ジューー…
「和義!追加注文が入ってるがいけるか?」
「ああ。今作ってるのがもう終わるから、次の注文も受けてて良いよ」
「おう!」
「前田!野菜の補充したいからじゃんじゃん切っちゃって」
「まかせとけ!」
日の出祭二日目。開催されて三十分ほど経っているが、我がクラスの屋台はすでに注文待ちの行列が出来ていた。
ピークはお昼頃だろうと思っていたのだが、昨日のうちにうちの焼きそばが美味しいことが広まっていたようである。もう一つの理由があるのだが、ハッキリ言ってそちらはどうでも良い。
「ほら見て。本当に直江君が作ってるよ」
「えー、手料理ってこと?並ばなきゃ」
「直江先輩の手料理の焼きそばって今だけらしいよ」
列の女子率が高いことが物語っているように、目当てが僕の手料理だという生徒が多いようなのだ。どこから聞きつけたのか。恐るべし女子ネットワークである。
焼きそばを受け取った後も僕の作っているところを覗き込むように見ている生徒までいるので、屋台回りは人だかりも出来ている。てか写真撮ってる人もいるけどそれを一体どうするのだろうか。
隣のパンケーキにまで人だかりが行っていないのは助かっている。まあ、焼きそばを買った後にパンケーキを買う人もいるみたいだから売上には貢献出来ているのだろう。ただ、あっちには今は三玖がいないから大変なのかもしれない。
「しかし面白いものだね」
「何がだよ」
僕の隣で僕の作った焼きそばを次々とパックに入れていく作業をしている武田がボソッと言葉を溢したので、手を止めずにそれに答えた。
「いや。昨日は二乃さん目当てで売上上々。今日は君を目当てにこんなにも列が並ぶんだ。これは面白い他無いんじゃないか、ね?」
「言っておくけど、君を目当ての人も何人かいるんだからね」
そんな話をしている中でも『武田くーん』と呼ぶ声がしている。それに対して武田は笑顔で手を振っている。
よくやるよ。
「和義さん。お疲れ様です」
一心不乱に焼きそばを作っていると控えめに声をかけられた。
「「こんにちは」」
「あれ、桜じゃないか。それに小林さんに川瀬さんも。いらっしゃい」
声の方に目を向けると三人が並んでいた。
「わぁー、覚えてくれてたんですね!」
「昨日は急なお願いを聞いていただきありがとうございました」
そんな三人の手元には焼きそばが入った袋が提げられていたのでお会計は終わったのだろう。
川瀬さんは僕が覚えていたことに喜びの表情を出し、小林さんは昨日の桜と同行してほしいというお願いを聞いてくれたことに改めて礼を言ってきた。
「あれくらいどうってこと無いよ。それより焼きそば買ってくれてありがとね」
「桜ちゃんから直江先輩の作る焼きそばは美味しいって聞いたので、これは行かなければっと思いまして」
「来たときにはすごい列でしたので私たちビックリしてたんですよ。直江先輩の回りも人だかりでしたしね」
「話しかけられないかと思いました」
三人の話を焼きそばを作る手を止めずに聞いていた。
「はい、上がったよ武田。よろしく!まあ、こんな感じで繁盛してるのはありがたいんだけどね」
「それにしてもすごい手際ですよね。私たちと話しながらでもどんどん作ってるんですもん。料理得意なんですか?」
川瀬さんが驚きの表情で聞いてきた。それを油を引きながら答えた。
「まあ、料理は趣味ではあるかな。こうやって大量の焼きそばを作った事はないけど楽しいよ。今度、焼きそばの感想聞かせてね」
「はい!」
「それではこれ以上お邪魔するのも気が引けますのでこれで。文乃行くわよ」
「わかってるってー。じゃね、先輩!」
小林さんが川瀬さんを連れていく形で二人は離れていった。
「では
「ああ。桜も自分の喫茶店頑張ってね」
「はい!あ、そうでした……あの、五月さんへのフォローしておいた方が良いですよ」
「え?」
桜が僕にだけ聞こえる声で話しかけてきたので五月がいる方向を見ている。五月は看板を持って客引きにしっかりと務めているように見える。まあ、どちらかと言えば列の整理をしていると言っても過言ではないが。
「和義さんが女性の方々に囲まれているのを心配そうに見ておられました。少しの時間の
ニッコリと話しかけてきた桜はそこで離れていった。
忙しさにかまけて五月の事まで頭が回らなかったようだ。反省である。
「まったく、自分のことではなく他の女の子のことを気にかけるなんてね。良い関係を築けてるようだね」
「ああ。本当に僕には勿体ないくらいな
その後暫くして二乃と三玖が屋台に戻ってきた。
「戻ったわよ。てか、相変わらずの繁盛さね。すごい列だわ」
「おかえり~。いや~、おかげさまで売上は良い感じだよ」
「これは本当に最優秀店舗狙えるかもね」
エプロンを着ながら二乃は隣に来て焼きそば作りの用意を始めた。
「これ作り終わったら少し休憩に入って実行委員の仕事に行くよ」
「あんたも四葉ほどではないけどよくやるわね。倒れないでよ?」
「そこはちゃんと自粛してるから大丈夫だって。後、中野さんの事も見つけたら連絡するよ」
「…っ!あ…ありがと…」
お礼を言った二乃は焼きそば作りに集中しだした。それを横目に僕は先ほど作ったばかりの焼きそばを
「焼きそばにパンケーキはいかがですかー?」
「五月」
僕が向かったのは客引きを頑張っている五月のところだ。
「あ、和義君。お疲れ様です。すごいお客さんの数で焼きそば作りは大変だったでしょう」
「五月もね。僕は今から休憩に入るから五月も一緒にどう?」
「え…ですが、私の休憩はもう少し先ですよ?」
「大丈夫。クラスの人には許可取ってるから。一緒に食べよ」
そう言いながら焼きそばの入ったパックを掲げて見せた。五月もすぐに承諾してくれたので、近くのベンチに並んで座って食べることにした。
「では…」
「「いただきます」」
五月の合図で焼きそばを食べ始めた。
うん。我ながら良い出来だと思う。
「う~ん、やはり和義君の焼きそばは格別ですね♪と言うよりも目玉焼きってありましたっけ?」
「口に合ったようで何よりだよ。なんと言っても五月の事を想って作った焼きそばだからね」
「ぶふっ…ゴホッ…ゴホッ…」
「だ、大丈夫?ほらお茶だよ」
咳き込んだ五月にお茶を差し出すとそれを五月は受け取り勢いよく飲みだした。
「んく…んく……はぁぁ…ありがとうございます。ではなく!なんなのですか、先ほどの言葉は!」
「何って、五月に美味しく食べてほしくて作った焼きそばだって」
「ちょっ…!」
誰かに聞かれたのではないかと五月は周りをキョロキョロと見ている。
「大丈夫だって。その辺はちゃんと注意してるから」
「なら良いのですが。ありがとうございます。大変美味しくいただけてます」
恥ずかしくなったのか、先ほどよりは大人しく食べている。
「桜から聞いたよ。さっきまで屋台の周りに女子が多く集まってたのを心配そうに見てたって」
「あ…」
「ごめんね不安にさせて。これはそのお詫びだよ。和義スペシャル、かな」
僕がそう伝えると五月はぽかーんとした顔から一変してプッと吹き出してしまった。
「あははは、和義君でもそんなこと言うのですね」
「そ…そこまで笑うこと?」
「ふふふ…でも、うん。和義スペシャルありがとね」
笑顔になってくれたのなら良かったか。
残りの焼きそばを食べながらそう思った。
「じゃあ僕は実行委員の仕事に行くよ。こっちの事よろしくね」
「はい。いってらっしゃい。頑張ってください」
そして実行委員の仕事のためにその場を離れるのだった。
現場に向かっている途中、放送部の人がお客さんに突撃インタビューをしているところを目撃した。
あれってたしか、同じクラスの椿さんだっけ?
そこで一つ案が思いついたのであることをお願いすることにした。
「椿さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「おー、直江君じゃん!何々?」
「実は……」
よしっ、何とかお願いを取りつけることができた。まあ、インタビューを受けるのが条件に出されたのは仕方なかったが...
少し遅れ気味なので急いで次の現場に向かうことにした。
次の現場は昨日と同じく入り口でのパンフレット配り。とはいえ、もう二日目だからか昨日ほどの人に配っていないから結構暇をもて余している。それに、今のところここを中野さんと無堂先生は通っていない。今日は来ないのか、それとも僕がいない間に通ったか。
ジーッと入り口を行き来している人達を見ていたらやっと自分の担当時間が終わろうとしていた。
「パンフレット二部ください」
「はーい……て、お前ら」
「お。気付いてくれたんだ。大きくなったね和義」
「やあ。久しぶりだね直江君」
「竹林…それに真田…」
パンフレットを渡そうとした相手は小学校以来の同級生である竹林と真田であった。
竹林は黒髪ロングでヘアピンを着けたスラッとスレンダーな女子で、真田は短髪メガネのひょろっと細身の男子である。二人とも同じくらいの身長だ。ちなみに二人は昔からの幼なじみで付き合ってるとかいないとか。
「こんなとこで何やってんの?」
「何って、学園祭なんだから遊びに来たに決まってるじゃん」
「受験勉強は?」
「あー…僕もそれを言ったんだけどね。彼女がどうしても行こうってうるさくって」
「なるほどね」
「直江君お待たせ。交代するね」
そこに交代の人が来たので僕は今から休憩である。しかし、それを悟ったのか竹林がニヤッと笑った。
「和義今からフリーなんだ」
「いや、フリーって言うか休憩…」
「じゃあ、三人で回ってみよう!」
「人の話を聞け!」
「無駄だよ直江君…」
右手を高々と挙げて前を行く竹林。そんな竹林にツッコミを入れるも、無駄だと僕の肩に手を置く真田であった。
パンッ……コツン…
パンッ……スカッ…
「相変わらず和義ってば何やってもそつなくこなすね」
「そりゃどうも」
パンッ……コツン…
パンッ……スカッ…
「それに比べて真田君は…」
「何も言わないでほしいかな」
僕達は今、射的の屋台に来ており、竹林の要望もありで真田と二人並んで射的をしていた。
僕は順調に的を倒していっているが、真田は中々的に当てることすら出来ないでいた。
「それで?結局なんで来たのさ?」
「えー。いいじゃない、久しぶりに会いたくなったんだよ」
「さいですか」
パンッ…コツン…
パンッ…コツン…
「やったっ」
「やったね真田君!」
「おー、やったじゃん」
パンッ…コツン…
「な、直江……そのくらいにしてもらえると助かるんだが…」
「え?そう?ごめん、後一回だけ」
パンッ…コツン…
よしっ!全部で五個。小さなお菓子ではあるが彼女達に良いお土産になったのかもしれないな。四葉の分も取ってあげたかったが、これ以上すると泣いて頭下げてきそうだからな。
「百発百中!さっすが和義」
「まあね。真田も良かったじゃん竹林のために取れて」
「べ、別に彼女のために取ったわけでは…」
「いいっていいって」
どんどんと顔を赤くしている真田に対して肩をトントンと叩いてあげた。そんな僕の態度に真田はあまり納得していないようだ。
「次どこ行こっか。あ!パンケーキだって。私食べたいかも」
真田の手を引っ張って先導する竹林。結局この場所に来てしまったか。まあ、本来は様子見をするために来る予定だったし良かったか。
「焼きそばにパンケーキはいかが…って、和義君」
「あら、和義じゃない」
「先ほど以来です、和義さん」
三人で屋台に近づくと午前同様に五月が客引きをしていたのだが、その横には二乃と桜もいた。
「やあ、二乃と桜は休憩?」
「はい。一人でしたので、こちらに遊びに」
「私は焼きそば作りは休憩だけど、五月と一緒に客引きよ。それよりそっちの二人は誰よ」
「ああ。この二人は小学校時代の同級生だよ。男子が真田。女子が竹林ね」
「ども」
「こんにちは。いつもうちの和義がお世話になってます」
僕の紹介に真田は普通に挨拶したのだが、竹林はなぜか僕の頭に手を置き無理やり頭を下げさせて、自分も頭を下げ答えた。
「なんでお前のってことになってんだよ!」
「うーん…ノリ?」
「アホか!」
「ごめんよ直江君。彼女久しぶりに会えたことでテンション上がってるんだよ」
「はぁぁ…」
僕のツッコミに竹林ではなく真田が詫びてきた。頭痛くなってきたかも。
「こんな和義見たことないかも」
「あのお二人が和義君の小学校の同級生だったというのは本当みたいですね」
「ええ」
呆気にとられている三人の横を通ってパンケーキの屋台に向かう。そこでは三玖がいたので今が当番の時間らしい。
「真田はいるの?」
「いや、僕は焼きそばをもらうよ」
「はいよ。三玖、パンケーキ一つお願い」
「ん、わかった。カズヨシ、ちょっと疲れてる?」
「まあね…ごめん前田!焼きそば一つお願い」
「おうよ!」
「久しぶりのやり取りだったからね。ちょっと疲れたかも」
三玖に答えながら二人を見てみると、二乃と五月と桜の三人と話しているようだ。真田はともかく竹林はコミュ力高いからな。
「そっか…でも少し彼女が羨ましいかも」
「え?なんで?」
「今のカズヨシの雰囲気って見たことないから。私たちの知らないカズヨシを知ってるってことでしょ?」
「まあ…」
「そこが羨ましい…はい、出来たよ」
話しながらも慣れた手つきで作られたパンケーキを差し出されたのでそれを受け取った。
そこで三玖にだけ聞こえるように言葉を伝えた。
「これから知っていけばいいさ。時間はいっぱいあるんだから」
「…っ!うん」
僕の言葉に笑顔が返ってきたので良しとしよう。
そんな三玖の頭ポンポンと撫でてからその場を後にした。
というわけで日の出祭二日目の開催です。
今回はサブキャラが多く出てきましたね。桜の友達の小林に川瀬。和義の同級生にして放送部の椿。そして、風太郎と和義の小学校の同級生の竹林と真田です。
この、竹林と真田とのやり取りは次回まで持ち越させていただきました。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。