「うーん、風は冷たいけど天気いいから気持ちいいねー」
12月も中旬に差し掛かりそうな今日この日。日の出祭の時に約束していた一花とのバイクの遠乗りデートのためにバイクを使って海岸沿いに来ていた。やはりこの季節になると海岸沿いは寒い!
だからこそ周りに人がいないからお忍びとしても丁度良いのだ。
「やっぱりこの季節だとこの辺は誰もいないね」
「ねぇー。天気がいいから少し心配してたんだけどよかったぁ。ふふっ、今この時だけここは貸し切りだよ」
「だね」
近くのベンチに二人で座って海を眺めていたら、一花が自分の頭を僕の肩にチョンと乗せてきた。ちなみに二人の手元には暖かい飲み物があるので、多少は寒さが
とはいえ、やはりじっと座っているだけでは風邪を引いてしまいそうなので場所を移動することにした。
「そろそろ移動しようか。このままだったら風邪引いちゃうし」
「だね。じゃあ移動の前に…ん……」
一花がこちらを向いて目を瞑り唇を付き出してきたので、その唇に軽くキスをした。
「ちゅっ……えへへ、やっぱり指よりもこっちがいいよ」
ニッコリと満足そうな笑顔を向けてそんな言葉を投げかけてくるので、『そうだね』と答えてもう一度軽いキスをした。
場所は変わって、お昼ご飯のため一花おすすめのお店に来ていた。ここは海が近い事もあり海鮮料理がとても美味しいとのことだ。
「へぇ~、どれも美味しいね」
「うん!お刺身も新鮮で美味しいし、この煮魚も絶品だね」
結構有名なお店なのか、駐車場にはかなりの車が停まっていた。県外のナンバープレートもあったし知る人ぞ知るお店なのかもしれない。
「よく知ってたねこんなお店」
「仕事柄、結構こういう情報が入ってくるんだ。実は私も今日初めて来たから内心ドキドキでした」
「でも無事美味しいしお店だった訳だから、今日は一花に感謝だね」
このお店を紹介してくれたことに一花を誉めると、いや~と頭をかきながら照れていた。
「そういえば、みんなの進路は着々と決まっていってるね」
「そうだね。四葉の推薦入試も無事合格で終わったし、三玖と二乃は料理専門学校へ進む事が決まった。後は風太郎と五月だけかな」
「ふふっ、カズヨシ君の推薦も難なく合格だって聞いたよ。しかも噂では推薦の筆記でもまた満点取ったんだって?」
煮魚を食べながらニヤリと笑いかけてくる一花。
そうなのだ。結局日の出祭の後に三条先生に進路の相談をしたところ、僕の実力であれば推薦も可能だと言われたのでその話に乗ったのだ。
筆記試験のレベルも高かったが、やはり面接というものは緊張するもので、途中何言えば良いかテンパってしまったところもあった。しかし、僕が以前書いた論文を試験管の人も見てくれていたので、その話で盛り上がったのは助かったかな。
「まあ、こんな成績を残せるのもこの年までかもしれないね。大学でどこまで付いていけるか」
「君が言うと嫌みにしか聞こえないんだけど」
「え?そう?」
本気で思っていることだからちょっと驚いてしまった。
「ま、いっか。それで今は五月ちゃんだけじゃなくてフータロー君の勉強も見てあげてるんだよね?」
「ああ。たまに二人共うちに泊まったりしてるよ。さすがに二乃や三玖は勉強で忙しいって分かってるからか押しかけてこないけどね。てか、
「はーい」
軽い返事をしながら残っている食事を再開する一花。実際はきちんと仕事の合間を縫って勉強は出来てるようだからそこまで強く言わなくても良いだろう。
「そうだ。フータロー君って東京の大学に行くんだっけ?」
思い出したかのように食べる手を止めて一花が話題を出した。
そうなのだ。風太郎の進路先は東京。日の出祭前の模試結果でもA判定を出していたのだ。
「ああ」
「ああって…それをみんなに教えてくれたのってつい最近でしょ?私はみんなから教えてもらって知ったけど。カズヨシ君は前から知ってたんだよね?」
「まあ、相談には乗ってたから。とはいえ、本人の事だから本人の口から話した方が良いでしょ?」
「まあ、そうだけど」
風太郎が皆に伝えるのに躊躇っていたのだが、日の出祭が終わってからしばらくして、そろそろ伝えた方が良いと思って風太郎の背中を押してあげたのだ。
「しかも皆薄々感づいてたし。風太郎が勇気振り絞って伝えた時の虚無感ハンパなかったよ」
それだけお互いの事を分かっていて、どんなに離れていても関係は変わらないって事だろうな。
「まあ……それでも…長年連れ添った親友が遠くに行くのは寂しく思うかな…」
「カズヨシ君…」
「それに五月から聞いたよ。風太郎から進路の事を聞かされた後、四葉はなんともない風を
「きっとフータロー君に心配させたくなかったんだろうね。君だってそうでしょ?」
「まあね」
一花に指摘されたように、風太郎が東京に行くことを寂しく思う気持ちをなるべく風太郎に悟られないように努めている。もし気持ちを察することで進路を変えるなどと言うのではないかと思ったからでもある。
「カズヨシ君は東京行かなくてよかったの?カズヨシ君の希望する道なら東京の方がよかったんじゃない?」
「うーん…まあ考えなかったことはなかったけど、僕は風太郎と違って寂しがり屋だからね」
「おやまぁ。きっとみんなも喜ぶよ」
東京に行くという選択も確かにあった。何せ推薦先に東京の大学もあったのだ。とはいえ、僕には上を目指すという気概がない。なら、地元でも自分の道を切り開く事が出来るのではないか、ということで地元の大学を選んだのだ。僕の目標はあくまでも皆と一緒にいること、だからね。
「そういえば、一花はクリスマスも仕事?」
「まあね。お陰さまで忙しい限りですよ。その日はみんなで集まるんだっけ?」
「ああ。一日くらい良いだろうって。去年のメンバーに桜が加わる感じだね。二乃と三玖が張り切って料理するみたいだよ」
「う~ん、参加したいけど多分夜遅くなっちゃうかもだし。カズヨシ君の家には行くからさ」
「分かったよ。一花の分の料理やケーキは残しとくから」
「うん。ありがと!」
そうして残りの食事も美味しくいただいた後は、バイクで色々と回って久しぶりの一花との二人っきりのデートを楽しむのだった。
そして年が明けて正月。この日は一花も仕事がなく、本当の意味で全員集合ができた。
「うわー!らいはちゃん、振袖可愛いですぅ」
「えへへ、綾さんが用意してくれたんだ。ちょっと歩きにくいけどウキウキしてくるね!」
「くぅ~」
四葉が誉めている通り、今日のらいはちゃんは振袖姿である。丁度帰国していた母さんが用意してくれたのだ。
笑顔でみんなと話してるらいはちゃんの振袖姿を見て、風太郎は涙を流している。先程からずっとだ。
ちなみに五つ子と零奈は去年と同じものであるが、やはり何度見ても似合っているので見飽きたりしない。三玖も去年同様に簪を着けてくれている。
「桜の振袖は初めて見たけどやっぱり似合ってるね。姿勢から違って見えるよ」
「ありがとうございます。言っていただければ和義さんの和服もご用意いたしましたのに」
「いやぁー、僕はいいかな。その気持ちだけでもありがたいよ」
家の中であればそういった和装も良いかもしれないが、外出にはまだまだ着る勇気はないかな。とはいえ、諏訪の家に行った時は正装ってことで着せられそうではあるが。
「それじゃお参りしちゃいましょ」
「人いっぱい…」
「お正月ですからね。一花は大丈夫なのですか?」
「人が多い分大丈夫だよ。まあ、あまり長居はしない方がいいかもだけど」
「零奈は疲れてない?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
人が多い事で迷子にならないように手を繋いでいる零奈に声をかけた。中身が大人でも体はまだまだ小学生なのだ。体力とかそういった面をしっかりと見てあげないといけない。
そしてようやく僕たちの番まで回ってきたので皆でお参りをした。
パン
風太郎と五月。二人の希望する大学に合格しますように。
そんな願いを込めて参拝するのだった。
そんな初詣からしばらくした日。今日は五月の入試の合否の発表日である。
「今日は私のわがままを聞いてくれてありがとうございます」
「いや、この時期になると僕は暇してるから全然問題ないよ」
「......」
五月のお願いもあり合格発表に同行することになった僕と零奈。
零奈は学校があるから本当は僕だけが付いて行く予定だったのだが、零奈がどうしても行きたいと言うもんだから今日は学校を休ませて付いてきている。
その零奈は今緊張しているのか、繋いでいる手に力がこもり会場に近づくにつれ口数も減っている。
まあ、娘で唯一の大学一般入試だからね。緊張するのも無理はない。
会場に着くとたくさんの受験生がいたので、さすがに発表されている掲示板までは零奈を連れていくわけにもいかなかった。
「五月。僕達はここで待ってるから、ここからは一人で行ってきな」
「はい...」
力強く頷いた五月が結果を見ている人達の中に消えていった。
「五月から番号は聞いてるけどさすがにここからは見えないなぁ」
「うぅぅ...自分の時より緊張しています」
「こういう緊張感を味わうのに一般受験するのも良かったかもなぁ」
「兄さんの場合は緊張せずに見ることが出来るでしょうから面白味がありません。あああ...五月は大丈夫ですよね...」
緊張している中、何気に兄に対して酷いこと言ってる自覚があるのかないのか、あわあわしている零奈。こんな零奈を見るのは初めてだ。
まあ、僕も緊張はしているのを否めない。二人が僕以上に緊張していたから結構普通にいられるのだ。
そんなこんなでしばらくすると、確認を終えた五月が人の波から出てきた。
受験票を握りしめ下を向いている。
ど、どっちだ。
気になって仕方なかったのか、零奈が五月のそばまで行き五月の服を握りしめて問いかけている。
「ど、どうだったのですか五月?」
極限まで緊張しているからか、五月呼びのままになっている零奈。
まあ周りは自分の事でいっぱいいっぱいだろうから気にしなくてもいいか。
「うっ......うぅぅ......お母さん......」
五月は零奈を抱きしめるために屈み泣いてしまった。
駄目だったのか...
「お母さん...私...やったよ...合格した...」
「え?」
驚いた零奈は抱きついている五月の肩を持ち、少し離してお互いの顔が見えるようにして聞き返した。
「ご、合格したのですか!?」
「うんっ...!」
「よしっ!」
その言葉を聞いた僕は小さく腰辺りでガッツポーズをした。まったく紛らわしい娘だよ。
「うっ......や...やりましたね、五月」
「うんっ...!私......頑張ったよ...」
そこでまたお互い抱きしめ合う二人。もう二人だけの世界である。
よく頑張ったね五月。
その日の夜のうちに五月の合格祝いのパーティーが中野家で行われた。
皆大はしゃぎで二乃と三玖、それに五月と桜に零奈はリビングで疲れて眠っている。
僕と一花と四葉は三人でベランダに出ていた。
「いやー、改めて五月ちゃんが合格できてよかったよかった」
「だね。五月頑張ってたもん。その頑張りが報われて本当に良かった」
「合格発表の会場で二人とも泣いちゃうから僕は大変だったけどね...」
「あはは、それはご苦労様」
「後は上杉さんか...」
そんな言葉を溢した四葉は遠くをじっと見ている。ここにはいない恋人の事を想っているのだろう。
「まあ、風太郎は大丈夫でしょ」
「お、カズヨシ君のお墨付きなら大丈夫かな」
「……これで皆の道が分かれちゃったね」
少し寂しそうに四葉が呟いた。
「一花達は今の家からそれぞれ通うから大きく変わる事はないかもしれないけどね。それでも五人揃う事が少なくなるだろうね」
「......カズヨシ君は四葉と五月ちゃんとは違う大学に。しかもバイク通学なんだっけ?」
「そうだね」
「......そして上杉さんは東京、か...」
「......」
寂しい声で四葉が呟いた。
「たしかに寂しいって気持ちはあるよ。でも...」
「うん!離れていたって平気だよ。だって、私たちは皆...一人じゃない。きっと、繋がっているから」
「ああ。そうだね」
一花の言葉に対して四葉が夜空に浮かんでいる月に向かって手を伸ばしながら宣言する。
それには僕も同意だ。僕達は一人じゃない。きっと風太郎もそう感じているだろう。
そして、月日は流れ・・・・・
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
すみません、本来であれば日曜日に投稿する予定が、忙しくて忘れておりました。。。
今回は、和義と一花の二人っきりデートと皆での初詣。そして、五月の合格発表を書かせていただきました。合格発表の部分は一花ルートでも書いてますので、一部だけ変更しております。
和義と一花のデートについては、学園祭では一花の出番がほとんどなかったことで書かせていただきました。
さて、このハーレムルートも次回で最終話とさせていただきます。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。