「あ、和義さんに皆さん。いらっしゃいませ」
勇也さんとらいはちゃんに会った後、その足で桜のクラスの出し物である和風喫茶に来ていた。するとちょうど良かったのか桜が出迎えてくれた。
「や、桜。四人だけどいける?」
「はい、大丈夫ですよ。では、席までご案内いたしますね」
桜の案内もあり四人席の場所まで来た。とりあえず僕は一番手前の席に座ろうとした。
「じゃあ私はこっちに座るよ」
すると一花は僕の斜め前に位置する場所にさっさと座った。
「あら、そこでいいの?」
「ここで揉めてもしょうがないしね。さっきカズヨシ君の横でお話させてもらったから、今回はここでいいよ」
「そういうこと。じゃあ三玖が和義の隣に座りなさい。私はこっちでいいわ」
「え…う…うん…」
そんな感じで今回の席順はすんなりと決まった。
「こちらがお品書きとお冷やです……あの、和義さん」
お品書きを中央に置いて、お冷やを皆の前にそれぞれ置いた後に桜から話しかけられた。
「どうしたの?」
「あちらに座っていらっしゃる方はどなたでしょうか?」
「ああ…一花だよ。そのままで来ちゃうと声かけられて大変だってことで変装してんの」
「なるほど。得心いたしました」
そこで桜はお盆を抱き抱えるようにしてうんうんと頷いた。
「やっぱりあんみつかしらねぇ」
「二乃は和風喫茶とかそうそう来ないでしょ」
「そうなのよねぇ」
二乃は僕の言葉に答えながら他にないか考えている。
「そちらのあんみつにはクリームをトッピングしていて美味しいですよ」
「へぇ~いいじゃない。私はそれでいいわ」
「じゃあ私はぜんざいと抹茶のセットで」
「私は…三種の団子を抹茶のセットで」
「うーん…僕は塩豆大福と緑茶をお願い」
「かしこまりました。少々お待ちください」
桜が僕達の注文を受けるといつもの綺麗な一礼をして行ってしまった。
「それにしても凄い服だね」
「あら、浴衣風のミニで可愛いじゃない」
「男の子受けにはいいんじゃないかな。実際どうなの?カズヨシ君のご感想は?」
「そりゃあまあ、可愛いとは思うよ。うん、桜に似合ってる」
「ふーん、カズヨシはああいうのがいいんだ」
不満げな三玖が頬を膨らませてこちらを睨んでいる。
「いやいや三玖さんや。僕はただ感想を伝えただけであってですね」
「難しい乙女心だよ。誉めるなら桜ちゃん本人に直接言ってあげなよ?」
「分かってるよ」
「それにしても…」
二乃が周りを見渡しながら呟いた。
「和義の人気はあいかわらずね。女子はみんなこっち見てるわよ」
「え、そうなの?」
二乃の指摘で僕も周りを見渡すと、注文を待っているのか給仕係の女の子二人と目が合った。向こうから会釈してきたので手を振ってあげた。するとキャーキャーと二人が手を握って飛び跳ねている。
「もう一種のアイドルね」
「カズヨシ、デレデレしないで」
「してないんですが…」
「あはは…カズヨシ君にも変装が必要だったのかもね」
そんな話をしていると注文の商品を持った桜ともう一人が席まで来た。
「失礼いたします。ご注文の商品をお持ちしました」
一つ一つ僕達の前に桜は品を置いていった。もう一人の方がどうやら飲み物を持ってきたようだ。
「それにしても様になってるわねぇ。桜、あんたってこういうのも慣れてるの?」
「いえ。給仕のお仕事などやったことありませんので、クラスの友人と一生懸命練習しました」
桜らしいと言えば桜らしいか。
「それにしてもこのお店のコスチュームは可愛いよね。もちろん桜も可愛いよ」
「あ…ありがとうございます…」
コスチュームを誉めてあげると、恥ずかしくなったのか桜はお盆で顔を半分隠してしまった。
「ですよね!ですよね!」
「へ?」
そこに先ほど飲み物を持ってきた
「桜ちゃんは何着ても可愛いんですよぉ。しかも挨拶から動作まで一つ一つ細かくって様になってるっていうか。もう完璧なんです!」
テンション高い
「ちょっと、川瀬さん…」
「え?あーー!すみませんでした、興奮してしまって」
桜に声をかけられることで我に返った川瀬という
「そこまで謝らなくてもいいよ。桜の友達?」
「は、はい。クラスで最初に友人になっていただけた方です」
「川瀬文乃っていいます。よろしくお願いします!」
桜に紹介された川瀬さんは敬礼ポーズをとっている。今の着ている服とはミスマッチである。
「なーんか四葉に似てるわよね」
「あ、それ僕も思った」
「?」
川瀬さんの事を話しているのだが、四葉を知らない本人にしてみれば何の話をしているのか分からないだろう。
「ううん、こっちの話だよ。こちらこそよろしくね川瀬さん」
「はい!ではごゆっくりしていってください」
「失礼します」
元気よく頭を下げる川瀬さんに対して桜は綺麗に礼をして控え場所に行ってしまった。
その後しばらく滞在したのだが、あまり長居はよくないだろうとのことでお店を出ることにした。
「私と三玖は一旦屋台に戻んないと行けないけど二人はどうするの?」
「うーん…カズヨシ君はどうするの?」
「僕は五月のところに激励に行こうかなって思ってるよ。今頃一人で勉強頑張ってるだろうし」
「あの子もよくやるわね」
「まさか学園祭の間も勉強してるなんてビックリした」
「じゃあそっちはカズヨシ君に任せようかな。私はクラスメイトに顔を出しときたいしさ」
「なら一花は私たちと一緒ね。それじゃあ行きましょうか」
「ここは僕で払っとくから先に行ってていいよ」
「わかった。カズヨシ、ごちそうさま」
「また15時に会いましょ」
そこで一花と二乃と三玖の三人と別れて僕はレジに向かった。
「会計お願いします」
「ありがとうございます……あの!直江先輩ですよね?」
「え?うん、そうだけど」
「差し出がましいとは思うんですけど、この後諏訪さんにお時間作ってくれないでしょうか?」
「え?桜?」
意外な名前が出てきたので少し驚いてしまった。
「私、諏訪さんの友達で小林といいます。以前から諏訪さんが直江先輩のことが好きだって知ってて。でも、直江先輩を好きな人は大勢いるから少しでもお近づきになれたらって思って。今からお一人のようでしたし」
あー、三人がさっさと行っちゃったからね。まあ、お近づきっていうか、もう付き合ってるんだけどね。友達とはいえさすがに付き合ってるけど他にも四人いるとは言えないな。
「……桜は今から抜けられるの?」
「っ…!はい!」
「そっか。まあ桜とは知った仲だし、小林さんからもお願いされたことだし、今から桜との時間作ってあげるよ」
「本当ですか!?すぐに諏訪さん呼んできますね」
そう言って小林さんは裏方ペースに行ってしまった。すると、しばらくしたら慌てた様子の桜が出てきた。
「お、お待たせしました!」
「桜にしては珍しく慌ててるね。じゃあ行こうか」
「はい!」
手を振っている小林さんに向かって桜は一礼して僕の横に並んだ。
「さすがに着替えてきたんだ」
「ええ。あの格好ですと色々と注目もされますし、後動きにくいのもありまして」
「そりゃそうだ。しかし驚いたね。いきなり桜との時間を作ってくれって言われた時は」
「す、すみません。ご迷惑をおかけして…」
笑いながら話したのだが、桜は申し訳なさそうにしている。
「全然。良い友達だね」
「はい。後でもう一度お礼を言っておきます」
「さて。この後は五月が勉強してるところへ差し入れを持って行こうと思ってたんだけど、それで良かったかな?」
「はい。和義さんと一緒にいられるならどこへでも」
笑顔でそんな言葉を返されたらこっちが恥ずかしくなってくるな。
「なんだったら一ヶ所くらい寄りたいとこあれば寄ってもいいけど」
「そうですね……どこかに行きたいというのはないのですが、少し色々と見て回りたいです」
「そっか。なら色々と覗きながら行きますか」
「はい!」
その後は校内を中心に見て回った。
校内は一・二年生が中心に出し物をしているがどこもそれなりに人が入っていて賑わっている。
「まだ初日だっていうのに凄い賑わいだね」
「本当ですね。皆さん顔が生き生きとしています。見ていてこちらまで楽しくなりますね」
「だよねぇ~。そういえば、桜のクラスの出し物って川瀬さんが発案だったりする?」
「え?そうですが、よく分かりましたね」
「今日の彼女の言動を見てたらなんとなくね」
僕の言葉にふふふ、と桜は笑ってしまった。
「川瀬さんは
「凄い桜推しだね」
「そうやって
先ほどの会計での小林さんの態度といい五つ子以外でもちゃんと良い関係性を築けているのが確認できて良かったな。
そんな思いを胸に桜との出し物回りを楽しんだのだった。
校内の出し物をある程度見た頃、五月への差し入れを買おうと外の屋台を回ることにした。そんな時だ。
「あ、直江君いいところに!」
「ん?」
腕に実行委員の腕章を着けた女子生徒が声をかけてきた。
「楽しんでるところごめん!ちょっと相談したいことがあって」
その女子生徒は手を合わせてお願いするように相談してきた。そんな勢いもあったので桜をチラッと見たらコクンと頷いてくれた。
「別に良いよ。僕も実行委員だしね。どんな内容?」
「ありがとう。実は休憩所を作ってほしいって要望があったんだ。で、その設置をしようと思ってたんだけど私も他に仕事があって…」
「なるほどね。ちなみにどの辺に設置しようと思ってたの?」
「ほら、食堂の近くに噴水があるでしょ?その噴水の回りに椅子を並べていけばいいんじゃないかなって。先生からの許可は取ってるから後は椅子を持ってきて並べるだけなんだ」
椅子を並べるだけとはいえ、噴水の回りに並べるならかなりの数になりそうだな。集合時間に間に合うか?
そんな考えをしていたら桜が手を挙げて提案してきた。
「
「いいの?」
「ええ」
「分かった。休憩所の設置は僕達でやっておくよ」
「本当にありがとう!じゃあ私は他の仕事に行くから、後はよろしくね」
そう言って女子生徒は行ってしまった。
とりあえず僕と桜は椅子が置いてある空き教室に向かう。
「さてさて頑張りますか。桜も本当にありがとね」
「いいえ。礼には及びません。先ほども言いましたが
屈託のない笑顔でそう言われちゃあ敵わないな。
教室の椅子をいざ持って出ようとした時、思いもよらない人物が来た。
「よう。手伝うぜ」
「お手伝いに来ました!」
風太郎と四葉である。
「二人とも、どうして…」
「さっきそこで、休憩所設置のことを聞いてな。和義にお願いをしたことも聞いたから来てみたんだ」
椅子を両手に持ち上げながら風太郎は経緯を話してくれた。
「後、この困ってる人はほっとけない馬鹿がいたしな」
「親友の困っているところはなおさらです!」
ニッと笑いながら四葉は椅子を持ち上げた。
「二人とも、ありがとね」
「上杉先輩、四葉さん。ありがとうございます」
僕は椅子を持ったままお礼を言ったのだが、桜は椅子を下ろし両手を前に添えて頭を下げてきちんと礼をした。まったくもって彼女らしい。
「お前は桜と二人でいたんだな。てっきり他に五つ子の誰かがいると思ったが」
椅子を持って噴水に行く道すがら風太郎から聞いてきた。
「さっきまでは一花と二乃と三玖の四人でいたけど、二乃と三玖が現場に戻らなきゃってことで別れたんだよ。後、一花はクラスの皆に顔出しときたいんだって」
「そうか」
「そう言う風太郎も四葉とずっと一緒だったの?」
「昼過ぎくらいにやった四葉の出てる劇の後から一緒だな」
「へぇ~、じゃあお祭りも二人で楽しめたんじゃない?」
「はぁぁ…あいつは色んなところで助っ人の頼みを受けててな。今までそれに付き合ってたよ」
大きなため息をついた後、風太郎は疲れたように話した。
「それはそれはご苦労だったね」
「ったく。あちこちで人助けしやがって…」
「でも、そういうところも好きなんでしょ?」
「ばっ…!そ、そんなんじゃねぇよ!」
「もう付き合ってるんだから素直になんなよ。まあでも、そうやって文句言いながらも一緒に居てくれたことには四葉も喜んでると思うよ」
「っ…!こ、この話はここまでだ!喋ってないでさっさと終わらせるぞ!」
「はいはい」
椅子を持ってさっさと前を進んでしまった風太郎をクスッと笑いながら追いかけるのだった。
それから何往復かしてようやく休憩所の椅子の設置作業が終わった。
「結構時間かかったね。三人ともお疲れ様」
「お疲れ様です」
「つ…疲れたぜ…」
「上杉さん大丈夫ですか?」
「お前はまだ元気そうだな…」
「はい!まだまだいけますよ!」
僕の言葉に桜はペコリと頭を下げ、四葉は疲れ果てている風太郎の身を案じていた。
「はぁ…そろそろ集合時間だし、教室に向かおうぜ」
「そうだ!屋台で色々と買ってみんなで食べましょう!」
「良い案ですね。買い物には
「しゃーねぇ、荷物持ちぐらいは付き合うか」
「悪いんだけど、三人は先に行っててくれるかな?」
屋台に向けて歩きだした三人に向かって僕はそう伝えた。
「?何か用事でもあるんですか?なら私たちでお手伝いしますよ」
「いや、ここまで来たから五月と一緒に行こうかなって」
「なるほど、そういうことでしたか」
「
「遅れんじゃねぇぞ」
「ああ」
そこで三人と別れて僕は食堂に向かうことにした。
向かった食堂では今日はご飯の提供も無いからかほとんど人もいなかった。休憩に利用している人がチラホラいる程度である。
さてと五月はーっと……ん?誰かと話してるのか?あの横顔どこかで…………っ!
そこで一人の男の顔を思い出し無意識に五月を大きな声で呼んでいた。
「五月!」
「え?か、和義君?」
僕の声に反応してこちらを見た五月は、ここに僕が来るとは思っていなかったのか驚いた表情をしていた。
そしてもう一人僕の声に反応してこちらを見た人物がいる。
なんで!?なんで貴方がここにいる!無堂先生!
今回はただ和義とその彼女達が祭を満喫しているところだけを書かせていただきました。唯一五月とのやり取りが無かったところはすみません。次回には書かせていただきます。
日の出祭一日目も次回くらいで終われればと思ってます。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。