五等分の奇跡   作:吉月和玖

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接触

カチッ…カチッ…

 

「はーん、なるほどね。それであいつらさっさと帰ってったのか」

「まあね。はぁぁ…あの娘達の行動力には脱帽だよ」

「あはは…なんかすみません」

 

カチッ…カチッ…

 

僕と四葉は、今教室で日の出祭に関する資料作成のため放課後残ってホッチキスを使って作業をしている。そこに自身の勉強のために残っている風太郎もいるのだ。席は僕と五月の席を使って作業をしているので、僕の前で風太郎が勉強をしている形だ。

手持ち無沙汰なので、昨日のビデオチャットで話した合宿について風太郎に話していたのだ。

四葉以外の三人がさっさと帰ったのは、昨日用意した荷物を家まで取りに行き今日からうちに来るためだ。

桜からも、両親の許可が取れたので塾で下田さんに話してから来ると連絡があった。なんかあの娘も五つ子達に大分影響受けてないか?

ちなみに四葉の荷物は三人が持ってくることになっているので、帰りは一緒に帰ることになっている。

 

「まあ、勉強にやる気があるなら言うことはないな。だが…そのぉ……四葉も和義の家に泊まるんだよな?」

「?そうですね。あの家で私一人は寂しいですから」

「いや、そうだよな。うん」

「?」

 

風太郎が勉強の手を止めて後ろに振り返りながらそんなことを言ってきたが、当の四葉は質問の意図が分かっていないようなので疑問の顔をしている。

なので風太郎はまた前を向き自身の勉強の続きを始めた。

 

「ははぁ~ん…風太郎ってば可愛いなぁ」

 

今の風太郎の気持ちを大体想像できた僕が声に出すと、風太郎の背中がビクッと動いた。

 

「?直江さん。今のやり取りで上杉さんのどこが可愛いんですか?」

「ふふっ…風太郎はね…」

「わっ、馬鹿っ」

 

風太郎が止めに入ってきたが気にしない。そのまま僕の考えを四葉に伝えた。

 

「僕の家に四葉がしばらく泊まるのが気になるんだよ。僕とはいえ彼女が他の男と生活するのに我慢できないんだろうね」

「あ…」

「くっ…」

 

風太郎は四葉と目を合わせないためか窓の方を向いてしまった。そっち見ると僕には横顔が丸見えだから、耳まで真っ赤なのがまるわかりである。

 

「ふふっ…心配しないでください。直江さんは私にとって親友なんです。そんな直江さんの家に泊まるんですから大丈夫です。それにレイナちゃんだっているんですから。ししし、心配してくれてありがとうございます!」

「べ、別に心配なんかしてねぇよ…」

 

まったく素直じゃないやつだ。

 

「そうだ。四葉、あの事を今お願いしたら?」

「そうですね……あの、上杉さん」

「ん?なんだ?」

「そ…そのぉ……わ…私たちお付き合いしてるわけじゃないですか?な…なので…そのぉ……」

「なんだよ?」

 

四葉が言うのを躊躇っているからか風太郎が先を促す。そこで四葉は意を決して風太郎に伝えた。

 

「合宿の間一緒に登校してくれませんか?その、直江さんのおうちからでしたら上杉さんのおうちも近いので、私迎えに行きます!」

「え?」

 

突然の申し出に驚いたのか風太郎は少し固まったようだ。本来、付き合ってる二人が登下校一緒にするくらい普通なんだけどなぁ。

 

「あ、ああ…一緒に登校な。い、いいんじゃないか。うん。一度は経験してるんだしな。それに、合宿の間だけとは言わず、お前が望むなら合宿以降も一緒に登校してやる」

「……っ!ありがとうございます!時間はまた連絡しますね」

 

本当に嬉しいのだろう。四葉は立ち上がって風太郎にお礼を言っている。

その後はお互いに自分の作業に集中することになった。

そして帰りは三人で帰ることにした。

 

「うーーん、ああいう地道な作業は別に嫌いじゃないんだけど体が強張(こわば)ってくるんだよなぁ」

 

ぐーっと体を上に伸ばしながら歩く。隣では四葉も『分かりますー』と腕を前に伸ばしながら歩いているので同じ気持ちのようだ。

 

「で?これから帰って勉強会か?」

「まあね。そのための合宿だし。風太郎も来る?」

「いや、らいはも待ってるだろうしな。今日は帰らせてもらうさ」

「そっか。まあ来れるときはいつでも来て良いからね。もちろんらいはちゃんも」

「ああ。じゃあな」

 

風太郎の家との分かれ道に着いたところで、風太郎は手を挙げ行ってしまった。その後ろ姿を四葉はじっと見ている。

 

「じゃあ四葉。僕たちも行こうか」

「はい!」

 

すでに日が沈みきった道を二人並んで帰るのだった。

 


 

~桜side~

 

ビデオチャットを行った次の日。桜は放課後になるとすぐに塾に向かった。

 

(ふふふ、両親からも合宿参加の許可をもらえましたので後は塾にお伝えするだけ。下田さんとはお話をする機会も増えてきましたので、和義さんが仰っていた通りに下田さんにお伝えしましょう)

 

桜には珍しくテンション高めで塾の中を歩いていた。しかし、途中で先生とすれ違う時はいつも通り一礼するのは忘れずにいた。そんな風にまた通りすがった一人の男に頭を下げて通りすぎようとしたのだが、声をかけられることで止められた。

 

「君。少しいいかね?」

「はい。何でしょう?」

 

桜を呼び止めた男はスキンヘッドに髭をモサッとさせた中年の男であった。

 

「急に声をかけて申し訳ない。僕はこういう者でね」

 

そう言って一枚のプリントを桜に手渡してきた。

 

「……ああ、特別教室の。噂は存じあげております無堂先生。なんでも有名な先生だとか。申し訳ありません、(わたくし)はこういうのに疎く…」

「いやいや、いいんだよ。僕もまだまだ、精進していくだけさ」

 

申し訳なさそうに頭を下げる桜に無堂は笑って答えた。

 

「それで、先生は(わたくし)に何かございましたか?」

「ふむ。君は諏訪桜さんで間違いなかったかな?」

「はい。諏訪桜と申します。特別教室に来られるような方に知っていただき恐れ多く存じます」

「あはは、何と言っても君はあの諏訪家のご令嬢だからね。僕なんかよりも有名人だろう」

 

ニヤリと笑いながら話してくる無堂。そこで桜はゾクッとした。

 

(この感じ…お婆様にお近づきになりたい方が発している…最近は無かったので油断していました。まさか塾でこういった事が起きるなんて…)

 

今までも諏訪の人間だからと、桜個人の事を見てくれず近づいてきた人も多々あった。

そのような事もあり、桜は黒薔薇女子への入学ではなく今の旭高校に入学することを決意したのだ。諏訪家というしがらみを多少なりとも振りほどきたかったから。

そして、最近ではその諏訪の人間と分かってもいつも通りに接してくれる人達が桜にはいた。下田もその一人だ。

 

(そういえば下田先生は(わたくし)の事を知らなかったようですね)

 

『そういやぁ、お前さんとこのお祖母さん有名な家元なんだってな?いやぁ、道理で礼儀正しいと思ったぜぇ。ま、あたしにゃ関係ないことなんだがな』

 

零奈(れな)の命日の墓参りの時に綾から桜が諏訪楓の孫であると教えてもらった下田は、後日桜に会った時にそう言葉をかけたのだ。そんな下田の桜に対する接し方は今でも変わっていない。

そしてクラスメイトで友人でもある小林と川瀬にも桜は自身の事を話している。

 

『へぇ~、諏訪さんの家って有名なんだ。まぁ噂程度には知ってたけど』

『あんまりピンと来ないけど、桜ちゃんは桜ちゃんってことで変わんないよね』

『文乃…あんたはやっぱお気楽ね』

『えぇー、そうかなぁ』

 

そんな感じで笑いながら流し、変わらない関係を続けている。

小林が言っていたように桜が有名な家の娘という噂はある程度校内に回っている。それでも他のクラスメイトやたまに遊びに行っている三年一組のメンバーも変わらず接している。そして前田に武田、風太郎に零奈に関しては、楓のお屋敷にも招待されており、どんな家かも知っている筈だが変わらず接してくれているのだ。

 

『ん?桜ちゃんの家のこと?』

『そんなのいちいち気にしてらんないわよ』

『そう…今ではカズヨシの彼女として同士…』

『あはは…私はちょっと違いますが、桜ちゃんは大切なお友達だよ!』

『どのような家庭環境だとしても、私たちの関係は変わりませんよ』

 

五つ子の(みな)もそんな感じで家の事など気にしていなかった。 

 

『桜』

 

優しい声と笑顔で和義が自分を呼んでいるところを桜の頭を過った。

そこで桜の心も少しだけ軽くなった。

 

「それで、そんな(わたくし)にどういったご用件でしょうか?挨拶だけ、というようには思えませんが」

「察しがよくて助かるよ。実はその特別教室にぜひ君にも参加してほしくてね」

「この特別教室に?」

 

そこで手に持っているプリントに桜は目を落とした。

 

「しかし、これは三年生の受験対策の教室。(わたくし)はまだ一年生です。いくらなんでも無理があるのでは?」

「いやいや。君はただ参加して僕の授業風景を見てもらうだけでいいんだよ。そして、是非とも感想を聞かせてほしいんだ」

 

(なるほど。そうやって諏訪に対してアピールを。浅はかな…)

 

「大変申し訳ないのですが、(わたくし)ではお力になれそうにありません。そういった感想は実際に受けた学生の方々に伺った方が良いと考えます」

 

桜の回答が気に食わなかったのか、無堂の雰囲気が変わるのを桜は感じ取った。

 

(自分の欲しい回答がなかった途端にこの雰囲気。まだ学生である和義さんの方が先生に向いていますね)

 

そんな風に桜が考えていると無堂が何かを言おうとしたまさにその時。

 

「あー…無堂先生?ここで何を?」

 

ちょうど通りかかった下田が二人に声をかけてきたのだ。

 

「いや、ちょっとした挨拶をしていただけさ。失礼するよ」

 

下田の登場で諦めたのか無堂はその場から立ち去った。

そして、張り詰めていた空気が一気に無くなったことで桜の体から力が抜けてしまった。

 

「……とと。おいおい、大丈夫かよ?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

力が抜けてしまったために倒れそうになった桜を下田が支えてやった。

 

「ったく。あんの野郎ぉ、一度文句を言ってやりゃあならんのかねぇ」

「そんな。大丈夫ですよ」

「そうは見えんがね…」

「それに、もうこの塾でお会いすることもないでしょうから」

「え?」

「この事とは関係なく、今日はしばらく塾をお休みいただきたくてそのお話に来たのです」

 

桜は下田の支えから離れ、いつも通り姿勢を正し話し出した。

 

「別にあたしとしては構わないが何かあったのかい?」

「和義さんがお休みしているのですが、その和義さんの家に行きそこで勉強をすることになりましたので」

 

桜は悪ぶれる事もなく正直に事の顛末を話した。そんな言葉に下田もただ呆然とするしかなかった。

 

「ホントにお前さんは和義のことが好きだねぇ~」

「はい!愛してます!」

 

ニッコリと笑顔で桜は答えたのだが、その時の笑顔を下田は今までに見たことがなかった。

 


 

うちに来た桜から無堂先生から接触があったとさっき聞かされた。渡された特別教室のプリントからまず本人で間違いないとの事だ。桜は今までも同じような大人と接してきたから気にしてないと言っていたけど。

一応五つ子には話さないでおいたけど、狙いは桜だったのか?それでたまたま五月がいたってことだろうか。

うーん、まだ結論付けるには早計だろうか。

 

「カズヨシ?」

「え?」

「箸、止まってる。どうかした?」

 

僕の前でご飯を食べていた三玖に指摘された。どうやら無堂先生の事を考えすぎてしまっていたようだ。

 

「ああ…ごめんごめん。ちょっと考え事をね」

「何よ。彼女と一緒にご飯食べてるってのに考え事なんて」

 

今日は隣で食べている二乃からは不機嫌そうに話しかけられた。

 

「本当にごめんって。最近は日の出祭とか色々やること多くて」

「あまり無理はしないでくださいね。私たちはいつでも和義君の味方なのですから、いつでも頼ってください」

「ありがとね五月」

 

斜め前に座る五月にお礼を言った。

 

「ああ、日の出祭と言えば二乃。僕の用意した招待状は中野さんにちゃんと渡したの?」

「うっ…」

 

この反応。まだ渡せてないな。

 

「何ですか。招待状くらい渡してもいいではないですか」

 

今はリビングテーブルでご飯を食べている零奈が呆れながら話している。

 

「だって、今さらって感じだし。来てくれるか分かんないし...」

「きっと来てくれますよ。あの人も変わろうとしています。現に夏休みの前半はご飯だけでも顔を出していたではないですか」

 

へぇぇ、中野さんなりに頑張ってはいたんだ。

 

「それはそうだけど...あれだって、お母さんかもと思って様子を見に来たようなもんでしょ?」

「まぁ、その考えは否めないですが」

「どうせまた陰でコソコソしてるんだわ」

「二乃、お父さんには手厳しい...」

 

確かに三玖の言う通りではある。

この父娘は、お互いを大事に思っているのに歩み寄れないという、ホント見てて歯がゆい父娘だ。

 

「二乃。本当に中野さんは何もしてくれなかったの?きっと、二乃達の事を見てアクションをしているはずだよ。陰でコソコソも悪くないと思う。きっとそれも何か理由があるんだよ」

「カズ君...」

「兄さんの言う通りです。あの人もあの人なりにあなた達を見ていますよ」

「お母さん...」

 

僕と零奈の言葉に二乃はしばらく考え込み周りの姉妹を見た。他の姉妹も僕と零奈の意見に同意しているようだ。そして…

 

「三玖、四葉、五月。招待状の文面は一緒に考えてくれない?」

「分かった...」

「任せて」

「ええ」

 

二乃のそんな言葉に微笑みながら三玖と四葉と五月は答えるのだった。

 

 




外伝でも無堂の登場です。今回は本編と似たような話になっているのですがそこはご勘弁いただければと思います。

次の話から日の出祭の入りくらいを書けたらなとは思ってます。

では、次回投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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