五等分の奇跡   作:吉月和玖

132 / 137
目指すもの

~五月side~

 

日の出祭二日目。

和義が小学校時代の同級生を連れて屋台に来た後、二乃と三玖はシフトが外れた影響で二人で祭を見て回るため屋台から離れた。桜も自分のシフトが近づいているとのことで自身のクラスに戻っていった。

なので今は五月が一人で看板を持って客引きをしている。そんな五月に声をかけてきた男がいた。無堂である。

 

「なんのご用でしょうか」

「昨日は途中で君のお友達が来てしまったからね。それにすまなかった。赤の他人に突然あんなことを言われたって困惑するだけだろう」

 

屋台から少し離れた場所で五月は無堂と話すことにした。昨日の和義の警戒からまた話すのは良くないと思った五月であったが、少し気になることもあったので聞くだけという気持ちでいた。

 

「君にいつ打ち明けるか迷っていたんだ。君のお母さんは元教え子。さらに元同僚...そして元妻だ。つまり私は...君のお父さんだ」

「お父さん...?そんな...私たちが生まれる前に消息不明になったと聞いています。本当に無堂先生が...?」

 

信じられないといった顔で五月が確認をする。

 

「ずっと会いたかったんだ。講師として全国を回りながら、いつもどこかにいる君たちのことを想っていた。そんな時さ、テレビに映る一花ちゃんを見つけたのは」

「み、皆を呼びます」

「今は五月ちゃんと話をしているんだ」

 

他の姉妹を呼ぼうと五月はスマホを出すが、無堂はそれを許さず五月と二人で話したそうにしている。

 

「今、悩んでいるのだろう?聞かせてくれたじゃないか。今こそ父親としての義務を...」

「今更なんですか!あなたのことはお母さんから聞いていました。お腹の中にいる子供が五つ子だとわかった途端姿を消したと。その時お母さんはどんな気持ちだったか...私は...あなたを...」

「ごめんなさい!」

「!」

 

五月の言葉を遮るように無堂は謝り、頭を勢いよく地面に擦り付けるように土下座をしている。

 

「なんて情けない。ずっと後悔していたんだ。当時の僕に甲斐性があれば君たちに、こんなに迷惑をかけずに済んだのにと!そして、君たちの行く末を考えると心が張り裂けそうな思いだった」

「......」

「私の罪は消えることはない。しかし許されるのならば...罪滅ぼしをさせてほしい。今からでも父親として娘にできることをしたい」

 

頭を上げながら無堂が口にする。額からは先程の土下座で怪我をしたのか血が流れている。

 

「...もう私たちに関わらないでください。お父さんならもういます」

「中野君か。あの子は優秀な生徒だったが、父親としては不合格と言わざるを得ない。やはり血の繋がりが親子には必要不可欠。お母さんが死んだ時、彼が君に何をしてくれた?」

「!」

「娘が亡くなった母親の影を追い続け、母親と同じ間違った道に歩を進めようとしている。学校の先生が君に相応しくないということは君が一番よくわかっているはずだ。父として到底見過ごすことができない。君たちへの愛が僕を突き動かした」

 

無堂の言葉に今五月の頭の中はぐちゃぐちゃになってきている。

 

「僕ならばいくらでも違う道を用意してやれる。思い出してほしい。君のお母さんは言っていたはずだ」

 

『五月』

『なーにお母さん』

 

生前の零奈(れな)が五月に語りかけた言葉が頭を過った時、五月はその場を後にした。

 


 

「………これが今日あった出来事です」

「そうか…」

「……」

 

五月によって話された内容を頭の中で整理していく。

要は自分の考えが正しいと押しつけてるんじゃないのだろうか。何て言うか心に響いて来ないんだよなぁ。

五月がここまで悩んでいるのは多分、零奈(れな)さんのことを話に出されたからではないだろうか。

チラッと零奈を見るとわなわなと震えているように感じる。怒っているのだろうか。

 

あの人はなんてことを五月に言っているのでしょうか

 

うん、怒ってるね。僕にだけ聞こえるくらいの小さな声だが、凄い怒りを感じる。

 

「それに思い出してしまったんです。お母さんが私に言っていた言葉を」

零奈(れな)さんが?」

「…!」

 

五月の言葉で我に返った零奈が五月の方を見た。

 

「はい。『五月、あなたは私のようには絶対にならないでください』、と」

「っ…!」

 

ふむ。零奈の反応を見るに言った覚えがあるみたいだな。

 

「それなのに諦められない。未だにお母さんを目指してしまっている。そう願う私は間違っているのでしょうか?」

 

涙を流しながら自身の言葉を伝えてくる五月。

そこでふぅと息を吐き自分の気持ちを整えてから零奈が語りかけた。 

 

「五月。私の言葉を今でも覚えてくれていること嬉しく思います」

「ひっく…ひっく…」

「それに、こんなに情けない母を目標に持ってもらいありがたくも思っています」

「……っ!お母さんは情けなくなんかありません!女手一つで私たち姉妹を育ててくれたではないですか」

「そう思ってくれていたのであれば、母親冥利につきるというものです」

 

零奈は話しながら精一杯手を伸ばし泣いている五月の頭を撫でている。

 

「当時の私はどうも言葉足らずのところが多くあったようです。その事で娘を悩ませるなんて…反省ですね。あの時私はこう言いたかったのです。私と同じになることを目指すのではなく、五月自身として進んでいきなさい、と。もしあなた自身が決めた結果が私と同じ道になったのであれば、私は誰よりもあなたの事を応援しますよ」

「お母さんっ…」

 

そこで五月は涙を拭った。

 

「...でも…本当に、教師になることは私の夢なのでしょうか?私はお母さんになりたいだけ。以前下田さんに言われた事を、和義君も覚えていますよね?」

 

『母親に憧れるのは結構。だが...お嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけなんじゃないのかい?』

 

以前REVIVALで下田さんが五月に言った言葉だ。

この言葉を五月はずっと引きずっているのか。

 

「五月。君にとって零奈(れな)さんは憧れの存在なんだろ?ならその憧れを捨てる必要はないさ。母を目指して夢を追うのと、夢を目指して母を追うのとでは大きく違う。君がそれを理解できているのであれば、親に憧れて志すことは絶対に間違っていない」

「兄さん…」

 

その瞬間五月の目に力が戻ったように感じる。

 

「あの人がなんと言おうと、君の方が零奈(れな)さんの事を良く知っているはずだ。君は自分で見たそれを信じればいい」

「お母さんは私の理想の姿です。強くて、凛々しく、優しくて...私は...お母さんのような先生になりたい!私は私の意思で母を目指します!」

 

今までの沈んでいた姿とは打って変わって、力強く天に向かってそう誓う五月。

 

「ふふっ、そんな風に思ってもらえるとは…嬉しいものですね」

 

零奈の目からは涙が流れ、零奈はそれを拭っている。

 

「なら、家庭教師である僕達のやることは一つだけ。全力でサポートする、それだけだよ」

 

笑顔を向けながら五月に僕は宣言した。

 

「それに…僕は五月の彼氏でもあるんだ。勉強だけじゃない。色々なところでサポートしていきたいって思ってるよ」

「和義君……っ!」

 

そこで五月は僕に抱きついてきた。あまりの反動で僕はそのまま布団の上に倒れてしまった。つまり仰向けに寝転がっている僕の上に五月が覆い被さっている状況という訳だ。

 

「あいたたた…五月は大丈夫?」

「ふふふ…和義君。和義君」

 

いまだに抱きついたままの五月に声をかけたが、ずっと僕の胸に顔を押しつけている。まるで子どもが親に甘えているような感じてある。

 

「はぁぁ…小さい頃の五月はいつもそのように甘えてきたものです。今回の件で反動が来たのかもしれません。好きなだけ甘えさせてあげてください」

 

そう言いながら零奈は五月の頭を優しく撫でている。これで気が済むのであれば好きなだけ胸を貸してあげよう。

 

「……よしっ…ありがとうございます。私、明日あの人に会いに行きます」

「大丈夫?」

「はい!和義君にはとても感謝していますが、この件については手を出さないようお願いします。この問題は私たち家族で片をつけます」

 

起き上がった五月はまっすぐこちらを見てそう意気込んだ。ここまで言われたら何も出来ないか。

 

「分かったよ。無理しないで」

 

仰向けで寝たままの状態で五月の頭を撫でながらそう伝えた。

 


 

今日は母娘(おやこ)水入らずで寝ることになったのであの後自分の部屋に戻ってきた。するとちょうどその時、スマホに着信が入った。

 

『ちょっとビデオチャットしない?』

 

一花からである。多分今日の五月の泊まりの件だろう。

『了解』と送った後、パソコンを起動してビデオチャットを開いた。

 

『やっほー、こんばんは』

「こんばんは。どうしたの?」

『分かってるくせに。五月のことよ』

『綾さんから急にカズヨシの家に泊まるって聞いてビックリした』

「まあそうだろうね」

『あの、何かあったのでしょうか?』

 

四人とも心配している顔で画面を見ている。

 

「とりあえず今は大丈夫だよ。零奈と二人で話を聞いてあげたら安心して寝ちゃった。今日は零奈と二人で寝てるよ」

『そう。落ち着いてるならよかった』

『あの子、昨日辺りから少し変ではあったから気にはなってたのよね』

『うん。ずっと部屋に籠って勉強してた。そこまで追い込まれてはなかったはずなのに』

『何かを紛らわしている感じがしましたので…』

 

さすが五つ子。少しの変化にも気づけるようだ。

 

『それで?内容は教えてくれないのよね』

「いや、このことは皆にも知っててもらった方がいいと思うんだ」

『え…』

 

僕の言葉に四人が驚き、三玖が声を漏らした。

 

「今回の五月の相談内容ってのが進路についてなんだ」

『進路ですか?五月の進路って言うと先生でしたよね?』

「そう。その先生になるかどうかを悩んでたんだ」

『なるほどね。でもなんで今?』

 

一花の疑問は先ほどの僕と零奈も同じく感じたので当然姉妹達も感じることだろう。

 

「一花に二乃、三玖は僕と勇也さんが昨日何か話してたの覚えてる?」

『うん、覚えてるよ』

『まさか、その時の話が関係してくるって訳?』

 

二乃の疑問に頷きながら答えた。

 

「実はあの時勇也さんと話してたのはある人物が日の出祭に来ていないかを確認するために話していたんだ」

『ある人物ですか?』

「ああ……その人物っていうのが…君たち五つ子の実のお父さんの事だ」

『『『『!!』』』』

 

予想だにしなかった人物だったからか、四人とも驚きの表情になった。まあ、生まれる前に失踪したような親が今更なんでって感じだよな。

 

『嘘…』

「三玖の言いたい事は分からない事もないけど本当の話。実際にバイト先の塾に特別講師って形で来てたからね。まあそのお陰で僕は知ることが出来たんだけどさ」

『なんだって急に現れたりしたのよ』

 

二乃が驚きと怒りが混ざったような感情をあらわにして話している。

 

『たしかに急に現れた理由は気になるけど…そっか、それで五月ちゃんが急に塾に行かなくなったんだね』

 

さすが一花である。すぐに察して今までにあった行動理由を言い当ててきた。

 

『ということはお母さんも同じ理由で?』

 

一花の言葉に続く形で三玖が質問をしてきた。合宿中は零奈も一度も塾に行っていなかったから察したのだろう。

 

「正解。バイト先の下田さんから特別講師で来る先生が元五つ子の父親だって聞いてね。五月は下田さんが意図的に接触しないようにしてくれたけど、零奈には僕から塾に行かないように言ったんだよ」

 

塾で無堂先生のことを知った経緯を四人に説明した。僕の説明に皆納得したような顔をしている。

 

『でも、五月に接触しないように直江さんたちが色々としてくれてるなら、五月が進路の相談をすることに繋がらないんじゃないんですか?』

『ううん。そうじゃないよ四葉。フータロー君のお父さんがわざわざ警戒していたってことは、日の出祭にきっと来てたんだよあの人は』

 

僕と下田さんが五月と無堂先生との接触をしないように画策していたことを知った四葉は、五月の単身で僕のところに進路の相談に来たことに繋がらないのでは、と疑問の声をあげた。

しかしそこで一花がまた色々と察してくれたようである。

 

『…っ!もしかしてそいつ五月に学園祭で接触してきたってこと?』

「結構警戒とかしてたんだけどね。八人で集合した時があったでしょ?五月と二人で遅れてきたけど、あの時は五月が…あ、元父親は無堂って言うんだけど、その無堂と二人でいたから何か言われなかったかって確認もしてて遅れたんだよ。しかも、今日もどこかで接触してたっぽいね」

 

二乃の疑問に、五月と無堂が接触していたことを説明した。

五月を追い込み泣かせるような奴に先生なんて呼称はいらない。無堂で充分だな。

 

「しかも五月に自分の正体を明かしてるんだよ。自分が実の父親だって」

『え?何のために?』

 

僕の言葉に当然のように三玖が疑問を口にする。その辺りは僕も分かっていないんだよなぁ。今更自分が今後は育てていくと言い出すのか、色々と謎ではある。

 

「そこは分かんない。ただ、マルオさんより自分の方が父親として進むべき道を示していける、みたいな事を五月に言ったっぽいけどね」

『何言ってんのよ。馬鹿馬鹿しい。そんな奴の言ったことなんかで五月は惑わされてるの?』

 

二乃であればすぐさま言い返してたのかもしれない。もしかしたら言いくるめる姉妹を厳選したのかもしれないな。

 

「まあ、零奈(れな)さんの事を入り交じる話し方をしていたらしいから…」

『なるほどね。五月ちゃんには効果抜群だ』

『うん。五月はお母さんに一番甘えてたし無理ないよ』

 

一花と四葉が僕の言葉に納得した。

 

『私は母の代わりとなり、みんなを導くと決めたのです』

 

以前五月が話してくれたこと。それだけ零奈(れな)さんに固執してたってことだろう。

 

「何にせよ。五月の方はもう大丈夫だから。明日決着をつけるって言ってるんだ。言うことでもないけど、五月から声かけられると思うから、その時は力を貸してあげてほしい」

『ふふっ、もちろんだよ』

『当然よね』

『うん…!』

『まかせてください!』

 

その後は軽く雑談をした後にビデオチャット終えた。

そしてそのまま勇也さんと下田さんに事の顛末をメッセージしておいた。二人から返事が返ってきたが勇也さんはどこか張り切ってるように見受けられる。多分勇也さん経由で中野さんにも伝わるだろう。

明日、彼女達ならやってくれるだろう。そう信じてベッドに入るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、五月の相談と姉妹達への現状報告を書かせていただきました。
次回からは日の出祭三日目がスタートします。次回の投稿も読んでいただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。