五等分の奇跡   作:吉月和玖

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ビデオチャット

「はい、あーん」

「あ…あーん……あむっ」

 

お風呂を終えてリビングに向かうと、テーブルには筑前煮を中心とした桜が得意な和食料理が並べられており、零奈も配膳などの手伝いをしていた。

そして今は隣に座っている桜から食事を食べさせてもらっている。どうやら『あーん』を気に入ったようだ。

 

「ふふっ、どうですか?美味しく出来たと思うのですが」

「勿論美味しいよ。食が進むね。ほら桜も食べな」

「はい!」

 

僕の言葉もあり桜も食べ始めたので僕も自分自身で食事を始めた。

 

「それにしても驚きました。急に私の携帯に連絡があるかと思えば玄関のチャイムがなり、玄関開けると黒塗りの車を後ろに桜さんが立っているんですもの」

 

目の前の零奈がご飯を食べながら桜が来たときの経緯を話しだした。

 

「すみません。思い立ったが吉日と申しますか…五月さんから和義さんの家にお泊まりしたことを聞いたのでいても立ってもいられなかったのです」

「娘達の行動力も大概だと思いましたが、桜さんの行動力も同じようなものですね。まあ、こうやって美味しいご飯の用意をしていただいたのには感謝していますが」

「ふふふ、お口に合ったようで何よりです」

 

料理の味を誉められた桜は嬉しそうである。

 

「それで?今日は泊まっていくの?」

「はい。両親からも許可を得られましたので」

 

そりゃ許可が得られたから家の車で送ってもらったんだろうね。

 

「まあ親御さんの許可が得られてるなら僕からは何も言わないよ」

「ありがとうございます!」

 

僕の許可に笑顔で桜は答える。そんな桜の食はどんどん進んでいる。

 

「あ、そうです。和義さんに聞きたいことがあったのでした」

「僕に?」

 

急に思い出したかのように箸を止めて桜はこちらを見てきた。

 

「そうです。酷いじゃないですか!二乃さんにだけ日の出祭を一緒に回ろうって話してるなんて!(わたくし)だって和義さんの彼女なのですから、一緒に回る権利があると思います」

「?」

 

何の話をしているのだろうか?僕が二乃にだけ日の出祭を一緒に回ろうと話をしている?

 

「ごめん。何の事?」

(どぼ)けないでください。その現場を見たという方がいらっしゃるのです」

 

凄い剣幕で詰め寄ってくる桜。かといって本当に心当たりがないのだ。

 

「いやいや、本当に心当たりがないんだって。二乃と、ましてや学校でそんな話してないよ」

「ふむ…兄さんのその態度。兄さんが言っている事は本当のようですね」

「零奈ぁ~…」

 

そこに零奈が助け船を出してくれた。

 

「桜さん。本当に兄さんと二乃が日の出祭を一緒に回る話をしていたのを見た方がいらっしゃったんですか?」

「それは…(わたくし)もクラスの友人から聞きましたので何とも…しかし、和義さんは学校では有名な方ですから見間違いはないかと」

「と言われてもなぁ…」

 

身に覚えがないのだからしょうがない。

 

「……桜さんはどんな風にお話をご友人から聞いたのですか?」

「えっと…和義さんが中野さんのどなたかと『二人のペースでやっていこう』、『日の出祭を一緒に回ろう』と話しているのを見た方がいると」

「?二乃ではないのですか?」

「見た方は中野さんと分かったそうなのですが、五人のうち誰かまでは分からなかったそうです。五つ子のお話は一年生の間でも有名ですから」

 

なるほど。五つ子も有名人だからな。一花に関しては女優ってことでもっと有名だろうし。

 

「じゃあ、なんで二乃なの?」

「それは…見た方の証言ではその中野さんはリボンをしていたと。それでリボンをしていてそのようなお話をするのは二乃さんだと思ったのです」

「なるほど」

 

僕の質問に桜が答え、それに納得の声を零奈があげた。

 

「しっかし、やっぱり覚えがないんだよなぁ…とは言え、皆とは回りたいって思ってたからちょうど良かったかも」

「本当ですか!?」

「ああ。時間が合えば回ろうよ」

「やりました!」

 

僕の言葉に小さなガッツポーズをする桜。これくらいの事でここまで喜んでくれるのは嬉しく思う。

 

「兄さん、私とも回ってくれますか?」

「最初からそのつもりだったから問題ないよ」

「ふふふ、兄さんならそう言ってくれると思ってました」

 

零奈も僕の言葉に上機嫌である。

そんな感じで、今日の夕飯は終始穏やかな時間が過ぎていった。

 


 

『それにしても、まさか桜がカズ君の家に泊まるとはね』

『桜は行動力があるから…』

 

現在、桜と零奈が一緒にお風呂に入っている。そんな時にビデオチャットで話さないかと連絡が来たので自室で五つ子と話しているところだ。

 

『まさか私の和義君の家に泊まったという言葉でそこまで行動を起こされるなんて…』

『まあお泊まりしたのは五月ちゃんだけじゃないんだから、そこまで五月ちゃんが気にしなくて良いと思うよ』

「うちとしては泊まる分には全然反対とかは無いんだけどね」

『なら次は私が行く』

『言うと思ったわよ』

 

僕の言葉に素早い反応を示した三玖に対して二乃がツッコミを入れた。

 

『私だってカズ君の家に泊まりたいわよ。ただそうすると一つ懸念点が出てくるのよねぇ…』

『懸念点って何?』

 

二乃の言葉に四葉が反応した。

 

『ご飯よ。誰が作んのよ』

『由々しき問題です!』

 

五月……

 

『う~ん…私は直江さんやお母さんにお菓子作り習ったけど、あくまでも一緒にいる状態だったしなぁ…』

『私も同じようなものです。恥ずかしながら一人で作る自信はありません』

『かといって三玖もまだまだ安心できないわ』

『むー…』

 

二乃の言葉に三玖から不満げな声が漏れている。

 

『うーん…いっそうカズヨシ君がうちに泊まるとか。なぁーんてね』

『『『……っ』』』

 

一花の何気ない言葉に二乃と三玖と五月は意表を突かれた顔をしている。

 

『それよ!』

「なんか、そんな気はしてたよ…」

『いいじゃない。去年だって勉強会で泊まってたんだし』

 

そんな二乃の言葉に懐かしさを感じる。

 

「懐かしいね。あの頃の二乃は泊まるのに反対してたもんだ」

『そ…そんなこともあったわね…』

『カズヨシとお母さんがうちに泊まるのにとくに反対はない』

『私も問題ないですよ!』

 

三玖の言葉に四葉が元気に答えている。

 

「もう行く前提なんだ…」

『いいじゃん。たまには逆になってもいいと思うよ』

「はいはい。とりあえず零奈にも聞いてみるよ」

『ふふふ。楽しみね』

 

まだ行くかも分からないのに気が早い。まあ零奈は反対しないだろう。

 

『それにしてもこのビデオチャット、良いものですね』

『うん。電話もいいけどこうやってカズヨシの顔を見ながら話せるのが嬉しい』

「そっか。気に入ってもらえたみたいで良かったよ」

 

五月と三玖の反応から好印象が取れているようだ。勧めて良かったかな。

 

『これってスマホからもできるんだよね?』

「ああ。専用アプリをダウンロードすればスマホとパソコンでもやり取り出来るよ」

 

一花の質問に答えてあげる。

 

『じゃあ仕事で外泊した時でも使えるね』

『本当は上杉さんでも使えたらよかったのですが…』

 

少し寂しそうな顔で四葉が口にした。そう、このビデオチャットは風太郎には教えていない。なぜなら…

 

「こればっかりはね。風太郎の携帯だと利用出来ないし」

『できたところであの人のことです。きっと勉強中だと出てくれませんよ』

『あはは、それもそうだね』

 

五月の冗談じみた言葉に四葉が笑いながら同意した。悲しいかな、僕も同意せざるを得ない。

その後少しだけ話してからその日のビデオチャットは終わるのだった。

 

ビデオチャットを終えた僕はリビングまで降りてきた。そこにはお風呂上がりの零奈と桜の姿があった。

桜がソファーに座りその膝の上に零奈が座っている。どうやら零奈の髪を桜が櫛で()いてあげているようだ。その光景は、さながら母が娘の髪を手入れしているといったもので絵になっている。

 

「……あら?和義さん。自室にでもいらっしゃったんですか?」

 

ボーッとその光景を見ていたら桜が僕の存在に気づいたようだ。ニッコリと微笑みながらこちらを見ている。

 

「ああ。五つ子とビデオチャットをしてたんだよ」

「あら。私達抜きで随分楽しまれていたのですね」

 

髪を()いてもらっている零奈は目線だけこちらを見ながら口にしている。

 

「たまたまだよ」

「どんなお話をされていたんですか?」

「今日の桜がうちに泊まることについてだよ。三玖なんか次は自分が泊まるって息巻いてたよ」

「ふふふ、三玖さんらしいですね」

「まったく、あの子達ときたら…」

 

前を向きながら呆れぎみに零奈は言う。

僕はそんな中桜の隣に座る。

 

「悪いね桜。零奈の面倒見てもらって」

「いえ、好きでやっているので。零奈ちゃんは大人しく座ってくれるのでやりやすいです」

 

まあ普通の小学生と違って中身は大人だからね。

 

「どう零奈?気持ちいいかい?」

「ええ。兄さんと同じくらい気持ちいいですよ」

「あら?和義さんが普段されてるんですね」

「まあ、最近はね。前までは母さんがやってたんだけど両親が海外に行ってからは僕がやってるよ」

 

人の髪を()くのは難しいもので、最初は悪戦苦闘したものだ。

 

「では、(わたくし)の髪を()いていただけませんか?」

「桜の?」

「はい。零奈ちゃんの話を聞いているとしていただきたく思ってきました。駄目でしょうか…?」

 

手を止めてこちらに顔を向け聞いてくる桜。

女性はあまり他の人に髪を触られたくないと聞くが、まあ本人が良いと言うのなら良いのだろう。

 

「分かったよ。向こうを向いてくれる」

 

零奈の髪を()くのに使っていた櫛を預かりながらこちらに頭を向けるように指示を出す。

零奈は桜の膝の上から降りると僕の隣に座ってこちらの様子を見ている。

 

「それじゃあいくよ?………どう?痛くない?」

「はい。とても気持ちいいです。毎日してもらっている零奈ちゃんが羨ましいですね」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。それにしても綺麗な髪だね。髪も長いし手入れ大変じゃない」

「そうですね。確かに手入れは大変ではありますが、最近ではそれも苦ではないと思えてます」

「そうなの?」

「はい。こうやって和義さんに綺麗だって誉めてもらえて嬉しく思いますから」

「そっか…」

 

ふふふ、と笑いながら言われると少し照れてしまう。

 

「そういえば桜って寝る時も和装なんだね」

 

目の前の桜は白い着物のような姿でいる。

 

「ええ。これは長襦袢(ながじばん)と言うのですよ」

「へぇー、聞いたことないけどやっぱり桜は和装が似合うよね」

「和義さんに気に入ってもらえたのなら良かったです」

 

実際に桜の後ろ姿を見ているとドキッとするのだから少し困ってしまう。

 

「よし!こんなものかな」

「ありがとうございます。零奈ちゃんのお墨付きなだけありお上手でした」

「そっか。桜にそう言ってもらえるなら自信になるかな」

 

まっすぐ座り直した桜に櫛を返しながら伝える。

そうすると桜は寄り添うように僕の肩に頭を乗せてきた。

 

「桜?」

「少しだけこのままでいさせてください」

「分かったよ」

 

そう返事をしながら桜の肩に腕を回した。

 

「では私も」

 

それを見ていたら零奈は自分の体を僕に預けてきた。

 

「はいはい」

 

もう片方の腕で零奈を抱き寄せるように肩を抱く。

そんな状態でしばらくの間三人で語らった。そして、結局今日も三人で客間で寝ることになったのだった。

 


 

~風太郎side~

 

昼休み。風太郎はトイレから教室に戻っていた。

 

「ねえねえ、上杉君」

「ん?」

 

そこへ風太郎には珍しく女子生徒三人組が話しかけてきたのだ。

 

(……誰だ?いや、待て。たしか同じクラスの奴だったような)

 

風太郎は話しかけてきた女子生徒たちが誰なのか考えているが、そんなのお構いなしに話が進む。

 

「上杉君って、直江君と中野さんたちと仲いいよね?」

「ん?まあ、そうだな」

 

風太郎は答えるも『やっぱりー』や『本当に聞くの?』などと小さな声ではしゃいでいる。

 

(何なんだ……)

「何もないなら行くぞ」

「待って待って。上杉君に聞きたいことがあるの」

「俺に?」

「実は直江君に関する噂があって、それが本当なのか聞きたくて」

「和義の?」

「うん。あのね………」

 


 

~二乃side~

 

時は同じく。

二乃は二年生の頃からの友人と廊下で話していた。

 

「そういえば二乃って直江君と仲いいよね」

「何よ急に。普通よ、普通」

「えー、そんなことないでしょ。直江君から友達だって言われてるくらいだしさ」

「ま、まぁね」

(本当は付き合ってんだけどね。しかも他に四人と同時に…)

 

心の中でそう呟きながら二乃は自分のスマホをいじっている。

 

「じゃあ二乃はこの噂知ってる?」

「噂?」

「そうそう直江君に関する話なんだけどさぁ」

(カズ君の?なにかしら)

「実は………」

 


 

~三玖・五月side~

 

こちらも時を同じくして。

三玖と四葉と五月の三人でお昼を食堂で食べていたのだが、途中四葉は学級長の仕事のため抜けていた。今は三玖と五月でゆっくりしているところだ。

 

「四葉も学級長の仕事、大変みたいですね」

「うん。四葉が忙しいってことはカズヨシもだね」

「はぁぁ…これだけ一緒にいることが多いのであれば、学級長やってみたかったです」

「だね…まあ、私はみんなの前に立つのはちょっと遠慮したいけど」

 

そんな風に他愛もない話をしていると女子生徒が二人に声を掛けてきた。

 

「おーい、三玖ちゃーん。五月ちゃーん」

 

同じクラスの椿である。ミディアムにちょこんとサイドテールの髪型なのが彼女の特徴である。

 

「ねえねえ。二人って直江君と仲いいよね?」

「え……」

「ま、まあ仲は良いと思いますよ」

 

二人は自分たちの関係がばれたのではないかと思い、少し焦ってしまった。しかし、そういうわけではないようである。

 

「じゃあさぁ、あの噂の真相とか知ってたりしないかなぁ?」

「噂ですか?」

 

五月が何のことだろうと思いながら口にするが、三玖もその噂について何も知らない。なので、首をかしげている。

 

「あれ?直江君の噂だから二人とも知ってたと思ったよ。噂っていうのはね………」

 


 

~桜side~

 

こちらもこちらで時を同じくして。

桜はお昼を食べ終わったので自席で次の授業の予習をしようと勉強道具を出そうとしていた。

 

「さっくらちゃーん」

 

そんなところに小林を連れた川瀬が声を掛けながら桜に抱きついてきた。

 

「…っと。川瀬さん危ないですよ」

「あはは」

「諏訪さんは休み時間も勉強?」

「ええ。まだまだ精進したいので」

「桜ちゃん今でも学年トップじゃん」

「しかし、私の憧れる方にはまだまだ及びません」

「それって直江先輩?」

 

川瀬の言葉にコクンと桜は頷いた。

桜は今でこそ学年首席の座を明け渡したことはない。しかし、和義や風太郎のように満点を取っているわけではないのだ。まあ、あの二人が異次元すぎるというのもあるのだが。

それでも二人に追いつきたいと桜は思っている。

 

(和義さんに誉めていただけるのは勿論なのですが。やはり上杉先輩に追いつきたい!)

 

和義と恋人関係になったことを桜は嬉しく思っているのだが、それでも和義と風太郎との間にある絆にはまだまだ遠く及ばないのではないかと感じているのだ。

 

「桜ちゃん…凄い意気込みを感じるよ」

「あ、直江先輩と言えば新しい情報手に入れたよ」

「またぁ~?今度は誰が告白したのさぁ?」

 

小林の言葉にいまだに桜に抱きついたままの川瀬が呆れたように答えた。

 

「ふふーん。それが今度は毛色が違うんだなぁ」

 

そんな川瀬の反応もなんのその。小林はドヤ顔で自身が手にした噂を口にする。

 

「なんとね………」

 

・・・・・

 

『直江君(先輩)と四葉ちゃん(先輩)が付き合ってるんだって』

 

ほぼ同時に噂の内容を風太郎達は聞かされる。

 

((はぁーーーーー!?))

(((えぇーーーーー!?)))

 

そして五人は同じように心の中で叫ぶのだった。

 

一方その頃噂の中心である和義と四葉は……

 

「…っくしゅん!」

「直江さん風邪ですか?」

「すんっ……いや、そうじゃないと思うんだが…」

 

二人で教師に頼まれたプリントを運んでいたのだった。五人が驚きの噂を聞いているのを露知らず……

 

 




今回のお話でビデオチャットを導入してみました。
お話の中でも四葉が言っていましたが、本当は風太郎も交えればよかったのですが…

そして、桜のクラスメイトの二人について今更ですがここで軽く紹介しとこうと思います。

小林 美月 : 髪は肩先までかかっているセミロング。桜には及ばないが成績は良い方。噂話好き。文乃とは小さな頃からの友達で、文乃をきっかけに桜と仲良くなった。

川瀬 文乃 : ショートボブの髪型で人当たりが良い。その性格から桜と初めて友達になった女の子。勉強は苦手でいつも美月のお世話になっている。最近では桜からも勉強を教えてもらっている。

ではまた次回も読んでいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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