「零奈、すぐにお風呂を沸かして!」
リビングに居る零奈にそう指示をするや否や僕はタオルを取りに家の中を走った。
「何ですか、いきなり。というより、家の中を走り回らないでください!」
そうリビングから出てきて言う零奈であったが、玄関の様子を見てすぐに行動に移ってくれた。
「五月さん!?……先ほどから沸かしていたので、すぐに沸くと思いますが、様子を見てきます」
こういう時は、物分りが良すぎる妹で感謝するしかない。
「大丈夫かい、五月?」
そう言って、許可を取るのも忘れて五月の頭をタオルで拭いてあげた。
「あ...あり...ありがとうございます。あの...」
「今は何も喋らなくていい。体の方は自分で拭ける?鞄は中身も含めて乾かせないか確認するから、預かってもいいかな?」
僕の指示に、都度コクンと返してれている。最初よりは落ち着いてきて、少しはマシになってきたかな。
そんな時、零奈が『お風呂が沸きました』と言ってこちらに近づいてきた。
「ありがと、零奈。ついでと言ってはなんだけど、五月と一緒にお風呂に入ってくれない?」
「私は構いません。五月さんもいいですか?」
「...はい」
五月の返事があったので、零奈は五月を連れてお風呂に向かった。
「あ、兄さん。五月さんの着替えの服なのですが、兄さんの服を用意してあげてください」
「え、何で?母さんのでいいでしょ」
「恐らくですが、母さんのでは服のサイズが合わないと思いますので」
「?まぁ、零奈が言うなら用意しとくよ」
「お願いしますね」
疑問が残っているものの、とりあえず零奈の指示で僕の服の用意を行うことにする。
五月の鞄の中を確認するも、中身は幸い濡れていなかった。ただ、鞄を乾かさないといけないので、五月には申し訳ないが中身は全て出して鞄を乾かすことにした。
後は中野家に現状を報告するだけだと思い、ここで誰に連絡するのが妥当か考えた。
二乃と四葉は色々と騒ぎそうなので、一花か三玖だろうけど、ここは普段から話している三玖に連絡することにした。
『はい』
「あ、三玖。急にごめん。今は大丈夫?」
『大丈夫だけど、どうしたの?』
「実は、五月が今こっちに来ていてね。何か訳ありっぽいから今日はこっちに泊まってもらおうと思ってるんだよ。明日は丁度学校も休みだし」
『?どういうこと?全然状況が飲み込めない』
「だよねぇ~。実は僕も今混乱してる。ただ、これは他の姉妹には言わないでほしいんだけど、五月、家に着いたとき泣いてたんだ」
『え!?』
「今は、ずぶ濡れで来たから零奈と一緒にお風呂に入ってもらってて、落ち着いた後に何があったのか確認してみるよ」
『分かった。他の姉妹には、勉強で分からないところが出てきたから、カズヨシのところに行ってるって伝えとく』
「サンキュ!何か進展があり次第また連絡するよ」
『分かった。ただ、泊まりとなると一花と二乃あたりがうるさそうだけど、そこは自分で何とかしてね』
「うっ!分かったよ」
『よろしく』
そこで三玖との通話は終了した。あぁ~、一花と二乃、特に二乃からの攻めがキツそうだな、と今後の不安を胸に服の準備と食事の準備を行うことにした。
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~五月視点~
私は今、直江君のご好意に甘えて、レイナちゃんとお風呂に入っている。
お風呂に入ったことで少し冷静になったのですが、私は何故直江君の家に向かったのでしょか?無意識のうちにここに来ていたのです。
何故かは分かりませんが、直江君になら何となく甘えられる、そんな感じがしていたからかもしれません。
ここまで男の人に心を許せるなんて自分でもビックリです。
「五月さん、温まってますか?」
「はい!ありがとうございます」
色々と考えていたところにレイナちゃんが声をかけてくれた。
本当にレイナちゃんは年齢を感じさせないほどに落ち着いています。
きっと、レイナちゃんは私なんかよりもしっかりとしていているのでしょう。
駄目ですね、今はどんどん心が沈んでいってしまいそうです。
そう、顔を下げた時だ。急に頭が何かに包み込まれていました。
なんと、レイナちゃんが自分の胸に私の顔を持ってきて、さらには私の頭の後ろで腕を組み、まるで母親が自分の子どもを抱き抱えるような、そんな行動を取っていたのです。本当にどっちが年上か分かりません。
「大丈夫ですよ。今は泣いたって大丈夫です。五月さん、あなたはここまで頑張ってきました。それを見てくれている人もいます。でも、たまには緊張の糸を切って、こうやって甘えたっていいんです。それは私でもいいですし、兄さんでもいい。兄さんはきっと、そんなあなたでも受け入れてくれるはずです。だから、私達兄妹の前では強がらなくてもいい。素直なあなたでいてください」
その言葉を切っ掛けに、私の緊張の糸は簡単に切れてしまいました。
「ウ...ウワァァ----------ン!わ、私は頑張ってきたんだよ。お母さんの代わりとして頑張って。勉強も私ができるようになれば、みんなに教えられると思ってた。けど、いくら頑張っても全然報われない!上杉君のことだってそう。一花や三玖、四葉が少しずつ心を開いている。だから、直江君の言っていたように、向き合えばきっといいところも分かってくるはずだと。だから頑張って歩み寄ろうとしたけど、これも上手くいかない!もう私はどうすればいいのか分かんなくなって...ワァァ-------------ン!!」
「よしよし、よく頑張ってきましたね。偉いですよ、五月」
レイナちゃんは泣いている私の頭をずっと撫でていてくれました。この行為は本当に私の心を落ち着かせてくれました。
ただ、この時の私は、もう泣くので必死だったため、レイナちゃんが私のことを『五月さん』ではなく『五月』と呼んでいたのはまったく気づきませんでした。
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先ほど着替えを置いてくる時に、五月の泣き声が聞こえてきたような気がしたが聞かなかったことにしよう、そう思い夕食の準備に勤しんでいた。
そんな時だ。ほとんど鳴ることがない家の電話が鳴ったのは。
「(何か嫌な予感がするんだよなぁ)はい、もしもし」
『こんばんは。家庭教師をお願いした以来かな、直江君』
「中野さんですか、どうされました?」
『今度中間試験が始まるそうだからね。そこで上杉君の成果を見せてもらいたく、先ほど上杉君にある提案をした』
「提案?」
『今度の中間試験で、5人のうち1人でも赤点を取れば、上杉君には家庭教師を辞めてもらう、とね』
「(な!?)それは本当ですか!?」
『事実だとも。この程度の条件を達成できないのであれば、安心して娘達を預けることもできないからね』
「この程度って。今の娘さん達の成績を分かってての提案なのですか?」
『もちろんだとも』
(無茶苦茶だ!2教科や3教科ならいざ知らず。全教科赤点回避なんて誰がやっても今の5人の状況では無理な話だ!そう、僕の親でさえも...)
「(まてよ...)もしかして、この話を風太郎にした時、近くに五月さんはいましたか?」
『ん?妙なことを聞くね。質問の意図が分からないが、五月君の携帯にかけて上杉君に繋いでもらったからね。当然近くに五月君はいただろう』
(やっぱりか。ということは、この話を聞いた後に何かしら風太郎と五月に一悶着があったんだろう。マジで余計なことをする人だなこの人は!)
『話は以上だ。僕も忙しい身でね。それでは健闘を祈っているよ』
「ちょ、ちょっと!」
時すでに遅し。電話は一方的に切られていた。
「マジで何なんだアイツはーーーーー!!」
そう叫ばずにはいられなかった。
キリがいいかなっということで、一旦ここで区切りたいと思います。
また、時間があれば投稿できればなと思ってます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。