五等分の奇跡   作:吉月和玖

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報告

一花を見送った後、僕も中野さんがいないか辺りを見ながらとりあえずクラスの屋台に顔を出した。そこには、焼きそばもパンケーキも売り切れの看板が出ていた。

 

「お、直江じゃねえか」

「や。どうやら初日は順調だったみたいだね」

 

ちょうど初日の片付けをしていた前田に声をかけられた。

 

「僕がいなくなった後も大丈夫だった?」

「おう。あの時間が一番人多かったからな。それでもある程度の客はいたが二乃さんが上手いこと捌いてくれたぜ」

「そっか。明日は少しだけ来れそうだから、その時はがんがん作るから」

「期待してるぜ」

 

そして片付けに参加出来ないことを謝りながらその場を後にした。

しばらく一人で屋台のある外を回ってみたがやはり中野さんの姿はなかった。もしかしたら今日は来ていないのかもしれない。今日だけが日の出祭ではないわけだし。

そんな思いでいると二乃と風太郎の二人と合流できた。

 

「どう?いた?」

「いいえ、いないわ」

「くそっ、いねーな」

「スマホに連絡は?」

「待って…」

 

僕の質問に二乃はスマホを確認している。

 

「直電した方が早くねぇか?」

「いや、さすがにやりすぎでしょ」

「それにいいのよ。元から期待はしてないから」

「二乃…」

「……お前だって勇気出して招待状送ったんだろ。納得できるのかよ」

「風太郎…」

「あら?やっと見つけたぁ」

 

風太郎が熱くなってきたところに、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「景さーん、零奈ちゃーん。和義見つけたわよー」

「なんだ、和義と一緒だったのかよ風太郎。らいは、こっちいたぞ」

「母さん!」「親父!」

「おー、二人が一緒で丁度良かったな」

「もー、お兄ちゃん何してたの?やっと会えたと思ったら終わりそうだよ」

「全くです。せっかく屋台まで行ったのに居ないのですから」

 

直江家と上杉家揃い踏みである。

 

「いや、今日来るって聞いてなかったし」

「そりゃあ今日日本に帰ってきて、零奈ちゃん連れてそのまま来たんだしね」

「どうだ?驚いたか!」

 

うちの親はこんなんだったね、そういえば。

 

「私もいきなり家に帰ってきたので驚きました。ここに連れてきてくれたので、それは無しとしますが」

 

そんな零奈はらいはちゃんと仲良くわたあめを食べている。

 

「うちだってそうだ。一日目は来ないんじゃなかったのかよ?」

「お父さんが急に行くって言い出してさ」

「そうなのか?」

「ま、なんにせよ。ここで会えたのはラッキーだったぜ。五つ子の...えーっと...」

「二乃ちゃんよ次女の、勇也君」

「ぬぁーっと、先に言わないでくださいよ!今言おうとしてたのに!」

 

さっさと母さんが答えを言ったものだから、勇也さんが母さんに文句を言っている。

この反応、風太郎とまったく一緒だよ。親子だね。

 

「俺はまったっく分からんがな」

「父さんはこの間、REVIVALで会っただけだから、分からなくて当然でしょ」

「まぁそうだな。君はうちの和義と付き合ってたりしないのかね?」

「ゴホッゴホッ......ちょっ」

 

父さんの突然の質問に驚きむせてしまった。

 

「まあ、彼女とまではいかないけど仲良くしてるわよね。みんなとは私も連絡取り合ってるし、ね?」

「は、はい。和義君とは仲良くさせてもらってます」

 

そこに母さんが間に入ってきて、母さんの言葉に真面目な態度の二乃が答えた。その答えだけで父さんは満足したようで特に追及はしてこなかった。

父さんが見えないところで母さんが僕にウィンクしてきたのは気になったが。やっぱり気づいてるな。

 

「ん...五つ子ちゃんと()やぁ...マルオの奴見てねぇっすね。もう帰ったのか?」

「おお、そうだな。お前たちは見てないのか?」

「マル...?」

「父なら来てませんが」

 

マルオとは誰だ?といった表情の風太郎であるが、そういえば風太郎は中野さんの下の名前知らなかったんだっけ。

そんな風太郎に代わり、二乃がいないことを答えてくれた。

 

「あれ?そうなのか?」

「ちょっとぉ、勇也君話が違うじゃない」

「おかしいなー、この前あいつの部屋に行った時、ここの手紙置いてあったんすよねぇ」

「!読んでくれてたんだ...」

 

勇也さんの言葉に喜びを隠せない二乃。そんなところに風太郎が待ったをかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「どうしたの風太郎?」

「いや、何でお前は冷静でいられるんだよ。親父とこいつらのお父さんが知り合いのように話してるんだぞ!」

「ん?なんだ和義、風太郎君に教えてなかったのか?」

「いや、この間の父さん達の集合写真を見て、勇也さんに聞いてるのかとばっかり...」

「そういえば、そんな写真があったな...」

 

これである。てか、クラスメイトじゃないのかって話をしてた時に近くにいなかったっけ。

 

「あいつとは学生ん時からの腐れ縁よ。俺はバリバリのアウトロー」

「ステキ」

 

勇也さんの言葉に、当時の勇也さんを想像したのか二乃がうっとりしている。

二乃はチョイワル系が好きなんだそうだ。僕とは正反対ではあるが、それでも僕を好きだと言ってくれているのだ。そんな僕でいられるよう頑張っていこう。

 

「んで、あいつは不動の学年トップで生徒会長」

「すげー」

 

勇也さんの言葉に驚いた声を上げている風太郎。

確かに、学年トップの成績なら分かるが、まさかの生徒会長か。それは初耳だ。でもやっぱりそつなくこなしそうではある。

 

「まったく。中野に関しては、色々としてくれて非常に助かったが。お前には手を焼いたもんだよ上杉」

「なははは...まあ、昔のことなんで時効ってことで。と、直江先生にもこう言われてるほど俺達は両極でな。よく奴とは対立したもんだぜ」

「初めて知ったわ」

「よくそんな関係で仕事を引き受けられたな」

 

確かに風太郎の言う通りである。

絶対中野さん嫌がったでしょ。ん?まてよ。もしかして中野さんの風太郎嫌いは勇也さんが原因なんじゃ。

 

「ガハハ、半ば強引にな!それに俺らを繋ぎ止めたのは綾先生とれ...いや...これ以上は俺の言うことじゃねー。マルオの奴から直接聞きな」

「もしかして、お母さん...?」

「いい女だったぜ!うちの嫁さんの次にな」

 

そんな勇也さんの言葉に零奈は恥ずかしそうにしている。

 

「ちょっとぉ、私は?」

「綾先生は、どっちかつうとダチって感じだったんすよねぇ。もちろんいい女でもありましたよ」

「だろう?うちの奥さんはいい女だよ」

「もう、景さんったら!」

「「はぁぁぁ...」」

 

僕と零奈は同時にため息が出た。仲が良いのはいいんだが、子どもの前でイチャイチャするのは止めてほしいと零奈と二人、前から思っている。

 

「直接聞くも何も、その本人がいねーから始まんないだろ」

「安心しな。父親ってのはなかなかめんどくせー生き物でな。あいつ自身のめんどくささも加わって、二倍めんどくせーんだが。お嬢ちゃんたちが心を開いていったように、あいつも少しずつ歩み寄っているはずさ」

「うんうん。上杉も父親やってるなぁ。そう、父親って生き物は面倒くさいんだよ」

「父さんは別の意味で面倒くさいですが」

「零奈!?」

 

零奈の毒舌に父さんはクリティカルヒット、瀕死状態である。

 

「わかったよ。だが、もしこのまま来なければ、和義が直接文句言いに行くからな」

「上杉、あんた...」

「風太郎...君はどの立場から言ってるの。しかも、僕なんだ...」

「......分かった。信じて待ってみるわ」

 

そこで二乃は神妙な顔つきで頷いた。

と、そうだ。ちょうど勇也さんもいることだしあの事話しておいた方がいいよね。

 

「風太郎。ちょっとうちの両親と勇也さんとで話したいことあるから、二乃と一緒に零奈とらいはちゃん見ててくれないかな」

「それは構わんが。また何かあったのか?」

「まあ、風太郎には後で説明するよ。面倒ごとには巻き込まれたくないでしょ?」

「そうしてもらえると助かるよ。らいは、ほんの少ししかないが一緒に回るか」

 

僕に返事をした風太郎はそのままらいはちゃんを屋台巡りに誘った。

 

「ホント!?じゃあ零奈ちゃんも行こ」

「え、ええ…」

 

零奈はこちらを見るがらいはちゃんに引っ張られていることもあり連れていかれてしまった。

 

「おい、二乃も行くぞ」

「え、でも…」

「悪い。僕は母さん達と話があるから後で合流するね」

「う…うん」

 

引っ掛かるところがあったのだろうが二乃も風太郎に付いていった。

 

「なんだぁ?風太郎のやつに露払いさせるとはぁ、あの子たちに聞かれたくない話をしようってか?」

「まあ……今日無堂先生に会いました」

「「なっ!?」」

「何!?それは本当か和義」

「ええ」

 

興奮気味の勇也さんに答えた。

 

「やっぱ来てやがったか」

「見たではなく会ったということは、無堂と話したのか?」

「話したというか……五月と一緒にいたのを見たから急いで話しかけたんだ」

「嘘…五月ちゃんに話しかけてたの?」

「あんのやろう行動力だけはあるな」

 

父さんの質問に答えると、驚いて手を口に持っていっている母さんとは裏腹に勇也さんは本当にムカついてそうに話していた。

 

「まあ、お互いに会ったこともない訳だし、僕はほとんど喋らず五月を連れて離れたよ」

「賢明な判断だな」

「それで?五月ちゃんはどんな話をしていたんだ?」

「僕も気になったから聞いたんだけど、お祭りの中勉強してるなんて偉いと誉められただけだって」

「本当かよ」

 

五月の事を疑いなくはないが僕も勇也さんと同じ考えである。それに…

 

「僕も勇也さんと同じ考えです。きっと五月は何か隠してる。その証拠となるかは分からないけど、僕と五月で去る時に無堂先生から『悩んでいるのなら、いつでも相談にのるよ。きっと君に合った道は他にもあるはずだ』って言ってきたんだ」

「なるほどな。悩んでるならいつでも相談にのるか…」

 

僕の言葉に父さんは顎に手を持ってきて考えている。

 

「その言い方だと明日以降も来そうね」

「だな。しかし、明日はどうしても外せない用事があってだなぁ」

「俺は来れるんで、明日も見回ってますよ」

「ありがとう。でもやり過ぎないでね」

「わかってますって。一応下田とマルオにも共有しときますよ」

「和義はどうなんだ?」

 

大人達の明日の予定が決まってきたところで父さんから話が振られた。

 

「僕は明日は今日と違ってほとんど一日拘束されてるんだよね。朝一は屋台で焼きそば作って、その後はパンフレット配り、その後一時間くらい休憩があって見回りかな。自由なのは最後の方だけ」

「じゃあ、その見回りの時に無堂がいないか見て回れるな」

 

僕の予定を聞いた勇也さんが安心したように言った。

 

「ただ、僕が見つけたところで何もお役に立ちませんよ?」

「何かありゃあ俺に連絡しろ。すぐに駆けつけるからよ!」

「心強いです」

 

そう返事をするも皆の近くにいられないことの歯がゆさがあった。

一花は明日は一日撮影だって言ったから多分来ないだろう。二乃と三玖が同じようなシフトだから一人になることもそうそうないかもしれない。四葉はまたあちこちで助っ人してるだろうし、たまに風太郎にも様子を見てもらえれば大丈夫か。五月は明日はほぼ一日屋台の作業だからそうそう声をかけられないと思う。桜の予定は分からないけど後で連絡しておけば自ずと警戒するだろう。そうだ、あの人にも共有しとかないと。

スマホを取り出してメッセージを送ったが割りとすぐに返事があった。『畏まりました』と。

とりあえず僕からの報告も終わり、今日は解散となった。

 


 

~五月の部屋~

 

日の出祭初日が終えた夜。皆が寝静まった中、五月は自室で勉強をしていた。しかし...

 

「はぁぁ...」

 

ペンを走らせてはいるがどうも身に入らない様子の五月。

 

(いけない...全然集中ができてない。これ以上は意味ないかもだからもう寝ようかな...)

 

そんな中、五月は窓から外を見ていた。そこで、和義と合流した直前の事を思い出していた。

 

・・・・・

 

日の出祭が始まってからも五月はずっと学食で勉強に励んでいた。

しかし、断食を行っている五月にとって周りに食べ物を持ってくる人達の話し声や食べ物の匂いは集中力を妨げていた。

そんな時、どこからか甘い匂いがしてきたので、五月は反射的にその方向をばっと見てしまった。

そこにはどこかで見た事がある男が綿あめを食べながらこちらに近づいてくる姿があったのだ。

 

「いいねぇ学園祭。十年以上前の記憶が甦ってくるよ」

「!あなたは...」

「おや、僕の事を知っているのかい?」

「ええ、私が通っている塾のプリントで拝見いたしました。特別講師をされている無堂先生ですよね。私はそちらの講義に参加はしていないのですが...私、中野五月と言います」

「そうかい。それは残念だね。おや、こんなお祭りの中勉強かね」

「えっと...まぁ...」

 

無堂は五月の目の前に広がるテキストを見てそう尋ねる。

 

「実は、教師を目指しているのですがちょっと心配になりまして...自分のシフトではない時間を使って勉強をしています」

「なんとストイックな!素晴らしい向上心だ!授業に参加する生徒が、皆中野さんみたいな心持ちだったら僕も楽なのに。僕はね、昔教師をしていたから...ところで、どうして教師を目指しているんだい?」

「......正直に言うと今まで苦手な勉強を避けてきました。ですが夢を見つけ、目標を定めてから学ぶことが楽しくなったんです。そんな風に私も誰かの支えになりたい。それが私の...」

「感動した!なんて健気で清らかな想いなんだろう」

「......っ!」

 

五月の言葉を遮るように拍手をしながら無堂は自身の感想を伝える。

 

「...少し救われた気がします...本当に私の夢は正しいのか...今になってもそんなことばかり考えてしまって、机に向かっても集中できず...実は母が言っていたことがあるんです。あ、母も学校の先生でして...」

「知ってるよ」

「え?」

「僕は彼女の担任教師だったんだ」

 

そこで無堂は、五月にとって衝撃的な言葉を口にした。

 

「君は若い頃のお母さんそっくりだ」

「そっくり......」

「ああ、歪なほどね。君がお母さんの後を追ってるだけならお勧めしない。歪んだ愛執(あいしゅう)は君自身を破滅へと導くだろう。まるで呪いみたいにね」

 

『お嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけなんじゃないか?』

 

そんな時、以前零奈(れな)の墓参り後に下田に会った時言われた言葉が頭を過った。

 

「ち、違います!これは私の意思で」

「そうだと無意識に思いこんでる。それが呪いだ。現にほら、君の想いに君自身が追いついていない」

 

そんな無堂の言葉に五月の目から光が消えていった。

 

「きついことを言ってしまってすまない。でもね、僕は君にお母さんと同じ道をたどってほしくないんだよ」

「え...?」

「彼女は僕に憧れて似合わぬ教職の道へと進んだ。最後までそのことを後悔していたよ」

 

『私の人生...間違いばかりでした』

 

生前の零奈(れな)が口にした言葉が五月の頭に過る。その事で、無堂が言っていたことは本当なのではと思ってしまった。

そこに自分を呼ぶ大好きな声が聞こえてきたのだ。

 

・・・・・

 

「和義君、お母さん。私、自分がよくわからなくなっちゃった…どうしたらいいかなっ……うぅっ…」

 

そう口にした五月の目からは次から次へと涙が流れていった。

助けてほしい気持ちはある。だが和義は今、日の出祭の実行委員として大忙しのはず。そんな事を思ってかなかなか相談しずらかった。

 

(抱きしめられたあの時に素直に相談してればっ……でも…せっかくみんなで集まる前にそんな話をするわけにはいかないよね…)

 

その時の抱きしめられた感触とキスの事を思い出して、五月は自分の唇に自身の指を持っていった。そして、見えるはずもない和義と零奈のいる直江家の方角を見つめるのだった。

 

 




今回のお話で日の出祭一日目終了となります。
無堂とは和義が出会ったので、日の出祭の会場に無堂が来ていることを勇也達には和義から説明させていただきました。

さて次回から日の出祭の二日目が開始されます。次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


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