「兄さん。明日の日曜日なのですが、付き合ってほしい場所があるのです」
ある日、零奈からそうお願いをされた。
「零奈からなんて珍しいね。う~ん、明日は家庭教師をするって風太郎が言ってたんだよねぇ」
「お願いします。試験に向けて忙しいとは分かっているのですが、どうしても明日付き合ってほしい場所があるんです」
そう言って頭を下げてくる零奈。
「ちょっ、そこまでしなくても良いって。本当に珍しいよね、零奈がそこまでするって。まあ、最近は皆調子良いみたいだし風太郎一人に任せて大丈夫でしょ。朝早いの?」
「ありがとうございます。10時くらいに出れれば問題ありません」
「OK!じゃあ、風太郎にも連絡しとくよ。そうだな、明日は図書館でお願いって言っとくか」
と言うわけで風太郎にはすぐに連絡して、『分かった』と連絡が返ってきた。
その後、ちょうどリビングにいた一花にも説明して姉妹からも了承を得ることが出来た。
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そして次の日。久しぶりに兄妹水入らずで出かけることになった。
行き先は教えてもらえず、零奈からは『すみません』と謝られるだけだった。
途中、花屋に寄り花を買ったので更に謎が増えてしまった。
「なぁ、零奈?この花必要なの?」
「ええ…」
「ふ~ん」
「もう着きますよ」
「え、ここって…」
零奈の案内で着いた場所は墓地であった。
「え?ちょっと零奈?本当にここ?」
「ええ。私も初めて来たのですが、場所は母さんに聞いたので間違いありません」
そう言いながらキョロキョロとお墓を探している。
「母さんに聞いたって。じゃあ母さんは来たことあるって事?」
先を歩く零奈に確認をした。
「父さんと母さん。二人は毎年来ています」
知らなかった。二人で出かけることが多いけど、お墓参りまでしてたなんて。
「てことは、今日は父さん達の代わりで?」
「それもありますが…父さん達は命日には必ず、時間が合えば月命日にも行かれているみたいです。ちなみに、今日は月命日です」
「え、そんなに細やかに?二人にとって付き合いが長い人ってことか…そんな人のお墓参りを僕達がしても良いのかな?」
「問題ありません。会ったことはないと思いますが、間接的に関わりのある人なので…」
母さんは普段ふざけている、と言うかノリで生活をしている傾向がある。けれど、人との繋がりを相当大事にしている。
自分が教えた生徒の中には、勇也さんみたいに連絡を未だにしている人が多くいるくらいだ。
この間の帰国時も色々な同窓会に顔を出していた。
そんな母さんを僕は誇りに思っている。まあ調子に乗るから、面と向かっては言わないけどね。
「ありました…」
そう言って一つのお墓の前で零奈が立ち止まる。
間接的に関わってるってことは、名字を見れば分かるのだろうか。
そんな思いでお墓を見ると目を見開く程驚いた。
「え?中野家って……」
「ええ、中野さん達のお母さんのお墓です。そして……」
そこで一陣の風が吹いた。
「私のお墓でもあります」
「………………は?」
零奈が何を言っているのかが分からず、僕はその場で固まってしまった。
そんな僕を無視するかのように、買ってきた花を添えて零奈はお墓の前でしゃがみこみ手を合わせ、目を瞑っていた。
「どうやらここに来ても消えないみたいですね。少し安心しました…」
目を開け一人呟いている零奈。
しかし、僕には状況が付いていけなかった。
「兄さん。説明しますから、その前に手を合わせてくれませんか?」
「……分かった」
零奈に言われるがまま、お墓の前でしゃがみこみ手を合わせて目を瞑った。
そんな僕の横に立ち、零奈はポツリと話し出した。
「今からお話しすることは、現実的ではなく信じられないかもしれません。しかし、どうか最後まで聞いてください」
僕は沈黙で肯定と返事をした。
「私には二つの記憶があるのです。一つはもちろん
「え?」
とんでもないことを口にした零奈。目を開け零奈を見ると、真剣な表情でお墓を見ている姿があった。
それだけでふざけた事を言っていない事がわかる。と言うよりも、零奈はこんな所でふざけるような子じゃないことくらい分かっていた。
「……五月から聞いた話だと、皆が小学校6年生の時にお母さんは亡くなったって…いつから、
僕は立ち上がり、零奈同様お墓をまっすぐ見ながら聞いてみた。
「……2才の誕生日からです」
マジか。
待てよ。たしか零奈の誕生日って8月14日。
そして今日が月命日ってことは。
「命日ってもしかして…」
「ええ、兄さん…いえ、和義さんの想像通り、8月14日です」
と言うことは、意識がなくなったと同時に零奈の記憶に交ざったってことになるよな。
「混乱しなかったの?」
「ふふ…最初は混乱しましたよ。死んだと思ったら目を開けれるんですもの。そして、周りを見ると直江先生と綾先生がいらっしゃる、とても頭が追い付きませんでした。って、私の話を信じてくれるのですか?」
「まあ、若干信じられないって気持ちもあるけどね。でも、その言葉使いと言い、大人顔負けの知識力と言い、条件が揃ってるし。それに……」
「それに?」
「中野姉妹に会ってからでしょ。何か雰囲気が変わったのって。そりゃあ、自分の娘の前では変わるよね」
と言うことは、中野姉妹に最初に会った花火大会の日。あの時泣いていたのは、成長した自分の娘達に会えたからか。
そりゃあ、泣くわな。
「綾先生と言い、本当に観察力が素晴らしいですね」
「いや、母さんには負けるよ」
「そうですね。もう少し、女性の気持ちに機敏になった方が良いかもですね」
「む~…」
その時。
コツコツ
誰かがこちらに来ているようだ。足音の方に目をやると、見知った顔があった。
「え、和義君にレイナちゃん?なぜここに?」
五月である。どうやら真面目な五月は律儀に月命日のお参りに来ているようだ。
「あー…母さんに頼まれたんだよ。娘さんをお預かりします、と挨拶しときなさいってね」
「それならそうと言っていただければ、皆も来たと思いますよ」
そう言いながら自分で用意した花をお墓に添えている。
「悪い。まさか月命日に来るとは思わなくってね」
「そうですね…」
そして、五月はしゃがみこみ手を合わせて目を瞑った。
「私はいつもここに来てはお母さんに問いかけているのです。私はお母さんのようになれるのでしょうか、と…」
「……」
立ち上がりながら五月は話すが、零奈は黙って聞いていた。
「お、今日は千客万来だね。珍しいもんだ」
さらにお参りに来た人がいた。
誰だろう。結構若いように見えるけど。
「えっと…初めまして…」
五月がお参りに来た女性に挨拶をしたのだが、その女性は五月を見るなりこう答えた。
「うげっ…先生…?」
「相変わらず失礼な人です」
そんな反応をする女性に対して、零奈は僕にしか聞こえない声でそう反応した。
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「わっはっは、悪ぃ悪ぃ。お嬢ちゃんがあまりに先生にクリソツだったから間違えちまった。よく考えたらとっくの昔に先生は死んでたわ。おっと、娘さんの前で言うことじゃねぇな。許してくれ。昔から口が悪くて、先生に叱られたもんだ」
先ほど会った女性とREVIVALに来ている。僕と五月、その間に零奈が座って、その向かいに先ほどの女性、下田さんが座っている。
零奈に目線で『そうなの?』と送ると、コクンと頷いた。
まあ、生徒にも色々といるよね。
「しっかし、
「好きなだけ…」
「五月」
「はっ…!大丈夫です、ちゃんと弁えてます」
好きなだけという言葉に五月は目を輝かせていたので一応声をかけといた。
「何だ?遠慮すんな。ここのケーキ屋はうめぇぞ、店長はちょっと感じ悪いけどな!」
「味が良いのは知ってますよ。先日、ヘルプで働いたので」
「へぇ~、そうなのか」
僕が心配してるのは貴方のお財布の中身です、なんて言えるわけがないな。
それぞれが注文したところで五月が切り出した。
「あの…下田さんはお母さんの…」
「元教え子だな!お母ちゃんには何度ゲンコツを貰ったか覚えてないね!ちなみに、綾先生についても元教え子だな!あの人は今と全然変わらないねぇ。つーか、見た目も全然変わってねぇから逆にこえーけどな」
同意する意味で僕達兄妹は頷いた。
「あの…お母さんがどんな人だったのか教えていただけませんか?」
「覚えてないのか?五年前だから…結構大きかったろ?」
「ええ、そうなのですが…私は家庭でのお母さんしか知りません。お母さんが先生としてどんな仕事をしていたのか知りたいのです」
「ふ~ん、まあ聞きてえならいくらでも話してやるよ。そうだなぁ、愛想も悪く生徒にも媚びない。学校であの人が笑ったところを一度も見たことがなかったな」
「え、そうなんですかっ?」
「ん?あ、ああ…」
下田さんの話には驚いた。確かに零奈も感情が多い方ではないが、家では結構笑ってると思うからだ。チラッと零奈を見るが、我関せずでケーキを食べている。
「はは…さぞ生徒さんには怖がられていたのでしょうね…」
苦笑いで五月が答える。
「いーや…それが違うんだよなぁ…どんなに恐ろしくても、鉄仮面でも許されてしまう。愛されてしまう。慕われてしまう。先生はそれほどまでに…めちゃ美人だった!」
「…!めちゃ美人…!」
「へぇ~…」
ニヤリと笑いながら零奈を見る。
「何ですか?私には関係ないお話しです」
「いや、興味あるのかなぁと」
「むっ?和義君は興味があるのですか?」
「まあ、皆のお母さんだし」
「そうですか…」
何かホッとしたような顔の五月。
「ただでさえ新卒の、年の近い女教師。そして美人。それだけで、同学年のみならず、学校中の男子生徒はメロメロよ」
「メ…メロメロですか…」
「ちなみに、綾先生もあの容姿にあの性格。
「太陽ねぇ…」
まあ、太陽のように明るい性格してるからな母さんは。
じゃあ、その二大巨頭が今は家族としてうちにいるのか。凄いな。
「先ほどから何ですかこちらを見て」
「いや、零奈も美人になるんだろうなって」
「…兄さんとしては、美人になった方が嬉しいですか?」
「う~ん、微妙な気持ちだね」
「何故だい?自分の妹が美人だと嬉しいもんだろ?」
「そりゃあ、嬉しいですけど…変な虫が付かないか心配です」
「あー…あんたはやっぱり綾先生の息子だよ…」
嬉しいような悲しいような気持ちだ。
「ふふっ、大丈夫ですよ。兄さん以外の男の人に興味ありませんから」
「ひゅ~、言うねぇ。あんた本当に小学生かい?」
「むむむ…」
ケーキを食べながらとんでもないことを言うなうちの妹は。とは言え、中身は五つ子達のお母さんである
「とは言え、お嬢ちゃんも先生似だしいけるんじゃねーか?なあ?」
下田さんは五月に言った後、僕に同意を求めてきた。
「わ、私なんてそんな…!」
と言いつつも僕の方をチラッと見てくる。
「そうですね、今でも可愛いですし。将来は美人になるんじゃないですか?」
「はあー…そんな恥ずかしいことを、よくもまあ言えたもんだ」
「……えへへ…」
五月にとっては正解だったようだ。でも…
ギュウーッ
零奈がテーブルの下で僕の足を摘まんで引っ張っている。何気にそれ痛いから止めてほしいのだが。
「でだ。ファンクラブもあったくらいだ。とにかく女の私でさえ惚れちまう美しさだった訳だが、あの無表情から繰り出される鉄拳には私ら不良でも恐れおののいたもんだ。まさに鬼教師!」
「なるほど…」
ギュウーッ
だから摘ままないで。痛いです。
「だがその中にも先生の信念みたいなもの感じちまって、いつしか見た目以上に惚れちまってたよ。結局一年間怒られた記憶しかねぇ。ただあの一年がなければ…教師に憧れて、塾講師になんてなってねーだろうな」
五月はその言葉を聞いて、ポーっと顔を赤らめている。
零奈は目を瞑り紅茶を飲んでいた。しかし、その口元は笑っているように見える。
「いい話ですね」
「私としたことがらしくねぇな」
下田さんは頭を掻きながらそう呟くが、笑顔で言っているので本当の気持ちなのだろう。
「下田さんの話が聞けて踏ん切りがつきました」
そう言って五月は、鞄から一枚の紙とペンを取り出した。
どうやら進路希望調査のようだ。
「下田さんのように、お母さんみたいになれるのなら…やはり私はこれしかありません」
そう言いながら進路希望を書こうとする。しかし、
カチンッ
下田さんのフォークによりそれは遮られた。
凄いな、フォークの持ち手で書こうとしたペンの先をブロックするなんて。
「え」
「ちょいと待ちな。母親に憧れるのは結構。憧れの人のようになろうとするのも決して悪いことじゃない。私だってそうだしな。だが…お嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけなんじゃないのかい?」
「!」
「なりたいだけなら他にも手はあるさ。とは言え、人の夢に口出しする権利は誰にもねぇ。生徒に勉強を教えるのもやりがいがあって良い仕事だよ。目指すといいさ……『先生』になりたい理由があるならな」
「私は…」
そこで五月は何も言い返すことが出来なかった。
結局そこでお開きとなり、連絡先の交換をして下田さんと別れた。
店を出るときの注文書を見たときの下田さん可愛そうだったなぁ。
弁えてあの量なのだからこっちも驚きだ。
家に帰る途中も五月は何かを考えているのかずっと静かだった。
「何か言ってあげないの?ほら親として」
五月は僕達の前を歩いていたので、零奈にだけ聞こえるように聞いてみた。
「何ですか急に…まぁ、今は自分なりに考えた方が良いと思いますよ。兄さんもそう思ってるから話し掛けないのでしょう?」
「まあね…」
甘えて良いとは言っている。しかし、甘やかすとは思っていない。
五月は今、自分なりに一生懸命考えてるんだ。なら、それを見守ろうと思うのだった。
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その日の夜。零奈が僕の部屋にやってきた。
どうやら昼に話していた事でまだあるようだ。
「そう言えば、今更だけど僕の話し方はこのままでいいよね?」
「本当に今更ですね。問題ありませんよ。むしろ敬語で話されると、私が怒ります」
ベッドに二人腰掛けそんな会話から始まった。
「それで?何で今のタイミングで僕に明かしたの?」
「そうですね…本来であれば明かすつもりはありませんでした」
「まあ、そうだよね」
「しかし、事情が変わりましたので…」
「事情?」
「ええ、あの娘達が私達兄妹の前に現れましたので」
「ん?」
「あの娘達と関わり合った事で兄さんの気持ちに変化がありました。今では恋について考えるようになりましたしね」
「まあ…今でもあまり分かってないけどね。それがどう関係してるの?」
僕の質問に対して間が空いた。
「私は以前から言っています。兄さんが好きだと」
「ああ、そうだね。兄妹として…」
「いいえ」
僕の言葉を被せるように零奈が答える。
「昼間にお伝えしたはずです。私には
「え、じゃあ…」
そこで零奈は立ち上がり、僕の正面に立ち、僕を真っ直ぐ見て答えた。
「私は、一人の女性として、直江和義という男性が好きです。あなたの優しいところ、頼りになるところ、聡明なところ、それにたまに意地悪なところも。あなたの全てが私は好きなんです」
「……」
僕は零奈から目をそらさず黙って聞いていた。
「こんな事を言えば、今まで通り兄妹として生活していくことが出来なくなる事も承知のうえです。ただの妹として見られる事で終わるよりよっぽどましです。親子とは言え、娘に譲る気はありません!」
「でも僕達が兄妹であることには変わらないんだよ?」
「問題ありません。母さん…綾先生の了承も取れてます」
「あの親はー…」
僕は頭を抱えて下を向いてしまった。
「直ぐに返事がほしいとは言いません。しかし、私もあなたの恋人候補として入れていただけないでしょうか?」
顔を上げ零奈を見ると、気丈に振る舞ってはいるが今にも泣き出しそうな顔でこちらを真っ直ぐ見ていることが分かる。
ずっと近くで見てきたのだ、それくらい察知するのなんて容易である。
「………分かった」
そう返事をすると、零奈は今まで見たことがないくらいな笑顔になっていた。我慢していたであろう涙も流れている。
「ただし!公平に行くからね。妹びいきとかはしないから」
「ええ、もちろんです!私を一人の女として見てくれるだけでも嬉しく思います」
そう言いながら僕の胸に飛び込んできた。
「ちょいちょい、何で抱きついてくるの?」
「嬉しかったので仕方がありません。駄目ですか…?」
上目遣いでこちらを見てくる。中身に
「はぁ…分かったよ。全くどこが鉄仮面だよ…」
「ふふっ、だってそれは
屈託ない笑顔でそう僕に言う零奈なのであった。
お待たせして申し訳ありませんでした。私生活が忙しすぎて中々投稿できませんでした。。。
早いかもしれませんが、零奈の正体を和義に明かしました。そして自分の気持ちも。
五月の告白に三玖のバレンタインチョコ作りが続いたので、抑えられない気持ちから自分の事を明かさせていただきました。
そして下田さんも登場です。五等分の花嫁はサブキャラも個性があって良いですよね。
和義争奪戦(?)に零奈が参加する事でどんな展開になるのか考えるのが大変ですが頑張らさせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。