五等分の奇跡   作:吉月和玖

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43.夜空に浮かぶ月

「おはよう~」

 

朝起きてリビングまで降りてくると、すでに朝食の準備が出来ていた。恐らく二乃だろう。

 

「おはよう。あんた本当に朝弱いわね」

「おはようございます、直江君!」

「おはようございます、兄さん」

「僕としては早い方なんだけどね…朝食は二乃が?」

「ええ。だけど、レイナちゃんにも手伝ってもらったわ」

「そっか。いつもご苦労様、零奈」

 

ちょうど近くにいたので零奈の頭を撫でてあげた。

 

「えへへ…」

「「む~…」」

 

頭を撫でてあげた零奈は喜んでくれているが、何故か二人からジト目で見られていた。

 

「どうしたの二人とも?」

「いえ…」

「べっつにー…」

 

何かを言いたげではあるが何も言わず朝食を食べ始めた。

 

「そういえば、昨日は喧嘩せず眠れた?」

「あの客間って広いのね」

「え?うん…」

 

二乃と五月が寝泊まりしている客間は和室で、かなり広い。

多分中野姉妹全員が寝泊まりしても余裕があるくらいだ。

けど、僕の問いに対しての答えとしてはおかしく感じる。

 

「はぁ…お二人は端と端で寝ていたのでお互いに干渉しないようにしているのでしょう…」

「な、なるほど…」

 

凄い徹底ぶりである。そこまでするなら帰って自分の部屋で寝た方がいいのではと思うが、今言っても無駄なのだろう。

零奈から客間へ近づかないよう言われてるので、僕には様子を見ることが出来ないが、心配になった零奈が見に行ったのかな。

 

食事も終わったので、勉強を始める事にした。

毎週恒例のフランス語授業も欠かせない。しかし、興味本位で渡した料理本ではあるのだが、まさかここまで続くとは思わなかった。

今では1冊目のノートが埋まるくらいである。

 

「もう大分一人で読み解けるようになったんじゃない?」

「まだまだよ。あ、ここってどう訳すんだっけ?」

「あぁ、ここは…」

 

以前より集中力も増してきているように感じる。ミスも減ってきている。

 

「五月がやってるのって…」

「ええ、彼の作ってくれた問題集です」

「っ!」

「へぇ~、ちょっと見せてくれる?」

「どうぞ」

「ありがとね」

 

ふ~ん、さすが風太郎だね。要所をしっかり押さえてる。

家庭教師を始めた当初に比べて本気で向き合おうとしてるみたいだな。これを作るのにどれだけ時間がかかったのか。

チラッと二乃を見たが、二乃もこちらを見ていたのか目が合ったらすぐに目を反らされた。

やっぱり気にはしていたんだな。

 

しばらく勉強を続けていると僕の携帯が鳴った。

 

「悪い、ちょっと出るね…」

 

少し離れてディスプレイを見ると、

 

「(風太郎?)お待たせ。どうしたの?」

『休みの日に悪いな。今時間いいか?』

「うん、別にいいけど何かあった?」

『あ、ああ。実は昨日の事なんだが…』

(ん?)

『ちょっと色々な事があってだな…二乃と五月が家出をしてしまったんだ…』

(あれ?)

『本来であれば、昨日の内に相談すれば良かったんだが、お前は零奈の看病があると思ってな…今、中野家に来てるんだが、そこで三玖と探しに行くことになった訳だ。悪いがお前の力も借りたい!頼む!』

「えっと…三玖も二人の場所知らないのかな?」

『ん?探しに行くのだから当然ではないか』

「だよね~…」

 

そう答えた後、机で勉強している二人を見た。

あれ、そういえば誰も連絡してないのか?

僕は、二人の内どっちかが連絡してるかと思ってたからあえてしなかったけど…そうだよね。普通家出すれば行き先言わないよね。

 

「あー…探しに行く必要はないよ」

『は?何でだよ』

「えーと、今僕の目の前で二人とも勉強してるから…」

『は?』

「いや、だから僕の家に二人ともいて、そして勉強してるから…」

『はぁーーーーっ!?』

 

電話では埒が明かないと思い、僕が中野家に行くことになった。ここに風太郎と三玖を呼んでもいいのだが、また何か起こりそうだしね。

 

「てな訳で、僕が今の状況を説明してくるよ。後、五月の着替えとか明日からの制服や鞄とかも必要でしょ?」

「すみません、ご迷惑をおかけします」

「良いって」

「ふ~ん、三玖の事だからここに乗り込んでくると思ったわ」

「まぁ、実際来ようとしてたんだけどね…風太郎に止めてもらったよ。それじゃあ、僕が出掛けている間は自由行動って事で、家の中で分からない事とかあれば零奈に聞いてくれ。あ、外出してても良いよ」

「え、てっきり課題を置いていかれるとばかり思ってました」

「根を詰めすぎると反って悪いと思ってね。大丈夫だよ、二人とも確実に成長してるから」

「そう?だったら遠慮せずテレビでも観てるわね」

「私は…」

 

勉強をしなくて良いのかという不安があるのかな。

 

「別に勉強するなって言ってる訳じゃないから。自由行動なんだし、勉強したいのであれば勉強しても問題ないよ。ただし、途中外の空気を吸いに行く目的で散歩とかしなよ。気分転換も大事だよ」

「分かりました」

「客間に机を持っていくよ。それくらい良いよね?」

 

チラッと零奈を見る。

 

「別に構いませんよ」

「ありがとね。っとそうだ。二人ともちょっといいかな?」

「「?」」

 

僕は二人を連れて、2階の僕の部屋まで向かった。

 

「ここが直江君の部屋…男性の部屋なんて初めです」

「私もよ…」

「悪いね、二人に暇潰しになりそうな物を渡そうと思ってさ。えっと、たしかここら辺に…」

 

二人とも部屋の中をキョロキョロと見ている。あまり見られると恥ずかしいのだが。

 

「ああ、あった。まずは二乃にこれを」

「これは?」

「僕が今まで作ってきた料理のレシピ本だよ。手書きで見にくいかもだけど」

「え、良いの?こういうのって他人に見せるもんでもないでしょっ」

「別にいいさ。ほとんど二乃でも知ってる事が書いてるかもだしね。その代わり、今度は二乃が書き留めてるのがあればそれを見せてよ」

「そっちが目的なんじゃない…でもいいわ。今度見せてあげる」

「やった!ありがとね」

「そこまで喜ぶもの?」

 

呆れてはいるが良い笑顔で応えてくれた。やっぱり二乃にも笑顔でいてほしい。

 

「次は五月ね。五月の趣味とは合わないかもだけど、料理と旅行、後は歴史関係のガイドブックだよ。少しでも暇潰しになれば良いんだけど…」

「歴史…直江君は歴史関連が好きなのですか?この間のお土産もお城の絵柄のお菓子でしたが」

「そうなんだよ!女子にはちょっと縁遠いかもだけどね。この間二乃に話したらつまらなそうだったし…」

「あれは…あんたの話がマニアック過ぎんのよ。もう少し初心者用のを今度は用意しなさいよね」

「え?また話しても良いの?」

「聞くだけならね…」

「そっか!用意しとくよ」

「あっそ…」

「む~…これを読めば直江君とのお話がより楽しめる

 

何故か五月は歴史本をじっと見ている。

 

「あ、別に無理して読まなくていいからね」

「いえ、社会の勉強にもなりますし読ませていただきます。ありがとうございます」

「五月は本当に真面目な娘だなぁ。まぁ、肩の力を抜いて勉強と思わず読んでよ」

 

その後下に降り、机を客間に用意してから中野家に向かうことにした。

 

「それじゃあ行ってくるよ。零奈、後の事お願いね」

「ええ、お任せを」

「二乃。三人のお昼の用意任せて大丈夫かな?」

「それくらい、どうということはないわ」

「助かる!あっちの昼食と、後夕食も温めれば食べれるように作っとくよ」

「悪いわね。冷蔵庫の中は好きに使って良いから」

「了解!じゃ、いってきます!」

「「「いってらっしゃい!」」」

 

三人に見送られ、僕は中野家に向かって出発した。

 

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「なるほどな。そういう事になってたのか…」

 

中野家に到着した頃にはいい時間でもあったので、お昼を三人分作って、三人で食べながらお互いの経緯を話していた。

 

「でも、もう少し早く報告してほしかった…」

「ごめん。二人、特に五月ならもう連絡してると思ってたから…それで、五月の着替えとか用意してほしいのだけど…さすがに僕はやってはいけないと思うし」

「……分かった」

 

渋々といった感じで用意のため五月の部屋に三玖は向かった。

 

「はぁ~…それで、一花は仕事だとして四葉はどこ行ったの?」

「知らん!あの馬鹿は何をしているんだ。もう少し危機感を持ってもらいたいものだ」

「な~んか嫌な予感がするんだよね~」

「やめろ!お前の嫌な予感は大抵当たるんだからな」

 

そんな話をしながら、風太郎が持っていた勉強道具を借りて二人で勉強をしていた。というか、三玖の準備えらい時間かかってるなぁ。

そんな時だ。

 

「おまたせ...」

「三玖、えらく時間かかっ...ん-、そんなに荷物いらないと思うけど」

「ああ、多すぎだな。何人分だ!」

「二人分だから仕方がない...」

「ふたっ...!」

「何だ、二乃のやつの荷物もあるのか?」

「いや違うと思うよ風太郎...」

「ん?」

「三玖、君もうちに来るつもり?」

「うん...」

「なっ!?」

「はぁ~...三玖、悪いけどそれはできない」

「む~...」

 

僕の言葉に三玖は頬を膨らませて抗議の目をこちらに向けている。

 

「二乃と五月は何としてもここに帰らせる。それまで待っててくれないかな」

「む~~...」

「ほ、ほら。この埋め合わせは何とかするから」

「......何でもいいの?」

「えっと...僕にできる範囲であれば」

「分かった...じゃあ、今度買い物に付き合って」

「へ?買い物?」

「うん。試験が終わったら、ショッピングモールへの買い物に付き合って。二人でお出かけ」

「えっと...そんな事でいいのなら」

「うん...!約束っ!」

 

そう言って三玖は自分の荷物を持って、自分の部屋に戻っていった。

 

「はぁ~...で、風太郎今日はどうする?二人で三玖に教える?」

「うむ...それも悪くないんだが、お前は帰らなくていいのか?その...あの二人をそのままにして」

「ん~、大丈夫でしょ。あの二人は多分時間が解決してくれるさ。お互いに自分が悪いと思ってるし、後は自分の気持ちとの葛藤の戦いってところだよ。それに...」

「?それに、何だ?」

 

それに、零奈が傍にいれば大丈夫なような気がするんだよな。

何故自分がそんな考えになったのかは分からないのだが、そこは自信を持てる。

 

「しっかり者の零奈が家にいるからね」

「なるほどな。零奈がいれば何とでもなりそうだ」

「でしょ」

 

風太郎が納得してくれたので、とりあえず三玖への勉強を見ることになった。

部屋から戻ってきた三玖はこの世の終わりのような顔をしていた。まぁ仕方がないか。

勉強も終えた頃になり、中野家の夕食を作ることになったのだが、三玖から手伝いを買って出てきたので、手伝ってもらいながらいくつかレクチャーをしてあげた。

最近は二乃と一緒に料理をするようになったそうだ。その影響か、一番最初に三玖の料理を見ることになった、あの料理対決の時に比べたら良くなってきているようだ。まぁ、まだまだ目を離せないのだが...

夕食が出来上がる頃には一花と四葉が帰ってきたので、ある程度現状の説明をしておいた。

 

「それじゃあ、僕と風太郎は帰るね。夕飯は温めるだけで大丈夫だから」

「ありがとねカズヨシ君。二人の事よろしくね」

「ああ。任せといて」

「一花と四葉はしっかりと問題集をやっとけよ!」

「わっかりました!」

 

そして風太郎と僕はそれぞれの家に帰るのであった。

 

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家に帰った後は特に大きな事が起きる事もなく、二乃の作ってくれた夕食を食べた後少しだけ勉強をして、今はそれぞれの時間を過ごしている。

というのも、二乃が今お風呂に入っているのでそれを待たなければいけないのだ。人が増えるとお風呂事情が大変だな。

リビングで自分の勉強をしている時に五月から声をかけられた。

 

「あの、少しだけ庭に出ませんか?今日は晴れていて月が良く見れそうです」

「丁度キリもいいし、気分転換にいいかもね」

 

そして二人で庭に出ると確かに夜空には月が綺麗に浮かんでいた。

 

「ん---、良い月夜だね。ちょっと肌寒いけど」

「ええ、風情があります」

「それで、何か話したいことでもあった?」

「直江君は察しがいい時と悪い時があるので困りものですね...」

 

五月は月を眺めながらそう答えた。

 

「少し昔話をしても良いでしょうか?」

「ああ...」

「...今の父と母が再婚するまで、数年前までは私達姉妹は上杉君の家に負けず劣らずの生活を送っていました。当然ですね。女手一つで五人の子供を育てなければいけなかったのですから。その頃の私達は正に五つ子、見た目も性格もほとんど同じだったんです」

「そういえば、前に見せてもらったアルバムにあった写真、どれが誰だか分かんなかったわ」

「ふふっ、あの頃の私達を見分けられたのは、母と祖父くらいだったでしょうか。ですが、私達を育ててくれた母も無理が祟ったのでしょう。体調を崩してしまい入院。そして...」

 

亡くなってしまったか。姉妹達を残して逝ってしまう時、母親は残してしまう娘達に申し訳なく思っただろう。それに、苦楽を共に過ごしてきた母親を亡くした時の五月達の気持ち、今の僕には想像もできない。

そんな時、後ろから気配がしたので振り向いたが誰もいなかった。

 

「直江君?」

「悪い、続けてくれ...」

「はい。そこで私は母の代わりとなり、みんなを導くと決めたのです。決めたはずなのですが、うまくいかないものですね...」

 

なるほど、二乃の頬を叩いた行為は母親を真似ての行為だっのか。

 

「もしかしてその話し方も...」

「そうです。母はいつもこういった話し方でしてたので」

「なるほどね...」

 

大した徹底振りだよ。ということは、今までたまに垣間見えていた五月の甘えてくる行動。あれが本当の五月ってことかもしれない。

 

「五月がみんなを導く母親の代わりをするのなら、僕が君の甘えられる場所になるよ」

「え...?」

「僕はお兄ちゃんだからね。もう一人くらい妹が増えても問題ないさ」

「む~...妹扱いはやめてください!」

「はははは、まあ妹は冗談としても、甘えたい時には甘えてくればいい。母親だって息抜きは必要だよ」

「っ...!そうですか、ではお言葉に甘えさせてもらいますね!覚悟しててよね、後で勘弁はなしなんだから!」

「もちろん!」

 

僕の答えに満足した五月はまた夜空を見上げていた。

 

「本当に、今日は月が綺麗ですね」

「......」

 

多分、分かって言っていないとは思うんだけど、その言葉の意味が分かる人間としては答えに困るものだ。

 

「五月、やっぱりもう少し勉強頑張ろうね...」

「え!?いきなり何ですか!」

 

冷えてきたこともあり、その後はすぐに家の中に戻ることにした。

しかし、先ほどの気配は誰だったのだろうか。二乃か零奈だと思うんだけど。

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!
今回のお話で、あの「月が綺麗ですね」の場面を書く事ができました。
原作での五月と風太郎のやり取りは結構好きなシーンですね。ちなみに、ゲームの『ごとなつ』にも同じ様なやり取りがあるのですが、そちらも結構好きです。

敬語なしバージョンの五月はちょっと早かったかもしれませんが、甘えたがりの五月(僕の願望です)の事を、甘えてもいいと言ってくれた直江兄妹がいたからこそ出してもいいかなという思いで出しました。
これからも基本的に敬語で書いていくと思いますが、和義の前では敬語じゃない場面も書こうかと思ってます。ご容赦を。

では、またの投稿の場で。
今後もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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