきます』と挨拶をし朝食を食べ始める。
「それで昨日は何時まで起きてたの?」
「12時前には勉強を終わらせたよ」
「そうだったんだ。五月ちゃんが布団に入ったの全然気づかなかったよぉ」
一花のそんな言葉にドキッとした。なんせ五月は客間ではなく僕の部屋で寝てたのだから。
「一花はぐっすりでしたからね。気づかなかったのでは?」
平然とトーストを食べながらそう伝える五月。五月の中では昨晩の事は秘密にしたいようだ。
「ふぅ~ん、まあそう言うことにしとこうかな」
どこか意味深な言い方をする一花。結構感づきやすいからな。まあバレても怒ることはないだろう。ただ僕としては隠し通せるならそれに越したことは無いのだが……。
その後他愛もない会話を続けつつ朝食を終えると学校に向かう準備を始めることにした。
「じゃあそろそろ行くとしますか」
食器の後片付けも五月に手伝ってもらいながら終わり僕は玄関へと向かった。するとそこには既に支度を終えた3人が待っていた。
「一花は今日も朝からなんだね」
「まぁ~ねぇ」
一花は満面の笑みを浮かべる。
「それじゃ行きますか」
いつものように零奈の手を握り家を出る。いつもと違うと言えば一花と五月が一緒にいることだろう。
途中零奈といつものところで別れ、電車の一花とは駅で別れた。今は五月と二人っきりでの登校である。
「なんかこういうのもいいよね」
照れくさそうな表情を見せながらも嬉しそうに呟く五月を見て思わず顔が綻ぶ。
「そうだね。本当は手を繋いだりしてあげたいんだけど」
今はまだ付き合っていることは隠している状態なので、外で手を繋ぐことはできないのだ。
「大丈夫だよ。私は気にしてないから」
優しい笑顔を見せる五月。そんな彼女に少し申し訳ない気持ちになる。いつか堂々と手を繋いで歩ける日が来るといいなと思いながら歩いていると風太郎の後ろ姿を発見した。
「あれ?上杉君じゃない?」
「ホントだ。相変わらずの参考書読みながらのスタイル」
五月の言葉に相槌を打ちながら近づいていく。
「おはようございます」
「おはよ風太郎」
「おお、お前らか。おはよう」
風太郎はこちらを振り向かずに挨拶だけ返してきた。
「相変わらず本を読みながら歩いて。本当にいつか怪我しますよ?」
呆れたように注意する五月。
「うるせぇ。俺はこのスタイルで慣れてるんだ」
「まったく……あなたという人は……」
五月と僕はやれやれといった様子で肩をすくめる。そして僕らはそのまま歩き始めた。
「そういえば、今日は五つ子が揃ってないんだな」
「ああ。昨日、一花と五月がうちに泊まったからね。で、一花とは駅で別れたんだよ」
「なるほどな」
「風太郎は?四葉と一緒に登校とかしないの?」
「ああ、とくにそういった約束はしてないな」
「へえー」
「受験で忙しいとは思いますが、もう少し四葉と過ごす時間を増やしたらどうです?」
「放課後は毎日勉強見てるだろ」
そう言うことじゃないんだが…五月と目を合わせて何言っても無駄だと悟った僕らは、はぁぁとため息をつくのだった。
それから他愛のない話を続けているうちに学校にたどり着いた。校門を抜け昇降口で靴を履き替えてると何かいつも以上に視線を感じた。いや、最近は減っていたのでちょっと前に戻ったと言うべきか?
そんな風に考えながらキョロキョロ辺りを見ていると風太郎に声をかけられた。
「どうした?」
「いや、朝から視線を感じるなと思ってね」
「ふむ…」
僕の言葉に風太郎も辺りを見回す。
「いつものか?」
「多分…けど何でこの時期に?」
「そいつは俺の管轄外だ」
「だよねぇ。前田と武田あたりに聞いてみるかな」
そして、五月にはこの事を話さず自分達の教室に向かうのだった。
今回は五月回を意識して書かせていただきました。
今回のような甘々なシーンも今後書ければなと思っています。
日の出祭のお話に入ってからほとんど進んでいませんが、お付き合いください。
それでは次回も読んでいただければと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。