五等分の奇跡   作:吉月和玖

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54.大晦日

12月30日。この日は朝から庭で作業をしていた。

 

「ふわぁ~っ…」

「あ、おはよう一花!」

「おはよう…四葉は庭で何してるの?」

「直江さんのお手伝いだよ!私、実際にするの初めてだから楽しみなんだ!」

「?」

「一花、ちょっと通るから退いてくれる?」

「おっと…」

 

お湯の入った鍋を持って庭に降り、外に用意しておいた臼の中に流し入れた。

 

「本当は外でお湯を沸かされてたら良いんだけどねぇ…う~ん、カセットコンロ持って来るかな」

「結構な苦労があるんですね…」

 

四葉と二人で臼から立ち上る湯気を眺めながら話していた。すると後ろから一花に話しかけられた。

 

「えーっと、今から何を始めるのかな?」

「何って。これを見て分かるでしょ!」

 

湯気が上がっている臼を指差しながら伝えた。

 

「餅つきだよ!」

 

餅つきはとにかく準備が大変で、実は昨日のうちから臼と杵を水に浸けておいたのだ。

もちろん、もち米も一晩水に浸けておいた。

もち米を蒸す工程は二乃に教えてあるので、僕達は実際に餅つきを行う道具の準備をしている。

 

「お湯を何回か変えて臼を温めないとなんだよねぇ。これを怠ると餅が臼にくっついちゃうんだよ」

「なるほど、ひと手間ってやつですね」

 

そんなこんなで色々と準備が出来たので餅つきを始めることとなった。

 

「四葉、ちゃんと見ててね。最初はこうやって臼の周りを回りながらもち米を均一に潰していくんだ。よっ…ほっ…っと」

「おー」

「はい、四葉もやってみな」

「分かりました!うんしょっ…っと。こんな感じですか?」

「うん、良い感じだよ。じゃあ、実際についていこうか。先に僕が合いの手をやるから後で交代しよっか」

「お願いします!」

「餅つき始めるのですね」

「生で見るの初めてだから興味あるわ」

「うん…見てみたいかも…」

 

次のもち米を蒸すのと、つきたてを食べるための調味料作成をお願いしていた、零奈と二乃と三玖もこちらに顔を出した。

 

「一花と五月にも合いの手してもらうから見ててね」

「怖くない?」

「大丈夫だよ。二人の合いの手の時は僕がつくから」

「分かりました!」

「よし!じゃあ四葉始めようか。ゆっくりでいいからね」

「分かりました!では、よいしょっ!……」

 

しばらくついていると餅もなめらかになってきたので、一回目はそろそろ終わることにした。

 

「はい、お疲れ!杵はそこのお湯の中に入れて」

「はい……はぁ~、疲れましたぁ~」

 

杵を置いて休んでいる四葉、僕はテラスに用意していた場所につきたての餅を持っていった。

 

「ほら、つきたての餅だよ!」

「美味しそうですぅ~」

「はいはい。今から分けていくから。二乃と三玖には次の餅を対応してもらうから見てて」

「分かったわ」「うん…」

「つきたては熱いから気をつけてやっていってね……」

 

そう言いながら同じ大きさで分けていった。

 

「慣れてるだけあって見事な手さばきね」

「うん、綺麗に分けられてる」

「ほい、どうぞ召し上がれ。好きな調味料使ってね。四葉もこっち来て食べなよ」

「はーい!」

「では、いただきます!………う~ん、美味しーですー」

「本当だね!やっぱりつきたてだと全然違うんだ」

「うん、美味しい…」

「四葉はどう?自分でついた餅だから格別でしょ!」

「はい!」

「それにしても色々用意したんだね、調味料」

「まぁね、何が良いか分かんなくて昨日調べておいたの」

「流石だよ、二乃」

「べ、別にこれくらい普通よ…」

 

照れながらも美味しそうに食べる二乃。うん、皆に好評みたいで良かった。

 

「零奈も食べてる?」

 

零奈の横に座りながら聞いてみた。

 

「はい、今年の餅も美味しいです。毎年されてましたが、今年は父さんもいないのでされないと思ってました」

「僕も最初はしない予定だったんだけど、四葉に話したら『やってみたいです』って言われてね」

「………最近、四葉さんに甘くないですか?」

「え、そんなことないと思うけど?」

「まあ、いつもの事と諦めてますが」

「何か釈然としないなぁ」

 

思い思いに餅を美味しそうに食べている五つ子を見ながら二人で話していた。

 

母さんに送ってあげるか。そんな思いで携帯を取り出した。

 

パシャ

 

仲良く笑っている五つ子と零奈。そんな風景を写真に収めておいたのだった。

 

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12月31日、大晦日。

 

直江家では今日も朝からバタバタしていた。大掃除はある程度終わらせていたので、後は今日の年越しそばと正月の準備だ。

ちなみに中野姉妹の皆は年越しも家に帰らないそうだ。なんと言うか、変な所では徹底している。

 

「それじゃあ、二乃には明日のおせち作りをお願いしようかな」

「分かったわ」

「三玖は二乃のサポートね」

「っ!うん、分かった…!」

「五月は零奈と一緒にいつもの洗濯とそれが終わったら、大掃除の残りをお願い。ほとんど終わってるから大して残ってないけどね」

「「分かりました」」

「一花と四葉には悪いけど買い出しをお願いしたいかな。後でメモを渡すよ」

「OK」「了解しました!」

「あんたはどうすんの?」

「僕は年越しそば作ろうと思ってる。出汁と、後麺も作るつもりだよ」

「麺もですか!?」

「そうだよ。買い出しが終わったら、麺を練る作業を四葉にも手伝ってもらうからね」

「おー、楽しみです!」

「じゃあ皆頑張っていこう!」

「「「「「「おー!!」」」」」」

 

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~二乃・三玖side~

 

「二乃。言われた通りに野菜切っといたよ」

「あら、ちゃんと切れてるじゃない。腕上げたわね」

「ここに来てから、カズヨシやレイナちゃんに教わったから…」

 

二乃に誉められて、三玖は嬉しくて笑顔になった。

そんな時、リビングのテーブルの上でカセットコンロを使って料理をしている和義の姿が目に入った。

 

「真剣な顔してる…」

「あぁ、出汁を作ってるからでしょ。大事な工程だからね」

 

思った通りの味だったのか、味見をした後和義はうんと頷いて次の工程に進めていた。

 

「私、いつかカズヨシに心から美味しいって言ってもらえる料理を作る…そして、二乃みたいに料理を任されるくらいになりたい…」

「あら、それはまた険しい道のりを選んだものね」

 

料理の手を止めることなく、三玖の決意に二乃は答えた。

 

「ま、和義はあんたの事期待してるみたいだから、めげずに頑張ることね。ほら、次の指示出すからちゃんと付いてきなさい!」

「うん…!」

 

二乃と三玖のおせち作りは順調に進んでいた。

 

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~五月・零奈side~

 

「兄さんの洗濯をするのは慣れてきましたか?」

 

洗濯物を洗濯機に入れている五月に零奈は問いかけた。

 

「いえ、今でも緊張します…男の人のし、下着なんて今まで触ったこともありませんでしたから…」

「?しかし、お父さんのを洗濯してるのではないのですか?」

「父が家に帰ってくることはほとんどありませんので。仕事が忙しいのか、仕事場近くで寝泊まりするのが多いそうです」

「そうなのですね…」

 

五月は洗濯機のスイッチを押したところで零奈を見ると、何やら考え込んでいるようだ。

 

「どうされたのですか?」

「いえ、ちょっと考えたい事がありまして…では、洗濯機が回っている間に他の仕事に取りかかりましょうか」

「はい!………あの、レイナちゃんは和義君の事を兄として好きなのですか?それとも…」

 

五月は小学一年生に対する質問とは思えない事を零奈に聞いた。しかし、五月は零奈であれば理解し、答えてくれると確信していた。その確信がどこから来ているのかは本人にも分かっていないのだが。

 

「ふふっ、五月さんにとっては兄として好き、と答えてくれた方が嬉しかったですか?」

「っ…!」

「少ないとは言えまだやることもあります。掃除をしながらでも良いですか?」

 

零奈の提案に五月は頷いた。

残っていた大掃除する場所まで来て、二人は掃除を始めた。

そこで零奈の口が開かれた。

 

「質問に質問で返すことになり申し訳ないのですが、五月さんは兄さんの事好きですか?」

「はい!」

「五月さんの気持ちはある程度予想はしていましたが、まさか素直に返事をされるとは思いませんでした」

「レイナちゃんには隠さず自分の気持ちを伝えた方が良いと思いまして。しかし、この気持ちが一人の男性として好きなのか、姉妹達に対して想っている好きなのか、今でも分かっていません。その事は和義君に伝えています」

 

その言葉に零奈は驚き、掃除の手を止めてしまった。

 

「驚きです。兄さんに気持ちまで伝えているなんて。兄さんは何と?」

「私の考えが纏まったらまた想いを伝えると言うと、その時は真剣に受け止め自分の気持ちを伝える、と」

「そうですか…」

(あの人の事です。平静で保ってはいますが、きっと今でも色々と考えているのでしょうね)

 

和義の考え方が変わってきている事が嬉しく、クスッと笑ってしまう零奈。五月はそれを不思議に思った。

 

「レイナちゃん?」

「すみません。兄さんが中野さん達の事を真剣に考えていると分かり嬉しくなりまして」

「えっ…!」

 

その言葉にほんのり頬を赤くした五月。それを見た零奈は笑みを作って答えた。

 

「私の気持ちについてはいずれ話すことがあるでしょう。それまでは内緒と言うとことで」

 

口の前で人差し指を立てそう答える零奈に対して、これ以上は聞けないと悟った五月は掃除に集中することにした。

 

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~一花・四葉side~

 

一花の前を歩く四葉は軽やかに歩いている。この間の和義とのお出かけから表情も今まで以上に明るくなったように一花は思っていた。

 

「最近の四葉は調子良いねぇ。冬休みの課題もスムーズに出来てるし」

「ししし、直江さんに相談してから何か良い感じなんだよね!何て言うのかな、頭にモヤモヤってあったのが、スーッと消えたみたいな!」

 

クルクルと回りながら調子が良いことを表現している四葉。そんな姿を見て一花の口角は上がっている。

 

「ふむ…お姉ちゃんは悲しいよ。私達姉妹じゃなくてカズヨシ君に相談して解決したなんて」

 

泣き真似をしながら四葉に訴いかける一花である。

 

「もー!その事なら何度も謝ったじゃん!」

「でも相談した内容は教えてくれないんだよね?」

「それは…ごめん!」

 

頭を少し下げ、その頭の前で手を合わせる形で四葉は答えた。

一花は特段内容を知りたい訳ではなかったので、すぐに引くのであった。

そしてしばらく二人で歩いた時だ。

 

「ねぇ一花?」

「んー?どうした?」

「今、楽しいって思えてる?」

「えらく抽象的だね」

「うん。今の学校に転校してきて、上杉さんや直江さん達の家庭教師が始まって、それから林間学校や二乃と五月の家出騒動、私の部活問題とか色んな事があったよね」

「まだ転校してきて三ヶ月なんだけどねぇ。今では五人で家出してるし」

「だよね……それらを楽しかったって思えてる?」

「もしかして、まだ転校の事気にしてるの?」

「うっ…」

「まったく…前にも言ったじゃん、皆気にしてないよって」

「うん、そうだったね…」

(あれ?)

 

この話をした時は、いつもは下を向いて申し訳ない顔をしていた四葉。でも、今はニッコリ笑って上を向いている。

 

(そっか…カズヨシ君に相談したのってこれかぁ。きっと彼に相談したことで前を向くことが出来たんだね)

悔しいなぁ

「ん?何か言った?」

「何でもないよー」

(確かに悔しさもあるけど、四葉の心を解してくれてありがとねカズヨシ君!)

 

前を歩く四葉を見ながら一花は和義に対して心の中でお礼を言った。そんな時、四葉が振り返り満面の笑顔で一花に宣言してきた。

 

「一花!私負けないよ!」

「へ?何の事?」

「ししし、秘密だよ~」

「え~…教えてよー。四葉ぁー」

 

こうして二人は仲良く買い物を終わらせた。

 

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五月と零奈の掃除と洗濯が終わった頃、買い出しを頼んでいた一花と四葉も帰ってきた。

僕達調理係もキリが良かったので昼食を食べることにした。

そして昼食後。

 

ピンポーン

 

しばらくゆっくりしていると来客のチャイムが鳴った。

 

「ん?誰だろ?風太郎達も自分の家の大掃除があるって言ってたしなぁ」

 

玄関に向かうとどうやら配達のようだ。大晦日まで良く働いている。

配達員から荷物を受け取ろうと思ったのだが、差出人から客間に運ぶよう依頼があったそうだ。しかも箱が六個…

仕方がないので、五つ子に許可をもらって客間に運んでもらった。

配達員の人にサインを促されたので差出人もその時に確認した。

 

「えっと、差出人は…げっ!?」

「どうかされましたか?」

「すみません。大丈夫です……はい、これで良いですか?」

「はい!あ、後お手紙を直江和義様にと預かっております。では、失礼します!」

 

配達員を見送った後、今日は特別と言うことで客間に向かった。

そこには五つ子と零奈が待っていた。

 

「大体の予想は出来ていますが、誰からですか?」

「母さん…」

 

そう言いながら伝票を見せた。

 

「でしょうね。まったく何を考えているのやら…」

「ちなみに手紙も渡された。僕宛に…」

「と、とりあえず手紙の中身から見てみようかカズヨシ君」

 

一花にそう促されたので中身を見てみる。すると中にはこう書かれていた。

 

『箱の中身、和義は見ちゃ駄目だよ。中野さん達と零奈ちゃんへの贈り物なんだから』

 

「マジで嫌な予感しかしないんだが…」

「仕方ありませんね。私への贈り物でもあるみたいですし、兄さんはリビングにでも行っててください」

「分かった」

 

そう言って僕は一人リビングに向かった。

 

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~客間~

 

和義がリビングに向かった後、中野姉妹と零奈で六個の箱を見ていた。

 

「なんだろう?カズヨシ君に見せられない私達への贈り物…」

「綾さんには悪いけど、和義が言った通り嫌な予感しかしないわ」

「最近、カズヨシとレイナちゃんの苦労が垣間見えてる…」

「ありがとうございます」

「まあまあ、とにかく開けてみようよ!」

「そうですね。しかし、六個と言うことは私達一人一つずつだと思われます。どれが誰のなのでしょうか?」

「う~ん…箱の色が違うじゃない。もしかして、このブレスレットの色に当てはめるのかなぁ」

 

一花が和義からプレゼントされて、姉妹皆がいつも付けているブレスレットを指して自分の推理を言ってみた。

 

「確かにそうかもしれません。私のブレスレットの色のピンクもありますから」

「じゃあ、それぞれのブレスレットの色の箱を開けましょうか」

 

二乃の合図で皆がそれぞれの箱を開けた。そこには。

 

「え、振袖…?」

 

五月の零れた言葉の通り、全ての箱に振袖が入っていた。

 

「何だ、これくらいだったら別にカズヨシ君に見せても良いと思うんだけど」

「ホントよ。でも凄いわね、六着も用意してくれるなんて」

「うん。しかもレンタルじゃなく購入してると思う…」

「はわぁ~…良いのでしょうか!?」

「確かに。ここに住ませていただけているだけでも十分だと思うのですが」

「別に気にしなくて良いのではないのでしょうか。母さんは基本的に必要だと思った物にしかお金は使いません。それだけ皆さんの事を気に入っているのですよ」

 

零奈の言葉に姉妹皆が嬉しく思い、それぞれの振袖を出してみた。

 

「おや、手紙が入ってるねぇ」

「私にもあるわ。もしかして全員に書いてくれたのかしら」

 

こんな形で振袖と手紙が一緒に送られてくるのが嬉しく思った姉妹はそれぞれの手紙を読んでみた。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

だがやはり綾。姉妹全員には同じ言葉が書かれていたが、姉妹の想像し得なかった言葉がそこに書かれていた。

 

『みんな この振袖を着て迫っちゃえばもうイチコロよ!朗報待ってるわ! お義母さんより』

 

「これは確かにカズヨシ君がここにいたらまずかったね…」

「どんだけ私達を嫁に欲しいのよ!」

「……迫る……」

「だから三玖は戻ってきなさいって」

「ま、まあ綾さんらしいよね。うん、直江さんがいなくて良かったよ」

「ど、どうすれば良いのでしょうか。とりあえず、お義母さんと呼んだ方が…」

「うん、五月ちゃん。とりあえず落ち着こうか」

 

中野姉妹に綾からの手紙があったように、零奈にも手紙が入っていた。

 

『零奈ちゃん 貴方は貴方の思うようにしなさい。私は応援してるから』

 

(まったく…昔からこういうところがあるから嫌いになれないのですよ、綾先生)

 

手紙に翻弄されている中野姉妹をよそに、零奈は静かに綾から送られた振袖に手を添えるのであった。

 

 




次週よりお正月に入ります。
そして、いよいよ2年生最後の試験も始まることになります。

さて、ここまで結構オリジナルを出して来たので試験結果なども変えていこうと思っております。
それに試験前にも大きなイベントが待っていますし。

年末に向けて、私生活が忙しくなってくると思うので、その時は投稿が遅れることも予想されます。
予め、お詫び申し上げます。

では、今後ともよろしくお願いいたします。
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