「まだ30分前。さすがに早すぎない?」
「何を言っているのですか。女性を待たせてはいけません」
次の日、久しぶりのお城巡りもあって早めに起きた僕は、零奈に急かされるまま集合場所の駅前に向かっていた。
確かに待たせるわけにはいかないとは思っているが、これはさすがに早すぎるように思える。
「さっきの子可愛くなかったか?」
「だよな!誰か待ってたみたいだからデートかもな。クッソー、もしそうなら相手が羨ましいぜ」
途中、すれ違う男二人組がそんな話をしていた。
「何だ?芸能人でもいたのかな?」
「さあ…そういえば、芸能人と言えば一花さんは順調なのですか?」
「順調みたいだよ。仕事も楽しいみたいだね」
「そうですか。それは何よりです」
笑みを浮かべながらそう答える零奈。本当に心の底から嬉しいのだと、この笑みを見ると感じてしまう。
「あれ、三玖さんじゃないですか?」
そんな零奈が示す先には下を向いて佇んでいる三玖の姿があった。
上は淡い青色のニットで、スカートは少し薄めの青。そしてグレーのブーツを履いている。
そんな姿の三玖を見るのは初めてだったので少し驚いていた。
「ほら兄さん!惚けてないで三玖さんの所に行きますよ」
「どこでそんな言葉を覚えてくるのやら。って零奈走ったら危ないよ」
僕の言葉も聞かず走って三玖の所に向かう零奈。
こんな姿を見ると年相応なのだと思う。
「三玖さん!おはようございます」
走りながら三玖に向かって挨拶をする零奈。
それに気づいた三玖は笑顔で僕達を迎えてくれた。
「おはよう、レイナちゃん。それにカズヨシ…」
「あぁ、おはよう三玖。ごめん、待たせちゃったかな?」
「ううん、私もさっき着いたばかりだから気にしないで」
「そっか。それにしてもビックリしたよ。三玖ってそんな服も着るんだね…うん、似合ってるよ」
「本当!?ありがとう…これ、一花が選んでくれたんだ」
「流石一花。姉妹の事分かってるよねぇ。うん、たまにはそういう服もいいね!」
「そっか…カズヨシが言うならこういう服もいいかも」
「ん?どうかした?」
「ううん、何でもないよ。ところで何で眼鏡かけてるの?目悪かったっけ?」
三玖の指摘した通り、今日の僕は眼鏡をかけているのだ。
「あー、視力は悪くないよ。これは伊達眼鏡だしね」
「?」
僕の言葉に不思議そうにしている三玖。無理もないだろう。
「これは、所謂変装というやつですね。兄さんは良く街中で学校の人や知り合いに声をかけられるので。なので、好きなところに行く時は必ず眼鏡に帽子を被ってますよ」
「そうなんだ…」
「今日はゆっくりとお城巡りしたいからね。誰にも邪魔はされたくないんだ。それに今日は零奈と三玖がいるんだ。二人に迷惑かけられないよ。っと、それじゃあちょっと早いかもだけどさっそく行こうか」
「うん!」
僕が出発を促すと笑顔で三玖は答えてくれた。
「三玖さん。手を繋いでもいいですか?」
「もちろんだよ。はい…」
零奈のお願いに快く承諾した三玖は自分の手を差し出し、そして零奈と手を繋いで歩き出した。端から見たら、仲の良い姉妹のようだ。
二人とも楽しそうで何よりである。
目的の場所までは電車で一時間ほどかかる。近場と言ってもやはり距離はあり、学生の僕達にとっては遠出かもしれない。
電車で零奈を挟んで僕と三玖で並んで座っていると、三玖から申し出てきた。
「今日は誘ってくれてありがとう。楽しみで昨日はあまり眠れなかったんだ」
「こっちこそ、来てくれて嬉しかったよ。僕も久しぶりのお城巡りだから、楽しみすぎて早起きしたくらいだよ」
「本当に、普段からこれくらい早起きしてくれれば助かるのですが」
「うっ…」
「ふふふ、カズヨシってそんなに朝が弱いんだ」
「ええ。普段はギリギリまで寝てますからね。こういうイベント事だと早く起きる。小さな子どもですね」
「その姿でその言葉を言われると、心にグサッと刺さるよ…」
「ふふふ、朝寝坊してくるカズヨシも見てみたいかも…」
そんな風に弄られながらも電車の中では楽しく過ごしていたためか、目的地に着くまではあっという間だった。
そしてー
「着いたー!」
「兄さん、少しは落ち着いてください」
「いいじゃんたまには。ねぇ三玖?」
「うん、カズヨシの気持ち分かるよ。血が滾るよね」
「三玖さんまで…」
「さて、どこから行こうか?」
「櫓や石垣をまず見て回りたいかも」
「いいねぇ!お、茶席なんかもいいんじゃない?三玖、お茶好きだし」
「うん、外せないね」
「庭園とかも見たいし、天守閣の周りをぐるっと回って最後に本丸御殿かな」
「うん、それでいいと思う」
「よし!途中休憩を挟みながら行こうか」
「行こうレイナちゃん」
「はい!」
ここでも二人は手を繋いで行動をするようだ。
「ほら兄さんも」
そう言ってこちらに手を差し出す零奈。
三人で手を繋いで歩いてると家族に間違われるかもしれない。けど二人が楽しそうならいいか、と零奈と手を繋ぎ三人で並んでお城巡りを楽しむのであった。
石垣や堀、櫓に茶席を見て回り、庭園に差し掛かろうとしたところで、茶亭が見えてきたのでそこで休憩をとることにした。
もうすぐお昼ではあるがまだまだ見て回るだろうし、お昼が遅くなっても問題ないだろう。
「えっと、抹茶セットを…」
「私もそれでお願いします」
「う~ん、ぜんざいと…ほうじ茶ってあります?」
「はい、ございますよ」
「じゃあ、それで」
「かしこまりました」
そう言って店員さんが下がっていった。
零奈が抹茶セットを頼んだときは店員さんも驚いていた。まぁそりゃそうだ。
「相変わらずほうじ茶好きですね」
「まぁね。それより零奈は疲れてない?」
「はい、途中途中少しですが休みながらでしたので」
「そいつは良かった。三玖は?」
「大丈夫。まだまだ行けるよ」
「ははは、興奮で疲れを忘れてるのかもね。無理せず、疲れたら早めに言うんだよ」
「分かった」
「それにしても、お二人共凄い興奮されてますよね。写真もたくさん撮ってましたし」
「そりゃ-ね。今回は三玖もいるし色々話せて楽しんでるよ」
「うん。周りに気にせず色々話せるのがやっぱりいい」
「そんなものなのですね...そういえば、私と三玖さんや私と兄さんの写真は撮りましたが、お二人の写真は撮ってないですね」
「「え?」」
零奈の言葉に対して同時に反応してしまった。丁度その時注文した品が運ばれてきた。
「わぁ~、抹茶セットのお団子も美味しそうですね」
「そうだね、温かいうちに食べようか...」
「...そ、そうだね」
「うん!お団子美味しいです。はぁ~、ここで抹茶を飲むと落ち着きますね」
「相変わらず言動と見た目がマッチしてないよね。うん、ぜんざいも丁度いい甘さで美味しいよ」
「抹茶...落ち着く...」
「それで、お二人の写真は撮らないのですか?」
「あ、その話に戻るんだ」
「......」
男子とのそういうのは慣れてないだろうと思って敢えて話には出さなかったんだけど。もう三玖なんて下を向いて必死に団子を食べてるよ。そんな食べ方して喉に詰まらないだろうか。
「あ-、僕はいいんだけど、三玖がこういうのに慣れてないかなっと思ってたんだけど...」
「え、カズヨシはいいの!」
食い気味に聞いてくる三玖。
「え、え-と...僕はいいけど、三玖はいいの?」
「う、うん。カズヨシがいいなら一緒に撮りたいな...」
「あ、そうなんだ。じゃあ、どうせなら本丸御殿に着いたら撮ろうか」
「っ~~~、うん!」
三玖はご機嫌になったのかニコニコとお団子を食べている。
こんな事なら最初から話を振ってれば良かったかな。そんな思いで残りのぜんざいを食べることにした。
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茶亭を後にした僕達は近くの庭園を回りそのまま本丸御殿に向かった。
庭園も日本庭園を感じさせるほど良いもので心を落ち着かせる時間を過ごせた。
本丸御殿には色々な部屋があり、そのどれもが当時を再現されている。
僕と三玖はもちろん楽しめたのだが、歴史にそこまで興味を持っていない零奈も一つ一つの部屋を興味津々に見ていたので、楽しめたのではないだろうか。
もちろん外で三玖との写真も撮った。その写真に写っている三玖はとてもいい笑顔だったのではないかと思う。零奈もその写真を見て満足していた。
後、係の人にお願いをして三人での記念写真も撮ったのだが、こちらはやたら零奈が気に入ってくれた。ここまで気に入ってくれたのであれば係の人にお願いをして良かったものだ。
本丸御殿を後にした僕達は近くにあったミュージアムショップ、所謂お土産屋に向かった。
今日の記念に何かあればいいのだが。
「何か良いのがあればいいんだけど」
「そうですね」
「私は逆に迷うかもしれない…」
「あ、三玖さんこのストラップとかどうですか?」
「うん、可愛い。このハートの形のを色違いでお揃いに買おうか?」
「是非!」
女子はこういう所が好きだろうし、僕は別行動しようかな。
「僕は別のところ見てくるから二人はゆっくり見てるといいよ」
「ん、分かった...」
「分かりました。あ、余計なもの買わないでくださいね」
「分かってるよ。じゃあ、また連絡するね」
二人と別れて色々と物色をしているがこれといった物が見つからない。いや、欲しいものはいっぱいあるのだが、買いすぎるとまた零奈に小言を言われるから厳選しなければいけない。
「とりあえず、お菓子系は買うとして他はどうするかな...ん、これいいかも。すみません...」
いいなと思った物を見つけたので係の人を呼んで包んでもらった。その後、いくつかのお菓子の支払いも済ませるのであった。
その後二人と合流して、お城の近くにある色々なお店が並んでいる横丁に向かい遅めのお昼にすることにした。そこで今日あった出来事について色々と思い出しながら、お昼のひつまぶしに舌鼓を打った。
うん、今日は良い一日だったと思う。
その後も横丁を一通り見てから帰ることにした。地元ではないのであまり遅くなるわけにもいかないからね。
帰りの電車の中、さすがに疲れてしまったのか零奈は僕の膝を枕にスヤスヤと眠っている。
そんな零奈を笑みを浮かべながら三玖は見ている。帰りは零奈がすぐに寝るだろうと予想をして僕が真ん中に座るような位置になっている。だから僕のすぐ横に三玖が座っている。
「ふふ、可愛い寝顔だね」
「あぁ、まったく寝顔だけは年相応なんだから...」
「そう言っているカズヨシの顔、優しい顔になってるよ」
「ま、可愛い妹なのは確かだからね」
「そっか...改めて今日は誘ってくれてありがとう。本当に楽しかったよ」
「喜んでもらえて良かった。僕も楽しかったからお互い様だよ。そういえばさ、三玖って今日香水付けてきた?」
「え...」
「何か三玖の近くにいると優しい香りがしてたような気がしてたんだよね。気づいたのは一緒に写真を撮ったときだったんだけどね」
「そっか...気づいてくれてたんだね。何も言ってこなかったから気づいてくれないんじゃないかって思ってた...」
「はぁ~、今日の僕は駄目駄目だったね。写真といい香水といい、まったく三玖の気持ちに気づけてなかったよ」
「そんな事ない!結局は気づいてくれた。それだけでも嬉しいんだ...で、どうかな...」
「ん?あぁ香水ね。うん、いいんじゃないかな。三玖にピッタリの優しい香りだと思うよ」
「そっか...良かった気に入ってくれて」
「あ、そうだ。これ、今日の記念ってことでプレゼント」
「え?」
「良かったら受け取ってほしいんだけど」
「もちろん!開けていい?」
「ここで!?まぁいいけど...」
僕から受けっとた三玖はすぐに包みを外して箱からそれを取り出した。
「簪...?」
「そ。何か一目見た瞬間三玖に合うんじゃないかって思ってさ。簪は用途が少ないかもだけど、使ってくれたら嬉しいかな...」
僕があげた簪は青い花、ブルーデージーという花があしらわれている。
「うん...ありがとう。大切にするね」
そう言っている三玖は本当に嬉しそうな顔をしている。気に入ってくれたようで良かった。
その三玖もうとうとしだした。到着までまだ時間もかかるだろうし少しくらい寝ても大丈夫だろう。
「三玖、眠そうだね。着いたら起こしてあげるから寝てていいよ」
「うん...じゃあお言葉に甘えるね...」
そう言って三玖は僕の肩に頭を置きすぅすぅと寝息を出して寝てしまった。
「ちょっ...はぁ-、まぁいいか」
そして僕はいつも持ち歩いている本を読むことで、時間を潰すことにした。
「お疲れ様、三玖...」
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~中野家~
三玖が家に着いた頃には少し暗くなっていた。手には別れ際に和義から預かった姉妹へのお土産のお菓子が入った袋がある。
『駅でたまたま会って、その時に貰ったって言えば大丈夫でしょ』
そう言って和義から預かったのだが、やはり他の姉妹の事も考えてお土産を買っていたんだ、と嬉しく思う三玖であった。
「ただいま」
「おかえり~三玖」
「あら、帰ったのね。おかえり三玖」
三玖が帰るとキッチンで夕飯の用意をしている二乃と、ソファーでだらけている一花がいた。
「これ、駅でたまたま会ったカズヨシから。皆にお土産だって...」
そう言って、三玖はテーブルの上に和義から預かったお土産を置いた。
「あぁ、そういえばレイナちゃんと出かけるって言ってたわね」
「へぇ~。ちゃんと私達の事も考えてお土産を買ってくるなんて、カズヨシ君ってば優しいね」
「私着替えてくるね...」
言うや否や三玖はさっさと部屋に戻っていった。
「ん~?三玖、何かいい事でもあったのかな?」
「何でよ」
「う~ん、お姉さんの勘かな。階段を上がる時の足音も軽やかだったし」
「ふ~ん...」
一花と二乃がそんな会話をしていると、他の姉妹も帰ってきたようだ。
「ただいま!」
「ただいま帰りました」
「おかえり~、四葉、五月ちゃん」
「まったくいいタイミングで帰ってきたわね。おかえり二人共。夕飯の用意が丁度出来たところよ」
「お-、それはベストタイミングだね!」
「これはどうしたのですか?」
「あ-、それはカズヨシ君のお土産だって。三玖がたまたま駅で会ったそうだよ」
「直江君の!お菓子ですね!」
「五月!夕飯前に食べるんじゃないわよ!」
「分かってます!では、着替えてきますね」
「じゃあ私も」
四葉と五月も着替えのため自分の部屋に戻っていった。
「おや。四葉もいい事があったみたいだね」
「あんたの嗅覚はどうなってんのよ」
一花の発言に二乃は若干呆れていた。
「「「「「いただきます!」」」」」
二乃の夕食の準備が出来たので、五人で食卓を囲んでいる。
「そういえばあんた達今日はどこ行ってたの?ちなみに、私は一花と一緒にショッピングに行ってたんだけど」
「だね~。私達が出かけるときには三人ともいなかったよね(本当はフータロー君を誘ったんだけど、勉強だって振られたんだよね...)」
「私は朝から行きたいところがあったから(カズヨシと出かけたというの言えるけど、それで歴史が好きなことを皆に知られるのはまだちょっと抵抗があるし...)」
「ふ~ん...(三玖にしては長く外に行ってたようだけど)」
「私はらいはちゃんとお出かけをしてました」
「私は一人で街をブラブラしてたんだ(上杉さんと一緒って言ったら、一花に何言われるか分からないしね)」
「直江君はどこに行っていたのでしょうか?」
「お土産を見る感じだとお城かな?お城の絵が箱に描かれてるし。カズヨシ君ってそういうのが好きなのかな」
「じゃないの。あいつの家に行った時、たまにそういう話をしてるしね」
「二乃の週末通い、結構続いてるねぇ。そんなに料理って楽しいの?」
「まぁね。お互いに良い刺激になってるわ」
「二乃。それ私も行っていいかな...」
「何?料理に興味出てきた?」
「うん。今後は二乃の手伝いもしたいって思ってる」
「へぇ~。ま、いいんじゃない。けど、ここのキッチンよりもあいつの家のキッチンの方が狭いから、キッチンに立つのは二人でせいぜいね。もしかしたら見学だけになるかもよ」
「む~、分かった...それでもいい」
(三玖はどんどん積極的になってる。私もうかうかしてられないな)
「あの!試食係はいらないでしょうか?」
「どんだけ食い意地があんのよ...まぁ、和義が良いって言うならいいんじゃない」
「確認してみます!それに勉強も見てもらえるかもしれませんし」
(う~、二乃っていつからカズヨシの事を名前で呼ぶようになったんだろ。もしかして二乃もカズヨシの事を...)
「そういえば、上杉さんもたまに夕飯をご馳走になってるって言ってたね。それに、泊まることもあるって」
「あの二人の仲は相当なものよね。そういえば妹ちゃん同士も仲がいいんだっけ?」
「う~ん、あの二人の仲にはまだまだ私達の入る隙はないように思えるよね」
一花の発言に姉妹全員同意の意味を込めて頷いている。
「それでも、きっと直江さんは私達の事も大事に思ってくれてるんじゃないかな。このブレスレットを見るとそう思えるんだ」
手首に着けているブレスレットを触りながらそう話す四葉。
「そうですね。それに何も思っていなければ、私達の為にお土産だって買ってきたりしませんよ」
「だね」
「ま、そうかもね」
「うん…」
中野姉妹が皆、自分の手首に着けているブレスレットを触りながら再確認しあったのであった。
投稿が遅くなり申し訳ありません。
いやー、流れは何となく頭の中で想像は出来ているのですが、それを文章にするのがやはり難しいですね。。。
今回のお話は三玖とのお出かけ回となりました。原作とは違い、和義は勉強したいからとかで断らないだろうと思い、今回の話にしました。
まぁ女子と出かける事に抵抗があるのでは、と思ったのですが零奈と一緒で、行き先をお城にすればいけるのではと考えた次第です。
ちなみに、風太郎は原作同様四葉と出かけた事にしました。
では、また次回までお待ちいただければ幸いです。