五等分の奇跡   作:吉月和玖

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32.感情

~二乃視点~

 

「五月~、どこいるの~?」

 

五月が怖がり一目散に逃げちゃってそれを追いかけてみたけど、全然合流できない。

というかここはどこだろう。普通に歩いていたらゴールに着くはずなのに、一向にそれらしい場所に出ないなんて。

 

「うそっ、もしかして迷った?何なのよ、せっかくの林間学校だっていうのに。飯盒炊爨では男子が言うこと聞かないし、それでこんな暗い森で独りぼっちって...」

 

ガサガサッ

 

「いやっ...!」

 

草の音にビックリしてすぐに動いたせいか、木の根に引っかかりこけてしまった。

 

「いった-...」

 

立ち上がろうと思うけど、独りという寂しさと恐怖心で動こうにも動けない。

 

(一花...三玖...四葉...五月...)

 

心の中で姉妹の名前を呼ぶ。誰でもいい、誰か側にいてよ!

そんな時ある男の子の顔が頭に浮かんだ。

 

(直江...)

 

最初は私達姉妹の中にどんどん入ってきて気に入らなかった。

けど、料理を通して色々な彼の姿を見て、心を許してきている自分がいる。

花火大会では私達姉妹のために姉妹探しに全力を尽くしてくれたり、中間試験では2教科しか赤点回避できなかったけど、自分の中では一番の点が取れて嬉しかった。

もう最近では彼が一緒にいることが当たり前のようになってきていることに違和感を感じなくなっている。

 

『みんなには色違いのお揃いを買ってみた。ま、今日の記念ってことで!』

 

そんな言葉を思い出しながら、手首に付けているブレスレットに目が行き、そして自分の胸まで手首を持ってきて、大事にするように抱きしめた。

あの時は、『あんたにしてはやるじゃない!』って言っちゃったけど、本当は凄く嬉しかった。

本来であれば、家族や上杉にらいはちゃんだけに買えばいいのに、ちゃんと私達5人にもお揃いで買ってくれたことが本当に嬉しかった。

 

...かず、よし...

 

初めて彼の名前を口から発せられたのには、自分でも少し驚きがあった。

けど、言ってしまえばもう感情が爆発してしまう。

 

早く助けに来なさいよ、和義!

 

そう叫んだ時だ。物語のワンシーンにでもあるような出来事が起きたのは。

 

「二乃!」

「えっ...」

 

今まさに頭に浮かんでいた彼の声が聞こえてそちらを見ると、荒い呼吸を整えながらこちらを見据えている彼がいた。

 

「はぁはぁ...わ、悪い。待たせちゃったかな...はぁはぁ」

「え...う、嘘...」

 

信じられない光景が目の前に広がっていて、ぼ-っとしていたけど、さらに驚くことも起きた。何か小さな物体がこちらに向かって、私の胸に飛び込んできたのだ。

私はそれを抱え込むように少し後ろに倒れそうになったけど、何とか耐えた。

 

「え、レイナちゃん。どうして...」

「本当に、本当に心配したのですよ!心配して、目の前が真っ暗になるかと思いました...っ」

 

あのレイナちゃんが泣いてる。いつも凛としていて、とても年下とは思えない程のレイナちゃんが、私を心配して。

その事がまた嬉しく、彼女を抱きしめながらこう答えた。

 

「ありがとう...」

 

------------------------------------------------

二乃と零奈が落ち着いてきたので五月の捜索を再開する。風太郎には二乃を見つけたことを連絡した。まだ探しに出ていなかったようなので、こっちは大丈夫だから肝試しの脅かし役に集中するよう伝えた。

四葉もホッとしたそうだ。

 

「さてと、五月を探しますか。はい二乃、立てる?」

 

そう言いながら手を差し伸べたら、意外にも素直に手を取ってくれた。自分で手を差し伸べておいてなんだが、かなり驚いた。

 

「ありがと...怖いからこのまま手握ってていい?」

「へ?」

「ほ、ほら!こんな所じゃまた怖い目に遭うかもしれないじゃない!」

 

照れながらそんな事を言ってくる二乃。いつもの調子と違ってどうも慣れない。

でも怖いのは本当かもしれない。こんな所に今まで独りでいたのだから。

それに、自分の弱さを隠すためあえて普段からは強気でいるのかもしれない。

まったく、自分では風太郎のことをしっかりと見ろと言っているのにこの体たらく。僕もまだまだだ。

 

「そうだね。二乃の言う通りだ。じゃあ、零奈の事も握っててあげてくれないか?」

「ええ、もちろんよ!はいレイナちゃん」

「ありがとうございます!」

 

笑顔で二乃の手を握る零奈。やはり、中野姉妹と一緒にいるときは表情豊かになっているように思える。

さっきの泣いてしがみつく姿も僕は今まで見たことがない。

う~ん、やっぱりフィーリングが合うのだろうか。

 

「さ-て、五月はどこに行ったかな。崖の方に行ってなければいいけど」

「崖って、そんなとこがあるの?」

「そうだよ。だから急いでここまで探しに来たんだ。本当は看板が立ってたんだけど、五月が怖がりすぎてそれに気づかず、さらに五月を追いかける二乃も看板に気付かなかったんだろうね」

「な、なるほどね...」

 

そんな話をしながら念のため崖の方に向かう。さっきもとりあえず崖に向かおうとしたら二乃を見つけたんだ。きっと五月も見つかるだろう。

そんな時だ。

 

「あぁあ......」

 

何やら不気味な声が聞こえたような気がした。

 

「何よ今の!?」

 

どうやら二乃にも聞こえていたようで、無意識のうちに僕の手を握りながらも僕の方に寄りかかってきた。

 

「兄さん...」

 

零奈にも聞こえているようで二乃の手をしっかりと握っている。

 

「2人は僕の後ろに。二乃、手は絶対に離さないでね」

「え...う、うん...」

 

そうやって2人を僕の後ろに隠れさせながら声がした方をじっと見ている。

 

「あぁああぁ...」

ガサガサ

 

声は徐々にこちらに近づいてきている。

 

「和義...」

「兄さん...」

「大丈夫!二人共、絶対に僕から離れないでね」

「うん」「はい」

 

2人を宥めながら声の方に注視していると、声の主が姿を現した。現したのだが...

 

「わあぁああぁ~ん...二乃ぉ...どこに行ったんですかぁ~...」

「「五月!」」「五月さん!」

「ふぇぇ...」

 

姿を現したのは、恐怖で泣きじゃくる五月であった。

 

「五月、無事だっ...」

「直江君!」

 

『無事だったんだな』と声をかけようと思ったのだが、言い終わる前に僕に抱きついてきた。余程怖かったのだろう。

 

「直江君!直江君!怖かった...怖かったよぅ~...うわあぁああぁ---ん!」

「あぁ、よしよし。怖かったね。でも、もう大丈夫だよ」

「うん...うん...」

 

宥めながら頭を撫でてあげるが、一向に顔を僕の胸に埋めたまま離そうとしない。てか、敬語が崩れてるし。まったく、甘えん坊の困った五女だ。

 

「あ~ら五月、見せつけてくれるわね」

「え!?に、二乃!」

 

若干怒気を含ませている二乃の言葉にようやく五月は顔を上げてくれた。あ~あ、服が涙と鼻水で滅茶苦茶だよ。

 

「まったく。五月はお姉ちゃんよりもその男の方が良かったのね」

「いえ!そういう訳ではなく、全然気付かなかったと言いますか...」

「まぁいいわ。無事で良かった」

「はい。二乃も」

 

二乃は五月の事を抱きしめてそう伝えた。こうやって見ると、やっぱりお姉さんなんだなと思う。

そんな光景を隣にいた零奈も満足そうに眺めていた。

 

------------------------------------------------

あの後は無事にゴールに到着した僕達。

先にゴールしていた一花と三玖は、心配していたからかすぐに駆け寄ってきた。

最初は無事に戻ってきた事に安心していたが、その後には別のことで詰め寄られた。

何せ、二乃はゴールまで手を離そうとせず僕の方に寄りかかってくるし、五月は僕の腕を抱いたまま一向に離れようとしないしで、その状態でゴールしたからだ。

2人曰く、『怖かったから』だそうだ。

一花は興味津々のご様子で色々聞いてくるわ、三玖は終始不機嫌そうにしているわでもう大変だった。

今は、やっとその状態から開放されて部屋のベッドで寝転がっている。

 

「あぁ~、今日も一日疲れた~」

「何だよ!あんな美女2人を引き連れてゴールしておいて、この全校男子の敵め!」

「そんなことを言う人達には、もう宿題教えてあげれないかも」

「何言ってんだ、今のは冗談だよ。はははは」

 

調子の良いクラスメイトである。

今日も後は寝るだけだし、お疲れさ...

 

「直江!中野姉妹が呼んでるぞ!」

 

まだ休ませてくれそうにないようだ。

 

「中野姉妹の誰?」

「いや、中野姉妹4人が来てるが」

「ん?」

 

その言葉を聞いて入口の方を見ると確かに一花以外の4人がそこにいた。

とりあえず用件を聞くためにベッドから起き、4人のところに向かう。

 

「どうしたの?勢揃いって訳じゃないけど。あれ一花は?」

「その事でお話がありまして。まず上杉君はこちらにいらっしゃらないですか?」

「風太郎?来てないけど。あれ?でも、たしか四葉の手伝いに行くって言ってたような」

「それなんですけど、上杉さん途中まで私と一緒に丸太を運んでくれていたのですが、途中から見失いまして...」

「それで、一花もまだ戻っていないみたい...」

「まったく、世話の焼ける2人ね!」

「それ二乃が言う?」

「......」

 

僕の反論に二乃はぐうの音も出なかった。

 

「はぁ~、次は風太郎と一花ね...宿舎の中はもう見て回った?」

「いえ、まず直江君のところにいないかと思って来たので、まだ探していません」

「そっか...」

 

そう答えながら思考を巡らせる。2人が一緒に居れば探しやすいのだが、もしバラバラだったら面倒だ。

そんな時だ。ふと四葉が持っているものが気になった。

 

「四葉それ何?」

「これですか?これは丸太が保管されていた倉庫の鍵です!ついさっき、丸太が全部なくなっていたのを確認したので閉めてきたところです」

「そう...」

 

四葉の態度がいつも通りに戻ってくれたことにホッとしながらも考える。

だが、考えても埓が明かない。行動あるのみか。

 

「とりあえず外は僕が見て回る。ちょっとあてっていうか気になる場所もあるし。みんなは宿舎の中をくまなく探してくれ。四葉、念のためその鍵借りてもいいかな?」

「いいですよ!どうぞ!」

「それじゃあ、私達も手分けしましょうか」

「うん」

「あの!私も直江君に付いて行ったら駄目ですか?」

 

それぞれ探しに行こうとしたところ、五月が意見を言ってきた。

 

「いや、外も大分暗いし危ないかもしれないよ」

「それでも、一番広範囲の外の捜索を直江君一人にさせる訳にはいきません。それに、直江君が一緒であれば怖くないです」

「五月あんた...」

「はぁ...何を言っても付いてくるんでしょ。押し問答をしている時間も勿体無いから付いてきていいよ」

「ありがとうございます」

「他の3人は、申し訳ないけど宿舎の中をよろしく」

「分かったわ。五月のこと頼んだわよ」

「あぁ」

 

二乃、三玖、四葉と別れた僕達はとあるところに向かっていた。

 

「あ、あの...何処に向かっているのでしょうか?」

「さっき四葉が言っていた丸太を保管していた倉庫だよ」

「え?でも、四葉が誰もいなかったから鍵を閉めたと言っていましたが」

「正確に言えば、丸太がなくなったから閉めた、だよ」

「ん?同じではないのですか?」

「まぁそうだよね。普通なら鍵を閉めるときに、きちんと中に誰もいないか確認をしてから閉めるものだけど、この寒い中丸太運びで疲れているところ、目の前に丸太がない倉庫がある、こういった状況下では人間って、きちんとした確認ができないことがあるんだよね。ましてや僕達は学生だ」

「な、なるほど。しかし、もしそうなった場合、隠れていた可能性があります。隠れる必要性を感じられません」

「僕もそこが気にはなっていたけど、とりあえず勘を頼りに行こうかなって...」

 

そんな会話をしていると件の倉庫が見えてきた。ここまで坂を登ってきたからか横にいる五月はキツそうである。

 

「やっと倉庫に着いたね。五月大丈夫?」

「はい、何とか。ふぅ~。では開けてみましょうか」

「そうだね。では...」

 

そんな時だ。ガコンっと大きな音が鳴り、扉が少しだけ破られた。

 

「な、何なんですか、いったい!?」

「分からない」

 

その直後、ビービーとけたたましくサイレンが鳴りだした。

 

『衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合直ちに警備員が駆けつけます』

「「!!」」

 

何が何やら。とりあえずこの鍵で扉を開ければいいのだろうかと考えながら開けようとすると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「うわっ、なんだこれ!」

「スプリンクラー...火を消さなきゃ」

「ひとまずセンサーを何とかしよう」

「何とかって...だから鍵がないと...」

 

ガチャ

 

「何やってんのお二人さん?」

「一花!二人してこんな所で何してたんですか!」

 

扉を開けると、先ほどまで鳴っていたセンサーが止んだのだが、そこにはびしょ濡れになっている風太郎と一花の2人が居た。

 

 




久しぶりの投稿です。
すみません、私生活が忙しく投稿する時間がありませんでした。

なにはともあれ、林間学校2日目これにて終了です。
ちょっと早いかなとも思ったのですが、二乃が和義に対して心を開いた展開です。
吊り橋効果ってやつですね。原作を知っている方でしたらご存知の前田の作戦です。
(原作知らない人がいればネタバレですみません。。。)

では、次回から林間学校3日目開始です。
また、期間が空くと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

お気に入りにしていただけている皆様、この場をお借りしてお礼を申し上げさせていただきます。
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