「てことで、前田と武田の二人には僕達の関係は伝えてるから。事後報告になっちゃったけど報告しとくね」
現在、五つ子と桜の六人でビデオチャットを使って話しをしている。今日の出来事を共有するためだ。一花は今日は仕事で家にいないそうだが、ホテルからスマホを使って参加している。
メッセージでも良かったのだが、彼女達がビデオチャットの方が良いということで今回はこのような形を取っている。
『まああの二人なら問題ないんじゃない?私たちの気持ちだって知ってるわけだし』
『そういえばそうだった…』
『あの時はその場の雰囲気と勢いで言ってしまいましたが、今考えると恥ずかしい限りです』
五月は両手で顔を隠しているので本当に恥ずかしかったのだろう。
修学旅行の時。僕が暴走してしまって修学旅行を抜け出したのだが、それを五つ子と風太郎。前田に武田と零奈と母さんが探しに来てくれた事があった。その時に桜のお祖母さんである楓さんのお屋敷にお世話になったのだが、夕飯時に二乃と三玖と五月が僕を好きであると公言したのだ。あの時の前田も混乱してたっけ。
『そのお二人と言うのは、皆さんの修学旅行の時にお婆様のお屋敷に皆さんと一緒に来られていた方達ですよね?』
『そだよー。教室ではいつも四人でいたよねぇ。今も?』
『今も四人で仲良くやってるよ。上杉さんと直江さんの席に集まってるもん』
二学期になってからは一花は学校に来ていないのでその確認なのだろう。四葉が答えてあげた。
『それにしても、カズヨシ君もフータロー君もあの二人とは一悶着あったのに今ではすっかり仲良しだよね?』
「それがあったからこそ今でも仲良くやれてるのかもね。武田の言葉を借りると、昨日の敵は今日の友、かな」
『ふーん。男の友情って感じね』
「ははは、確かに二乃の言う通りかも」
今の関係には、男同士の友情だからこそ感じられる心地よさがあるのかもしれない。
『でも、武田さんは一学期の全国模試で上杉さんに勝負を挑んでたのは知ってたけど、やっぱり前田さんとも何かあったんだ』
『そういえばそうね。いつの間にかカズ君と仲良かったから気にはしなかったわ』
『それもそうですね。先程の一花の言い方ですと前田君とも何かがあったのですよね?』
『あら?皆さん知っているのかと思っていましたが、知らないのですね和義さんと前田先輩の馴れ初めを』
『『……』』
知っているというか、当事者であった一花と三玖はだんまりである。さてどうしたものか。
「一花?」
『まあ…いいんじゃないかな』
「……実は前田って昔は一花のことが好きだったんだよ。それで去年、林間学校のキャンプファイヤーに前田は一花を誘ったんだよね」
『そんなことがあったのですね』
『うーん…でもそれだけだったらカズ君には接点ないわよね?』
「ご明察。実は前田が誘った一花ってのが三玖が変装してた一花だったんだよ。それで三玖がオドオドしてたところに近くを通りかかった僕が割って入ったんだ。で、その場の勢いで僕と一花がキャンプファイヤーを踊る約束をすることになったって訳」
『あの時は本当にどうすればいいか分かんなかったから…咄嗟に…』
申し訳なさそうに話す三玖。もう一年も前の話なんだし気にしなくても良いのに。
「それからかな。ぽつぽつと話すようになったのは」
『そうだったんですね。二人ともあの時はそんな素振り全然なかったよ』
「まあ、初日からバタバタでそれどころじゃなかったしね…」
本当に色々あった林間学校だったな。
『まあ、あの二人と仲良くするのはいいけどほどほどにね。下手すればあんたと上杉みたいな噂が新しく流れちゃうわよ…ぷっ…』
「むー…」
『あははは…まさかのカズヨシ君の想い人がフータロー君って…おもしろーい…』
『それだけ周りからお二人が仲良く見えていると言うことですね。
何でだよ!?
「はぁぁ…まあいいや。そうだ、下田さんから五月に伝言頼まれてたんだった」
『下田さんが?』
「ああ。暫く忙しくなるから塾には来なくて良いってさ」
『何だか急ですねぇ』
「てな訳で、塾の代わりに僕が勉強見るから。そうだなぁうちで勉強しようか。終わった後はバイクで送れるし」
放課後の学校で教えるのも良いが、またどんな噂が流れるか分からないからな自重しておこう。
『いいんですか!?』
「ああ。このくらいどうってことないよ」
『じゃあお言葉に甘えちゃいます』
『ちょっと待った!』『ちょっと待って…!』『ちょっと待ってください!』
この話もここまでと思った矢先、三人からの異議申し出てがあった。二乃に三玖、それに桜である。
「何?」
『何?じゃないわよ!』
『そう。五月だけは認められない』
『そうです。ずるいです!』
ずるいって言われてもなぁ。今の進路希望でいくと五月の勉強に集中するしかないのだ。それに…
「皆で来ると帰りが大変でしょ」
『でしたらうちの送迎車で皆さんをお送ります』
「桜は自分の塾があるでしょ」
『お休みいたします。和義さん全然来ていただけてないので、お休みして和義さんの家で勉強を見てもらっても同じです』
塾側としてはどうなんだろう…
「分かったよ。一応下田さんにも相談しときな」
『はい!』
『でも、桜の家の車を使わなくても済む方法があるじゃない』
『え?そんな方法があるの?』
驚きの顔で四葉が確認している。その言葉で二乃のがニヤッと笑ったような気がした。
『合宿よ』
『合宿?』
三玖が疑問を投げかけているが、まさか…
『カズ君の家で勉強見てもらったらそのまま泊まっちゃえばいいのよ。一花。あんただってたまにそういう風にしてるでしょ?』
『あはは…』
『それに勉強だけじゃない。学園祭の出し物は焼きそばとパンケーキに決まったわけだからその練習も兼ねてよ。焼きそばはカズ君に。パンケーキはお母さんに教わればいいじゃない』
『たしかに…』
『で、でも…またお邪魔するなんて直江さんにご迷惑なんじゃ…』
そこで四葉が止めに入った。しかし…
『四葉だって、カズ君の家からの方が上杉の家は近いんだから登下校一緒にできるんじゃない?』
『え…上杉さんと……』
『決まりね』
『さっそく準備に取りかかりましょう』
『ですね。
「もう何言っても無駄なんだろうね」
最近意見が一対五になることが多いからか諦めが肝心だと思うことが増えてきた。ま、目の前で楽しそうに笑いながら話している姿を見せられたら何も言えないな。
『そういえば、今日のカズヨシって声小さかったね。なんだかコソコソしてる感じ』
『言われてみれば…私はスマホにイヤホンだからそこまで感じなかったけどね』
『何よ。後ろめたいことでもあるの?』
「何でそうなるの。声が小さいのは、自分の部屋で話してるけど今後ろで零奈が寝てるから起こさないようにしてるだけだよ」
後ろに指差しながら説明をした。
『え?お母さん、和義君のベッドで寝ているのですか?』
「ああ。僕もイヤホンしてるから皆の声は漏れてないけど、さすがに僕が大きな声で話したら起こしちゃうでしょ」
『私たちが言いたいのはそこじゃない。なんでカズヨシのベッドで寝てるのか』
じっと画面越しに見つめながら言ってくる三玖。まあそうだよね。
「零奈にちょっと気が滅入る事があったから、今日は一緒に寝てあげてるんだよ」
『え…お母さん大丈夫なんですか?』
「大丈夫だよ四葉。寝たらいつも通りに戻るさ」
『だといいのですが…直江さん!お母さんのことよろしくお願いします!』
「ああ。てわけで、そろそろ僕は抜けるよ」
『分かったわ。今日はこれくらいにしときましょ』
二乃の言葉で解散となった。僕はイヤホンを外し、ふぅーと息を吐いて椅子から立ち上がりベッドに向かった。
「すぅ……すぅ……」
ベッドでは零奈が安心してるように眠っている。
僕はそんな零奈の頭を撫でながら少し前の事を思い出していた。
時は少し遡り。下田さんから無堂先生の事を聞いた僕は、今日が零奈の塾の日であることを思い出したので夕飯の買い物の後にまた塾に戻ってきていた。
塾の前で待っていると、中学生の中で一人小さな女の子がとぼとぼと歩いてくるのに気づいた。しかし、えらく元気がないように見える。
「零奈。お疲れ様」
「あ……兄さん…」
「どうかした?元気ないみたいだけど」
「いえ……」
よく見れば何かプリントを持っているようだ。
「何?テストの点数でも悪かったの?」
零奈に限ってそんなことはないと思い、零奈が持っていたプリントを取って中身を見てみた。
「え……これって…」
「先程、廊下ですれ違った先生に渡されたんです。お兄さんに見てもらって、と。まあ兄さんはそんなものには参加しないとは思いますが」
零奈が持っていたプリントはテストなんかではなく、例の特別教室のお知らせであった。なんて間の悪い。
そんな思いからかプリントの握る力が少しだけ強くなってしまった。
「兄さん?」
「え?あー…そうだね。僕にはちょっと興味ないかなぁ。まあ教師を目指してたら違っただろうけどさ」
なるべく明るく振る舞おうとしたがあからさまだったようだ。零奈にすぐにばれてしまった。
「兄さん……知ってるのですね。そこに写っている人物の事を」
「……はい……とりあえず帰ろうか」
そう言って差し出した手を零奈はしっかりと握り返してきた。そして二人で家に向かって歩き出した。
「……何故兄さんがその人の事を知ってるのですか?」
「本当に偶然だよ。五月がこのプリントを持ってきて、少し気になったから下田さんに聞いたんだよ。ついさっきね」
「そうですか。五月はその人の事を?」
「いや、知らないよ。それにこの教室には参加させないから安心しな」
「そうですか…今あの人に会わせるのは良くないでしょう。良き判断かと」
「零奈、君にもね」
「私は……」
「とりあえず母さんにも相談してみるよ」
「はい…」
そこで零奈の手を握る力が強くなった気がしたので、僕も強くしかし優しく握り返してあげた。
『そう、無堂先生が…』
家に帰った後夕飯を食べてから母さんに電話をして今日の出来事を伝えた。
『はぁぁ…まさかこの時期に帰ってくるとはねぇ。何が狙いなんだろう。うん、とりあえず五月ちゃんに会わせないのはいい考えだね。そのまましっかり五月ちゃんをフォローしてあげなさい』
「分かってるよ」
『それで、零奈ちゃんなんだけど…』
「どうしたものか僕も困ってるよ。今もソファーに座って例のプリントを握りしめながら眺めてるし」
まさか下田さんに教えてもらったその日に知られちゃうとはね。何も対策とか考えてなかったからなぁ。
『う~ん...こっちもちょっと今は手が離せないからなぁ。ごめん、零奈ちゃんのフォローもよろしくね。ただ、今の零奈ちゃんにはやっぱり会わせない方がいいと思う』
「分かってるよ」
『ありがと。じゃあ切るね』
「ああ。忙しいとこありがとね」
そこで母さんとの電話が終わる。
母さんとの電話の間もずっと零奈はプリントを眺めていた。
「零奈。母さんとの電話終わったよ」
「そうですか......」
心ここにあらずだな。
「母さんが今の零奈には会わせない方が良いってさ」
「っ...!そう...ですね...」
「この事とは関係なく、僕が日の出祭の準備とかで忙しくなるから零奈には塾を休んでもらおうとは思ってたからちょうど良かったかもね」
「......そう...ですね。兄さんがいない塾に行っても、何も面白くありませんから」
はぁぁぁ...
ため息をつきながら零奈が持っているプリントを取り上げた。
「兄さん、何を!」
「見てても何も変わらないよ。難しいかもだけど、今は考えずに過ごそう。きっと母さんや父さんが何か手を打ってくれるさ」
ニッコリと笑顔で、そう零奈に伝える。すると、零奈の目から一筋の涙が流れた。
「まったく無理するんじゃないよ。今の君は一人じゃない。僕もいるし、成長した自慢の娘達もいる。それに、父さんや母さん。本当の両親だって。だから、全部一人で抱え込まなくても大丈夫」
優しく伝えながら零奈を抱きしめる。
「っ......に......い、さんっ......兄さんっ!うわぁぁーん!」
「よしよし。今日は一緒に寝ようか?」
「......はい」
ポンポンと零奈の頭を撫でてあげると、小さいながらも返事が返ってきた。
その後ベッドで零奈が寝ているところを、ベッドの脇に座って頭を撫でていた。
「そういえば、五月が特別教室に参加しないのは分かったのですがどうするのですか?」
「ん?ああ、僕が勉強を見てあげることになってるよ。多分放課後うちに来てもらうんじゃないかな」
「そうなのですね。何かあれば言ってください。私もお手伝いしますので……良い気分転換になると思いますから…」
「分かった。その時は頼りにしてる」
そこまで言うと零奈は瞼が重くなってきたのかうつらうつらとなってきた。心は大人でも体はまだまだ小学二年生なのだ無理もない。そしてそのまま眠りについてしまった。
「すぅ...…すぅ...…」
皆とのビデオチャットが終わった今でも、いつもの様に可愛い寝息を立てながら眠っている。少しは心が軽くなってくれたようだ。
例え生前の記憶があろうとも零奈は大切な家族で妹なのには代わりない。
『和義。あなたが零奈を守ってあげてね?』
零奈が生まれた時から母さんに言われてきた言葉が脳裏を過る。
零奈安心しててくれ。何かあれば絶対に僕が守ってあげるから。
そう胸に決意を抱きながら僕も布団に入り眠りについたのだった。
少しだけ一花が彼女となった本編とは違った形で書かせていただいております。
本当は風太郎もビデオチャットに参加できれば良いのですが、たしかこの時の風太郎はガラケーだったと思うので、すみません不参加という形を取らせていただきました。
日の出祭も迫ってきましたが、次の次くらいのお話から日の出祭の話に入ろうかなとは考えてます。
では次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。