12.家庭教師初日
「そういえば兄さん今日からでしたね」
零奈と朝食を食べているとそんな風に切り出された。
「え?何が?」
「何がって...家庭教師に決まっているじゃないですか」
「あぁ、そういえばそうだっけ」
「はぁ...時間は大丈夫なのですか?」
たしかに、今日は土曜ということもあり、学校もないからちょっと遅めの朝食になっているが、そこまで急がなくても問題ない時間ではある。
「大丈夫だよ。13時からだし、まだまだ余裕があるよ」
「お給料が貰えるのですから、社会人と変わりません。時間には余裕をもって行動をしてください。友達同士の勉強会とは訳が違うのですよ」
小学1年生に、社会人とは何かを教授される高校2年生の図。かなりシュールである。
どちらが年上なのか、常々分からなくなる。
「分かりましたよ。食べ終わったらすぐに向かうよ」
「分かればいいんです。しっかりと家庭教師をしてくるのですよ」
「はーい」
普通逆の立場だと思いながら、食べ終わった後の食器を洗いながら返事をした。
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中野家に行く途中にあるコンビニから見知った人が出てきたので声を掛けた。
「三玖、買い物?」
「カズヨシ。そう、冷蔵庫にあった飲み物を飲んじゃったから代わりのを買いに来た」
そう言って、コンビニ袋を掲げているので中身を見ると、抹茶ソーダが何個か入っていた。
「これは自分用?」
「んーん。冷蔵庫のを飲んじゃったからその代わり。誰のかは分からないよ」
(え、中野姉妹ってみんなこの抹茶ソーダが好きなのか?)
そんな疑問を持っていると、前を歩いていた三玖が振り返りながら話しかけてきた。
「今日からよろしく」
「こちらこそ」
少し歴史トークをしながら中野家のマンションまで来たのだが、そこで妙な光景を目の当たりにする。
「あいつはいったい玄関口で何をしているんだ?」
「分かんない。通行人がいなくて幸い」
「たしかに」
二人が目撃した光景とは、風太郎がオートロックの扉に向かって何かを話しかけているところである。
「もしかしてフータローはオートロックを知らないの?」
「いやー、どうだろう?今までオートロックを開けているところを見たことないから、そうなのかも。この間来た時も、五月が下まで来てたからそのまま普通に入ったし」
そんな会話をしていたら、急に風太郎は監視カメラに向かって話しかけだした。
「あのー、私ここの30階の中野さんの家庭教師をしている者なのですが、ここのドア壊れているみたいですよ?」
「壊れているのはお前の一般常識だ」
「うぉ!いきなり声を掛けるなよ和義」
肩を叩きながら声をかけたのだが、ドアを開けるのにかなり集中していたためか、かなり驚いていた。
「聞いてくれ和義。あの姉妹だけでなく、このドアも俺の家庭教師を邪魔しようとしているんだ。何をしても反応しない」
「もしかしてと思ってたけど、本当にオートロックを知らないんだ。あそこの端末で私達の部屋の番号を押せば、部屋まで繋がって出た人に開けてもらえれば開くよ」
そう言って三玖は、部屋の番号を押す端末を指さしながら風太郎に教えた。
「ふん、そのくらいはまぁ知っていたけどな」
「強がんな、風太郎。ここには僕達しかいない」
ポンッと肩に手を置いてやり、三玖に続きマンションの中に進んだ。
しかし、当の風太郎は下を向いたまま一向にこちらに来ようとしない。
「(ははぁ~ん。あいつ、いっちょまえにビビってんな)どした風太郎?家庭教師するんだろ?大丈夫だって、今日からは僕もいるんだし。そんなにビビんなよ」
そう笑いながら話しかけてやると、いつもの風太郎に戻ったようだ。
「ふん、ビビってなどいない。武者震いというものだ」
そう顔を上げるのだった。
中野家のリビングまで向かうと意外にも3人居た。もちろん二乃以外の娘達だ。
「おはようございます!もう準備できてますよ」
「まぁ私もとりあえず見学しようかな」
「おはようございます。早速ですが、直江君教えて欲しいところがあります」
「フータロー、私には歴史を教えて欲しい」
風太郎はその光景を見て、感動しているのか少し固まっているようだ。
僕は、良かったなという思いで風太郎の肩を叩き五月のところに向かう。
「よし!じゃあ始めるか!」
順調そうに始めれそうなところであったが、そんな時上から声が掛けられた。
「あっれ~、また懲りずに来てたんだ。てか、本当に二人で家庭教師をやろうとしてるのね」
「おはよう。二乃、今日からよろしく。二乃も勉強する気になったの?」
「まっさか~、死んでも嫌よ」
そう言いながら、下まで降りてきた。
これは一波乱起きそうだなっと思ったときだった。
「そう言えば、さっきバスケ部の友達から今日の試合に、助っ人として四葉を呼んでくれないかって頼まれたんだ」
「「今日!?」
四葉と風太郎がハモる。
(そうきたか...)
「何でもただでさえ少ない部員の中で骨折した人が出て、これじゃあ試合ができないって困っているみたいなのよ四葉」
「そ、そんなの行くわけないだろ。なぁ四葉?」
(甘いよ風太郎)
「すみません!上杉さん、直江さん。私、困っている人を見捨てることが出来ないですし、頼まれたことも断れないので!」
そう言って準備のためか自分の部屋に行ってしまった。
(頼まれたことが断れないのであれば、こっちも断るなよ四葉。こっちも困ってるんだぞっと。それはさておき、まず1人脱落っと)
「あと、一花は14時からバイトって言ってなかったけ?」
「あ、いっけない。忘れてたよ」
「あれ?一花ってバイトしてたんだ?あ、五月ここ間違ってるよ。ここは、教科書のここの部分に書かれているから、こっちが正解」
「な、なるほど」
五月に勉強を教えながら、一花に質問をする。
「そうなんだ。と言う訳で、フータロー君もカズヨシ君もごめんね!」
そう言って家から出て行ってしまった。
(はい2人目の脱落っと)
「五月。アンタもこんな所で勉強してないで図書館とか行けば」
「いえ、私は直江君に教えてもらえればそれでいいので。二乃も教えてもらえればいいのではないですか?とても教え方が上手ですよ」
「結構よ!」
そう言ってそっぽを向いてしまった二乃。
本当にいい娘だなと思い、五月の頭を撫でてあげた。
「何ですか!?いきなり!」
「いや、さっきの言葉が嬉しくってさ。嫌だったらゴメンね」
そう五月に言ったのだが、顔を真っ赤にして『別に嫌ではないです』と小さな声を出しながら、勉強に集中するため下を向いてしまった。
この後、残りの姉妹から凄い睨まれているような気がした。
(二乃は分からんでもないが、何故三玖まで?)
そんな風に思っていると二乃の次の矛先は三玖になったようだ。
「そういえば、あんた冷蔵庫の私の飲み物飲んだでしょ。さっさと買ってきなさいよ」
(パシリか!)
「もう買ってきてそこに置いてる」
と、さっき買ってきたものを指さした。
「って何よこれ!普通同じものを買ってくるでしょっ」
「別に注文はなかった。フータロー気にしないで勉強始めよう」
「しゃーない。切り替えていくか」
「何よ。あんたらいつの間にそんなに仲良くなったわけ?三玖の好みってこんな冴えない顔の男なんだ?」
「何げに酷いこと言っているなこいつ」
「(同感)あ、五月そこも間違ってる。ここはみんな間違えやすいところだから注意して。今度間違えなければ、他の人に差を付けることができるから覚えといてね」
「は、はい!」
「二乃はメンクイだから仕方がない」
「三玖お前も結構酷いこと言っているのを気づいているか」
(三玖って結構辛辣なところが多いしな)
風太郎の言葉に対して心の中でツッコミをすると、何やら二乃と三玖の間で雲行きが怪しくなってきた。
「何?メンクイの何が悪いわけ?イケメンが好きってそれに越したことはないでしょ?あ、でも外見に拘らないからそんな格好で外に出かけることができるんだ」
「何?この尖った爪がオシャレなの?」
バチバチとやり合っている。
「なぁ、あの二人っていつもああなのか?」
「えぇ。結構意見が割れやすい二人ではありますね」
そんな会話を五月としていたが二人のバトルは続いている。
「あんたには分かんないよねー」
「分かりたくもないよ」
「お前らいい加減にしろ。姉妹で喧嘩なんかするな。外見とか中身とか今はどうでもいいだろ」
「そ、そうだよね。ごめん。二乃、もう邪魔しないで」
やっと終わったかと思ったのだが、二乃からとんでもない一言が出てきた。
「だったら中身で勝負しようじゃない!どちらがより家庭的なのかを料理でね!」
「そ、そんなのやるわけないじゃないか。なぁ三玖?」
風太郎が三玖に聞いているが、三玖はこちらをちらっと見たあとに、
「すぐに終わらせる。フータローは座ってて」
「お前が座ってろ!」
風太郎の哀れなツッコミに誰も反応することなく、二人の料理対決が始まろうとしていた。
「なぁ五月。どうなの?二乃と三玖の料理の腕前は?」
「普段我が家で料理をしているのは二乃です。三玖が作ったところを見たことないですね」
ほとんど出来レースといっても過言ではない状況である。
「(はぁ...しゃーない。もう勉強どころではないからな)五月悪いんだけど、一時自習をしていてくれ。ちなみにお腹は空いてる?」
「え、分かりました。後、お腹は空いてますが一体何を?」
そんな五月の言葉を無視するように、僕は二乃と三玖に対して宣戦布告した。
「その勝負僕も混ぜてもらおうか!」
みなさんお久しぶりです!
やはり、私生活とのやり繰りは難しいですね。更新が滞ってしまいます。
今後も不定期ではありますが、更新を頑張っていきますので、よろしくお願いします。