「兄さん、今日は早く休んでくださいね。明日寝坊したら承知しませんから」
「分かってるって」
言葉ではキツイ言い方ではあるが、零奈自身はご機嫌のようで、珍しく鼻歌を歌いながらお風呂に向かっていった。
明日は祝日ということもあり、兄妹で出かけることにしたのだ。本当は上杉兄妹も誘うかと思ったのだが、風太郎は『勉強をするからまた今度な』と、らいはちゃんは『すみません。もう約束があるので』と断られてしまった。まぁ久しぶりに兄妹水入らずでいいかもしれない。
ちなみに母さんは久しぶりの日本という事で、自分の友人達と出かけたり旅行に行ったりしている。まったく行動力が凄まじい我が母である。
行き先は僕の好きなところでいいとのことなので、近場のお城巡りに行くことにした。
零奈自身はそこまで興味がないようだが、『兄さんと一緒であれば問題ありません』とのことだ。出来た妹でお兄ちゃん嬉しいよ。
「あっ...そういえば明日はするのかな?」
毎週末恒例になっている二乃との料理研究とフランス語勉強。これって祝日もするのだろうか。
確認も含めて先に断っておこう。そう思い、皿洗いを止めて二乃に電話をかけた。
『どうしたの?』
「夜分に悪い。明日ってうちに来たりする?」
『ああ、そういえば祝日で家庭教師もない日ね。確認の電話ってことは何か予定でもあんの?』
「察しの通り、明日は零奈と出かけるんだよ。多分一日留守にしているから、もし来る予定があれば入れ違いになると思って」
『そう。分かったわ、私も明日はのんびりさせてもらうわよ』
「そっか。とりあえず用事はそれだけ、夜分に悪かったね。おやすみ」
『ええ。連絡ありがとう。おやすみなさい』
二乃との電話を終えてじっと携帯を見ていた。
最近の二乃は素直と言うか、ツンとしているところが見れないように思える。いや、風太郎に対しては相変わずの様なんだが。それでも柔らかくなってきているようになっていると実感ができる。
いい傾向なのだろうが、何かあるのではと若干の恐怖もあったりで...
「って、こんな考えは二乃に悪いか。きっと二乃なりに何か心の変化があったんだろう。根は優しい娘なんだ。うんうん、いい事だ」
あらかた終わらせてソファーでのんびりしていると零奈がお風呂から上がってきた。
「お先にいただきました」
「そんじゃ、僕も入ろうかな」
ソファーから立ち上がりお風呂に向かおうとしたその時、一本のメッセージが届いた。
「おや?」
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~三玖視点~
『明日休日だけど一緒に出かけない?』
自分で携帯に打ったメッセージをじっと見ていた。
「よし、デートっぽい。二人っきりでデート...だって明日は勤労感謝の日だもん」
そう自分に言いきかせて。送信のボタンをタップした。
「~~~~~~~っ」
メッセージを送った後、あまりの恥ずかしさでベッドの上で寝っころがり、バタバタと足を上下していた。
「カズヨシ何て返事してくるかな...もしかしたら断られちゃうかも...」
今までカズヨシは女子と付き合ったことがないと聞いている。むしろ告白は全部断っているとも。
でも、それは一度も話したことがない人が多いって言うし。
学校の中ではカズヨシと結構一緒にいることが多いし、歴史の話とかたまにやってたりで、その延長線でもしかしたらOKが貰えるかも。
そんな感情がぐるぐるしている中カズヨシから電話がかかってきた。
「え、えっと...もしもし」
『三玖?悪い、今電話大丈夫だった?』
「う、うん。問題ないよ...」
『そっか。さっきのメッセージの件なんだけど、明日は零奈と出かける予定があってさぁ』
「!そっか...(う~レイナちゃんに先を越されちゃったか)」
『で、三玖さえ良ければ三人で出かけない?』
「っ!う、うん。いいよ」
『本当?良かった~。実は出かける先は近場のお城巡りを考えてたからさ、三玖となら一緒に行くともっと楽しくなるんじゃないかなって』
「そうなんだ。うん、私もカズヨシと一緒だと楽しくなるって思えるよ」
『そっか。ありがとね。ただ、もう一つ三玖にお願いがあって...』
「何?」
『零奈に三玖の歴史好きの事話してもいいかな?多分現地に着いたら二人共興奮してしまって結局バレてしまうと思うんだよね』
「あ...」
そうだよね。
実際に現地に行ったら隠せるとは思えない。むしろ一緒に来る事が分かった時点でバレてしまうかもしれない。
どうしよう...カズヨシとお出かけはしたい。しかも、行き先がお互い好きなところ。
でも、歴史好きがバレてレイナちゃんの態度が変わっちゃうかも...
そんな風に考えていると、カズヨシから一言言われた。
『大丈夫だよ』
「えっ...」
『零奈は、三玖が歴史好きだって知ったところで今まで通り接してくるよ。これには絶対な自信がある』
「そうかな...」
『あぁ、僕と零奈のことを信じてくれ』
『信じる』。カズヨシのこの言葉が私の胸に刺さった。
「分かった。良いよ、レイナちゃんに話しても...」
『本当!?ちょっと待っててね、今から零奈に確認取ってくるから...』
その後ミュート状態になったのか向こうからの音が消えた。音が消える前のカズヨシの声は嬉しそうで、その事が少し面白くて笑ってしまった。
それでも、やっぱりどんな返事が来るのかドキドキで苦しくなってくる。
そんな時だ。
『もしもし、三玖?』
「う、うん...」
『零奈からOK貰えたよ。後、零奈やっぱり全然気にしてなかった。むしろ、兄さんと同じ趣味を持っている人がいて良かったです、だってさ』
「そっか...」
『てな訳で、明日は9時に駅前でもいいかな?』
「分かった!明日楽しみにしてるね、誘ってくれてありがとう」
『いいって。むしろ先に誘ってきたのは三玖の方でしょ。ありがとね。それじゃ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
そこで電話が切れた。
「~~~~~~~っ」
メッセージを送った時よりも興奮している自分がいる。あまりにもバタバタしていたからか、『三玖うるさいわよ!』って二乃に怒られてしまった。
でも仕方がない。レイナちゃんと一緒とは言えカズヨシと、しかもお互いに好きなところにお出かけができるのだ。こんな嬉しいことなのに抑えることなんてできない。
「そうだ、明日の服どうしよう...」
そう思いクローゼットを開けると一つの服が目に入った。
「これ...」
それは、この間一花と買い物に行った時に一花が選んでくれた服だ。着る機会はないだろうと思ってたけど、こんなに早く機会が来るなんて。
「一花ありがとう...あっ、そういえば」
服を買ったときにもう一つ一花と選んだものがある。それは机の上に、カズヨシに買ってもらったブレスレットと並べて置いてあるものである。
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三玖との電話が終わったところに零奈から声をかけられた。
「それで三玖さんは来られるのですか?」
「あぁ、ありがとね零奈。一緒に来るのを承諾してもらって」
「構いません。趣味が合う方と一緒に行った方が良いでしょう。それに兄さんの事です。この埋め合わせはいずれしてくれると信じておりますので」
ニコッと笑っている零奈である。これは何かしないと何言われるか分かったものではないな。
さてと、明日も早いしさっさとお風呂に入って寝るとしますか。
この辺りからオリジナル展開が増えてくると思われます。
僕自身の発想力がどこまで通じるか。。。
皆さんも心広く見守っていただければ幸いです。