五等分の奇跡   作:吉月和玖

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お付き合い

~朝の登校風景~

 

そこにはいつもと変わらない朝の登校風景が広がっていた。ある一部を除いて…

 

「ねえ、あれって…」

「なんでなんで?どうなってるの?」

 

道行く旭高校生はある二人組に注目していた。風太郎と四葉である。

この二人が朝の登校シーンで一緒にいることには何ら違和感がない。だが、ある部分が(みな)の注目を集めることになってしまっているのだ。それは…

 

おい四葉。いったいいつまでこれを続ければいいんだよ!

直江さんが言うには教室までだそうです

はぁー!?もう俺は恥ずかしさでどうにかなりそうなんだが

私だってそうですよ!でもいいじゃないですか。私たちはか…彼氏と彼女…なんですから

うっ…

 

二人は仲良く手を繋いで登校をしているのだ。恋人繋ぎとまではいかないが、お互いの手はしっかりと握られているので、端から見ればそういう関係だと思われるだろう。現に周りでは二人の関係性について話がされているのだ。

 

「あれって、四葉さんだよね。今噂になってる」

「え、でもでも横にいるの直江君じゃないよ?」

「おいおい。どうなってんだよ」

 

もちろんそんな話し声も二人には聞こえているが、気にしないように歩いていく。すると、二人の共通する人物が話しかけてきた。

 

「おーっす。何だよ、朝から見せつけてくれるな」

「まったくだね。そこまでされると君たち二人が付き合っていると信じずにはいられない、ね」

 

前田と武田である。

 

「お前ら……なんで…」

昨日の夜に直江君から連絡があったのさ。本当は君たち二人が付き合っていること。そして、それを言い広めてほしいと、ね

 

(あいつ、いつの間に…ホントこういう手回しは早いよな)

 

そんな風に考えながら、風太郎は昨日のことを思い出していた。

 

・・・・・

 

昨日のこと。

 

「目には目を。噂には噂だね」

 

僕のこの発言である程度の人間はなんとなく理解はした。

 

「それで?具体的にどうすんのよ?」

「噂を更に流すのは良い考えかと思いますが、如何せん。今流れている噂の中心人物が和義さんなので中々それを上書きするとなると、かなりのインパクトが必要かと」

 

理解はしているものの、といった感じに二乃と桜が質問と考えを口にした。

 

「一つはさっき二乃が言った、あの噂はデマだった、ていうのを各方面から流してもらう」

「そこは私の友達にお願いするから平気よ」

(わたくし)もクラスの友人にお伝えします」

「では、私たちもクラスメイトに」

「うん…」

 

二乃と桜、それに五月と三玖も動いてくれるようだ。

 

「だけど正直これだけだと消えないと思うんだよね。これから日の出祭に向けてどうしても僕と四葉は一緒に行動する時間が増えちゃうから、デマの方が嘘みたいになりかねない」

「確かにそうですね。いくら姉妹のみなさんが発言をしても、それは四葉さんを守るため、と考えてしまいますからね」

 

僕の言葉に零奈が同調するように頷いている。

 

「それでカズヨシ君は、逆にフータロー君と四葉の二人が付き合っている噂を流そうって言ってるんだよね。でも、さっきの桜ちゃんが言った通りカズヨシ君の方がインパクト強くて思ったように噂は流れないと思うよ」

 

一花の言いたい事は分かる。なにせ風太郎の今までの印象は、誰とも仲良くせず勉強だけをしている男だからね。そこへ実は中野四葉と付き合っていると言われても誰もピンと来ないだろう。

 

「ふふーん。そこで風太郎と四葉に頑張ってもらうってわけさ」

「あ、この顔は良からぬ事を考えている顔です」

「そうだな」

 

零奈と風太郎が失礼な事を言っているが気にしない。

 

「風太郎。四葉。二人には明日手を繋いで登校してもらう」

「「…………」」

「はあぁぁーーー!?」「えぇーーー!?」

 

二人とも良い反応だよ。

 

「なるほどね」

「たくさんの生徒がいるであろう登校時間」

「そこで二人が手を握って登校…」

「そうすれば多くの人に目撃してもらえますね」

「そこに、今までの噂はデマで本当はこちらのお二人が付き合っている、という噂を流す」

 

最後の桜の言葉で四葉以外の女子達がお互いを見て頷いた。

 

「待て待て待てーー!おかしいだろ!」

「大丈夫だって。他にも手を回しとくからさ」

 

詰め寄ってきた風太郎の肩に手を置いてサムズアップをして答えた。

 

「俺が言ってるのはそこじゃねえよ!」

「まったく男がこんなことでガタガタ言ってんじゃないわよ。四葉。あんたはどう思ってんの?」

 

二乃の発言で全員が四葉に注目する。

 

「……やる」

「ふっ、あんたの方がよっぽど男らしいわね」

「四葉…」

 

四葉の決心した顔に何も言えない風太郎は言葉を漏らしたが、そんな風太郎の肩をまたトントンと叩くのだった。

 

・・・・・

 

(二人で支えあっていくって決めたじゃねえか。四葉だけに決心させるわけにはいかねえ)

 

そこで風太郎は握っている手に少し力を込めた。そしてリードするかのように少しだけ前に出た。

 

上杉さん…

おや…

「それにしてもよぉ。なんで俺たちにも話さなかったんだよ」

「まあまあ、そう言ってやらないであげたまえ。彼だって折を見て僕たちに伝えようと考えてたはずさ。その前に例の噂が流れたというわけだろう、ね?」

「ま、まあな…」

 

(忘れてたとは言えねえな…)

 

そんなこんなで、前田と武田が二人に付き合っている事を知ってる風に話していた事が功を奏して、和義と四葉の関係がデマで実際には風太郎と四葉が付き合っている事が校内に流れたのだった。

 


 

「どうやら上手くいったみたいだね。二人には感謝するよ」

 

昼休みに風太郎、前田、武田の三人と食堂で昼食を食べることになった。

 

「たいしたことねぇよ」

「そうだね。君に言われた通りにしただけさ」

「しかし何なんだあの質問責めは…」

 

僕の横では僕の奢りで焼肉定食を食べている風太郎がぐったりとしている。

 

「こればっかりはしゃーねぇだろ。なにせ昨日までは直江と付き合っているって噂だった四葉さんが、実は上杉と付き合ってるってなるとみんな聞きたがるってもんだ」

「そんなものなのか」

「ま、クラスメイトとの交流の場と思うんだね」

「はぁぁ…」

 

盛大に風太郎はため息をついている。

 

「それよりも今はもう一つの噂で持ちきりさ」

「え…まだあんの?」

「ああ。君の大切な人とは誰なんだ、とね」

 

まーだそんなこと言ってるんだ。まあ、それくらいだったら誰にも迷惑はかからないだろう。

 

「順当に言えばやっぱ中野さんたち五つ子だな。てか、お前があの人たち以外の女子と話してるとこ見てねえし」

 

まあそうだよね。

 

「後もう一つ興味深い話も出ているよ」

「興味深い話?」

「ああ。直江君は実は男色で上杉君のことを想っているのではとね」

「「ぶぅぅーーー!!」」

 

武田の言葉につい噴き出してしまった。風太郎も同様のようだ。

 

「けほっ…けほっ…そんな話が出てるの?」

「ああ。一部の女生徒の間では盛り上がっているよ。攻めと受け、二人ならどちらだろうと」

「何だよ、攻めと受けって」

「風太郎…この世にはね、知らなくても良いこともあるんだよ」

 

いわゆる腐女子ってやつか。はぁぁ、聞きたくなかった…

風太郎は言われたことを理解していないのでそこまでダメージが無いようだが、僕はもう心のダメージが半端ない。テーブルに肘たてた両手の上に頭を置いてしまった。

 

「あはは、お前らといるとおもしれえことが起こるから楽しいぜ」

「勘弁してよぉ」

「で?結局のとこどうなんだ?やっぱ中野さん姉妹の誰かなのか?」

 

前田は興味津々で前のめりになって聞いてくる。

まあこの二人になら言ってもいいか。

 

「二人とも、誰にも言わないことを誓える?」

「お、おう…」

「ふむ。僕と君との仲だ。誓おう」

 

急に真面目な顔になったことに驚いたのか前田が少したじろいだ。

二人をテーブルの中央まで持ってこさせ周りに聞かれないように伝えた。

 

実は、一花と二乃と三玖に五月。それに一年の諏訪桜の五人と付き合ってる

「「………………は?」」

 

僕の言葉を聞いた二人は意味が理解できていないようだ。まあ普通はそうだよね。

 

「えっと…俺の耳がおかしかったのか?」

「いや。前田君の耳はおかしくないはずだよ。僕も理解が追いついていないからね」

「おまっ……直江っ!どういうことだよ!

「どうもこうも言った通りだよ」

 

ばっと前田が風太郎を見るが風太郎はただ頷くだけだった。

 

「嘘だろおい……」

「まったく…君という男は、やはり想像の斜め上を行く男だね」

 

前田は両手で顔を覆い天を仰ぎ。武田はやれやれと肩をすくめている。

 

「本当に誰にも言わないでね?」

「言えるか!彼女たちは何も言わないのかよ!?

いや、だって彼女達から提案してきた訳だし…僕がそれを受け入れたって感じだから

「なんだよそのシチュエーションは!」

「確かに。これは誰にも言えないね。胸の内にしまっておこう」

「駄目だ。本当にお前らといると話題に事欠かないぜ…」

「俺をこいつと一緒にするな」

 

テーブルに突っ伏してしまった前田に風太郎がツッコミを入れる。なんか申し訳ない。

結局その後は、改めて二人とも誰にも言わないことを約束してくれた。それどころか『おめでとう』と言ってくれたのだ。本当に良い友人を持ったのかもしれない。

 


 

放課後になりバイト先である塾に向かった。昨日の五月から貰ったプリントについて確認するためだ。

 

「失礼します……こんにちは下田さん」

「ん?おー、和義じゃないか。どうしたんだ?学祭の準備の間は休むんじゃなかったのか?」

 

塾講師室まで来て下田さんの席に向かう。

下田さんは突然の訪問に驚いてるようだ。

 

「すいません、忙しい時期に休んでしまって」

「気にしなさんな。どうせお前さんの予定は全部諏訪だ」

「ははは…」

「それで?何かあったのかい?」

「この事でちょっと聞きたいことがあって…」

 

そう言いながら、例のプリントを下田さんに見せる。

 

「おや?今度ある特別教室のプリントじゃないかい。これがどうかしたのかい。まさか参加するのかい!?」

「しませんよ。実はこれ五月に貰ったんですけど…」

「何っ…?」

 

五月の名前を出した途端、下田さんは驚いた顔をした。

 

「?どうかしました?」

「いや、あの子にゃあ教えてなかったはずなんだがねぇ」

「そう言ってましたね。五月は他の講師の人に教わったそうですよ。そこが気になったので今日はここに来たんです」

「なるほどねぇ………和義、もう少し時間いいかい?」

 

珍しく真剣な顔で何かを考えていた下田さんが、僕に予定の確認を取ってきた。

 

「え?そりゃあ構いませんけど…」

「よし……すいません、ちょっと出てきます」

 

周りの講師の人にそう伝えた下田さんはさっさと講師室から出ていこうとしたため、慌てて追いかけた。

 

「コーヒーでいいかい?」

「あ、コーヒー飲めないんで」

「おや、意外だねぇ。なら、ほれ」

 

自販機で買ったお茶を渡されると、下田さんは更に塾の外まで出て、ちょっとしたスペースに座り込んだ。

 

「悪いね。ちょっと人には聞かれたくない内容なんでね。隣座りな」

「は、はい…」

 

勧められるまま下田さんの隣に座った。

 

「はぁぁ…結論から言えば、その特別教室に五月を参加させたくなかったんだよ」

「え?だから五月に話さなかったんですね」

「ああ……あの子は参加するって?」

「いえ、僕が勉強を教えてあげることになったので参加はしません」

「そうかい。それは重畳だねぇ」

 

僕の答えに満足そうな顔を下田さんはしている。

そこまで参加させたくなかったのか。この特別教室にいったい何があるんだ?

 

「参加させたくないのは五月だけって事ですか?」

「はっ…あたしとしては誰にも参加してほしくないんだけどね。だけど働いてる一人の人間としてはそうも言ってられないね。だけど五月については絶対だ。なんとか阻止したかったんだがねぇ」

「何でそこまで五月を参加させたくないんですか?」

 

グイッと自分で買ったコーヒーを飲み話しだした。

 

「あいつ…無堂仁之介は、五月達五つ子の実の父親だ」

「な!?」

「つまり零奈(れな)先生の元旦那だな」

 

おいおいおい、それってとんでもない事実だぞ!

 

「それってあれですよね。零奈(れな)さんと五つ子を置いて失踪した人ですよね?」

「お?何だお前さんはそこまで知ってたのか。五つ子達に相当信頼されてんなぁ」

「ええ…まあ……ちなみに戻ってきた理由は?」

「分からん。というよりも、私も話したくないんでね。知りたくもない」

「ははは……であれば、五月の事は任せてください」

「すまん、助かる」

「いえいえ。何か分かれば教えていただけると助かります」

「ああ。任せといてくれ」

「ちなみに、今回の特別教室は高校生向けであって、他の中学生や小学生ではしないで良かったですよね?」

「ん?そうだが…何かあるのかい?」

「いえ、妹も受けるのかなぁと」

「お前さんの妹なら、あったとしても受ける必要がないだろ」

「ですよねぇ……」

 

大丈夫だと思うが、零奈については五月よりも会わせたくないんだよねぇ。

そこまで話を聞いた僕はその場で下田さんと別れて家に帰ることにした。

 

 

 




今回のお話で風太郎と四葉の仲が校内に知れ渡ることになりました。そして、和義と五人の仲も前田と武田に知られることにもなりました。
和義の風太郎を想う噂は、まあ流れてもおかしくないかなと思って書かせてもらいました。

では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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