~校門付近~
「くそっ……」
五月との接触まではうまくいったが、その後が思い通りにいかず結局は五月本人からも拒絶された無堂。
自分の思い通りにいかなかったことで苛立ちを覚えながら歩いていた。
そんな時だ。そんな無堂に声をかける女性がいた。
「こんにちは。貴方が無堂仁之介さん?」
「ん?」
その女性は着物姿ではあるが日傘をさしていることもあり顔まで確認ができない。
「何だね君は?」
「あら、失礼いたしました。私のことは存じ上げているとばかり思っておりましたわ」
女性はそう言うと、無堂に顔が見えるように日傘をずらした。
「あ、あなたは……諏訪楓さん!」
「ふふふ…やはり知ってましたか。私の孫がお世話になったようで」
ニッコリと笑いながら楓は話しているが、無堂には相当なプレッシャーがかかっている。先ほどのマルオの凄みの比ではない。
(これが諏訪楓……なんてプレッシャーだ。息が、もたない…)
「安心してください。別に何かするわけではありません……今のところは」
「っ…!」
一瞬、笑顔から覗かされた獲物を狩るような目が無堂を射貫いぬく。
それによって、無堂は蛇に睨まれた蛙状態になり身動きが取れなくなってしまった。
「そうそう。近々発表させていただくのですが、私今度籍を入れることになりましたの。この歳になっても結婚とは良いものですね」
「はぁ…お、おめでとうございます」
結婚の話になると、本当に嬉しいのか先程までのプレッシャーが嘘のように霧散して、当の楓本人はウキウキとしている。
その事で無堂も体が軽くなり話せるレベルまで落ち着いていた。
「ありがとう。ちなみにお相手は貴方の良く知っている人…」
「え?」
「虎岩温泉のご主人です」
「!」
「ふふっ…良い顔をしていますね。そう、これで亡くなったとはいえ私は
「あ…あ…」
「聞かせていただきました。あの子がどのような人生を歩んだか……あの人が愛した娘に対する所業、断じて許すことはできません!」
膝から崩れ落ちた無堂にコツコツと楓は近づき帯に挿していた扇を持ち、開かずにそれを無堂の顎に当てクイッと上に上げる。
「先程もお伝えしましたが、私から今回は何もしません。しかし…………桜と一花、二乃、三玖、四葉、五月。私の孫に何かあれば……分かってますね?」
「は…はい…」
無堂は顎を上げられた上でそう返事をする他なかった。
「よろしい」
そこで扇を顎から離し、楓が無堂から離れた事で無堂はガクッと肩を落とした。
楓はその後、その扇を開き口元に持っていき言い放つ。
「その恐怖と罪悪感と共にこれからの人生を歩んでいくのですね。行きますわよ」
『はい!』
楓はその言葉を残し、連れと共にその場から離れていくのだった。
「あら?」
先程の楓さんのやり取りを陰からそっと見守っていたのだが、楓さんが無堂から離れた事で楓さんの前に姿を出した。
「和義さんではないですか、どうしましたか?」
「いやー、まあ気になったので様子見を。てか、気付いてましたよね?」
「はて?」
この惚け方…零奈そっくりだ。さすが本当の親子。
「はぁぁ…やはり怒らせたら恐ろしい方ですよ……これ、さっき僕が作った焼きそばです。お連れの方の分もあるんで食べてください」
「あらぁ、和義さんの手作りですかっ。ここまで来た甲斐があったというものです」
「屋台では学生向けに濃い目に作ってたのですが、これは楓さん用に少し薄味にしてますので食べやすいと思いますよ」
「まったく…連れの者への用意といい、その心遣い流石の一言ですね」
お連れの方に焼きそばを渡しながら話すと誉められてしまった。
「…これであいつも接触してこなくなれば良いのですが」
「大丈夫でしょう。私が見たところ、かなりの小心者。この街にすら近づくことは無いですよ」
「そうですか」
「まあ、一応息子に話して動向は探ってはみますがね。あの子も自分の娘に起きた事を知れば動くでしょう。その後どうするかは私の知るところではありませんがね」
ふふふ、と笑いながら話しているがちょっと笑えないんだけど…大人の世界は怖いところである。
そんな時スマホに着信が入ったのでメッセージを確認する。
「すみません、ちょっと用事ができました」
「あら、和義さんとデートできると思ったのですが…」
「思ってもいないことを…早く帰ってお祖父さんに会いたいって、顔に出てますよ」
「え?」
指摘してあげると、顔を赤らめ触る楓さん。先ほどまでの凄みが嘘のようである。
「ご結婚おめでとうございます。お祝いの品などはまた改めて」
「ふふっ、ありがとうございます。桜たち孫の事、これからもよろしくお願いしますね。末永く」
「っ!はい、もちろんです」
最後の末永くという言葉には、もうすでに僕たちの関係が知れているんだと分かってしまった。だからしっかりと楓さんの目を見て答えることで僕の意思を伝えた。
それに満足したのか、楓さんはニッコリと笑って僕に頭を下げた。これにはお連れの人も慌て始めてしまった。
楓さんが頭を上げたのを確認してからその場を後にすることにした。
キーッ…
日の出祭の間は立ち入り禁止となっている屋上の扉を開けた。するとそこには僕を呼び出した人物の姿があった。
「三玖?どうしたの?」
「カズヨシ…来てくれてありがとう」
三玖はフェンス際におり遠くを眺めていたのでその横に並ぶように立った。日の出祭も佳境を向かえようとしているが、まだまだ皆盛り上がっているのであちこちから楽しそうな声が聞こえてきた。
「ごめんね、どうしてもお話ししたかったから。実行委員の仕事とかは大丈夫?」
「大丈夫だよ。何だかんだで四葉の手伝いってことで風太郎が働いてくれてるからね……昨日話した五月の件はうまくいったみたいだね。帰っていく無堂を見たよ」
「うん。これもカズヨシのおかげ」
「何言ってんのさ。五月自身と姉妹皆で協力したおかげでしょ?僕はちょっと背中を押してあげただけだよ」
「ふふふ…カズヨシならそう言うと思ってた」
「それにしても懐かしく感じるな、こうやって三玖と屋上で話してると」
「え…?」
「ほら、歴史の話とかする時は大抵この屋上だったし。三玖から想いを伝えられたのもここだった」
そう話しながら近くに座り込み空を見上げる。
三日間晴天で良かった。
「覚えてくれてたんだ…」
「彼女の事だしね。そういえば、姉妹の中で一番に仲良くなったのは三玖だったよね」
「うん…」
懐かしい。転校初日に教科書を見せたおかげでお互いに歴史が好きだって分かって話すようになったんだっけ。それから時間を見つけてはここで話してたんだっけ。まあ、家庭教師が始まってからはあまり時間を作ることが出来なくなったけど。
そっかぁ、あれからまだ一年しか経ってないんだ。今までで一番濃い一年だったなぁ。
「それで?五月の件を話したくてここに呼んだの?」
「ううん。その事もあるけど、私学園祭でカズヨシと二人っきりになってないと思って。他のみんなは結構二人での時間を作ってたみたいだし」
そういえば、仕事で仕方ない一花ならまだしも三玖とはそこまで話せてなかったかもしれないな。
「ごめんね。もう少し気を回せれば良かったんだけど…」
「ううん。こうやって時間作れたし、それにカズヨシはカズヨシで実行委員の仕事や私たちのお父さんの事でも頑張ってたんだよね。五月のことだけじゃない。二乃からも聞いてるよ。今のお父さんとのことも色々動いてくれてたんだよね?」
「あはは…まあそうなんだけどね」
言われると僕もよく動いてたものである。日の出祭を満喫出来たのって初日だけじゃなかっただろうか。
そんな考えに浸っていると三玖が馬乗りのように覆い被ってきて、僕は仰向けの状態で身動きが取れなくなってしまった。
「えっと…三玖さん?どうして僕に覆い被さってるのかな?」
「キスしたいなって…」
「そこは別に拒んだりしないよ。三玖が望むのであればするさ。場所は考えてほしいけどね」
寝転んだまま頬をかきながら答えた。
「うん。カズヨシならきっとそう言ってくれると思ってた……んっ……」
僕の答えにニッコリと笑った三玖はそのまま僕の唇にキスをしてきた。
「んっ……ちゅっ……ん……」
ついばむような軽いキスを続けてしたが三玖はそれでも満足出来なかったようだ。
「ねえ?もっとしていい?」
「ああ。三玖の思うがままにしな。僕はそれに応えるから」
「ありがとう。じゃあ…」
三玖は再び僕に唇を重ねるとそのまま舌を入れてきた。そして僕の舌と三玖の舌が絡み合う。
「んっ……ちゅっ……れろっ……んんっ……」
お互いの唾液を交換しながらキスをする。それだけで頭が溶けそうになるほど気持ちいい。
やがて三玖はゆっくりと唇を離した。
「カズヨシ、気持ちよかった?」
「うん、凄く気持ち良かったよ。ありがとう」
「ふふっ、よかった」
三玖は嬉しそうに微笑むと僕に抱きついてきた。
「三玖?」
「ねえカズヨシ、私のこと好き?」
「ああ、大好きだ」
僕がそう答えると三玖は幸せそうな笑みを浮かべた。
「嬉しいなぁ……私も大好きだよ、カズヨシ」
そう言うと再びキスをしてくる。今度は触れるだけの優しいキスだ。そのキスも終わると三玖はまた抱きついてきた。それからはどちらから何かするわけでなく、お互いに屋上で寝転んでいる状態だ。
「ふふっ、何やってるんだろうね。屋上で寝転んで…ごめんね、服汚れてるよね」
「別にいいさ」
三玖の言葉に答えながら僕の胸辺りに置いている三玖の頭を撫でてあげた。
「こんな幸せな日がずっと続けばいいなぁ。一花に二乃、五月に桜もずっと一緒で…」
「そうだね…」
その後も二人で寝転んだまま時を過ごした。
三玖との屋上での逢瀬の後。僕は実行委員としての雑務に勤しんでいた。今は荷物を運んでいるところである。
「悪いね五月。こっち手伝ってもらってさ」
「ううん。無堂先生の件の報告もかねてるから。それにしても本当に忙しいんだね実行委員は」
「ああ。僕も当日になって思い知ったところだよ」
本当に甘く見ていた。まさか実行委員の仕事がこんなに忙しいなんて。日の出祭を謳歌出来てないのにはこの事も大半を占めていると思う。
僕のげんなりした言葉に五月はクスクスと笑っている。
「そういえば、結局和義君は私たちが無堂先生と話してるときにはどうしてたの?」
「んー?普通にクラスの屋台で焼きそば作ってたよ。だけど、楓さんが無堂と話す現場には行ってたかな」
「え、おばあちゃん来てたの?」
「ああ。楓さんを怒らせたら怖いんだって改めて感じたよ...」
あの無堂を牽制する楓さんのオーラ半端無かったからなぁ。そういえば初めて京都で会った時も凄かったよね。女性を何人も引き連れてて…あの時はここまで仲良くしてくれるとは思ってなかったなぁ。
「あはは、そっか......改めて、和義君今回はありがとう。お母さんがいなくなってから、その寂しさを埋めるためにお母さんに成り代わろうとしてたんだ。レイナちゃんがお母さんであったと分かった今でも。ただ、いつの間にか自分とお母さんの境界線が曖昧になってて、自分の夢までも自身が持てなくなってたんだ。お母さんとの思い出忘れなくていいんだよね」
僕の前で階段を上りながら話す五月。顔はどこか晴れ晴れとしているようだ。
そんな五月が振り返ってきた。
「教えてくれたのは和義君だよ。ありがとう。あなたが彼氏として近くにいてくれて嬉しかった……ん…」
お互いに荷物を持ったままキスをしてくる五月。それも軽く唇同士が触れるくらいのものだ。
「ふふふ、これは感謝の気持ちのキス。あとは…これからもよろしくって意味を込めて……」
そしてもう一度五月からキスをしてきた。
こういった場でのキスはやはり恥ずかしいらしく、顔を赤く染め僕の脇を通り過ぎて窓際まで進んでいった。
「わ、わぁー。いつの間にか空がこんなに暗くなってる。もう冬だね」
「ふふっ、そうだね」
恥ずかしそうに先ほどのキスから話を逸らそうとしている五月の行動が少し面白かった。
窓から見える空は五月の言った通り薄暗く薄明の空が広がっていた。
「……っ、ともかく!私が自信を持てたのはあなたのおかげ。私はお母さんじゃない。こんな簡単なことに気がつけたのはあなたがいたから......私の理想の教師像はお母さんだけど......うん!和義君に上杉君。二人だって私の理想なんだよ。それだけは知ってほしかった」
「そっか。じゃあ、その理想が幻滅されないよう、今後も精進していきますか!」
「うん!よろしく、先生!」
そんな五月の顔はやはり晴れ晴れとしていていい笑顔だった。
「あ、そうだ。この後はどうする?一応みんな揃ってるところに私は合流するつもりだけど」
「僕はこの後風太郎に前田と武田と合流するから。お互いに友達や姉妹と過ごそうか」
「わかったよ、みんなにはそう伝えとく……でも、最後くらいは一緒にいたいかな…」
恥ずかしそうに上目遣いでそう伝えてくる五月。恐らく他の四人もそう考えてることだろう。
「分かってるよ。折を見て皆と合流する。風太郎も四葉と一緒にいたいだろうしね」
「うん!」
元気に返事をした五月と並んで、残りの荷物運びを終わらせるため歩を進めた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今回では、本編の一花ルート同様に楓さん登場と、三玖と五月それぞれとの語らいを書かせていただきました。
一花ルートと違い、三玖と五月は遠慮なくキスしてます。まあ、校内で五月がキスするのかと考えはしましたが…
さて、いよいよ日の出祭もクライマックスです。和義と風太郎共に彼女がもういますので、誰を選ぶかといった話は書かず、次回で日の出祭もラストとさせていただきます。
では、次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。