「う~~~ん。かまくらは暖かいけど如何せん狭いのがネックだね」
凝り固まった体をほぐすため、軽くストレッチをしながら辺を見回した。
四葉が来ている気配はない。
ここにずっといるというのも面白みがないし、コースに戻ってみるか。そんな考えをしていると雪を踏み鳴らす音が聞こえてきた。どうやらこちらに近づいてきているようだ。
四葉であれば、最悪僕が囮になれば三玖は気づかれないだろう。
「ぜぇ...ぜぇ...」
「何だ風太郎か」
「おう和義。お前もまだ逃げきれていたんだな」
「まぁね。てか、凄い汗だけど大丈夫?」
「あぁ、スキーって結構汗をかくんだな...侮っていたぜ」
たしかにスキーは結構な運動量だから汗をかくことはある。しかし、風太郎の汗の量はおかしいように思える。
少し心配になり、風太郎に話しかけようと思ったとき三玖がかまくらから出てきた。
「あ、フータロー。まだ捕まってなかったんだ、意外...」
「ふん。俺が本気を出せばこんなものだ!」
「そっか。あ、今一花と電話で話してたんだけど、お願いされちゃって。五月を探してあげて欲しいって...」
------------------------------------------------
「おかしい。ここに五月がいないとは」
「失礼...」
「まったくだよ」
僕達が今いるところは食堂である。風太郎が心当たりがあると言ったので付いて来てみれば安直であった。
しかし、五月を探してあげて欲しいか。
零奈が言っている事が正しければ、今五月は一花の変装をしている。姉妹の誰もが気づかないのは、おそらくフードにゴーグル、マスクまでしているからかもしれない。
そして、一花はおそらく五月の行動理由を知っている。だからこそ僕達に探して欲しいとお願いをしたんだろう。
そうなると簡単に見つけることは良くないかもしれない。それに、今回は風太郎が見つけることに何か意味があるように思えてくる。
しかし、当の風太郎本人はと言うと...
「はぁ...はぁ...はぁ...」
「フータロー大丈夫?少し休んだ方がいいよ」
壁にもたれ掛かっていた。
これは体力がなくなったという話ではない。おそらく体調を悪くしている。すぐにでも休ませてやらなければ。
そんな時だ。
「三玖と上杉さん、それに直江さん見-っけ!」
四葉が三玖に飛びつき、その勢いのまま二人共雪の中にダイブした。
「「四葉」」
「へへーん。こんな所で油断してたら駄目ですよ!」
そういえば追いかけっこの最中だったっけ、すっかり忘れてた。
「一花と二乃も捕まえたし、後は五月を見つけるだけですね」
「まったく、この体力オバケから逃げ切れるとは思えないわよ」
そんな言葉を発しながら二乃が近づいてきた。その後ろには一花もいる。
「一花。さっき電話で休んでるように言ったのに...」
「ごめ-ん。四葉に捕まっちゃって」
「一花とフータローは宿舎に戻るよ」
「四葉...五月には逃げ切られたのか?」
「いえ。それがまだ一度も見かけていないんです...」
「...事態は思ったより深刻かもしれない」
「どういう事よ。詳しく聞かせなさいよ」
風太郎の言葉で全員に緊張が走った。
「遭難...?」
「ああ。広いゲレンデとは言え、六人で動き回っているのに誰も見かけないなんてありえないだろ」
「一花。五月はスキーに行くって言ってたんだよね?」
「う、うん」
「あ、こっちのコースはまだ見てないかも!」
四葉が地図の一つの場所を指さした。そこは整備がされておらず、危険な場所だから近づかないよう先生に言われている場所だ。
「さすがに五月は行ってないんじゃないかな」
「ですよね...」
「私宿舎に戻ってないか見てくる」
「私は先生に言ってくるよ!」
三玖と四葉が動き出そうとしている。しかし、
「ちょっと待って!もう少し捜してみようよ」
「なんでよ?場合によってはレスキューが必要になるかもしれないのよ。一刻も猶予がないかもしれない」
「えっと、五月ちゃんもあんまり大事にしたくないんじゃないかな-って...」
「大事って!あっきれた。五月の命がかかってんのよ!気楽になんていられないわ」
一花の言葉に二乃は凄い剣幕で迫っている。姉妹愛が強い二乃だからこそかな。
二乃に詰め寄られた一花は、さすがに悪いと思ったのかフードを深く被るように左手を頭まで持っていった。
その時に一瞬だが僕が皆にあげたブレスレットが見えた。
あの色って...はぁ、零奈は本当に観察力が凄いよ。
「とと...風太郎本当に大丈夫か?」
倒れそうな風太郎を支えてやる。さすがに限界のように思える。
「フータロー、もう休んだほうがいいよ。聞いてる?フータロー、フータロー...」
「上杉さん...」
「上杉...」
「フータロー君...」
皆心配そうに風太郎のことを呼んでいる。そんな時だ。
「みんな聞いてくれ。俺に心当たりがある」
「心当たりって...」
「大丈夫だ。恐らく見つかる」
「......信じていいのよね?」
「ああ。一花付いて来てくれ」
「「!」」
風太郎は一花を連れて心当たりがあるという場所に向かった。
「本当に大丈夫なのかな?よりによって体調が悪い二人で行かなくても...ねぇ、何で止めなかったのカズヨシ?」
心配そうにこちらを見てくる三玖。たしかに今の風太郎に行かせるのは酷というもの。
でも、風太郎自身が決めたことだ。それに、ここで行かせなかったら駄目なように思えた。
(ごめんね風太郎。帰ったら好きな参考書買ってあげるから。五月のこと頼んだよ)
「大丈夫だよ三玖。あいつだって男だ。決めるときは決めてくれる」
「?」
僕の言っていることが良く分かっていないような顔をしている三玖。まぁそりゃそうだ。
「てか、あいつのこと信じてはみたけど、心当たりって本当に大丈夫なんでしょうね?」
「ねぇみんな、僕のあげたブレスレットって今も付けてくれてる?」
突然脈絡のない話をしだした僕に三人は驚いた顔をしていた。
「いきなりどうしたの?でも、ちゃんと付けてるよ。カズヨシがプレゼントしてくれたものだもん...」
「私もです!もうお気に入りで肌身離さず付けてます!」
「私もよ...てか、今聞くこと?」
みんなそれぞれ付けているブレスレットを僕に見せてくれた。本当にいい娘達だ。
「ありがとね。皆に気に入って貰えて僕も嬉しいよ。前にも言ったけど、みんなには色違いのブレスレットをあげてるんだ。誰が何色か知ってる?」
「もちろんです!旅館でみんなと見せ合いっこしましたから」
「そっか。ちなみに、さっき一花もブレスレットをしているのが見えたんだ。色は...赤だった」
僕の言葉に三人は固まっている。
「え、それって...」
「今まで一緒にいた一花は五月だったってこと?」
信じられないといった顔で言葉を発する三玖と四葉。
「やられたわね。マスクをしてたから判別出来なかったんだわ」
「風太郎は何らかの事で五月が一花に変装しているって気づいたんだろうね。普通、心当たりがある時に付いてくるよう言うのは、体力がある僕か四葉でしょ」
「たしかに!」
「五月もまさかここまで大事になるなんて思わなかったんだろうね。きっと言い出しづらかったんだろうさ」
「はぁ...ってことは、この事は一花も噛んでるんでしょうね」
「だね、だからさっき『五月ちゃんのこと見つけてあげて欲しい』って私に言ってきたんだね」
「私だったらここまでうまくできなかったかなぁ」
三人は騙されたことを追求する訳でもなく、呆れていたり見抜けない程の変装に賞賛していたりしている。
本当に仲が良いのだと感じられる。
そこに三玖の携帯に連絡が入った。
「もしもし、五月?どうしたのそんなに慌てて...え、フータローが倒れた?リフトで降りてるところ?」
その言葉を聞いた瞬間、僕はリフト乗り場に向かって走っていた。
------------------------------------------------
「よく連れてきてくれたな。部屋を用意しておいたから、ここで休ませるといい」
風太郎を肩に担ぎ、案内してくれている先生の後を付いて行くと一つの部屋に案内された。
「ここからは私が様子を見る。お前たちはキャンプファイヤーが直に始まるからそちらに向かうといい」
「先生!看病は僕にさせてください!お願いします!」
「和義...」
僕は看病をしたい一心で先生の前で頭を下げた。
「しかし...」
「それにキャンプファイヤーは火を使います。そちらに先生が居ていただいた方がいいかと思います」
「うぅむ...分かった。何かあればすぐに報告をするんだぞ」
そう言って部屋の鍵を渡してくれた先生はそのままキャンプファイヤー会場に向かった。
「ありがとうございます!」
「ったく...お前って奴は...」
「ふふっ、嬉しいでしょ」
「ふん...言ってろ...」
「ってことで、僕はここで風太郎の看病をしてるよ。悪いけど僕と風太郎の荷物を持ってきてくれると助かるんだけど」
「あ、あの!私も残ります。こんな事になったのは私のせいでもあるので...」
「五月ちゃん...」
「五月の申し出はありがたいんだけど、しばらくは二人にして欲しいんだ。ごめんね」
「いえ。では直江くんの荷物を持ってまた来ますね」
「では、私が上杉さんの荷物を取りに行きます!」
「ああ、ありがとね。よろしく頼むよ」
皆が僕の気持ちを察し部屋から離れていく。それを見計らって風太郎をベッドに寝かせた。
コンコン
ドアをノックする音で振り返ると、ドアは開けたままで、そこには二乃が佇んでいた。
「どうしたの、二乃?」
「あんた、上杉がこうなったこと自分のせいだと思ってんじゃない?」
「ははは、二乃は鋭いところがたまにあるよね...」
「今回のことは誰も悪くない。色々なことが重なって起こったことなんだから、あんま自分を責めるんじゃないわよ」
「ありがとね。やっぱり二乃は優しいよ」
「ばか...」
その一言を残して二乃も部屋から離れていった。
ドアを閉め風太郎の寝ているベッドの傍らに座ると、寝ている風太郎から声をかけられた。
「よう、もういいのか色男...」
「はは、まさかその言葉を風太郎から聞かされるとはね...すまなかった風太郎、体調が悪いのに気付いてやれなくて」
「ふん、それこそ気にすることじゃない。お互い林間学校でテンションが上がってたんだろうな...」
「お互いまだまだガキだったってことだね...僕が看ている、今はゆっくり休みな」
「ああ...」
そう言って、風太郎は目を閉じた。
------------------------------------------------
~二乃side~
もうすぐキャンプファイヤーが始まる。
二乃の目の前では、生徒たちがダンス相手をどうしようと騒いでいる。
「最後のダンスどうする~?」
「俺、今から誘っちゃおっかな!」
「くだらないわ」
「あれ二乃はダンス踊らないの?」
「そうそう、直江君と仲良くスノボをしてたって聞いたよ。二乃のことだからそこでダンスに誘うんだと思ってた」
「あいつとはそんなんじゃないわよ」
二乃はそう答えたが実際のところは少し違う。
実際はダンスに誘おうかと思うところもあった。けど、いざ彼の前に行くと中々誘えなかった。
自分の今の気持ちがよく分かっていないところもあるのだが。
それに、一緒にスノボをしていた時に彼が言っていた言葉も気になっていた。
『自意識過剰かもしれないけど、僕のせいで二乃の風当たりが悪くなるんじゃないかなって少し心配してる』
「はぁ...ちょっとトイレ」
「二乃~、早くしないとキャンプファイヤー始まっちゃうわよ」
そんな友人の言葉を背に二乃はキャンプファイヤーの会場から離れるのであった。
------------------------------------------------
~一花&三玖side~
一花はキャンプファイヤーから少し離れたところで座って皆が楽しんでいるのを眺めていた。
眺めている先では一花の事を、正確に言えば三玖が変装していた一花をダンスに誘っていた前田が女子とダンスを踊っている。そんな光景を少し羨ましそうに一花は眺めていた。
ピトッ
「わっ!」
「あげる。風邪には水分補給が大事」
「へ~...ホットもあるんだ。抹茶ソーダ...」
ピトッ
三玖が一花の額に自分の額を当て熱を測る。
「うん、治ってる」
「あぁ、やっぱり私がフータロー君に風邪をうつしちゃったんだろうな...」
「今に思えば、フータローは最初からおかしかった」
「えっ」
「あのテンションは、自分の体調が悪い事を隠すためだったのかもしれない。私も自分の事で精一杯だったから...」
「ごめんね」
「?」
「カズヨシ君とのダンス本当は断るべきだったね」
「!」
「もっと早く気づいていれば良かったよね。伝説のこと...三玖の想いにも...」
「......」
そんな時三玖は一花をそっと抱きしめた。
「えっ」
「ずっと気にしてた。姉妹のみんながカズヨシとどう接しているのか。私だけ特別じゃ駄目、平等でなければって思ってたから」
「そんなこと...」
「でも、もうやめた」
(独り占めはしたい。この感情に嘘はつけない。それに、最近は二乃や五月がどんどんカズヨシとの距離を縮めている。そんなところを見て私もって気持ちがあるのも事実)
そんな思いの中ある言葉が三玖の頭の中に響いた。
『平等じゃなく公平にいこうよ』
その言葉が頭の中で響いた瞬間三玖に笑みが出た。
「私はカズヨシが好き。だから好き勝手にするよ。その代わり一花も皆も...お好きにどうぞ!もし一花がカズヨシの事を好きになっても負けないから」
その言葉を聞いた一花は満足そうな笑みを見せていた。そして三玖から貰った抹茶ソーダを飲むのだが...
「うん、絶妙にまずい...」
「そ、そうかな?」
「うん、でも効力ありそうだよ。ありがとね!」
そう言いながら立ち上がり三玖に手を差し伸べた。
「じゃあ行こっか。フータロー君のお見舞いに。そろそろカズヨシ君も寂しがってるかもだよ」
「うん!」
そのまま二人は手を繋いだまま風太郎と和義がいる部屋に向かうのであった。
------------------------------------------------
~四葉&五月side~
(私が余計なことを考えずに一花の変装をしなければ...)
和義の荷物を持ち、風太郎の荷物を纏めているであろう四葉のところに向かいながらも、五月はずっと自分の事を攻めていた。
今回のことは、風太郎がきちんと自分たちの事を見てくれているか試したかったことから始まったものであった。
その結果、風太郎はちゃんと自分のことを見つけてくれた。スキーで止まらなくなった風太郎のことを『上杉君』とつい呼んでしまったことで判断をしたそうだが、それでも彼はきちんと私たちのことを見てくれていると感じるのに十分であった。
『あいつも根は良いやつなんだよ』
最初に風太郎と和義に会った時、和義が風太郎のことをそう話していた事を思い出していた。
(たしかに言動はデリカシーの欠片もないですが、根はいい人なのかもしれませんね。もっと彼のことを知りたいと思えるようになりました)
そんな風に考えていると風太郎の部屋に着いた。だが外に四葉の姿が見当たらない。
まだ準備に時間がかかっているのかと思い、部屋の中を覗き込むとしおりを眺めながら佇む四葉の姿があった。
「四葉...?」
「これ上杉さんのしおり...付箋やメモがたくさん。こんなに楽しみにしてくれていたのに...具合の悪い上杉さんを連れ回して台無しにしちゃった...私が余計なことをしちゃったから...」
「!」
四葉からしおりを受け取った五月は中身をパラパラと見ながらあることに気付いた。
「結局のところ上杉君がどう感じていたのかは分かりません。ただ...無駄ではなかったはずですよ」
そしてそのページに貼られているメモを四葉に見せた。そこには、
『らいはへの土産話
・楽しかった話
車の中での五つ子ゲーム
四葉に手伝ってもらった肝試し
[候補]3日目のスキー(四葉が教えてくれるらしい)
・
・
・
・
・』
「!これ本当かな...上杉さん林間学校楽しんでくれたのかな...」
「さあ、どうでしょう」
「上杉さんに聞いてみよう!」
「え、今からですか!?」
「もう行ってもいい頃だよ!ほら五月も行くよ!」
「ふふふ、分かりました」
勢いよく部屋に向かう四葉に笑みを浮かべながら付いて行く五月であった。
------------------------------------------------
「ゴホッゴホッ...」
眠りについた風太郎ではあるが、咳がたまに出ている。汗も止まらないようだ。
何度か顔の部分ではあるが拭いてやるがすぐに汗をかいている。冷やしたタオルも何度か変えてやった。
外からはキャンプファイヤーで賑わっている声が聞こえてくる。皆楽しんでいるようだ。
そんな時、携帯に着信があった。どうやらメッセージのようだ。
『今からフータロー君のお見舞いに行くね』
『一人で寂しい思いしてると思ったから行ってあげるわよ』
『今からそっち行くね』
『上杉さんの様子が気になるので今から向かいます!』
『今からお邪魔しようと思います』
まったく、同時に送ってくるなんてさすが五つ子である。
そんな時、
コンコン
控えめにドアがノックされた。
ドアを開けてみると、そこには零奈と母さんが居た。
「どうしたの、二人共?」
「風太郎さんが倒れたと聞いたのでお見舞いに来ました」
「和義がいないキャンプファイヤーに行っても意味ないしね」
いやむしろキャンプファイヤーに参加するつもりだったのかこの母親は...
「とても苦しそうですね」
「ああ、熱は下がらないし、咳も酷いんだ」
「う~ん、らいはちゃんから貰っちゃってたかな」
「かもしれない...」
「はぁ~、和義のことだからもう少し早く気づけたはずって思ってたんでしょ、どうせ...」
「......」
「図星のようですね」
「和義だけじゃなくて、私も含めて他の人達だって気付けなかったんだから自分を責めても意味ないでしょ」
「まったくです。そんなにすぐ気づけるのであれば、医者いらずですよ」
「はは、二乃にも同じように言われたよ。まったく僕の周りには良い人ばかりで困ったものだよ」
「そうですか...二乃が...」
何か小さな声で呟いて笑みを浮かべている零奈、このたまに見る笑みはどこか慈しみを感じられる。
今からこんな感じだと、どんな風に成長するのか想像ができない。
コンコン
「ん?誰か来たみたいだけど...」
「ああ、多分中野姉妹だよ」
そう言いながらドアを開けるとやはり中野姉妹五人が外に居た。
「いや-、まさか同じ時間に皆揃うなんて驚きだよ」
「本当よ」
「私は二乃が来ているのにビックリした」
「だよね!」
「うるさいわね。そういう気分だったのよ」
「一応病人が寝てるから、皆静かにね」
そう注意すると皆申し訳なさそうにしている。そんな中五月が風太郎の寝ているベッドの脇まで進んで話しかけだした。
「上杉君。みんなあなたに元気になってもらいたいと思ってます。まだ私には、あなたがどんな人なのか分かりませんが...目が覚めたら...教えてください。あなたのことを」
その言葉に姉妹皆笑顔で風太郎の事を見ている。そして誰かが合図をする訳でもなく、全員が同時に五月の傍に集まってきた。
外のキャンプファイヤーは佳境を迎えているのか、より一層盛り上がっている声が聞こえてきている。
そして、
『3、2、1...』
カウントダウンが始まった。
そう言えば四葉が言っていたな。
『結びの伝説。キャンプファイヤーの結びの瞬間、手を結んでいた二人は、生涯を添い遂げる縁で結ばれるという』
『0!』
その瞬間、外からは歓声が上がっていた。
そして、風太郎の手にはそれぞれの指を中野姉妹五人の手で結ばれている。
親指を一花。人差し指を二乃。中指を三玖。薬指を四葉。小指を五月、といった具合である
「あの時もずっと耐えていたんだね。私も周りが見えてなかったよ」
「早くいつもの調子に戻りなさいよ。横に居る男がいつまでも辛気臭くて堪らないのよ」
「私たち五人がついてるよ」
「私のパワーで元気になってください!」
「この三日間の林間学校、あなたは何を感じましたか?」
そんな光景を僕達家族は笑顔で見ていた。
(風太郎。お前は一人じゃない。これだけの人間がお前のことを心配しているんだ。結びの伝説とまではいかないが、きっとこれからも僕達の縁は切れたりしない。きっと)
『お前頭がいいんだってな。だったら俺に勉強を教えてくれ!俺は必要とされる人間になりてぇんだ!』
小学生の時、修学旅行の後にいきなりこんな言葉で僕のところに来た男の子。今では逆に人に勉強を教えている。
(必要とされる人間か...風太郎、僕にとって君はもう必要としている人間だと思っているよ。きっと彼女達もこれから同じように思うようになるさ)
そんな風に昔の風太郎との出会いを懐かしみながら考え事をしていたからか、横の零奈の言葉には気付かなかった。
「あの子達はしっかりと成長できているのですね。それが見れて本当に良かった...」
後から聞いたのだが、中野姉妹は母親がまだ生きていた頃に、よく体調を崩した時に母親が手を握ってくれていたそうだ。それから、中野姉妹の間では体調が良くなるおまじないとして、誰かが体調を崩したら手を握って看病をするようになったとか。
その事もあって五人で風太郎の手を握っていたそうだ。
こうして、僕達の林間学校は幕を閉じたのであった。
林間学校編これにて終了です!
少し時間が空いてしまい申し訳ありませんでした。ようやく林間学校を終えることができました。
これで、原作コミックで言えば四巻まで、アニメで言えば一期まで終えることができました。長かった。。。
今後も頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。