『皆さまお疲れ様でした。これにて旭高校学園祭二日目を終了とします』
パチパチパチ……
「やべぇ~~お客さん多すぎだろぉ~~」
「もしかして、最優秀売り上げ本気でいけるんじゃない?」
二日目が終わりを迎える放送が流れている中、クラスメイト達が忙しさからの疲れとは裏腹に興奮しながら話している。
ふと、今の時間帯はパンケーキを焼いていた二乃の方を見ると、ぼーっとしながらパンケーキを焼いている姿があった。
焼きそば側は他の人に片付けを任せて二乃に声をかけた。
「二乃。終わったよ」
「え、あ……」
僕が声をかけた事で二日目の終わりに気づいたようだ。
「ご、ごめんなさい。すぐ片付けるわ」
「いいって。それまで焼いちゃいな」
「うん……」
ジュウウウ……
「お父さんの事やっぱり気になる?」
「!……もういいわよ。招待状読んだのにパパは来なかった。つまり、私たちのことなんか微塵も考えてないのよ。学園祭は明日もあるけどもう嫌よ。どうせ叶わないのなら、望んだことすら後悔しそうだわ」
フライ返しをぎゅっと握りしめながら言葉を吐き捨てる。
「僕は…君たちの家族の事をそこまで知らない。分かっているのは普通の親子関係とは違うってことだけ」
二乃の握っているフライ返しを手に取り、代わりにホットプレート上のパンケーキをひっくり返しながら話す。
「だけどね......僕や風太郎に対する警戒心はめちゃくちゃ怖いんだよ?僕は、両親に中野さんがお世話になったって事で、多少の信頼があるみたいだけど。風太郎に対する警戒は半端ないからね...風太郎怖がってるし...」
「......」
「だけど、その時の中野さんの目を見るたびに思うんだ。あれが父親の目なんだろうって。うちの父さんが零奈に近づく男の子に対する目と一緒だね。まったく、今からそこまで過保護になってどうすんだって思うんだけどね。そんな父さんと同じ目をするなんて、君達への愛情がなければできないよ、きっとね」
そこでパンケーキが焼き上がったので皿に移し余ってたソースをかける。
「丁度余ったから誰か食べていいよ!」
「え...やったー!直江君の焼いたパンケーキだー!」
「あ、私も食べたーい!」
差し出した皿は女子達の手で持っていかれた。処分しなくて良かった。
「......だからね、僕は常々思っている訳ですよ。君達は本当に面倒くさい、てね」
「...っ!」
たたた......
「おーい、直江君!」
そんな時、放送部の椿さんがタブレットを持って走ってきた。
「例の人見つけたよ」
「?」
僕達に近づいた椿さんはタブレットを操作しながらそう呟くも、二乃には何を言っているのか分からないようだ。
「テープ見直したら、君が探してた特徴と一致する人がいてさ。もしかしたらと思ったんだけど」
「本当に!?さすがー♪............!二乃これを。頭から流すよ」
タブレットには、椿さんが中野さんに丁度インタビューをしようとしている動画が流れている。
『どうもー、日の出祭楽しんでますかー?』
『なんだい、君たちは?』
「パパ...?」
『突然すみません、放送部です。保護者の方ですか?シュッとしてますね!』
『おや、職場から電話だ。すまない、失礼するよ』
『そんな~~』
スマホに目を落とし、離れていく中野さんを悔しそうに見ている椿さんの姿が映ったところで動画は終了した。
「どう?これだけなんだけど...」
「問題なし!ありがとね、すっごく助かったよ。さて、やっぱり来てたんだね。勇也さんの言ってた通りか」
そこでポケットの中からある鍵を出して二乃に見せながら聞いてみる。
「どうする二乃?」
「それは?」
「今日は
「......カズ君...パパの所へ連れてって!」
「ふっ、そうこなくっちゃ!」
ゴォォォォ......
二乃にお願いされてすぐさま準備して、バイクで今病院に向かっている。
「そうよね。何、弱気になってたのかしら。押しても引いても手応えがなくても...さらに攻めるのが私だわ」
ブォォォ......
そんな二乃の言葉を受けながらバイクを走らせた。
ガチャ
院長室で二乃がパンケーキを焼いてるのを横で見ていると、中野さんが入ってきた。
「どうも。お邪魔してます」
入館証を見せながらそう挨拶をする。
「......暗くなる前に帰りたまえ」
「待って、もうすぐ焼けるから」
ジュゥゥ......
「......」
「まあまあ、少しでも食べてあげてくださいよ。学校に来てたのは知ってますよ」
そう伝えると中野さんは二乃が焼いているパンケーキをじっと見つめている。
何か思うところがあるのだろうか。
そんな風に考えていると、丁度焼き上がったようだ。
「この生地、三玖が作ったのよ」
焼き上がったパンケーキにバターだけを載せたお皿を差し出しながら二乃は言う。
「あんな料理が下手っぴだったあの子が、目指すものを見つけて頑張ってる。三玖だけじゃない。私たち五人全員、あの頃よりもずっと大きくなったわ。その成長をそばで見ていてほしいの、お父さん」
二乃の真摯な気持ちを受け止めたのか、中野さんはパンケーキを食べだした。
しかし、ポーカーフェイスにもほどがある。その顔は美味しいのか、美味しくないのか...
「この味...君たちは逃げずに向き合ってきたんだね」
「え?どういう......」
「それにしても量が多いな。僕一人では食べられそうにない。次は家族全員で食べよう」
その言葉に二乃は泣きそうな顔で喜んでいる。
「きゅ、急に何よ!...でも、みんなきっと喜ぶわ...」
まったく二乃も素直じゃないんだから。さて、お邪魔虫はここいらでお暇しますか。
「よかったね二乃。じゃあ、僕はこの辺で...」
「待ちたまえ直江君」
立ち上がった僕を中野さんが呼び止める。
「これは君の計画かい?」
「計画だなんて...ただ彼女の背中を押してあげただけですよ」
「そう。彼がいなかったら私はここに来なかった。彼に連れてきてもらったの」
「それは...どうだろう。いくらなんでも家庭教師としての範疇を超えていると思うのだが?」
この親バカめー!
「……だが、それが私にはできなかったことだ。君に家庭教師を頼んで良かったと心から思う。不出来だが親として、これからも君が娘たちとの関係を真剣に考えてくれることを願う。上杉君にも伝えてくれ」
「はい」
中野さんの言葉にまっすぐ受け止めた僕は、返事をした後一礼して院長室を後にした。
駐輪場で二乃を待っていると、荷物を持った二乃がやってきた。
荷物の事を考えると廊下で待ってた方が良かったかな。
「お待たせ」
「ああ。お父さんとは話せた?」
「ちょっとだけね。すぐにまたお仕事が来たみたいだから...」
「そっか」
「それでも、こうやって面と向かって話せる日が来るなんて思わなかった。カズ君、今日はありがとね。それに...今までも...」
「どうってことないさ。さ、帰ろうか」
二乃から預かった荷物をバイクの後ろに括り付けた後二乃の方を向く。すると僕の首に腕を絡めながら抱きついてきた二乃に唇を奪われた。
「ん……」
そんな二乃を僕は優しく抱きしめた。
「……ふふっ、やっぱりキスっていいわね」
「そうだね」
一度僕から離れた二乃が再度抱きついてきた時に頭を撫でてあげながら答えた。
「じゃあ帰ろっか。お互いに帰って夕飯作らないとでしょ?」
「それもそうね…でも最後にもう一回……ん」
二回目のキスをした僕達はバイクで学校に戻るのだった。
~院長室~
和義と二乃が院長室から出ていった後、マルオは仕事をしながら昔のことを思い出していた。
『パンケーキ...ですか?』
『えっと、意外に安く作れて、娘たちも喜んでくれるのです。最後に作ってあげたかった...』
それは生前の
『最後なんて...そんなことありませんよ』
『中野君。あなたには感謝してもしきれないわ。でも、これ以上あなたの貴重な時間を余命僅かな私に注ぐことはしないで』
『余命だなんて、そんなこと言わないでください。
『先生だなんて...もう何年前のことでしょう。君は生徒会長。そして、私のファンクラブ会長を見事勤めあげていましたね』
『そ、そのことは忘れてください』
『一分一秒でも長く生きていただきたい。僕がしたくてしていることです。あなたがいなくなったら娘さんたちも悲しみます』
顔を赤くしてマルオは
『そうですね。あの子たちだけが心残りです。まだ小さなあの子たちの成長を見届けることが私の使命...ありがとうございます、中野君。もう少しだけ甘えさせていただきます。退院した際はぜひご馳走させてください。パンケーキ、君も気に入ってくれると思いますよ』
少し頬を紅くして微笑みながら伝える
この時の顔をマルオは忘れることはない。
(あの頃は本当に楽しかった......彼女の前では自身をさらけ出すことも出来ていた。しかし......)
今では
(僕は彼女たちから距離を置くことで、受け入れがたいあの人の死を避けていたのかもしれない)
その時マルオは、夏休みに電話越しに零奈に言われた言葉をふと思い出した。
『君なら大丈夫。きっとその悲しみを自力で乗り越えられるでしょう。娘たちも君が向き合ってくれるのを待っていますよ』
(ふっ...申し訳ありません、
マルオは仕事中のペンを机の上に置き、椅子から立ち上がり窓際へと歩いていく。
夜空に輝く月と星を見上げながら、
荷物を学校に届け、そのまま二乃をマンションまで送った僕はようやく家に帰ってこれた。バイクを車庫に停めて玄関から家に入る。
「ただいま~」
ん?この靴ってうちの学校の女子の指定された靴じゃなかったっけ。
玄関にはうちには置いていない黒のローファーが綺麗に並べて置いてあった。
疑問に思いながらリビングに向かうと父さんと母さんがソファーに座りテレビを観ていた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
「あら、和義おかえりなさい。お客さんが来てるわよ」
「客ってうちの学生?誰?」
「五月ちゃんよ。今日は泊まっていくことにしてもらったから今は零奈ちゃんとお風呂に入ってるわよ」
「は?五月?しかも何?泊まるの」
何も気にしないように普通に話す母さん。結構重要な事言ってたと思うんだけど。
「本当は泊まるつもりはなかったみたいだけど、結構深刻そうな顔してたから私から泊まるように提案したの。それよりお腹空いたぁ」
「それよりって…はぁ…はいはい。すぐに作るからもうちょい待っててね」
状況が飲み込めない僕は、とりあえず荷物を部屋に持っていき着替えた後に夕飯を作り始めた。そうしている間に、五月と零奈がお風呂から上がってきた。
「あら、兄さん帰ってたんですね。おかえりなさい」
「お、お邪魔してます…」
「零奈ただいま。夕飯はすぐできるからリビングテーブルで待ってて。今日はそっちでごはん食べるから」
そして、しばらくしてから夕飯ができたので直江家メンバーに五月の五人で食卓を囲んだ。夕飯時の五月は終始笑顔でいた。母さんが気を利かせて話しかけていたからではあるんだが。なので今のところなぜ五月が単身でうちに来たのかは分からなかった。
夕飯が終わって洗い物は母さんに任せた僕はお風呂に入った。そして、お風呂から上がると五月から声をかけられたのだ。
「あの……和義君とお母さんにお話が…お時間いいでしょうか?」
「別に構わないよ。客間でいいかな?」
僕の言葉にコクンと頷いたので僕と五月は客間に向かった。
客間にはすでに二組の布団が敷かれており、その上で零奈が座って待っていた。どうやら今日は零奈はここで寝るようだ。
「お待たせしました、お母さん」
「別に構いませんよ」
五月は零奈に一言お詫びを入れて零奈の正面に座った。僕と零奈に相談したいってことだったので、僕は五月の正面に来るように零奈の隣に座った。そこで零奈がさっそく話を進めた。
「それで相談とは何です?」
「……実は進路で迷ってて」
「進路?」
僕の質問に五月はコクンと頷いた。
「進路というと確か私と同じ教師を目指すと聞いていましたが」
「はい…」
「?」
なんだか歯切れが悪いな。しかも日の出祭の真っ只中に進路に悩むって何か嫌な予感がするなぁ。
零奈も五月の歯切れの悪さに何か感じたところがあったのか僕の方をチラッと見てきた。
もちろん僕には確信するものがないのでフルフルと首を振った。
「今は学校では学園祭が行われてるではないですか。どうしてそんな中に進路に悩むことになっているのですか?いえ、悪いこととは思いませんがそこが少し気になったのです」
零奈が僕の思ってくれている事を代弁するかのように五月に質問をした。
「………じ…実は、父に会ったのです」
「!」
「?父とはマルオ君のことですよね?彼ならあなたの進路を素直に応援すると思いますが…」
「いや、多分五月が言ってる父親っていうのはここでは中野さんの事じゃないよ」
「は?何を言っているので…す…か……て、まさか!?」
僕の言葉に怪訝そうにこちらを見てきたが、途中で気づいたようでばっと五月をまた見た。五月は下を向いてパジャマのズボンをぎゅっと握っている。
「……無堂先生です」
「っ!」
五月の言葉に目を見開いて驚きの表情をする零奈。それはそうだろ。会ったというだけだも驚きなのに、五月が正体を知っているのにさらに驚きである。
あの人自分から正体を明かしたのか。て、今日もやっぱり来てたんだなぁ。
そして五月は無堂先生と会った時の事を話し始めた。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回のお話では二乃とマルオの関係の邂逅と五月の単身直江家訪問を書かせていただきました。
五月の相談会は次回の投稿で書かせていただきます。
五月はすでに和義の彼女ですので、一人で悩まず相談しようということにしてみました。
では、次の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。