冬休みも終わり三学期がスタートした。
と言っても初日は昼までなので、楽と言えば楽である。
また弁当地獄が始まるのだろうか…
いや、きっと二乃や三玖が手伝ってくれるだろう。
そんな淡い期待を持ちながら帰宅した。
「ただいま~」
「おかえりなさい兄さん」
先に帰宅していた零奈に出迎えられた。
「もう皆帰ってる?」
「ええ、先ほど帰ってこられたので、今は着替えているのではないでしょうか」
「了解。今日は家庭教師をするからリビング使うね」
「分かりました。私も一緒にいてもいいですか?」
「全然構わないよ。じゃあ僕も着替えてくるよ」
そう言い残し自分の部屋に向かった。
着替えが終わり、リビングに向かうと既に風太郎が来てスタンバイが出来ていた。
「早いね、風太郎」
「まあな。今は少しの時間も惜しいからな。よし!和義も来たから始めるぞ」
「やりましょう…」
「ん?」
「ぜひやってください!そして確かめてください。赤点回避に何が必要なのかを!」
「お、おう…乗り気なのは助かる…」
五月の勢いにたじろいでいる風太郎。
ここまで五月がやる気になっているのには訳がある。
それはある出来事があったからだ。
その出来事があったのは、遡ること一花が風太郎のバイト先で撮影をした日まで戻る。
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~五月side~
夕方。五月はある人物に呼び出されていた。
「ご無沙汰だね、五月君。今日は君たちに通告に来たよ」
「お父さん…」
五月達の父親、中野マルオである。
五月とマルオはコーヒーショップに入り、お互い向かい合って席に座っていた。
「何か食べるかい?」
「いえ、帰ったら二乃と和義君の夕飯が待っていますので。飲み物だけいただきます」
ここでマルオは二つの事で驚いた。
一つは勿論五月が食べ物の注文を断ったこと。
そしてもう一つが。
「驚いたね。君が姉妹以外の、ましてや同じ年の男子生徒の事を名前で呼ぶなんてね。私の記憶が正しければ、名前呼びをしたところを聞いたことがないよ」
「ですね。彼が…和義君が初めて異性を名前で呼んだ人です」
ニッコリと笑いながら、五月はマルオをまっすぐ見て話した。
「それでお父さん。私を呼んだ理由は何ですか?」
「父親が娘と食事をするのに理由が必要かい?」
「……」
先ほど頼んだフラペチーノが来たので、五月はそれを飲みながら黙ってマルオの話を聞いていた。
「ところで…今回君たちがしでかしたことには目をつぶろうと思っている。しかしもう十分だろう。すぐさま全員で帰りなさい、と姉妹全員に伝えておいてください」
「……それは彼らも含まれるのでしょうか?」
「上杉君と直江君の事かい?これは僕たち家族の問題だ。上杉君と直江君はあくまでも外部の人間であることを忘れないように。それにはっきり言って…僕は上杉君が嫌いだ」
(大人げない!)
個人的に、嫌いだから家庭教師として雇わない。そんな話も確かにあるかもしれないが、高校生相手には大人げないかもしれない。
ちなみに、二人が話しているのをたまたま見かけた、買い物帰りの風太郎と二乃と四葉が先ほどからこっそり話を聞いている。それを、五月とマルオはまだ気づいていない。
「あんた…パパに何したのよ」
「さ、さぁ…心当たりがありませんな…」
小声で二乃と風太郎が話している。
「それに直江君もだ。最初は利口な男だと思っていたんだがね。上杉君の事となると話が通じない。まったく困ったものだ」
この言葉を聞いた瞬間、二乃が立ち上がり二人のところに向かおうとしたが、それを四葉が制した。
「落ち着いて二乃。感情任せに行っても意味ないよ」
「退きなさい四葉。私は至って冷静よ!」
「どこがだよ。一旦落ち着け」
風太郎も四葉に加勢する。
そんな三人の行動に二人が気づかないのには理由があった。
「彼の……」
「?」
「彼の何が分かるのですか!」
「!?」
まっすぐマルオを見て五月がそう答えたからだ。
マルオもこの時は多少の驚きがあった。何しろ彼の目の前の少女の顔は、今まで見たことがない程真剣な顔をしていたからだ。
「……そこまで言うのであれば、上杉君と直江君の立ち入り禁止を解除し家庭教師を続けてもらう」
「え?」
「ただし、僕の友人のプロ家庭教師との三人体制。上杉君と直江君は彼女のサポートに回ってもらう」
「それは…」
「君たちにとってもメリットしかない話だ。二対五でもカバーできていない部分もあっただろう」
「しかし、皆この状況で頑張って…」
「四葉君は赤点回避できると思うかい?」
「え?」
「二学期の期末試験の結果を見せてもらったがどうだろう?僕にはとてもできるとは思えないね」
この言葉に、今度は風太郎が動こうとした。しかし、今度はそれを二乃が止めた。二乃も落ち着いてきたようだ。
「ダメよ。あんたが行っても状況が悪くなるだけだわ」
「しかし…」
「それに、パパの言ってることも間違いじゃない」
正しい事を言っていることは分かってはいる。しかし、それしか見えていないマルオに対して思うところもある二乃。
何も言い返せない自分に対しても歯痒く思っていた。
それは五月も同じである。
「そう…ですね…プロの家庭教師の方がいてくれた方が…」
「やれます」「やれますよ」
五月が話している途中、二つの方向から声がした。
一つは先ほどまで二乃と風太郎と一緒にいた四葉。もう一つは…
「か、和義君!何故ここに?」
「はぁ…はぁ…はぁ…やっ!」
五月の問いかけに息を整え、手を軽く挙げいつもの調子で挨拶した和義の姿があった。
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一花の笑顔を見た後、また風太郎からメッセージが来ていた。
何でも五月が父親と何か話していると言うのだ。
その事を一花に伝えると、
「何だろう。五月ちゃんて真面目だから、それでまずは五月ちゃん、みたいな形で呼び出したのかも。多分帰ってこい的な話だと思うよ」
「まあ、普通の親ならそう言うわな。てか、それでも遅いだろうけど。場所も知ってるんでしょ?」
「そういう人なんだよ」
少し悲しそうな顔で答える一花。
「行ってあげて」
「え?」
「何か嫌な予感がするんだ。だからカズヨシ君の助けがもしかしたら必要かもしれないよ」
「いや、結局のところ家庭内の話でしょ?さすがに僕が介入するのはまずいんじゃない?」
「なーに言ってるの。私達はもう家族みたいなものでしょ?頼りにしてるよ」
そう言って僕の胸をポンと一花が叩いた。
「はぁ~、どうなっても知らないよ?」
「カズヨシ君なら大丈夫だよ」
「その自信はどこから来るんだか……行ってくる!」
「うん、いってらっしゃい!三玖とレイナちゃんには私から言っとくよ」
一花の後押しもあり、僕は五月の所に向かう事にした。
そして現在。
何やら、今のままでは四葉が赤点回避できるとは思えない、と言われて五月がどう答えればいいか分からない、といった雰囲気だったので『やれますよ』と答えた。
目の前では四葉も同様に答えてたけどね。流石四葉。
てか、五月の正面に座っている男の人がめっちゃ睨んでるんだけど、この人が中野さんだろうか。
「人の話に割って入って来るとは関心しないね」
「すみません、五月さんの困った顔を見たら居ても立っても居られなかったので。中野さんですよね?こうやって、面と向かってお話しするのは初めてですね」
「そうだが…これは私達家庭内の問題だ。外部の人間には口出ししないでもらいたいのだがね」
「最初は僕もそう思いましたよ。けどまぁ、家庭内である一花さんに頼まれましたので」
「一花君に?」
「ええ…後、途中からしか話を聞けてないので何とも言えませんが、面白い事言ってますね」
「何も面白い事は言っていないが?」
「言ってたじゃないですか、四葉さんでは赤点回避ができるとは思えないって」
「正論を言ったまでだが。近くにいた君の方が分かっていると思うよ」
「いいえ。近くにいたからこそ分かります。僕と風太郎なら四葉さんの赤点回避は次こそ出来ると。四葉さんだけではありません。他の姉妹だって赤点回避出来ますよ」
「直江さん…」
「和義君…」
「言うだけなら誰にでも出来るさ」
「貴方が彼女達のお母さんに言ったようにですか?」
「!!」
「「?」」
僕が中野さんにだけ聞こえるように話すと、動揺した顔を見せた。
「君はその話をどこで?」
「中野さんも知ってるはずですよ、僕の近くにこの事を知ってる人がいることを」
「綾先生か…」
「この話を聞くと、僕は貴方の事を嫌いにはなれませんでした。とは言え、今回の話とは全然重みが違いますからね。比べようがありませんけど」
「そこまで言うのであれば、失敗した時の事を考えているのかね?」
「そうですねー、誰か一人でも赤点回避出来なかったら…僕は海外の親のところに行きますよ。学校を辞めて」
「「なっ!?」」
「貴方は自分が何を言っているのか分かっているのですか!?」
僕の言葉に四葉はもちろん、中野さんも驚いたようだ。何故か後ろの方でガタッと動揺した音が聞こえたが、そう言えば風太郎と二乃が近くにいるんだっけ。
とは言え、一番反応したのは五月である。
「分かってるさ」
「貴方は、私の気持ちを知っていて、そんな事を…」
五月は途中から泣き出し、下を向いてしまった。
そこまで想ってくれてるとはね。
「別に行くと決まった訳じゃないさ。だって、君たちは赤点回避してくれるんでしょ?」
「え?」
僕が笑いながらそう尋ねると五月は顔を上げてくれた。
「もちろんです!やってやりますよー!頑張ろう、五月!」
四葉がそう言うと涙を拭い五月も宣言した。
「ええ!やってみせます!」
二人の誓いに満足していると、中野さんが席を立った。
「どうやら子どものわがままを聞くのが親の仕事らしい。そして、子どものわがままを叱るのも親の仕事。次はないよ」
そう言って立ち去ろうとしている中野さんに対して四葉が言葉を投げかけた。
「前の学校の時とは違うから」
「だね。あの時と違って一人じゃない。それに、君の心は比べ物にならないくらい成長している」
「直江さん…」
「そうか、その話も君は……ふっ、僕も期待しているよ」
そう言葉を残して、今度こそ中野さんは立ち去った。その時の中野さんは笑っていたように思えた。
「行ったか」
「風太郎…」
「見てたのですか?」
中野さんと入れ違いで風太郎と二乃が合流した。
「想像通りの手強そうな親父さんだったな」
「そうね、あの人が言っていることは正しい。けど、あの人は正しさしか見てないんだわ」
中野さんはもう少し娘とのコミュニケーションを取った方がいいかもね。まあ、分からんでもないけど。
「それよりも!」
「ん?」
「あんた、学校辞めるって本気?」
僕に指を指しながら二乃はそう聞いてきた。
「四葉と五月にも言ったけど、辞めるって決まった訳じゃないよ。僕は君たちが赤点回避出来るって信じてるから」
「言ってくれるじゃない」
「風太郎も頑張ってね。僕は辞めるつもりないんだから」
「ふん!どうでもいいね!」
「上杉君!?」
何か言おうとしている五月を僕が制した。
「お前ら姉妹の事情も、家庭の事情も、前の学校も、和義の海外に行く条件もどうでもいいね!俺は俺のやりたいようにやる!この手でお前達を進級させる、そして全員揃って笑顔で卒業。それだけしか眼中にねぇ!」
「やっぱり頼もしいね、風太郎は」
そして風太郎から荷物を預かりそれぞれの家に帰宅するのだった。
帰った後、事の顛末を三人に話すと、三玖がさらに勉強に打ち込みだしたのはまた別の話である。
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そんなこんなで五月はやる気に満ちているのだ。
別に五月だけではない。他の姉妹だって表には出してないけど、赤点回避に向けて凄いやる気になっている。
「直江さん!ここが分からないのですが…」
「どれどれ…」
五月や三玖が一番やる気に満ちているように思っていたが、実は四葉が一番やる気に満ちている。
何でも、僕が中野さんに伝えた事が嬉しかったのでその恩返しの為だそうだ。
家庭教師が無く、風太郎が来ない日もこんな風に聞きに来ることが多い。
「四葉、凄いやる気だねぇ」
「ああ、やる気に関しては最初から一番だが、ここ最近は凄いな。成長も伺える。お前らもうかうかしていたら抜かれるんじゃないか?」
「ふん、私にも思うところがあんの。負けてられないわ」
「私だって…」
「……上杉君、次の質問良いですか?」
「おう!」
そんな感じで勉強は順調に進んでいた。
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~零奈side~
ある日、三玖は決意を胸に零奈に話しかけた。
「どうしたのですか?そんなに真剣な顔をして」
「レイナちゃんにお願いがあるの。チョコレート作り手伝ってほしくて…」
「え?チョコレートですか?ああ、バレンタインの?」
零奈の問いにコクンと三玖は頷いた。
「しかし、まだ一ヶ月以上は先ですよ?」
「私は料理がまだまだ得意ではないから、今から練習しないと駄目なの…」
「なるほど」
「後、レイナちゃんならカズヨシの好みを知っていると思って…」
「兄さんのですか……三玖さんは兄さんが好きなのですか?」
「えっ…?………うん…」
零奈の問いに対して恥ずかしそうに三玖は答えた。
「そうですか…」
(五月の次は三玖ですか。いえ、三玖はおそらく今の私と会った時から既に恋をしていたのでしょう…本当にあの人は人たらしですね。これは私も行動を起こした方が良いでしょうか…)
「レイナちゃん?」
「すみません。チョコレート作りの件は大丈夫ですよ。ちなみに、兄さんはチョコレート苦手です」
「え、そうなんだ…私と一緒…」
「まぁ、兄さんの場合は毎年貰いすぎて苦手になったんですけどね…」
「うわぁ~……なら作らない方がいいかな?」
「私も毎年あげてますから問題ないと思いますよ。ちなみにナッツ入りが兄さんの好みです。頑張りましょうね、三玖さん」
「うん…!」
こうしてバレンタインまでの間、零奈が三玖のチョコレート作りの手伝いをすることになったのだった。
投稿遅くなり申し訳ありません。
今回のお話ではマルオと和義を会わせてみました。
四葉の出番を取ってしまう形になってしまいましたが、ここでの登場はいい感じかなと思いまして。
そして、姉妹が赤点回避出来なかった時の条件をちょっと原作と変えてみました。
次回の投稿も少し遅れるかもしれません。ご了承いただければなによりです。