「そうそう、ゆっくりでいいから、指に気をつけて切ってね」
林間学校2日目のイベントの一つ、飯盒炊爨がスタートした。
僕は三玖と同じ班なので、今は三玖と一緒にカレーの材料の野菜を切っている。
不器用ながらもしっかりと僕の言う通りに作業をしてくれるから安心だ。
「直江!飯盒が吹きこぼれてきたが大丈夫か?」
「大丈夫!そのまま強火で置いといて。そのうち吹きこぼれが落ち着いてくれば火を弱めてそのままでいて。また指示するから」
「了解だ!」
「カズヨシ、できた」
「お、上手上手。ゆっくりやればこの位できるんだから、家でも練習しなよ」
「分かった。でも、結局カズヨシの3分の1くらいしかできてない...」
「最初っからこんなに出来る訳ないよ。焦らずゆっくりとね」
「うん...」
「よし!じゃあ、カレー作りを本格的に取り掛かりますか」
その後は僕が調理するのを三玖が近くで見ている形で作業が進んだ。
飯盒の方も順調で後は20分程蒸らしておけば完成である。カレーも後は煮込むだけなので、後は任せてその辺をぶらつこうと思った。
「三玖。後は焦げないように満遍なく混ぜるだけだから、任せてもいいかな?」
「うん、任せて!」
「一応言っておくけど、隠し味といって変なの入れないでね」
「...分かってる」
妙な間が気にはなったが他のクラスメイトもいるから大丈夫だろう。そんな風に思い作業から離れてぶらつくことにした。
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~三玖視点~
カズヨシから言われた通り、鍋の中身が焦げないように満遍なく混ぜていた。
(ここにお味噌とか入れたら美味しくなるんじゃないかな...)
そんな邪念を何とか追い出しながら混ぜていると、班のクラスメイトに話しかけられた。
「ねぇねぇ直江君の料理凄かったね。自分のことだけじゃなくて、ちゃんと周りの皆の事も見れててビックリだよ」
「だよね!あ~あ、直江君に毎日料理作ってもらいたい!」
「ねぇ~。そういえばさ、三玖ちゃんって直江君と仲いいよね。さっきも2人並んで夫婦みたいだったよ」
「(夫婦…)そんなことない。カズヨシとは私達姉妹皆平等に仲がいい」
「そうなんだ~。私だったら、付き合って周りの皆に私の彼氏ですって自慢したいのになぁ」
その時、以前カズヨシが私達姉妹に話をしたことを思い出した。
『そういった経緯で今までの僕は、女子に対して「お前らも僕という存在を近くに置いてただ周りに自慢したいだけじゃないか」、って嫌悪感しか持てなかったんだよね。だから告白は全部断ってるし、好きな人もできない』
カズヨシの言ってたことは本当だったんだ。
悲しみで心が掻き回せれている思いでいた、そんな時だ。
「やっほ~、三玖ちゃん!」
「三玖さん、こんばんは」
綾さんとレイナちゃんが何故か飯盒炊爨の現場に来て声をかけてきた。
「...綾さん、レイナちゃん」
「えっと、どちら様でしょうか?」
「ん~?和義の母です」
「妹です」
「え?何で林間学校に家族が来てるの?てか、ここまで入ってきていいの?」
「教師の方々には許可を取っておりますので問題ないかと」
レイナちゃんの圧が凄いのか、2人はたじろいでいる。恐るべき小学1年生だ。
「そうなんですね。えっと、私達はご飯の様子を見てくるね三玖ちゃん」
「そうだね。こっちはよろしく!」
そう言って2人は離れていった。
「大した事ありませんでしたね」
「零奈ちゃん、穏便に穏便にね」
「私は普通に話しただけですよ。それよりも、三玖さんどうぞ」
「え?」
レイナちゃんからハンカチを渡された。
「涙拭いてください。カレーは私が混ぜておきますから」
そんなレイナちゃんの言葉を聞いて目の辺りを触ると少しだけ濡れていた。いつの間にか泣いていたようで、全然気付かなかった。
「ありがとう、レイナちゃん」
「いえ、こちらこそ兄さんのために泣いていただきありがとうございます」
「え…」
「ごめんね、本当はもう少し前から聞いてたの」
「まったく、ああいうのが調子に乗るから誰にでも優しくしないよう兄さんには言っていたのですが」
「まぁまぁ、そこが和義のいいところでしょ」
「そこは否定しませんが…」
「ふふ…」
2人の会話を聞いてると、さっきまでのことが何ともないように感じてくる。やっぱり、カズヨシの家族なんだ。
「あ、そうだ。三玖ちゃん、和義に私達がここでご飯一緒に食べていいと口添えしてくれない?」
「母さん、諦めてなかったんですか?」
手を合わせて私にお願いしてくる綾さんと、その行動に呆れるレイナちゃん。そんな光景を見て私の答えは決まっていた。
「もちろんです!私からカズヨシにお願いします…」
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色々と見て回っていると中野姉妹を見かけることができた。
皆各々林間学校を楽しんでいるようだ。
一花は使わなくなった器具などを自分から片付けていた。そんな彼女の行動を見た男子生徒は、自分の部屋も片付けてほしいと儚い願いを漏らしていた。
風太郎曰く、彼女の部屋は汚部屋と言っていいほど散らかっていて、四葉が定期的に片付けをしているそうだ。まぁ、家での彼女は自堕落なところを垣間見ることができるので、風太郎の言っていることが正しいように思える。
そんな彼女の本性を知ったとき、彼らはどんな反応をするのだろうか...
四葉については、何故かずっと薪割りをしていた。体を動かすことが好きな彼女にしてみれば、自分に合っている仕事なのだろうけど。
もうそろそろ薪割らなくていいんじゃない、と声をかけたのだが何故か逃げられてしまった。何かしたっけ僕?
二乃の料理はどんな感じか見に行ったのだが、ご飯を焦がしてしまった男子に凄い剣幕で迫っているところだった。
触らぬ神に祟りなし。絶対今話しかけると変に絡まれると思い、急いでその場を後にした。
五月は何故か鍋の前で携帯を見ながらじっとしていた。『後30秒...』と呟いていたので、恐らく煮込み時間を見ていたのだろう。
細かなことも気にする彼女の性格が出ており、見ていて面白かったが、見ていたことを知られると後から何か言われそうだったので、その場はすぐに離れることにした。
そして僕は今、飯盒の前で風太郎と何故か前田の3人で座っている。
「おい直江。一...中野さんとはうまくやれているのか?コラ」
「(一花って本当は呼びたいけど恥ずかしいのと本人の許可がないからとで呼べないのか。可愛い奴)一花には僕から言っとくから、一花って呼んでいいよ」
「本当か!?お前いい奴だな!で、一花さんとはうまくやってるのか?」
「ん?何のことだ?」
「ほら、風太郎には話したでしょ温泉で。その事だよ」
「ああ、あれか...」
「後、前田。風太郎だからいいけど、他の人の前ではこの話禁止ね」
「お、おう...」
「で、一花とだっけ。うまくやれてるんじゃない(勉強とか)」
「いいよな~。俺なんか結局相手が見つからないまま今日を迎えちまった。ちなみに、上杉お前は相手いるのか?」
「ふん、くだらない。興味ないね」
「あはは、風太郎ってこんな奴だから」
「なるほどな。なぁ直江、どうやったら俺みたいな奴でも彼女ができるんだ?」
「えぇ~、ここで恋愛相談?え-と、そうだな...」
色々考えてみるが、こういう事を今まで考えたことがないので良い案が浮かばない。そんな考えをしていると四葉が風太郎に声をかけてきた。
「上杉さん!肝試しの道具運んじゃいますね」
「四葉...お前は確かキャンプファイヤーの係だろ」
「はい!でも上杉さんお一人だと無理だと思って、クラスの友達にも声をかけました」
「さすが四葉!気が利くね」
「な、直江さん!いらっしゃったんですか!?」
何故か四葉に目を逸らされている僕。本当になにかした?
「えっと、勉強星人の上杉さんが林間学校にせっかく来てくれたんです。全力でサポートしますよ!」
「ふ、そうか...和義、俺の班の飯盒を見といてくれないか」
「OK」
「あと、前田だっけか。彼女がどうのと言っていたな。肝試しは自由参加だ、クラスの女子でも誘ってみるといい。ただしこっちも本気でいくからビビんじゃねえぞ」
不敵な笑みを残した風太郎は四葉と一緒に肝試しの準備に向かったのであった。
その後、風太郎の飯盒を他の班員に任せて、自分の班のところに戻ると、なぜか母さんと零奈がおり、三玖のお願いもあり、自分たちで作ったカレーを一緒に食べることになった。
ちなみに、母さんと零奈は男子に人気が出て、女子達は遠くに行くという奇妙な状態になったのである。
この親子はいったい何をしでかしたのやら。まぁ、三玖が終始楽しそうにしていたので良しとしよう。
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~風太郎視点~
自由参加の肝試しが開始された。四葉のサポートのおかげで今のところ順調である。
さっき和義と話をしていた前田とかいうやつも、女子を連れて参加をしていたが、見事にビビらせることに成功したのである。
「「ぎゃ-----!!」」
「くくく...」
「絶好調ですね!ジャケットどうぞ。私嬉しいです。いつも死んだ眼をしていた上杉さんの眼に生気を感じます」
「そうか。蘇ったようで何よりだ」
「もしかして来てくれないと思っちゃったから、本当に来てくれてよかったです...」
「......」
「後悔のない林間学校にしましょうね!ししし」
そう言って笑顔を向けてくる四葉。まったく俺の周りに世話焼きが増えていやがる。
だが、こういうのも悪くないと思うのもまた事実だ。
「あ!次の人が来ましたよ」
「や、やってやらぁ-!」
「食べちゃうぞ-!」
勢いよく脅かしにいったのだが、
「フータロー...」
「四葉もいるじゃん」
「一花に三玖!」
「なんだネタを知ってるお前らか、脅かして損したぜ」
「あ、ごめん...」
「わぁ-、ビックリ。予想外だ-」
三玖は本当に申し訳なさそうにしているが、一花はわざとらしく驚いた振りをしている。こういうのがノリがいいって言うのか。
「お気遣いどうも」
「本当にビックリしたんだよ~」
「嘘つけ」
そう言いながらお面を取ったのだが、一瞬一花がビックリしていたように思えた。
「え、何?それ染めたの?金髪じゃん」
「(そこに驚いたのか)カツラだ。2人とも、この先看板が出ているから大丈夫だと思うが、崖があって危ない。ルート通り行けよ」
「うん、分かった。ほら、次の人が来るかもだから行くよ一花」
「は~い。四葉とフータロー君は頑張ってね」
そんな労いをして、一花と三玖は先に進んでいった。
「上杉さん!脅かし方に迷いが感じられます。もっと凝った登場をしましょう!」
また無茶振りをしてくる四女だ。だが、ここまでサポートをしてくれたんだ付き合ってやろう。
という事で、木の上から脅かすことになったので、木に上り待機をしていると、次の組みが来ているのがよく見える。
「あれは、二乃と五月か。くくく、いつもの恨みここで晴らさせてもらう」
丁度近くに2人が差し掛かった時だ。
「勉強しろ~~~」
そんなセリフと共に木からぶら下がりながら脅かした。
「いやぁ-----!!もう嫌ですぅ----ー!」
「あ、ちょっと五月!」
めちゃくちゃ怖がった五月は一目散に走っていった。その後を二乃が追う。
「本当に苦手だったのか...」
「あちゃ~やりすぎちゃいましたかね...」
そういえば、出発する時に和義の家の前でも怖いのが嫌とか言ってたような。少し悪いことをしてしまったか。
そんな考えをしていたのだが、ふと思った。
「おい四葉、あいつらどっちに行ったか見てたか?」
「え...」
これはマズイ事になったかもしれない。
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肝試しは盛況のようで、先ほどから悲鳴が良く聞こえる。
「凄い悲鳴の数ですね」
「風太郎の奴ここぞとばかりに張り切ってるな...」
「ねぇねぇ、私達も行きましょうよ」
「却下!」「却下です!」
「2人して酷くない!?」
そんなやり取りをしていると風太郎から着信があった。
「どした?」
『マズイ事になった。二乃と五月が崖の方のルートに行ったかもしれない!』
「はぁ---!?何で?」
『それが、脅かしすぎたのか五月が周りを見ないで一目散に走っていって、その後に二乃も追っていってしまった...』
「はぁ~~~...とりあえず僕もそっちに向かう。風太郎は?」
『わ、悪い。すぐに動けそうにないかもしれん...四葉!これどうやって解くんだ!「え~と、ちょっと待ってください!」』
何をしているか知らんが何やら揉めているようだ。
「すぐに向かう!」
その一言で電話を切ると、母さんと零奈に状況を説明した。
「分かったわ。私は出口の方で一応待機してる」
「ありがとう、母さん!零奈は...」
「一緒に行きます!」
「しかし...」
「行きます!」
絶対に変えないといった強い信念を零奈から感じる。
「分かった。議論している時間も勿体無い。零奈僕の背中に」
「はい!」
零奈を背中に乗せた後スタート地点に向かう。
「すみません、次僕達のスタートでいいですか?」
「え?いいけど...その格好で行くの?」
「えぇ、訳ありでして」
「ふ~ん、まあいいけど。じゃあスタートで...」
最後まで言葉を聞かず、全力ダッシュでスタートした。後ろから『そんなにダッシュしなくても』という声が聞こえたが知ったことではない。
「零奈、一花か三玖に連絡してそっちに行っているか聞いてみてくれ!」
「分かりました!」
走りながら背中の零奈に指示を出す。零奈も背中で器用に僕の携帯から電話をしている。
「三玖さん。すみません、零奈です。いきなりですが、そちらに二乃さんと五月さんが走って来なかったですか?...そうですか、分かりました。ありがとうございます。詳しいことは出口で母さんが待っていますので、そちらで確認してください。では。聞いてた通りです。やはり正規のルートではないようですね」
「くそ、最悪だ!」
そんな会話をしていると風太郎達がいるところまで到着した。何故か風太郎は木の上でロープを解こうとしている。
「風太郎!」
「な、直江さん!?早かったですね」
「ああ、久しぶりに本気で走ったよ。それよりも、三玖に確認したけどやっぱり崖がある方に行ったっぽい」
「マジか!?くっそ、おいまだ解けないのかよ!」
「すみません、安全第一でしっかり結んだので...」
「悪いけど、先に行くよ!」
「分かった!」
その言葉を聞いたあとすぐさまダッシュで先に向かった。
「早っ!え、直江さん早すぎません!?しかもレイナちゃんを背中に乗せたままですよ」
「あいつが本気出せば、こんなものだ。って、そんなことより早くしろ!」
「はい~!」
2人のそんなやり取りを背に二乃と五月の捜索に向かう。
(二乃、五月無事でいてくれ!)
「二乃、五月どうか無事で!」
背中で零奈が何か呟いていたが、今は気にせず先を急いだ。
林間学校2日目前半です!
ここまでで原作のフラグを色々と折ってきたので、原作とは違う展開にしています。
う~ん、やはりオリジナルを考えるのは難しいですね。