「冷蔵庫にあるものや調味料なんかは好きに使ってもらっていいから」
そんな事を二乃から言われて、料理対決が始まろうとしていた。
(しかし、女子が2人いるとはいえ、高校生3人が立ってもまだ余裕があるなんて、どんだけ広いんだここのキッチンは)
そんな事を考えていると2人は料理を開始していた。
さて、僕はどんな料理を作ろうかと考えながら、2人の作業を見ている。
二乃については、さすが一家の台所を預かっているだけはあり、調理工程にスキがない。迷いもなくスムーズに取り掛かっている。
一方の三玖はというと、一言で言えば不器用だ。包丁で野菜を切っているのだが見ていてハラハラしていて、全然こっちの集中ができない。
それは、二乃も一緒なのか途中三玖の様子を見ながら作業をしているようだ。
これは、出来上がりを見るまでもないなと考えながら、自分の作る料理を考えていた。
「よし、あれにするか!」
そう思いいざ調理に取り掛かった。
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二乃視点
(ふん、料理を普段からしない三玖がこの料理対決に乗ってくるとはね。何か勝算があるのかと思ったけど、全然ダメじゃない。てか、そんな握りで包丁を使わないでよ。ハラハラして料理に集中できないじゃない。あぁ、火を使うにしてもずっと強火だとすぐに焦がしちゃうわよ)
そんな風に思いながらも普段通りに調理をしていく二乃。
そんな彼女にとってもう一つ予想だにしなかったことが起きたのである。それが、和義の参戦である。
何を思ったのか、いきなり自分も参戦すると言ってきたのだ。
(本当に何を考えているのか分からない男よね。この間の告白もそうだったし...)
調理をしながら、先日の和義の姉妹への告白を思い出していた。
(別に、あいつの事なんて何とも思っていないから、そうですか程度の反応しかできなかったけどね)
「ごめん、冷蔵庫にある卵全部使ってもいいかな?もちろん後で買いに行くから」
そんな時に彼から質問された。
丁度彼の事を考えていたので、少しビックリはした。
「別に構わないわよ(てか、今冷蔵庫にある卵を全部って。まさか失敗することを想定して調理するわけじゃないわよね)」
そんな考えをしながら、彼の調理を盗み見た。
しかし、そこには二乃の予想にしていない光景が広がっていた。失敗なんてとんでもない。慣れた手つきで次々と次の工程に取り掛かっている和義の姿がそこにあったのだ。
(なによあれ!?凄く無駄のない作業じゃない。相当手馴れてるわね、私も負けてられないわ。ていうか、肉を焼いていたと思ったら、横に大量の卵があるしで、何を作っているのかサッパリね。てか、あれって茶葉?もう訳分かんない。見ていたら、こっちの作業が進まないかも。もう、無視よ。無視。でも...)
自分の作業に集中するために和義の作業は気にしないようにした二乃ではあったが、そこにはこんな気持ちもあったのだ。
『どんな料理を作ってくれるんだろう』と。
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作業も終盤に差し掛かってきたところである。
「そういえば、二乃って甘いのと塩辛いのどっちが好き?」
「はぁ?いきなり何?惑わす作戦?」
「そんなんじゃないって、ただの興味だよ」
「あっそ。なら甘い方が好きね」
「そっか。分かったありがとね」
そう言って、手を止めることなく調理を続けるのであった。
数十分後。
「出来たわ!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー♪」
「オ、オムライス...」
「(二乃の料理は見たことないな。三玖はオムライスを作ってたのね...)ほい、卵焼きだよ」
それぞれが自分で作った料理をテーブルに並べる。
「三玖はともかく、あんた卵焼きって舐めてるの?」
「いやいや、舐めてないって。二乃こそ、卵焼きを舐めてちゃ駄目だよ。卵焼きも奥が深いんだから」
「はいはい、分かりましたよ」
そんな時だ、三玖がおずおずといった形で発言をした。
「やっぱりいい。自分のは自分で食べるよ」
「そんな事言わずに、食べてもらいなさいよ」
ニヤニヤ顔の二乃である。
「それもそうだね。てか、審判って誰がするの?風太郎と五月でいいのかな?」
「もう何だっていいさ。丁度腹も空いているから、いただくとしよう」
「はい!私は全然構いません。ではいただきますね!」
対照的な二人である。
「僕も気になるからそれぞれの食べていいかな?」
「私は構わないわ」
「う、うん。でも無理はしないでね」
こっちも対照的な反応である。
両方の料理を食べようと思ってあることを思い出した。
(あれ?たしか風太郎の舌って...)
「うん、どちらも普通にうまいな」
(あ、やっぱり)
「はぁーーー!?あんたの舌おかしいんじゃないの?」
そう風太郎の舌は所謂貧乏舌なのである。なので、どんなものを食べてのうまいの感想しか出ないので、本当に作りがいがない奴なのだ。
「たしかに、三玖には悪いですが『どちらもうまい』と言う上杉君の舌は信用できないですね」
「だな、二乃の料理は本当に美味しいよ。初めて食べた料理だけど、食が進むね。結構難しい料理だろうし、料理が本当に上手なんだなって思えるよ」
そんな言葉に嬉しそうなのか、そっぽを向いているが笑っている顔が少しだけ見えている。
「三玖は、正直に言って申し訳ないが、所々に焦げがあったり、塩加減が強かったりしているね。卵の部分も火加減が良くないのかボロボロだ」
「...」
「でも、不味いってことはないよ。普段料理をしていないことを考えれば及第点かな。普通に食べれたし、今後の成長に期待ってことで、努力賞かな」
五月も同じ考えのようで、次々と食べている。凄い食欲である。
そんな言葉を聞いてか三玖がやっと顔を上げてくれた。
「もし料理に興味があるのであれば、僕が教えてあげるから。今後頑張っていこう」
「うん」
多少ではあるが笑顔が戻って良かった良かった。
「それでは、最後に直江君の料理ですね。先ほどから何故かお肉の焼いたいい匂いがして、早く食べたいと思っておりました」
「おっと、そうだった。五月と風太郎はこっちの皿の卵焼きを食べてくれ。後、実は二乃と三玖の分も作ってるんだよ。こっちの皿が二乃で。こっちの皿が三玖ね」
そう言って、別々の皿をみんなの前に出した。
疑問があるような顔をしているが、みんなそれぞれの前にある卵焼きを食べてくれた。
「う~ん、美味しいです!というよりこの卵焼き、中にお肉が入っています。それで先ほどからお肉の焼いたいい匂いがしていたのですね!」
どうやら五月には好評のようだ。
「こいつを食っていると米が食いたくなるな」
「あなたと考えが一致するのには不本意ですが、それには賛成です」
「そう言うと思って、米も炊飯鍋で炊いといたよ。いる?」
「おう」
「はい!私もお願いします」
二人共食欲旺盛である。
「おいしい...これ、茶葉を使ってるの?」
「そうだよ。三玖の卵焼きには茶葉を使ってみたんだ。依然からお茶が好きって言ってたしね。三玖の舌に合って良かったよ」
「うん、凄くおいしいよ。ありがとうカズヨシ」
喜んでくれてなによりだ。
「なるほどね。それぞれのお皿の卵焼きは味が違うってことね。それぞれに合った卵焼きを作ってたって訳か」
「そういうこと。僕は二乃の好みを知らなかったから、オーソドックスな卵焼きを作ってみました。どうかな?」
「お、美味しいわよ。甘くてとてもね」
そう言って、本人は気づいていないかもしれないが笑顔を見せながら卵焼きを食べていた。
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「ほら、早く来なさいよ。早くしないと日が暮れちゃうわ」
「分かったって」
今僕は二乃と一緒に買い物に来ている。料理対決をしたことで、冷蔵庫の中身がなくなったのだ。
『あんた、さっき自分で買出しに行くって言ってたわよね。だったら、私の買出しの荷物持ちくらいしなさいよね』
その二乃のお言葉もあり、現在の状況になっている。
「あんた、料理ができるんでしょ。だったら目利きくらいいいんじゃない?」
「まぁ多少だけどね。自分の家の買出しも自分でしてるし。そういう二乃は、中野家の料理担当だっけ?」
「そうよ!あの子達全然料理ができないからね。今日の三玖の料理を見たでしょ」
そう言いながら野菜を選んでいる。
「まぁね。てか、他の姉妹もあんな感じなの?」
「三玖ほどではないけど、ほとんど料理ができないと言っても過言ではないわ。唯一まともに作れる五月については、作る量が自分基準だから作らせてないだけ」
(なるほどね)
「ねぇ、どっちがいいと思う?」
そう言って、トマトをこっちに見せてきた。
「う~ん、こっちのトマトの方が色も濃いし、ヘタの方まで色がまわってるからこっちかな」
と、二乃の右手に持っている方を指差す。
すると、二乃は満足したのかそちらをカゴに入れた。
「やっぱり、ちゃんと選べる人と買い物に来ると楽ね。たまに、他の姉妹と来るんだけど、誰と来てもどっちも変わらない的な言葉で返されるから大変なのよ」
そう言いながらも姉妹のことを話す二乃は終始笑顔である。
(やっぱそっか...)
二乃の買い物に付き合いながらもある結論に至ったのだった。
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そんな、二乃との買い物の帰り道。
「なぁ二乃」
「何よ?荷物が重いって言っても、代わりに持ってあげないわよ」
「いや、そうじゃなくて」
たしかに重い。なにせ、『あんたがいて丁度良かったわ。ついでにお米も買って帰りましょ』と言って、今僕が持っている買い物袋の中には米が入っているのだ。しかも10Kg...
一瞬、誰がこんなに食うんだ、嫌がらせかとも思ったのだが、すぐにある人物の顔が頭に浮かんだ。まぁ、顔は姉妹で同じなのだが。
「じゃあ何よ?」
「いやさ、前々から気になってたんだけど。二乃ってさ姉妹のこと大好きだよね」
その言葉に二乃は立ち止まりこちらを見た。
「はぁーーー!?いきなり何言ってるのよ」
「あ、図星か」
「何でよ!」
(いや、だって目がめっちゃ泳いでるし)
「はぁ...それで何が言いたいわけ?」
「いや、僕と風太郎のことを毛嫌いしているからさ。嫌ってるにしても相当なものだし」
「別に、あんたらのことをただ嫌ってるだけでしょ」
そう言いながら二乃は僕の前を歩いている。
「まぁそうなんだろうけどね。でも、嫌うにしても度が過ぎている。では何でだろうって考えたわけ」
「...」
「で、今日の買い物の時、二乃自身は気づいてないかもしれないけど、姉妹の話をしている時や料理の話をしている時って凄いいい笑顔で話していたんだよ」
「なっ...!?」
顔を赤くしてこっちを見ている。やっぱり気づいてなかったか。
「普段嫌っている僕の前で、そんな笑顔を見せられちゃやっぱり不思議に思うわけだよ。そこで考えたのは、そんな大好きな姉妹の中に僕ら異分子が入ってくるのが嫌なんじゃないかなって」
そこで、二乃が立ち止まった。今立ち止まられると、米が重くて大変だが今は言うまい。
「はぁ...あんたって本当に観察眼が凄いわね。そうよ、何?悪い?」
「いや悪くはないんじゃない。だって、姉妹の事を話しているときの二乃の笑顔は見とれちゃうくらい本当にいいものだから。だから、そんな二乃の笑顔を壊したくないし。でも、こっちとしては家庭教師を何とか続けたいなって、考えていて...って二乃どうしたの?大丈夫?」
二乃は何故か立ち止まって顔を赤くして俯いてしまった。しかも、体が若干震えているように見れる。
(あれ?また二乃の逆鱗に触れることを言っちゃったかな?)
そう思いながら二乃の方を向いていると二乃が何やら言っているがよく聞こえなかった。
「何となく三玖と五月がこいつに懐いているのが分かった気がするわ」
「え?何か言った?聞こえなかったんだけど」
そんな風に聞くと。
「別に何でもないわよ!あんたが恥ずかしいことを言ったからこっちまで恥ずかしくなっただけ」
「?何か言ったっけ?」
「はぁ...とにかく、あんたの料理については認めるけど、それと家庭教師は別!まぁ、これからも無駄な努力をしていくことね、先生!」
そう先ほどまで姉妹の話をしていた時と同じような笑顔をこちらに向けて、そのまま家まで走り去ってしまったのだった。
と言うわけで、二乃と三玖の料理対決に和義も入れてみました。
原作のこの話のところ個人的には結構好きなんですよね。
しかし、自分で書いていて何ですが、和義何でも出来すぎでしょ。羨ましい限りです。
そんな訳で、続きはまた時間がある時にでも投稿したいと思います。