~桜side~
「おはよう諏訪さん」
桜が自席で登校後の準備をしているとクラスメイトの二人から声をかけられた。
「おはようございます。小林さん、川瀬さん」
桜はクラスメイトとの交流も順調にいっているようである。
「おはよー!」
「ふふふ、川瀬さんは朝からお元気ですね」
「あははは、まあ元気なのが私の取り柄だしね」
そう言って川瀬は頭に両手を持ってきて笑っている。
席も近いこともあり桜はこの二人とよく話をしているのだ。
「それより聞いた?別のクラスの子なんだけど、また直江先輩に告白したらしいよ」
「またぁ~?どうせ振られたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね」
噂好きの小林が先日和義に告白した子がいることを嗅ぎ付け二人に話す。この光景は結構な日常茶飯事になっている。
「でも凄くない?入学してからもう何度めかって話だよ!やっぱり格好いいよね~直江先輩って」
「うんうん、私も思う。頭が良くて、それにスポーツ万能なんだっけ?」
「そうみたいだね。なんでも帰宅部なのに50メートル走をもう少しで6秒切るかだったらしいよ」
「うわぁ……それ本当に超人じゃない」
「確かに超人かもねぇ」
和義の話になり盛り上がる二人。それを桜はただ聞いているだけだ。
(和義さんはまた告白されたのですね。和義さんの彼女の一人にしていただいた身ではありますが、やはり気が気ではないですね)
「ねえねえ諏訪さん、直江先輩の好みとか知らないの?」
「えっと……すみません、私は存じ上げておりません」
「そっかぁ残念」
桜としては和義の話しはしたい。だがそれは出来ない。なぜなら桜自身が和義の彼女だからである。しかしそれを言うわけにはいかないのだ。
「そういえばさ、諏訪さんの好きな人って直江先輩だよね?」
「ふぇ!?」
唐突にそんな事を言われ驚きの声を上げる桜。
「夏休みの前に気になる人がいるって言ってたじゃん。でも、諏訪さんが男子と話してるとこ見たことないし…それに前から直江先輩と一緒にいるところも見てるしでバレバレだよ」
「そ、そうですか……」
まさか気付かれているとは思っていなかった桜は顔を真っ赤にして俯いている。その反応を見て二人は更に続ける。
「ねえねえ、どんなところが好きなの?」
「えっと……優しいところです」
恥ずかしながら答える桜。
「へー意外と普通なんだね」
「はい、ですがその普通の事がとても素敵なんです」
嬉しそうに語る桜。
「なるほどねー」
「桜ちゃんの今の顔、可愛い~」
「やめてください」
興味津々といった感じの二人。桜本人としては恥ずかしい限りで、顔を真っ赤にして抗議している。そんな桜が可愛く、川瀬は桜に抱きつき頬をすりすりしている。
以前、あーんなどを教えたのはこの二人である。
「あ、でももう一つ直江先輩のことで噂聞いたんだった」
そんな小林の言葉に川瀬も動きを止めた。
「何?まだ告白した人がいるの?」
「そうじゃなくて…!えっと……」
小林はそこで言葉を切って桜を見た。目が合った桜は分からず首をかしげた。
「これはあくまでも噂の段階なんだけど…実は直江先輩には彼女がいるんじゃないかって…」
こそこそ話をするかのように、小林は口に手を添えて二人にそう話した。
「えーー!うそー!」
「……っ!」
川瀬は驚きの声をあげた。桜も驚きは隠せず目を見開いている。
「いやいや、だって今まで恋愛に興味を持てないって告白を断ってきてたんでしょ?それがなんで急に彼女が出来たりするの!?」
「私だって分かんないよ。でも、この間告って断られた子が言うには、『大切に想う人がいるから君の想いには応えられない』て言われたって」
「うわぁーガチじゃん」
(うーー、その大切に想う人というのは
両手を口で覆い嬉しさを隠そうとしている桜。しかしその行動を二人はショックを受けているように見えてしまっている。
「す、諏訪さん……ほら!まだ噂の段階なんだしさ」
「そうだよ!まだ桜ちゃんにもチャンスはあるって」
「あ…」
必死にフォローをしてくれる二人に申し訳なく思う桜。
(本当はお二人にお伝えしたい。
そう桜は自分に言い聞かせて口を開いた。
「和義さん程の御方ですもの。彼女がいてもおかしくはないかと思いますよ」
ニッコリと笑って桜は答えたため二人はほっと胸を撫で下ろした。
「ちなみに彼女が誰なのかは分かってるの?」
「う~~ん、中野先輩の誰かだって言ってるよ」
「あー、あの五つ子の?」
「そうそう!告白した子が言うにはさぁ」
桜が大丈夫そうだと分かるや否やまた二人は和義の話で盛り上りだした。
「告白のために声をかける時に二人で仲良く話してたのを見たんだって。その時は告白することで頭がいっぱいだったからそこまで気にしなかったみたいだけどね。なんか、『二人のペースでやっていこう』とか『学園祭は二人で回ろう』みたいなことを話してるのを聞いた子もいるみたいだよ」
「うわぁー、それもう当たりじゃん!」
「だよね!ただ、目撃した子は先輩たちの見分けが出来なかったみたいでどの人かまでは分かんなかったって…」
「いやー、見分けられる人っているの?」
二人が盛り上がっているところで桜はふと考えた。
(中野さん達の見分けですか…
「そういえばリボンをしてたって私は聞いたな」
「リボンですか…」
川瀬の言葉に桜が反応する。その言葉に小林が更に反応した。
「何々?それで誰か分かっちゃうの諏訪さんは」
「そういえば、桜ちゃんは中野先輩たちとも仲良かったよね?」
食いぎみにくる二人。その二人の目はキラキラしていた。
「リボンだけでは特定することは難しいですよ。リボンをされてるのはお二人いらっしゃるので…」
ちょっと引きぎみに桜は答えた。
「二人に絞れるだけでもすごいじゃん!ねえ、誰と誰?」
桜の答えに更に前のめりになってくる二人。この二人を止めることを桜には出来そうになかった。
「二乃さんと四葉さんです。このお二人がリボンをされてます」
「ふ~ん、二乃先輩と」
「四葉先輩かぁ」
桜の答えを聞けたことに納得した二人は桜から離れそれぞれの名前を口にする。
(はぁぁ…申し訳ありません。
どっちだろう、と二人で騒いでいる横で一人冷静な中闘志も燃やしている桜であった。
放課後。午前中にあった授業で回収したノートを返却してほしいと職員室に呼ばれていた。今はそのノートを持って教室に戻っているところだ。
「なんで今日返却するのかねぇ。皆帰ってるから次の授業の時でも良いじゃん」
「まあまあ。先生にも考えがあるんですよ」
同じ学級長である四葉が一緒にノートを運びながら隣で僕を宥めている。
ノートくらいであれば僕一人でも良かったのだが、自分も学級長だと一緒に残ってくれたのだ。
「ここまで来といてなんだけど、本当に残ってくれて良かったの?これくらい僕一人でも良かったのに」
「いえいえ。私だって学級長なんですから、このくらいやりますよ。それより、もう少し私が持ってもよかったのですが」
四葉は両手に抱えるようにしてノートを持っている僕を見つめながら申し訳なさそうに声をかけてきた。
僕が全体の三分の二。四葉が三分の一を持っているので聞いてきたのだろう。
「半分ずつでもよかったんですよ?」
「これくらい平気だよ。ま、男として見栄張らせてよ」
そんな四葉に今自分が持っているノートの束を軽く上げながら答えた。
「なんか直江さんといると調子が狂ってくるんですよね。直江さんは私のこと女の子扱いしてくるので」
「何言ってんの。四葉は可愛い女の子でしょ」
「か、可愛っ……もう、からかわないでくださいよ!」
「ばれたか」
そんな感じで僕は四葉をからかいながら廊下を歩く。そして、歩きながら最近の視線について考えていた。
休憩時間に前田と武田に相談をしてみたが二人も原因について分からないとのことだった。
『学祭が近いから一緒に回りたいって奴が増えてんじゃないのか?なんか言っててムカついてきたぜ』
『まあまあ。前田君の言う通りかもしれないよ。気にしない方がいいさ』
そんな風に二人からは言われた。
言われてみれば日の出祭が近いから皆ソワソワしているのかもしれない。やはり考えすぎなのだろうか。
そんな風に考えていると教室に着いたのでノートを机の上に配っていった。
「さてと。今日は放課後の勉強会はないんだっけ?」
「はい!上杉さんはバイトだそうです」
「そっか………ついでと言ってはなんだけど、少しだけ勉強見ていこうか?」
「いいんですか?」
「今日はこれといった用事もないし、四葉さえ良ければね」
「じゃあお願いします!」
やる気満々な四葉は敬礼ポーズで答えた。そんな四葉と図書室に向かう。四葉と二人で勉強なんて、そういえばそんなになかったかもな。
「あー、そこ綴り間違ってるよ」
「へ!?す、すみません」
「うーん…今更だけど四葉にも作ってあげるか」
「?」
鞄の中から目当てのもの探す。
たしか入れてたと思うんだけど……あー、あったあった。
「直江さん?」
「ごめんごめん。ちょっと僕も今から作業に取りかかるから、今のところ出来たり分からなかったら声かけて」
「わ、分かりました…」
そんなこんなで自分の作業をしつつ四葉の勉強を見る。
それを続けてしばらくして。
「出来た!はい四葉」
作業していたものが完成したのでそれを四葉に渡した。
「これって、よく風太郎君が見てる単語帳…」
「そ。四葉は単語の綴りや漢字がどうも苦手っぽいからそれを空いた時間とかで見て覚えるといいよ。いやー、風太郎にも作ってたから途中から懐かしく感じたなぁ」
「風太郎君にも作ってたんですか?」
「ああ。中学の途中までね。それからは自分で作ってるよ」
そんな時、四葉が自分の鞄の中を探しだした。そして一つの単語帳を出したのだ。
「あれ、単語帳持ってたんだ」
「これは、林間学校の後に風太郎君とデートした時に貰ったものです。内容は当時のらいはちゃんの為に作ったものだからか小学生の範囲なんですけどね。でも、その時からこうやって持ち歩いてます」
その時の事を思い出しているのか少し懐かしそうな顔を四葉はしている。
「余計なことだったかな?」
「いえ!これはありがたく使わせてもらいますね」
僕が作った単語帳を少し掲げて四葉は答えてくれた。
「ふーん…なら遠慮なく作らせてもらうね」
「へ?」
「まさかそれ一つで終わりと思ってた?甘い!甘いよ四葉。それ一つで足りるわけないじゃん。まだまだ作るから、それを使って自習頑張ってね」
「たまに直江さんって風太郎君より恐ろしいって思います……」
ニッコリと笑顔で伝える僕に対して、引きずった笑顔で答える四葉であった。
「ただいまー……ん?」
四葉との二人の勉強会を終え帰宅したのだが良い匂いが家全体に広がっていた。
パタパタ…
零奈が作ってるのだろうか。そんな風に思っていたら意外な人物に出迎えられた。
「和義さん!……おかえりなさいませ」
エプロン姿の桜が早足で玄関まで来るや正座で三つ指を付き深々と頭を下げてきた。さながら夫を迎える妻のようだ。
「えっと……桜、ただいま」
「お荷物お預かりしますね」
僕の返答があるとすぐにスクッと立ち上がり僕の方に両手を差し出してきた。
「いやいや、大丈夫だよ。このまま部屋に行くし」
「遠慮なさらずともお部屋までお持ちしますよ?」
「気持ちは嬉しいけど大丈夫。それより良い匂いがしてるからご飯を作ってくれてるんじゃない?そっちに戻って良いよ」
「そうですか…では、お言葉に甘えてそちらに戻らせていただきますね。夕飯はもう少々掛かりますので、先にお風呂をどうぞ」
「あ、ああ…」
僕にお風呂を勧めた桜はニコッと笑ってそのままキッチンに向かう。そんな桜を呆然と見送るしかなかった。
今回は桜のクラスでのちょっとしたやり取りを書かせてもらいました。
今回出てきた二人の女子は今後ももしかしたら出るかもしれません。(出ないかもしれませんが…)
最近、桜にスポットが当たってなかったので今回のように書かせてもらいましたが、こっちを立てるとあっちが立たないみたいな形になっちゃいますね。現に最近では三玖の出番が少ないように感じます…
同時にスポットが当たるように同時に登場させたりなどしていければと考えてはおります。
では、また次回の投稿も読んでいただければと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。