五等分の奇跡   作:吉月和玖

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第5章 期末試験
35.お見舞い


ある一室において、ノートを鉛筆が走る音と林檎を剥く音が響いていた。

 

「風太郎、安静にしなきゃなんだから勉強はほどほどにね」

 

ここは病院の一室。

あれから風太郎は病院に運ばれるほど病状が悪くなったのだ。

 

「林間学校に行っていた分と倒れていた分を取り返さなければならないからな。休んでる場合ではない!それに、ここだと静かで集中できてで、勉強する環境としては最適だ」

 

たしかに風太郎の入院している病室は個室で充実した環境下ではある。

風太郎が何でこんな良い病室に入院出来ているかというと...

 

ガラッ

 

「はぁ...はぁ...」

「「二乃」」

「誰もいないわね...」

 

突然ドアが開けられたと思ったら二乃が入ってきた。

二乃が風太郎のお見舞い?意外だ。

 

「な、なんだ俺の部屋だぞ!」

「いいでしょ。誰がお金払ってると思ってるのよ」

「だからってこれは大袈裟だろ...看護師の間では実は医院長の隠し子じゃないかって噂で持ち切りだ!」

 

そうなのだ。今風太郎が入院している個室は所謂VIP用の個室であって、おそらくお偉いさんとかが入院するような個室だ。そんな所にどこにでもいるような学生が急に入院することになれば、そんな噂が流れるのも無理はないだろう。

 

「仕方ないでしょ。あの子達あんたが死ぬんじゃないかって心配してたんだから。って和義、あんたも居たのね」

「や、二乃!」

「甲斐甲斐しく林檎なんか剥いちゃって、あんたはこいつの彼女かっ!」

「え~、親友のためなら普通でしょ」

「いや、ここまでしてもらっている俺が言うのもなんだが、普通はここまでしないんじゃないか...」

「そうかな?」

「とは言え、二乃。お前がお見舞いに来てくれるなんて思いもしなかったぜ」

「そうだよね。悪いけど僕も思ってなかった」

「ま、まぁね。って、こんな事をしてる場合じゃなかった」

 

そう言うと部屋の奥の方に行きカーテンに隠れながらこちらに向かって一言、

 

「いい?私のことは黙ってなさい!」

 

そしてカーテンの中に隠れてしまった。

 

「?」

「二乃は何がしたいんだろう?」

 

そんな疑問を持っていると新たな来訪者がやって来た。

 

ガラッ

 

「上杉さん!ここに二乃が来ませんでしたか?」

「やっほ-、林間学校ぶりだね」

「体調大丈夫?」

 

一花と三玖と四葉である。

 

「おや、カズヨシ君も居たんだね」

「カズヨシ...お見舞いに行くなら言ってくれれば一緒に来たのに」

「こんにちは!直江さん!」

「あ~、ごめんね三玖。あと四葉ここは病院なんだから静かにね」

「あわわ、すみません。それにしても良かったです!上杉さん、生きてて一安心ですよ」

「お前らまで...ったく、誰が来いって言ったよ...」

 

憎まれ口ではあるが顔は笑っている風太郎。まったく素直になればいいのに。

 

「ん?やはり二乃の匂いがします」

 

そんな言葉と同時に四葉のうさ耳リボンがピンッと立つ。

あれって匂いに反応するのだろうか。

 

「あいつそんなに体臭がきついのか...かわいそうに...」

「いや、香水でしょ。二乃の近くにいると結構いい香りするよ」

「分からん。気にしたこともない」

「さいですか...」

「む、カズヨシはああいう香りが好きなの?」

 

三玖が僕の隣の椅子に座るや否や膨らませた顔をずい-っと近づけてきた。

 

「え、えっと。割と好ましい香りではあるかな...」

「そっか...」

 

僕の答えに納得したのか、していないのか分からないが、三玖は下を向いたまま何やら考え込んでいる。

 

「あはは。そうそう、フータロー君。君ってば体温が真夏の最高気温くらいになってて、一時はどうなるか心配してたんだよ」

「本当だよ。でも回復して良かったよ」

「だよね~。あ、寂しくなったらお姉さんのことも呼んでいいんだよ。お見舞いに来てあげるから」

「サンキュー。でも一人の方が勉強に集中でき...」

 

ゴンッ

 

風太郎が言い終わる前に頭にチョップを叩き込んでやった。

 

「いってぇ...和義、お前俺が病人だってこと知ってるよな?」

「今のはお前が悪い。もうちょっと言葉を選ぶことを学ぼうね」

「あはは...後これ。休んでた分のプリントだよ。渡せて良かったよ」

 

一花が鞄からプリントの束を出し、風太郎に渡しながらそう伝えた。

風太郎のプリントを預かっていたのは一花だったのか。少し気にはなってたんだよね。

 

「ふ~ん...学校には行ってるんだな」

 

プリントを受け取り中身を確認しながら風太郎は一花に向かって伝えた。

 

「......うん」

「ふん、所詮その程度の覚悟か」

「も-、またそうやって意地悪言うんだから」

「?」

 

考えが終わった三玖が二人の会話についていけていない様だ。

まぁ無理もないだろう。僕も風太郎から聞かされていなければ何を言っているのか分からなかっただろう。

 

林間学校2日目。あの日風太郎と一花が倉庫に居たのを見つけたときのことなのだが、林間学校が終わってようやく、あそこで何があったのか聞くことができた。

何故倉庫に閉じ込められたのかと言うと、最後の丸太を風太郎と一花二人で運ぼうとした時にキャンプファイヤーのダンスの話が出た。

その時に一花はどうしようと困っていたのだが、風太郎が『お前らならお似合いだから普通に踊ればいいんじゃないか』と言った瞬間一花が涙を流したそうだ。

風太郎も一花も何故涙が出たのかその時は分からなかったそうだが、そこに丸太運びに他のメンバーが来たため、風太郎は泣いている一花を見せてはいけないと思い隠れていたところを、四葉の手によって鍵を閉められたとのことだ。

まぁ何で泣いたかは何となく想像はできるが、こればっかりは僕から風太郎に言うことではないだろう。

そんな訳で、閉じ込められた二人が話をしているときに、一花から女優業が上手くいってきているから学校を休学。最悪辞めるかもしれないと風太郎は相談されたそうだ。

 

そんな一花は今でも普通に学校に通っている。

学校を辞めたくない理由が出来たのだろう。今、プリントに目を落としている風太郎を優しい顔で見ている一花を見れば、その理由が何なのか分かるものだ。

 

「このうさぎ型の林檎はカズヨシが剥いたの?」

「ああそうだよ。風太郎食欲ないみたいだけど、少しでもお腹に入れたほうがいいと思って」

「だからって、何でうさぎ型にする必要があるんだ!」

「いや~、普段零奈に剥いてあげる時はこうしてるからつい癖で」

レイナちゃん羨ましい...

「ん?何、三玖も欲しかった?なら、はいあ~ん...」

「ふぇ!?」

 

ちょうど手元に剥いたばかりの林檎があったのでそれを三玖に食べさせようと差し出したのだが、当の三玖は何故か固まっている。

 

「あれ、いらなかった?」

「ん-ん。あ、あ~ん...あむっ」

「どう?旨いでしょ」

「う、うん...」

「あ、一花も食べていいよ」

「あはは、私は違う意味でお腹いっぱいかな...」

 

一花の言っている意味がよく分からないが、そんな会話をしていると遂に四葉が二乃を見つけたようだ。

 

「あ!二乃いた!」

「あんたは犬か!」

「ほら行くよ」

「ま、待ちなさい!」

 

二乃は四葉に何処かに連行されてしまった。

 

「それじゃあ私たちも...」

「フータロー早く元気になるといいね。えっと...カズヨシもバイバイ...」

 

中野姉妹が去った後は、嵐が去った後のような静けさである。

 

「まったく、相変わらず騒がしい奴らだ」

「ふふ、嬉しかったくせに」

「うるせぇ...」

「さてと、風太郎はもうすぐ検診だよね。じゃあ僕も帰るよ。あ、家庭教師はとりあえず風太郎が復帰まではなしにしてるよ。再開した時の彼女達の学力がどこまで落ちてるか怖いところではあるけど...」

「まぁな。和義、頼りにしている」

「任せなさい!」

 

そう答えて、僕は病院を後にした。

家への帰り道ふと考えた。風太郎と一緒に写っていた写真の女の子は一花なのだろうか、と。

でもどこか引っかかるところもある。この件については、分かるまでまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 




すみません、私生活が忙しすぎて投稿に時間がかかってしまいました。
少し短いですが、今回はキリがいいのでここまでにします。

この後の展開なのですが、どうしようかと結構迷っているところもありますが、頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします!
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